猫と一緒の転生生活
「一週間寝てたんだ?」
レオンは目覚めてから暫くして、トーコに問う。体も動くようになってきて気分転換に出歩き、トーコは隣を歩いていた。
「そうそう」
「で、今海の上なの?」
外を見る。大海原。
甲板にて、外に身を乗り出したレオンはその青さに息をのむ。濁りなく澄んだ色をしていて、魚が泳ぐ様など、見えるものがかなり深いというのによくわかる。
この船は余り大きくないが、ボードンが個人で所有していた。そう考えると大きいかもしれない。
「そうそう」
「なんで?」
「あそこまでやらかしてあの国に居られないですよね」
「……そうだね。あんだけ人殺せばねぇ…」
「軽いですね、もっとなんか思うことはないんですかね?」
「飛び道具のせいかなぁ」
レオンは思い返す。必死すぎて、実のところ余り憶えていない。思い出しても、現実味が薄い。
「いやぁ、現場みましたけど直接手を下してなくてもあれは吐きますよ? 私なら」
「そうかもね。まぁ必死だったし、迷うこともなかったよ?」
「異常といえばそうですけど。そうでもなければ助けられなかったですもんね」
同じようにトーコも外を眺める。遠くを眺める様子に、何を考えているのか。レオンは気になった。
「そう言えばレシアの目、大丈夫なの?」
「私の神としての力を疑うんですか? 当然ばっちり見えますよ。………たぶん」
「自分で疑ってるんじゃん」
「だってレシアあれから能力は使えないって言ってたし、元通りじゃないかもしれない気がしてですね……」
「見えればいいんじゃない? 本来失明とか、ヤバかったんでしょ?」
「それどころか死んでたかもしれませんよ? ま、私が防いだんですけどね」
トーコは胸を張って、自慢気に言う。失明しかけていた時期もそこそこ長かったのに視力をばっちり元に戻すとは、流石神様である。
「時子さん、どうしてるの?」
「ちと無茶しちゃって身体ごと私が保存してるよ……もっちょい元通りには時間かかるけど、一緒にいるから安心してよ」
身を犠牲に力を使いすぎてしまったのか、はたまた神気が人の体には余る力だったのかは分からないが、動かないらしい。
魂をトーコの体に押し込んだらしい。本人の魂は元気だそうだ。
「あーもううるさい元気だなんて事はこの上なく分かってるから!!」
元気だそうだ。
「で、どこ向かってるの」
「うんとね。島。すっごい大きい」
「そっかぁ。見えないけど?」
「大丈夫、方角は分かるからね」
確信に満ちた声音だ。その自信の裏に何かあるんだろうが、レオンにはやはり分からない。
「そこならまあ、帝国領土じゃないし気に入ったら定住ってのもありじゃないですか?」
「いいね。にゃーちゃんと落ち着いた暮らしとか夢みたいだ」
「でしょ? そうなったら偶には私はそこに顔を出しますし」
「たまに? 毎日の間違いじゃないの?」
「レシア、私、そんなに行かないって」
突然話しかけてきたのはレシアである。にやにやとしながら、トーコの隣まで歩いてくる。
「本当にぃ? 絶対行くでしょ?」
「なんですかもう、うざ」
「うわひっどいなぁ」
「ほんと、酷いよねトーコは」
「えっ、ちょ、そん、てかうるさい!! 時子まで!!」
「「酷いよね」」
「ま、待って下さいごめんなさい謝りますから」
「ところでレシア何の用?」
戸惑うトーコをおいておき、レオンはレシアに聞いた。レシアもトーコを無視しつつ答える。
「ご飯出来ましたよ、って言いに来たんですよ」
「そうなんだ、今日は何? また刺身?」
「そうなっちゃいますね」
それなりに食料は積んであるが管理しているのはボードンで、彼はそこそこ慎重なのだ。
「え、無視ですか」
「トーコも行くよ」
レオンはトーコの手を強引に引いていく。
「わ、わわ、分かりましたから引っ張らなくてもいいじゃないですかぁ!」
「そんな事言わないで行くよー」
レシアももう一方の手を引いていく。
楽しそうに、彼女達は食卓へと向かう。
船は進んでいく。
『海、初めて見たかもしれない』
「どうよ。広いでしょ」
『そうだな。広い』
船の縁に座り込んだ猫が海面を眺める。
『この先も見たことのない物を見せてくれるのだろうな。あいつは』
「レオン、無茶するから目を離せないですよね」
『おまえの場合、惚れてるからと言うのがあるだろう?』
「そーですね」
『いつぞやの問だが、おまえの答えは見つかったか?』
「んー? 分かんないですけど、きっと見つかったかもしれないですね」
『曖昧な……』
「曖昧でも良いじゃないですか、はっきりしてようが関係ないです。たぶんもう迷わないですし」
『そうか』
「にゃーさんなら見えるんじゃないですか?」
『島か? 見えるが』
「その島、気に入ると良いですね」
『別に私は環境自体どうであろうが構いはしないが』
「いざ行かん、新天地へ! くらいの気概で行きませんか? 折角だし」
『そう言うものか?』
「そっちの方が楽しいですよ、絶対」
『今のおまえがそう言うならそうだろうな』
「今そんないい感じですか?」
『それなりにな』
「そうですか」
『さて、次の土地は私を楽しませてくれるのだろうか』
「……なんですかそれ」
『先程のおまえの言葉を私なりに。なんだ、おかしいのか?』
「いいえ。良いじゃないですか。そのいきです」
『ふ。そうだろう?』
猫の視線の先の大きな島。今は陰しか見えないその島に、彼女達は期待を膨らませる。
彼女達のこれからの旅路に何が起こるのか。それこそ、神すらも知らない。
──────ここからモノホンのあとがき
とまあ、これにて第一部完、です。レオン君の旅はまだまだ続きます。行き先は前作の舞台のあの島、なんですけどネタが思いつかないので二部はやらないかもしれません。
この話は正直なところ、私自身と同い年の飼い猫がお亡くなりになって、弔い半分位に書こうと思ったんです。その時の私にはきっとこの話のニャーちゃんに自由にいきててほしかったんだと思いますね、まあ、この話の中でニャーちゃんはあんまり自由じゃなかったようにも思えますけど、そこは私の描写能力の不足が招いてるという事になって非常に悲しい。ただ、飼い猫はもっと大事にしてあげれば良かったと今でも思い出して泣きそうに……。
さて、話は変わりますが同時にこの話と2作品同時進行とかやってみましたけど。無理ですね。無理です。化け物ですか、何作品も同時に連載する作家様方は頭おかしいんじゃないんですか(誉)。私の身の丈に合わない、一つに絞ります。ええ。
新作を書く。書きます。ていうか書いてます。
……逸れましたね。
そもそもこの猫転は猫を活躍させたいという思いで出来たはずなんでそう言ったところ書けていましたでしょうか? 伝わっていれば私として良かったと。
以上、あとがきでした。
凌吾。




