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猫と一緒の転生生活  作者: リョウゴ
第一章 旅の始まり
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それは一つの気の迷い



「全くあのショタコン……レオンを何だと……」


「……ははは……」


 夜。長々と口論していた二人を割ってボードンが風呂を勧めてきた。まさか風呂に入れるなんて思っていなかったから、二人はすぐにその提案に飛びついた。


 レオンは村の人に借りたサイズの合わないぶかぶかの服を着ていて、トーコはレシアの服を着ていた。もちろんぶかぶかなのだが。


 それを着た後に、夕食を食べる。味は思っていたよりも悪くなかった。いや、おいしかった。


「大体、特に胸元がだぶついてるんですけどーーっ」


「はいはい」


「………すっごく負けた気分」


「それ俺に聞かせてどうするのさ」


 因みにレシアは巨乳である。なんなのさあの非の打ち所が………と、トーコはぶつぶつと言う。 


「それとさ、トーコ」


「何ですか、もう明かりは消しますよ」


「あ、頼むよ。不思議だよね、刻印術、だっけ?」


「そうですね、魔法とは程遠い物ですが有用ですよね」


「うん、非科学的なのってなんかもう別の世界って感じで」


「あの世界も魔術はありますけどね」


「嘘っ!?」


「嘘じゃないですーっ、ただ存在が露呈してないだけで割と使われてますーっ! あの虚無天使の騒動も……」


「天使の騒動? なんかあったかな……俗世に疎くてね」


「言い方が隠居したお爺さんみたい……。じゃない、そうか……知らないよね。そりゃ知る訳ないか」


「結局それ、なんの話?」


「少なくとも私の話じゃないかなぁ。で、何か聞きたいこと、あったんじゃない? 刻印術とは違った、別のこと──あ、明かり消すね」


「あ、うん──うわ、暗っ!?」


「窓から見える、月がきれいですね」


「なんか風情を感じる言い方……星も綺麗だね」


「田舎って感じですね~」


「そうだね……あ、で聞きたかったんだけどさ」


「なんですか? 言えることなら何でも答えましょう」


「……何でそこまで好意的に……いや、正直に聞く。俺のこと、好きなの?」


 レオンは、色恋沙汰には疎かった。


 当然駆け引きとか、そう言ったものの知識など無く。故に真っ直ぐ切り込むしか無かったのだが。


「ふぇ?」


「ふぇ? じゃなくてさ、ほらトーコって何か抱きついてきたり抱きついてきたりとか他にも抱きついてきたりとかしたじゃない?」


「あぁ、そう言うこともしましたね」


 その場の勢いで『抱いて』とか言ってきたり……とはレオンには流石に言えなかった。どうだろう、身の回りに女がいなかったから自意識過剰なのだろうか、そんなことまで頭を過ぎる。


「そう言うことするってことは………好きなのかなー…って」


 声がどんどん小さくなる。言っていてすごく恥ずかしい。けれどレオンはそれよりも早く確認したかった。


 ハッキリしないのはあまり好きじゃないのだ。


「ええ、好きですよ? 『神として』ね?」


「………神として?」


 少しだけニュアンスが違う言葉に、レオンは思わず聞き返す。


「そりゃ私神ですから? 人を、万人を愛する義務があると思うんですよね」


「と、言いますと?」


「神の力は人の神を敬う心、善き心です。まあ、負の感情を食う神もいるんですけど、私はあの、それは好みじゃなくて。まあ、人を愛せない人は愛してもらえないって言うじゃないですか。きっと、だから、そう言うことです」

 

