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猫と一緒の転生生活  作者: リョウゴ
第三章 最期の旅路
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最期の旅路


「地図よーし、食料よーし、装備よーし!!」


 レシアは旅装に着替えた後、指さし確認する。


 ボードンが用意した、旅の終点への装備を。


「ふふっ、これ似合ってる? ボードン」


「………ええ、とても」


 極めて平然とボードンは答えた。


 レシアは真新しい赤縁眼鏡をくい、と正す。


「でもこれ、度が合ってないわよ?」


「慣れていないだけでしょう? 何、旅の間だけの装備ですし」


「ええ、そうね。といってもまだ、多少ぼやけるだけで見えないこともないんだけれど」


 神子としての旅は順調に進んでいる。


 レシアの視力はそれに伴い徐々に衰えてきている。幸いにもそれはまだあまり生活に支障がでるほどではないようだが。


「レオンくんの所行きましょうか?」




 宿を訪ねた二人が目にしたのは、既に部屋から出てきてのんびりしていたレオンだった。そして当たり前のように頭に乗っている猫の姿も。


「結構早く出て来たつもりだったんですけど、早かったですねそっちも」


「………トーコちゃんは」


「あー……多分どっかで本来の目的を果たしに行ったんじゃ無いです、かね」


「それは居ない、ということで?」


「まぁ、帰ってきてませんね。一応宿に言伝残しておいてありますけど……」


 多分意味ないでしょう。レオンは言外にそう言っていた。


 レシアは少しその事に引っかかりながらも旅程の遅れはあまり許されない、という点から深くつっこんだりはせず。


「では、行きましょうか」


 ボードンの淡々とした声が、二人を動かした。




 旅程を理由に追及をしなかった、と言っても実際の所森での半迷子状態を容認したように、随分と余裕はあるのだ。


 神子の旅路の最終地点以外はもう寄るところなんて無いのだから。そして最後の舞はあと一月と加えて半月ほど後の話で、猶予はある。


「ふつうに行けば一週間で目的地に着いてしまうのですが、まさか補給もなしに野宿をし続けるなんて、体力の観点から見ても愚かですから」


 どうやらいくつかの集落を経由するらしく、それで掛かるのはその二倍。二週間ほどである。


「まあ、これで最後ですしのんびり行きましょう」


 ボードンはそう言って先を歩く。レオンはその後を追いかけながら懐中時計を確認する。


 すると後ろからレシアが物珍しいというような目を向けて言う。


「あれ? もしかしてそれ時計?」


「そうだよ? いいでしょ」


「高そう……幾らしたんですか?」


 その質問にレオンは苦笑いを返す。


「タダだよ、何でか、店で譲ってもらっちゃってさ」


「……いいなぁ」


「でしょ? というか、レシアさん眼鏡似合うね」


「あ、ありがとうございます?」


「どういたしまして。それで、話は戻すけど店の雰囲気が良くてさ。でね────」


 その様子をボードンは微笑ましく見ていた。と同時に、ひどく胸が痛かった。


 ───目を喪わない選択肢を与えてやる。


 そうやってエーリケから突きつけられた脅迫にも似たそれは───


「ボードンどうしたの? 難しい顔して」


「あ、いえ、何にも」


「何にもってことは」

「ない、ええ。ありません。何も」


 追及の目を恐れたボードンは顔を逸らして辺りを見る。レシアの目は普通ではないのだが、それを抜きにしてその目に見続けられるのはよろしくなかった。


「景色、綺麗ですよね」


 結果強引に話を逸らすボードン。


 悪手。むしろその言葉で現実を見る羽目になった。


「うん。今の内に……記憶にしっかり刻んでおかないと」


 ボードンは言葉を失った。




 その日の沈む前に一行は集落に到着。レシアを宿に押し込んだボードンは。


「こんな時に呼び出して、何の話ですか?」


 レオンを呼び出した。


「神子というのは」


「まってそれ、結構大切な話?」


「神子は舞を奉納する」


「ちょっ」


「但し、もう一つ神子には役目がある」


「………」


「自らの異能を奉納する事だ」


「……それ、レシアさんなら、目?」


「ああ。そして異能が消失したらどうなると思う? 答えは単純。機能の消失だ」


「えと? どういう」


「神子様は、旅の終わりとともに視力を失う………そして強引に異能がはぎ取られた者はひどく弱り、元の生活には戻れない」


「…………ぇ」


「レオン。君に話したのは」


「いや、おかしいでしょ。何で」


「君に言ったのは、神子様が旅を楽しく過ごしてもらう手伝いをしてもらう為だ」


「はぁ!? 何なのボードン!! この話は! 酷くない!?」


「ああ、酷い話だ」


「レシアさんはこの事を………知ってるんだよね。それは分かった」


 この話を聞いた瞬間少しずつ感じていた違和感が解消された。レオンはそう感じた。


「でもさ、何でわざわざ? 言わなきゃ良かったんじゃないの?」


 怒気を孕んだレオンの言葉に、ボードンは何も応えなかった。そのかわりに。


「その事を踏まえて最初に言ったとおりに」


「……笑顔を、って話か」


「……頼む」


「何なの……もう……」


 レオンは空を仰ぐ。怒りを通り越してしまって、何とも言えず。


 無言で立ち去っていくボードンに、何か言うことも出来ず。


 ただ、思考に暮れていた。

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