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猫と一緒の転生生活  作者: リョウゴ
第一章 旅の始まり
4/49

男女比99:1(当神調べ)



 レオンは、家の外に服を引っ張られて引きずられた女性が目に入った。


「なにしてるっ!!」


「あぁ? んなこと───あ」


「うく────え?」


 引っ張る側の男が間抜けな声を、苦しそうに引きずられた女が苦しさを忘れて素に戻った。


 ぴょいーん───猫が跳躍


 がっ──────軽やかな猫ダイブ


 にゃーん────高らかな勝利宣言


「ちょっ! ニャーちゃん!?」


 すごく高いジャンプ。着地点は女性の顔。柔らかく着地した猫が──ふふん、どうだい? と言いたげに鳴く。


「大丈夫ですか神子様───あっ!?」 


「え?」


 男が急に姿勢を低くして女の心配をする。レオンがその事に戸惑った。


 あれ、えっと、襲ってたんじゃ? ──そう考えたに違いない。


「な、なんだ文句あんのかオルァ!!?」


 ───ニャ?


「へぶっ!?」


 男の顔面に、軽く跳んで、猫パンチ炸裂。三回転半して倒れた男は失神していた。


「あわ、あわわわわ」


 女が慌てて猫から退こうとして、腰が抜けてしまったか、不格好に地面を摺り下がる。


「………大丈夫ですか?」


「た!」


「た?」


「食べないで下さいぃ!!」


「食べませんよ!?」




「──………うわぁ、確かに自作自演ですね……血の臭いとかこうやって……あー、さっきの人の服に返り血っぽいのが付いてたのは……」


 レオンは女に事情を説明された。簡単に言うと、只の集団ドッキリだったようだ………理由はまだ聞いていないが。


 危険な目に遭った訳じゃなかったのか、と安心したレオン。勿論猫は警戒を解いていないけれど緊張とはほど遠い雰囲気になり始めていた。


「そういえばトーコちゃん、どこ行ったんだろ……」




「ふふん、案外他愛ないわね」


「うぐぐ……」「なんだと……」「くそぅ……」「何しやがった……」「嘘だ……」「光ったと思ったら……」


「……盗賊と思ったけれど、あなた達覚悟が無いわね。お遊びでやってるの? まあ良いわ、感覚を掴む良い機会だったわ」


「────トーコちゃーん!?」


「あ、遅かったですね。というかそんな必死に……あ、私が心配だっ───へぶっ!?」


 猫ダイブが顔面に炸裂。後ろ足でトーコの顔面を蹴って離脱、トーコはフラついて膝に手を突いた。


「な、なにするですか!? 私なんか悪いことした!?」


「いや、多分悪いことはしていなかったと思うけど、ニャーちゃんが機嫌悪いから、ね?」


「何でですかこの神獣私にムカついたからとかそれだけであたってるんですか!? それ私以外にやったら首飛びますよ!?」


「ああ……それが本当ならさっき猫パンチ頭に食らった人が三回転もしたのは見間違いじゃなかったのか」


 先程男に向かってやった猫パンチは相当手加減したものだったのだが、そんなことレオンが気付けるわけがない。


「さ……っ!? そ、それくらいで済んで良かったですね……」


 トーコは、まさか本当に他人を殴ったなんて思っていなかったから動揺していた。


 因みにちょっとしたざわめきの中心の猫は涼しい顔で倒れたトーコの腹の上で毛繕いをしていた。


「……神獣さん、本気で脅せば皆止まると思うんですけど」


 ───にゃーん




 その後、二人は村の代表の女の家の一室に案内された。もう既に血の臭いなどが薄れていて、血の跡も粗方消え去っていた。


 村の代表の女が、暖房機器と思しき箱型の物に数秒間触れると、箱型の物から温風が巻き起こる。


「えっと、なんですか、集団ドッキリってやつですか、フラッシュモブってやつですか……目の当たりにするのはじめてなんですけど、こんな物騒なもんでしたかね…。そもそもドッキリ大成功、とか看板に書いて持ってくるネタばらし要員居ないじゃないですか!?」