「そっ………か。」


「そうです。大体そう言うのを放り捨てて人として愛していたならきっとその神はもう、『人』ですし」


 トーコは自分で言っていて、凄まじい違和感を覚えていた。恐らく、本人は気のせいだと切り捨てていながら、気付いていた。


 怖かったからそこから眼を反らしたのだ。


「うん、なら、もうこの話は充分だよね」


「えー、まだ、語り……足りな……い………ぐぅ………」


 夜は更けていく。眠りに落ちた二人を見て、猫はレオンから飛び降りた。


 ここからは深夜。彼女の時間だ。



    △▼△▼△



 食事は、わざわざ出して貰った。不足しているという感じはない。


 ただ、丸1日彼と一緒にいられる事など最近じゃなくとも全く無かったから彼の頭にずっとしがみついていたが、それが拙かった。


 運動不足感。動ける。今なら雪の上を走れる気がする。神獣なんて『人』みたいな彼女は言ったが、身体能力はどうなっているのか……本能では理解しているが、神獣と化して生まれた思考が理解していない。


 元から神獣だったらしいが、彼女から力を注がれてからがやっと神獣になった状態だろう。そう猫は捉えていた。


 村の夜は真っ暗だが、星は出ている。そもそも猫科の生物なのだ、夜目は利く。


 村娘は舞を踊ると言っていた。それらしき広間は何処にあるのかが分からない。自由気ままにふらふらしているが、出来ればその場所を見ておきたい。


 ───……ここか。広さは充分。猫の身で分かるのか疑問があるかも知れないが、それは問題ない。祭りといっても日本の祭り事程人は来ないだろう? 村のど真ん中にあるにしてはすっからかんな空間だ、きっとこの中央であの村娘が舞うのだろう。


 容姿の美しさからして、きっと素晴らしいものが見れるのだろう。が、それはそれとして、猫には何よりも決意していることがあった。


 レオンは誰にも渡さない。


 本当ならあの神もどきも、村娘も近付けたくはない。が、今はそうするのは無理だ。猫の力だけでは野垂れ死ぬ未来が見えている。


 今は体がなまっている感覚がある。加えて、何だか強くなれそうな気もしていた。


 更に言うと、少しストレスを感じていた。レオンに近付こうとする女共のせいだ。


 彼には自由に生きてほしい。自由に。何に縛られることもなく、生きてほしい。


 あの女共は、その自由を縛る背景が隠れているように感じる。それは勘違いかも知れないが、その勘を信じていた。


 ───にゃぁぁぁぁ…──


 気付けば村を出ていた。道なりに進む。流石に雪の上を走れそうだって思っていても、もし埋まったら大変だ。


 しばらく歩く。


 しばらく歩く。


 しばらく歩く。


 白い壁が道を塞いでいた。それは地響きを生み出し、少しだけ膨らんだり縮んだりしていた。


 大きな生き物はいびきをするだけでずいぶんと迷惑なのだな、と猫は考えた。


 ───しゃぁぁぁぁあっ!!!


 威嚇。または攻撃予告だ。


 意地が悪い。寝ている相手に今から攻撃するぞと叫ぶなど。


『うっ!?』


 巨獣は呻き声を上げて飛び起きた。まあ、ニュアンスは獣同士通じるところはある。


『なにおまえ、それ。なんでおまえ、そんなこわい。おかしいこわいおかしいこわい』


 明らかに怯えの混じる呻き声を放つ。


 ここからどけ。


『むり、どいたら、ころされる』


 それはわたしよりもこわいのか。


『こわい、おまえ、あいつ、どっちも』


 それはお前に何を命じた。


『むらへの、みち、とおせんぼ、どけば、おれ、ころされる』


 ………危害を加えるつもりは。


『ない、めいれい、ない』


 なら村に来てみろ。


『どいたら、ころされる』


 退いたら、か。それならば村への道にいても村にいても大差ないだろう。退いていないし、村に来てしまえば村人とて無視出来ない。どういう意図でお前に言ったのかは知らんが、まあ、通せんぼ、なんて控えめな事を命じる程度だ。何。気にするな。


『それは、そうか』


 説得は手伝う。


『ありがとう』


 礼は要らない。




 猫は真夜中に、レオンの元に戻って眠りについた。


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