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猫と一緒の転生生活  作者: リョウゴ
第三章 最期の旅路
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いつからボードンだと錯覚していた…?



「大した物語じゃないんだ」


 レシアは心底どうでも良いことのように語り出す。相手は猫だ。中身がどうであれ、外面は完璧に尾が分かれただけの猫だ。


 もはや独り言みたいだな、とレシアは苦笑する。


「この儀式はこの国が侵略される前の風習なの。所謂由緒正しき伝統ってやつ」


 ───但し、この大がかりな儀式を祭として、巫女を神子に変えて残されたこの儀式には一つの目的があった。


「旧国派──っていっても猫ちゃんには通じないか」


 レシアは猫を一撫でしてまた苦笑。猫は黙って撫でられていた。


「帝国を倒すべしー、ってそういう人たちの事、そう呼ぶんだよ。まあ、この儀式の理由の一つはやっとけばその人達が暴れ出さない事が分かってるから、なんだよね」


 ───にゃ?


「勿論、私は旧国派……じゃないんだなぁ。実際問題どうでも良いんだ。馬鹿じゃないの、帝国を倒して何になるのかな。もうずいぶん長く、統治してるのに」


 でもさ。


「私の目。運命を見れるんだけど、何度見てもこの選択肢が一番高かったんだよね」


 ふーっ、と溜め息。


「世界が残る確率」


 言ってから、はっとしたように誤魔化しの言葉を続ける。


「あ、えっと自分が世界を救うとかなに言ってるんだろうなぁとかスッゴく思ってるしそもそも本当に滅ぶのかなぁとか色…々……」


 レシアの震えた声。にゃぁ、と猫は鳴く。そして尻尾をその目元に押し付けた。


「う」


 深呼吸してから、レシアは再び話し出す。


「困ったなぁ、本当に困ったよ。だってうん。本当は嫌なんだもん、こんな役目」


 それは神子の役目なのか、見てしまった終わりを退ける役目なのかは分からない。


「でもさぁ……無視、出来ないんだよね」


 窓辺からは暗闇しか見えない。レシアは猫を優しく膝から下ろして、小さく開いていた窓をさらに大きく開けた。


「だってほら、こんなに綺麗なのに」





「………全くだよ」


 レオンは呟いた。


「うぇっ!? レオン……くん?」


 窓の下からひょっこり姿を現したレオン。明言すると、ここは一階である。


「そうだよ、全く。じゃあなに、神子はオマケで世界を救ってみたいって言うのか本音?」


「………出来るか分からないけど人任せにするよりも可能性があったし何よりこんな若くして死にたくない」


「凄いなぁレシアさんは。──で? 自分だけ頑張って何とかしようってそう考えてるんだ?」


「いや、そんなこと」


「いやいや、ボードンさんには言ったの?」


「言って、ないけど。それ別にいいでしょ?」


「いんや。よくないね」


「どこがよ」


「自分だけ犠牲になった程度で何とかなると思ってるんじゃない? それ、よくないよ。結局最後に自分が笑ってられる状態じゃないと何の解決にもなっちゃいないんだよ」


 レオンは、生前の激務を思い返す。1人で沈んだ、あの仕事を。


「───手伝うよ。レシアさんには笑顔でいてほしいしね」


「っ、別に手伝ってなんて」


「頼まれてなくても勝手にやる。知り合いなんだから、どうなっても良いなんて無視できる訳ないじゃないか」


 戸惑っている、レシア。


「それに滅びるんだともったいないし、トーコにも悪いしね」


 その言葉でレシアはすぐに正気を取り戻した。


「ふふっ、ありがとう」


 不敵に笑うレオンを見て、レシアはふわりと笑った。






「……もう」


 心が揺らいだ。レシアは随分久し振りに己の目の力を使った。


 どんどん、暗くなっている。見えているのに、視えない。これが破滅の未来を指しているわけではない。強引に確率の低い運命(みらい)を視ようとしたがために、視る事が出来なかったのだ。


 以前よりも世界が滅びない可能性が薄くなっている。つまりは大変な事態に発展し掛けているのだろうとレシアは考えた。


 いったいなにが悪いのか。そもそもなぜ滅ぶのか。レシアにはまだ分かっていなかった。


 けれど今日レオンと話せた事は無駄じゃないだろうな、と。


「それじゃ、寝ますか」


 すでにレオンは部屋に戻っている。当然だが男女別室である。普通であれば護衛は相室で有るべきなのだが、容易に死ねない以上闇討ちに対して気を払う必要はない。


 そして、おかしな事に一度も一行は闇討ちに合っていない。


 レシアはふにゃけた寝顔を晒して寝始めた。











「………来ましたわね」


「……ちゃんと来ましたね」


 暗闇の内から外套を深く被った大男が女性二人の前に姿を現した。


「何者だが知らんが、わざわざ呼び出したんだろう。さっさと用件を話せ」


「なんってせっかちなの? ねぇレーリ?」


「あらまぁ、そうですねぇ? フーリ」


「……」


「あらまぁ、この状況で戦おうって言うんですの? ねぇフーリ?」


「なんって愚かなのかしら? レーリ?」


「……ちっ、囲まれてたか」


「そう。あなたに用意された選択肢はイエス。オア、デス」


「あらまぁ、残酷ですねフーリ」


「なんって、引っ掛かる人が愚かなのですよ───っと」


「───なんだこれは。刻印の刻まれた石ころ……つまりは連絡用か?」


「時が来たら光るようになっています。そうですねぇ光ったら神子を裏切って」


「断る」


「あらまぁ、そう見えるように動いて欲しいのですよぉ? なにも神子を殺せなんて言ってない──ねぇフーリ?」


「なんってせっかち。じゃあ指示を変えてあげましょうか。レーリ」


「あらまあ、残酷ですわねフーリは。『レオンを殺せ』だ、なんてねぇ」


「………」


「勿論拒否権は無いですよ? ボードンさん??」


「…………ねぇ。気になるから最期に一つ質問良い?」


「「何でしょう?」」


「いつから僕がボードンだと錯覚していたの?」


 ───外套を脱ぎ捨てたレオンが不敵に笑った。



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