「やっぱり、おかしいよね……」


「ええ、まぁおかしいですよ、ドッキリの理由とかいろいろ不明な所がありますけど大体あり得ないじゃないですか──」


「女の人が村の代表だなんて」

「こんな美人が辺鄙な村に居るなんて」


「「………え?」」


 互いに顔を見合わせるレオンとトーコ。二人の意見は若干の差があったけれど、要するに村の代表が美女だったというだけだ。


「いや、美人居ておかしいかな、それも少し思ったけどそれよりも何というか文明的なものの進度から鑑みて男尊女卑的思考がまだあると思うんだけど、若い、それも女性が村代表になれると思う? 俺は無理というほどは言わないけど難しすぎると思うんだ」


「いやいや、この村の男性の数見ましたかレオンさん? 圧倒的多数、99:1位の比じゃないですかと言うかこの村女性この人しか見てないじゃないですか、そりゃ男なんてあのすました顔っていうか美貌でイチコロですよ村代表に成り上がってても、なんの不思議もありませんよ。問題はなんでこんな美人が、こんなあたり一面雪掃除すらしてないと言うか出来ないような村にいるのかってこの一点に」


「雪掃除って何さ雪掻き? 無理でしょ雪国がどうしてるかの知識は殆ど無いけど雪ってそんな簡単に取り除けないでしょ、確かにこんな村にこんな美人が居るのはおかしい、けど割とどうだって良いでしょ」


「はぁどうだって良くないですよレオンさんが靡いたらどうするんですか」


「いやそれ俺に言われても………ってなんでそんな心配をトーコがするんだよ? 関係ないじゃんか、そもそも別行動したら命の危険がやばいから一緒にいるだけでしょうがトーコはさ!」


「はぁ関係ない? ………あれ本当だ関係ないかも──でもですね……うぅ~~っ!!」


「お二人様、そのあたりにして、私が説明いたしますから……」


「「………お願いします」」


 村の代表そっちのけで口論していたことに気付いた2人は借りてきた猫のように小さくなる。


 実際の猫は、部屋の角で爪とぎをしているのだが、たとえの話でこの猫には通用しないようだ。


「お二人は私が代表だー、ということをとても不思議がっていましたが、この村においては、さして不思議ではないのです」


「それは何でですか?」


 レオンが聞いた。


「この村では儀式を毎年執り行ってまして、その儀式では才のある女性が『豊穣の神子』として───」


「豊穣の神子ですか!?」


「え、あぁ、はい……何か驚かれるようなことを言いましたでしょうか?」


「……いえ、ちょっと聞いたことがあるだけ……まさか女の人を生け贄に捧げるような儀式じゃないですよね?」


「え、何故それを知ってるんですか!?」


「え」「ひっ!? ちょっこの女私を生け贄に……」


「……ふふっ、冗談ですよ? その儀式は大元は百年ほど前に伝承の元になった国が滅びた事で無くなっていますから安心して下さい。それに生け贄の女の人は処女に限定されていたようですから……ってどうしたんですか?」


 トーコは完全にビビってしまって隣に座るレオンの腕にしがみついていた。


「抱いて!?」

「意味分からないことを叫ばないでよ!?」


 レオンはトーコの頭を押すがびくともしない。力の差である。


「仲が宜しいんですね…話を戻しますよ? 国が滅び、祭具が紛失して、ただ風習が無くなると不安になる人が居たのでしょう。故に、名前を巫女から神子に変えて存在しているわけなのです」


 落ち着いたのか抱き寄せる力を弱めるトーコ。決して離れたりしないところに女への警戒……いや、これはレオンにくっついていたいだけだったりするかも知れない。


「みこからみこ、って文字に書かないと分かんないんですけど…?」


 そうレオンに指摘されて村の代表の女が、和紙のような紙に筆で神子、巫女と続けて書いた。


「あ、逆ですね。こっちが先です」


 巫女、の方を筆の先で指した。墨が垂れる様子は無い。


「へぇ……女の人が村の代表の理由は分かったよ。それで儀式って何をするの?」


「一年に一度この村で舞を踊るのです。その儀式の関係でこの時期しかこの村には人はいません、なのでお二方は遭難していたようですが運が良かったんですね」


「「…………」」


 トーコは、このあたりにこの村しかない事を感知していたため、レオンよりも一層青い顔だったそうな。手頃な──つまりレオンを強く抱きしめる。


 まあ、それでようやく我に返ったレオンがトーコの顔を押し返すのだがやはりびくともしない。


「先の国の辺りの街や村の代表は勿論、多数の人が来てお祭り騒ぎみたいになるのですが………今年は何故だか降らないはずの雪が降り、道を塞ぐ巨大な生物によって予定が凄まじく遅れていて………」


