トラウマと
「おい! 起きろ!!」
「………もう仕事か……」
「そうだ! 仕事だ! だから起きろ!!」
「………仕事怖い、やだ職場行きたくない………助けてニャーちゃん……」
「おい、仕事って言えば起きるんじゃなかったのか嬢ちゃん」
「やっぱり理由のない労働は必要ないですよねー」
トーコはひどく陰鬱な気分で呟いた。
「まあ、この人放っておいて行きましょ。寝かせておいた方が良いよね神獣さん?」
───にゃぁあ
「お、同意が得られました。行きます?」
───にゃぁあ
「そうですか、まあ、いっちょ派手にやったります──ふぐっ!?」
頬を張られた。
「あ、ちょっと待って下さいぃー!」
猫は先に行ってしまった。トーコは先に起こしに来た、ボードンとは違う村人に確認を取った。
「村の大広場に、傷だらけの例の獣が要るんですね!? 手、出してませんよね?」
「あれに手を出さない理由はないが、そう言ったのはお嬢さんだろ? ちゃんと近付かないようにしてる」
「オーケー! んじゃちょっくら奇跡起こしてきます!」
「はい? 何を……行っちまった。本当にこいつ寝かせておいて平気なんだろうな?」
部屋には寝ているレオンだけが取り残されていた。
血の臭いがする。
あんな提案しておいて、甘かった。
あの巨獣の言った奴が誰かは知らないが屁理屈など通用しないのだ。大体そんなやり取りがあったことを相手は知らない。
生きているのか。死んでいたら、正直悪いことをしたと思わないでもない。
気分が悪くなるのは間違い無い。
持久力が少ないのもお構いなしに全力疾走を始める。
やがて広場に着く。体力が切れていないことを不思議に感じるが、どうせあの神もどきのおかげだろう。覚えておくが、考えはしない、
巨獣は血塗れだった。一撃で意識まで持って行かれたのか目を中途半端に開き、口から涎を垂らしていた。死んではいない。が、半開きの目が猫を見ているように思えてしまって、近づく足が止まる。
───お前を恨むぞ
そう、言われている気がしてしまった。動揺したまま周囲を探れば気配はあるが近付いたりはしてこない。見られているのは、感じる。
それを妙だと捉えられる平静さは何処にもない。ただ、猫は動揺したように右往左往するだけだった。
「うっわ、矢だね嫌だね神獣さん連れてきたんですかい?」
だから、不覚にもその声に希望を見いだしてしまった。
………ちっ