襲撃の気配
トーコは驚いていた。
「どう考えても神獣さんだよねぇ、連れてきたのは」
何故こんなところに……。トーコには分からなかった。ただどうしようどうしようと右往左往している神獣を見てしまい、確信していた。
「にしても、死んでないとは言えひっどい矢傷……普通の矢じゃ無理でしょこんな傷……」
トーコはこの世界の常識には疎い。だが、恐らく『刻印術』というのにこんなことが出来るのがあるのだろうな、と推察した。
「へい、白兎さんよ」
大きな白い毛玉──そう表現するには血に塗れすぎている兎に触れる。半開きの赤い目が恨みめしいという感情を込めてトーコをみた気がした。
「ま、多少回復させますよって」
トーコが兎の背に飛んで捕まって飛び乗る。倒れ伏してる状態でもトーコの倍くらいの高さがあるが、見た目以上の怪力でよじ登る。
矢傷に触れる。穿たれた穴は既に血が固まっている。矢はどこだろう、見つからない。
トーコの手が白く光る。
穴が、消える。
「土地の主。って位には特別大きい獣ですね」
手を離したトーコは呟いた。
魔法がない、というのにトーコは不思議な力を用いて白兎の体の目立つ傷はおおよそ塞いでしまった。遠くからただ見ていた男衆が俄に騒然とするのを感じてトーコは笑顔をその者達に振り撒いた。
───にゃあ
「あー、はいはい、平気ですよ? 多分さっきまで死んでなかったですもんね?」
ぷいっ、と顔を背けて離れていった猫。トーコは微笑んで猫が去っていくまで見ていた。
「あ、レオンさーん聞いて下さいよ、私頑張ったんですよー…ってあれ?」
トーコは部屋に戻ってきた。
しかしそこにレオンの姿はなかった。
「うーん……まあ心配要らないかな」
もし何かが起きても神獣が何とかするよね、とトーコは部屋に備えられていた椅子に座り込んだ。
────気の緩んだ間隙を、狙い澄ましたかのように窓を砕いて何者かが現れた。
「…………っ!?」
トーコは、何も出来なかった。