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猫と一緒の転生生活  作者: リョウゴ
最終章 破壊神
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祭りの足音が聞こえる位に



 この街に神子一行が入った直後大量にこの街に入る人達が存在した。


 それは現帝国の軍隊。血霧などとは違う表向きの軍隊である。


「───作戦は理解しているな。定刻まで待機だ。逸るなよ」


「……何故この場所で今更祭りの邪魔など」


「疑問はもっともだが。命令だ、従わざるを得ない。何、こちらには秘密兵器がある。人型のな」


「あら、ふふっ。物扱いとは戴けないわ。何なら『破壊』してしまっても良いのよ」


「出来もしないことを」


「………」


 大丈夫なのか。そう軍隊の殆どが疑問視していた。当然のように居座る異人種の女性が不敵に笑う。


 平穏が破壊される時は近い。




△▽△▽△▽△▽△▽




「うわ、もう当日じゃないか」


 平和だった。そりゃあもう平和だ──レオンは目覚めながら振り返る。


 トーコと時子に三日間街を引きずり回されたレオンが抱いた感想はそれぐらいだ。


 当然だろう。狙われる理由も騒動の理由も無いのだから。この三日間レオンが努めたのは地理に詳しくなることだったくらいだ。


「だって二人して来た道を覚えてないんだし。何でだっての」


 そのお陰でレオンは街の大通りの位置関係くらいならばある程度憶えてしまっていた。


「起きました?」


「起きてる。今から行くから下で待ってて」


 扉越しにトーコが声を掛けた。レオンはそれに答えたがトーコの反応が渋い。


「すいません時子起こしたら行くんでたぶん後からになっちゃいますかね。と言うことで待っててねレオン?」


「当たり前でしょ。うん」


「マジで待っててくださいよ? ね?」


 レオンはこの後すぐにこの言葉を裏切ることになるとは思いもしなかった。




 レオンは猫と一緒に宿のご飯を食べた。当然のように猫にも焼き魚定食が出てきたことに猫は小躍りしかねないほどに興奮していることがしきりに動く尻尾からレオンは察した。


 勿論注文したのはレオンだ。


「普通以上に美味い」


 素直な感想がレオンの口から飛び出す。紛う事なき事実である。


 宿のどこかからやいのやいの言い争う声が聞こえる。───いつものことになり掛けているし、大抵はトーコが涙目になって終わる。今日もその通りなのだろうか、とレオンは食器を片づけながら思った。


「………外出る?」


 にゃーん



 猫と三次元的な動き(主に動くのは猫)を交えてアクロバティックに戯れつつ店を出る。


 何となく大装備になってしまうが武器の類は持って出てきている。レオンは何となく、なんて良いながら用意したが当人には不思議と確信があった。


 何か起こる。


 そんな、曖昧な。


 ────だから直ぐにレオンは違和感を覚えた。


「え、あれ。見覚えが」


 目の前を通過したフードを目深にかぶった大男の歩き方が、レオンには見覚えがある歩き方だったように思えた。そうだ。あの後ろ姿───ボードンだ。


 右手に腕輪をしているのが目に入る。記憶の中のボードンは右手に包帯を巻きつつ添え木もしていたはずだ、だから───


 レオンは結論する。


「追いかけるよ。にゃーちゃん」


 あれは間違いなくボードンだ、と。


 腕の骨折をしていないからボードンではない、なんて結論を出さなかったのはそれこそつい最近のボードンの立ち振る舞いが負傷者のものとは違いすぎたと思っていたから。


 ───にゃーん。


 一鳴きして、事情を察した──あるいはレオンよりも先に気付いていたか。猫は付き従うかのようにレオンの後ろを音もなくついていく。


「こんな日に儀式場から離れるなんておかしいし……」


 儀式───もとい祭りの大締めである舞は街の中央に近い場所で行われる。ウオノメはそこからほど遠い外周部に位置している。当然護衛の重鎮がこんなところにいて良いはずもないのだ。


 足音を殺してボードンらしき人をレオンは追いかけていく。その頭に、トーコを待つと言うことはもうすでに片隅に追いやられ、忘れられていた。





「………バカレオン」


「うわぁ、見事にいないね。影も形も猫もない……どうする?」


「……仕込みに行くよ。レオンがその気ならこっちにも考えがある、やりたいようにやらせてもらおうじゃないの」


「打倒、神。その仕込みかー」


「うん。無駄かもしれないけど色々用意したし……でも良いの? 本当に」


 心配するようにトーコは時子を下から見る。


「ん? なんの話?」


「神気」


「あー。ま、あんたの言うとおりならこの町の連中の神気(それ)は向こう側に渡っちゃってるんでしょ? なら是非もないよねって」


 二人は先にエーリケが街に来ていて街中に漂う神のエネルギーたる神気を根こそぎ奪い取っていることに気が付いていた。


 そこで考え出されたのが


「いや、出来れば私だってこんな、事、したくは」


「何言ってんの。私はそいつを殴れないから代わりに殴れって言ってるだけじゃん。ほら簡単。それだけじゃん」


「簡単に言うよ……ほんとあんたは。消えるかもしれないんだよ? 神気の供給源を一人で担当するなんてさ」


 時子が一人で神気の元手になろうという案である。確かに後から来た人であれば神気を貰うことは出来る。が後から来た人すらそのほとんどがエーリケの方に神気が取られてしまっている。そもそもほとんど手詰まりなのだ。


 長年他の神と一緒にいた事実のある時子からは取れなかったようだが、それでも本来力の差が歴然といえるほどなのだが。


 それこそ他ならぬ時子なら、一人で担う事が可能だった。長年一緒にいたから、だろう。


「出来るし、勝ち目があるんでしょ? ならやろうって話じゃん」


「でも……」



「今更ぐだぐたうるさいなぁ! 先にあんたから殴ろっかぁ!!?」


「うるさいって何!! あんたの身を案じて言ってるんじゃん!」


「良いって言ってんだから良いんだよ!! 馬鹿にするなよ!!」「はぁ!? してないよ!!」「いや してるね!!」「どこがよ!!」「そうやって出来もしないと───


「出来ないことならそもそも言わないっての!!! 下手に出来る事だから文句言ってるの!! 分かればかぁ!!」


 ウオノメの目の前で大喧嘩する二人。先に我に返ったのは時子だった。


「今更意見は変えない。無意味だからな」


「………分かってるけど」


 納得はしていない。そう言うポーズを取り続けるトーコに時子が言う。


「ま、先に一緒に祭り行こうか」


「は、え、ちょっと、仕込みは」「もう十分にしてあるでしょ。決戦前に脱力脱力」


「……仕方ないなぁ」


 トーコは漸く険しい表情を崩し、時子に押されるがままに街を歩き始めた。

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