水面下で進む
───それはレオンが暗殺者集団をしとめている頃。
「……偽の情報を掴ませて……か、趣味が悪い」
「あっさりと騙される馬鹿が宜しくないだけよ」
暗闇に紛れて会う男女。それは決して逢瀬だとか甘い空気では全くない。殺気すら漏れんばかりの殺伐とした会合であった。
当然のように殺気を女に向ける男──ボードンは続けて剣呑な空気を隠しもせずに言葉を吐いた。
「そうか」
「そもそも来たのであれば、お前は協力する。そういうことでいいんかな?」
厭な笑いだ。ボードンは女──エーリケの笑みに対してそんな感想を抱いた。
人を馬鹿にしている。見下している───ボードンは知る由もないがエーリケは神であり、人をその通り見下している。そうボードンが思ったのは間違いではない。
「で、何をするか、聞かせろ」
「簡単。暴徒の手引き。街に着いたらもう一度連絡するわ」
「は? なぜそれが」
「──儀式の不完全な成立。それがあの女が目を喪わない道筋よ」
「どう言うことだ」
「最期の舞の途中で暴徒が突入。舞を中断させれば良いの」
そんな事──…とボードンは考え込む。そう。簡単だ。ボードンなら。
「中断させたから何だという」
「刀の契約は最期の舞の開始時に切れてしまうの。最期の舞は地理的な刻印によって、刀に異能が注がれる。つまりは舞を妨害してしまえば、あの女と刀にはなんの繋がりもないのよ」
「なぜそんな事を……知っている」
おかしい。ボードンは動揺していた。
的外れ、などではない。ああ、間違いない情報だったのだ。
───普通、知っているわけが無い。
「ははっ、信じてくれた?」
エーリケは答えない。すり寄ってボードンの右手首に腕輪を付ける。
「なっ、これは……取れない……!?」
「それ、暴徒に見せるといいよ。話は通ってる」
余りに自分勝手に押し付ける。お前は、従えと。
「あははっ、全く」
「おい待て!!」
「待たないよー? じゃまた今度は街でー!」
暗闇に溶けていくエーリケ。その後を追いかけることが出来ず、吐き捨てるように。
「これ、どうしろと」
頭を抱えた。
───そして、朝を迎えた。
宿泊した家の主は手を振って出発を祝う。特に話はしなかったが、気のいい人だった、とレオンは感じていた。
「それにしても、ボードン。どうしたのその腕」
「外を出歩いてましたら、襲われまして。撃退は出来ましたが………」
この通り、と添え木と包帯をグルグル巻きにした右腕を小さく上げる。
レオンは驚いていた。まさか暗殺者的な奴が別にいたのだろうか、とちょっと血の気が引いた思いをした。
「ちょっ、ボードンが怪我したら誰が私の護衛をするのよっ!?」
「レオンで十分でしょう? そも、神子様はそういった手合いに襲われても心配など要らないでしょうが」
「なにそれ冷たぁい」
茶化すようにレシアは先を歩く。自分のための負傷だと気負っているのだ。ボードンはそのことを察して、申し訳なく思った。
これはレシアの為、のはずだから、と。
「ねぇ、ニャーちゃん」
レオンの頭上の猫は首を横へ振った。
「じゃあ、何でだろう」
レオンは、気付き掛けていた。しかし、それは未だ違和感というに等しく結局のところ───
「まあいっか」
───考えても仕方ない、と言うことでレオンは思考を放棄した。気付けと言う方が酷であるが。
「行くよ先行っちゃうよー! レオンくんーっ!」
跳ねた声でレシアがレオンを呼ぶ。
あーヤバいすっげー楽しそうじゃないか。レオンはそんな事を考えながらレシアの元へと駆けていく。
「待ってよー!」




