げきおこです(当神比)
トーコは激怒した。必ずかの邪知暴虐な────
「おい、何故家を出ないで二階に上がっている、女」
マジ切れ寸前であった。
「それは当然この家位しか空いていないからで御座いますお嬢さん」
「………なんで?」
答えになってないっ! と憤るトーコに代わってレオンが聞いた。
「……私以外男ですよ? そんな家々にトーコ様を置いておけますか? そうは思いませんかレオン様?」
「…と言うことらしいけど?」
「仕方ないですね…」
渋々了承。
「すいませんね、この家も、『一部屋』しか開いてませんので」
「───っ!?」
すごい速度でトーコが女の肩を掴んだ。
「ありがとう! …えっと」
先ほどまでの態度はどこへやら。トーコは笑顔で感謝を伝えようとしてその表情が曇る。
レオンはそれを見て苦笑い。
「名乗ってませんでしたね、そう言えば」
「そうでした。と言うか俺達も名乗ってはなかったよね」
「まあ、そうですね」
「では私から。今年の豊穣の神子を勤めさせていただいてます、レシアです」
「レオンです」
「トーコです」
レシアは深々と、気品を感じさせるような礼をする。それはレシアに対して反感的であったトーコに礼を返させる程である。当然レオンも礼をする。
咄嗟と呼べるほどに急いだものであったが。
「そして、部屋はこちらです」
………そこは、女の子らしい小物だらけの一室だった。
「間違えました私ともあろう人が」
「なんですかその『自室に泊めよっかなんて考えるあまり自室を自分好みのカスタマイズしたの完っ全に忘れてたけど間違えたって言えば大丈夫よね』みたいな動きは。私は嫌いじゃないですけど、それはそれとしてあなたは好きじゃないです」
「……良いんじゃない?」
「ほ、本当に間違えたんですって!! 信じて下さい! ついでに言うとここ私の部屋じゃなくて───」
「──神子様?」
何時の間にかボードンがレシアの背後に立っていた。レシアの表情が凍てつく。
「ええそうよ私の部屋よ! さああなた達の部屋に案内するわ!!」
「先導いたしましょう」
ボードンが、先を歩き出す。
「ああ……そういう……この趣味、嫌いじゃないわ」
トーコの呟きにボードンがほんの少し反応したように思えたレオンだが、何事もなかったかのように歩き出すボードンに、気のせいだったかと歩き始めた。
猫は、レオンの頭の上に顎を乗せるようにして眠りこけていた。
「こちらです……ボードン、中大丈夫なんですよね? 埃被ってたり、ボロボロだったならかなり失礼ですよ?」
「先程確認しましたので問題ありません」
ボードンが扉を開ける。レオンが中を覗くと真っ先にベッドが目に入る。見るからにふかふかそうな白で統一された寝具に思わず息が漏れる。高そうだ。レオンはまず最初にそう思った。
「どうなってるんですか───っわぁ…」
トーコも思うところは同じらしく、感動したような様子だ。
「客人に無礼の無いように整えておきました」
「ボードン、何故ベッドを一つにしなかったのですか、これではトーコ様に恩が売れません」
「文句言ってやろうと考えていたのにこんな良さげなベット出されたら文句言えないんですけどレシアのその発言には文句を言いたい、言わせろ」
レオンは部屋に足を踏み入れた。家具の類は無い。やや大きめのベットが部屋の面積の半分ほど占領しているが、部屋自体そこまで狭くない。と言うか生前暮らしていた部屋よりも広いのではないか、そう考えた矢先、猫が頭から降りる。
ふかふかのベットに飛び降りる。沈み込む。数歩歩く。
───にゃい
「あれ、ニャーちゃん気に入らない?」
一鳴きしながらレオンの頭に戻るのだからつまりはそう言うことだろう。
「可愛いなぁニャーちゃんは……」
レオンはベットに座り込み、部屋の入り口でトーコとレシアが話し合っているのを眺めながら、 猫を膝の上に降ろして撫でた。
幸せそうに猫が鳴いた。