12「新たな狂戦士」
回し蹴りが効いたのかソルドは頭を押さえる。
...てかあいつ何やってんだ?
「ちょっと効いたぞ」
「嘘つけーもっと正直に痛がれよなー!
泣いたっていいんだぜっ!」
まだまだ攻守は変わらない。シルドは攻める攻める。
今のところはソルドが防戦一方といった感じだ。
シルドの攻めはどんどん速く、どんどん強くと思い切りがよくなってくる。
その攻めの姿勢、名実ともに神話で語られる狂戦士だった。
けどそれだと...。
「行けー!!そのまま押し切れー!!!」
「耐えろ!耐えろ!頑張れ!!」
「わー!わー!」
「ほらほら、どうした兄ちゃん?もう降参したらどう?」
「...」
...あ、これはもう決まったな。
この勝負ソルドの勝ちだ。
瞬間、ソルドの表情がいつものすかした表情に変わる。
やっぱりあの野郎、効いてたフリしてやがったか。
まあ割といい演技だったけどな。
とどめだと言わんばかりに振りぬかれようとしていたシルドの
剣を素手で受け止め、そのまま投げ飛ばす。そしてまたもや凄い音が。
...本当に大丈夫なんだろうか?なんかどうしても心配になってしまう。
「がはぁっ!?」
「わかった、じゃあ正直に言おう...全く効いてなかったぞ」
「う、嘘だろおい」
ソルドは地に倒れこんでいるシルドの喉元に大剣を寸止めして
「もう降参した方がいいんじゃないか?」
「......わかったよ降参降参」
「そこまで!ソルドの勝ち!」
5分で決着がついた。
また大歓声が沸き起こる。いい勝負だった。
思わず俺も拍手をしてしまっていたぐらいに。
「ふふ、今日は俺の2連勝だな」
ソルドがようやく子供らしい笑みを浮かべる。
なんだ、ちゃんとそういう顔できるのかよ。ちょっと安心したぞ。
「ははは、くそーなんでだよー」
そうは言うが、シルドの表情はとても清々しそうだ。
二人共最後に握手をしてこの場はおひらきになった。
「あー負けたー!ねえ、ルスランさんどこが悪かったと思う?」
朝飯兼昼飯を族長のテントで食べながら反省会が始まった。
ちなみに今度のメニューは猪鍋だ。やっぱり美味い。
「そうだな。さっきのカウンター読みのカウンターが上手くいったとき
勝ちを確信して攻めに回り過ぎたところだな」
「回り過ぎた?」
「ああ、お前もうソルドが反撃するとは思ってなかっただろ?」
「うん、だから一気に攻めたんだよ」
「そこがダメなんだよ。ただでさえ戦闘で油断は禁物なんだ。
それを同格、格上にするなんてもってのほかだ。
どれだけ有利でも常に防御の余裕は開ける。いいな?」
「おぉ、わかった。ありがとう!なんか次は勝てそうな気がしてきた!」
我ながら偉そうなアドバイスだなー。
というかシルドのやつなんで俺にアドバイス求めてくるんだ?
自慢じゃないが俺あいつよりめちゃくちゃ弱いぞ?
「なあ、シルドなんで...って」
ソルドのやつ何そわそわしてんだ?トイレか?...いや普通に行けよ。
「兄ちゃん...アドバイスぐらい素直に聞けばいいじゃん...」
え、何?こいつも!?なんでだよ?
「あー、ソルドお前はな。さっきシルドの油断を誘うためにあんな演技を
したんだと思うがな。それじゃせいぜい格下か同格程度の相手にしか通じないぞ」
「......」
「格上の相手なら見破れるし、シルドみたいに油断はしない。
実戦だったらそのまま殺されるぞ」
「なるほど...」
「で、二人ともなんで格下の俺に聞くんだよ」
「何となくだけどルスランさんはじいちゃんよりも強くなる気がするんだよ」
ソルドもコクコクとうなずいている。いやいや冗談キツイぞ。
あの人雰囲気からしてかなりの強者だし、
ソルドなんてお前変身しても一撃でのされたの忘れたのか?
「いやいや無理無理」
「そうかなー」
そんなことを話している内にあっという間に夕方になった。
「おお、ここにいましたか。そろそろ儀式の時間です案内しますぞ」
族長が現れ、先程までソルドシルド兄弟が試合をやっていた広場まで案内された。
広場にはもう既にさっきよりもたくさんの人数で賑わっていた。
また周りの人たちの視線がすごく刺さる。
「あーこほん皆静粛に!
...今日は我らの新しい仲間を紹介しようと思いますぞ!
ルスラン・アシモフくんです!」
「えーどうも。紹介に預かったルスランだ。
今日儀式を受けて狂戦士になるのでこれからよろしく頼む」
広場は先程の手合わせよりも大きな拍手に包まれた。
「狂戦士の集落へようこそ!」
「族長が認めたんなら間違いねえ!よろしくなラスカー!」
「あら、意外と男前なのねえ」
「では早速儀式を始めますかな。上着を脱いで下され」
そう言うと族長は腰みののポケットから小瓶を取り出した。
そして言われた通りに上着を脱ぐ。うわ、すごく寒い。
族長は俺の右腕を細い筆でなぞりだした。
そこまで神聖な儀式なのか途端に広場は静まり返る。
「念のために紋章は控え目に書かせてもらいますぞ。
他の場所で悪目立ちしかねませんからな」
「あぁ、わかった」
集落の皆についているのは紋章というより入れ墨に近い。
確かにマークみたいなのはあるのだが、そこから直線が体中に広がっている。
ちなみにそのマークというのは普通の丸を太陽みたいに剣で囲んだという感じのものだ。
皆体のどこか一つずつだけついている。
頭、背中、頬、舌、肩、足などとどうやら遺伝する場所はランダムらしい。
...なんだか紋章を書かれるにつれてどんどん寒さを感じなくなってきた。
これも紋章の効果なのか。さっき工房ではスイアンさんもシルドも汗全く書いてなかったし、暑さも感じないかもしれないな。道理で皆皮と腰みのだけで充分なわけだ。
「...はい、終わりましたぞ!」
見ると右肩に剣の太陽のマークとそこから根のように伸びる線がしっかりと描かれていた。
速くて丁寧な仕事だ。
...え、てかもう終わり?右腕だけしかやってないがいいの?
「え、これだけなのか?」
「まあ最低これぐらい書けば問題なく力を発揮できますぞ。
試しにジャンプしてみてもらえますかな」
「おうよ!...ってうおぉ!?」
なんか5mぐらい跳べた。紋章の力ってとんでもねえな。
「すっげぇぇえええええ!!!!」
こうして集落によそ者の狂戦士が一人増えた。