「……あ、これは……」


 トーコが気付いた。気付いてしまった。巨大な生物を追い払わなければいけなくなる流れだなと言うことに。


「ええ、私は特殊な才能がありまして……故に儀式の神子に選出された訳なのです。その才能とは、この目。運命を見ることの出来る能力が宿った魔眼」


「………嫌よ!? 巨大な生物とか絶対怪我するじゃない!!」


「……目に従ってドッキリ? と言うのを実行してやはり正解でした。私は知っているんですよ? あなた達、明日の食料すら無いのですよね? 寝床もない……そんな状況で私達が見捨てたら、どうなるのですかね……? 年の割に頭の冴えるお二人なら、当然分かりますよね……?」


 そして、部屋の入り口が開いて、男が入ってくる。集団ドッキリの際、神子を掴んでいた男だ。


「部屋は十分に暖まってきたようですが、やはり冷えていますでしょう、暖かいお茶でございます」


 トン、と湯呑みを2つ。レオンとトーコの前に一つずつ置いた。湯呑みには緑に濁った液体が湯気を立ち上らせており、レオンはすぐに飲み始めたが、トーコは少しだけ申し訳無さそうに一言。


「すいません、緑茶駄目なんですよ……苦いのが」


「………何コレ甘っ!?」


「……苦くなんてありませんよ?」


「何ですかそれ、二人揃って私を騙そうだなんて一万年早…………甘。なにこれ、あま」


 壮絶な甘さ。緑茶駄目と言っていたトーコの目の色が変わる。喉が焼けるような甘さに飲む手が一瞬で止まった。


「ダメです、精神がやられます」


「うん、確かにコレは……」


「お二方飲まれないのでしたら私が……」


「「嘘!? これ飲めるの!?」」


 驚愕である。さり気なく男から出されたお茶のような何かを一気飲みして、村代表の女はそんな事を宣った。


「それほどおかしな話でしょうか?」


「無理、それ胸焼けしそう」


「私も同じ意見です……」


「……二人とも若いのに大変ですね」


「「いやおかしいよね」」


 二人顔を見合わせる。不思議だ。


 ───ちなみにこのお茶この地域では一般的で誰もが愛する飲み物であることを二人が知るのは遠くない未来の話である。


「本題に戻しますと……ええと、そうでした、巨大な生物を追い払う知恵を下さい! なんなら実力行使でも! あ、トーコ様と申したでしょうか? 村の男衆を伸したあなたならあの生物をどうにか出来るのではないですか!?」


「どうにかって……無茶言わないで下さい……」


「解決まで寝床を用意致しますし、食事も用意いたします。あ、何でしたらレオン様と申しましたでしょうかあなた、ご所望でしたら私をご自ゆ───」


「そんな事したらあなたを殺すわよ」



「こ、怖いですね……冗談ですよ、相手は子供ですし何もしてきませんから」


「レオンに手を出したら容赦しないから、私は」


 ───にゃーん?


 何故か猫まで殺気を漲らせているように村の代表の女には感じられた。


 と言うかレオンに白い目で見られて動揺するとともに少しだけ興奮していたのはトーコ位にしか分からなかったが。


「分かりました請けましょう。一時的とは言え衣食住一気にゲット出来る。かなり条件良いところじゃないですか。あなたを除けば」


「トーコ様は随分とレオン様を好いてるんですね」


「────~っ」


 顔を真っ赤にして押し黙るトーコ。


「冗談言うのはそのくらいにして下さいよ、ほらトーコ怒ってますし」


「怒ってないわ」


「ほら。と言うわけでその、家? どこに住むことになるのか案内して下さいますか?」


「……ええ、分かりました。が、宜しいのですかトーコ様?」


「うっさい早く案内しなさい」


「ボードン、暖房消して片付けて。御願いね?」


 ボードンと呼ばれた茶を出した男は恭しく一礼をした。


「さあ、案内しますね」

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