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猫と一緒の転生生活  作者: リョウゴ
第二章 迷いと恐怖
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その少女、生まれつき二人


 ──所で自分の中に全く違う自分がいる、としたらどう思う?


 突然現れたら排除しようとするかもしれないし、融和を計るかもしれない。結局は相手が自分にとって不利益な存在かどうか───それだけだと私は思う。


 まあ、私の場合は全くの逆であっただが。


「時子さん。君、もう来なくて良いよ」


「っ………分かりました」


 私はその言葉を若干想定していたが、いざ言われてしまえば動揺する。クビだ。失職。


 どうにもあの件以後調子が悪い。それはこういった所にまで響いているのだろうか。


 2週間程でクビを言い渡されるなんてもはや何なんだと言いたいところだ。




 会社を後にした私はスーツのまま、駅まで歩く。駅まで徒歩五分ほどで非常に好立地だったのだが、もはや私には関係ない。


 ちらほらと点立する飲食店をのぞき込むとどうしてもにこやかな家族とガラスに映る自分の窶れたような顔が対照的で。それこそ日曜の昼間には団欒がそこかしこにあるのだ。


 比べて私は、何をしているのか。


 居もしない私に問いかける。


 何故、止めなかったのか、と。


「…………っ」


 二週間経ったところでどうしようもない感情は消えてくれなかった。


 ──優しくて臆病なもう一人の私は消え、気になった先輩を止めなかったあの日から、二週間がたった日の話。


 一瞬たりとも心からその事が離れなかった。




 私は多分、悪い子だったんだと思う。私じゃない私はとても怖がりで、その様子が私にとってとても面白かったんだと思う。


 面白がる過程で沢山怪我した。かなり痛い思いをした。それで危険に対して過剰に反応するもう一人の私の言うことは多少過剰であれど、間違っては居ないという事に気付いたが、程度は軽くなれども、私を怖がらせる行いは止めることはなかった。


 面白い子だった。怖がりなのにそれ以上にお人好し。人助けに説得されたのは一度や二度ではなかった。


 ただ、神を自称するのだけは痛い子だなぁと思っていた。私とは違う私。私は、その私に幸せになってほしいと時々考えるようになっていた。


 と言っても、幸せって何だろうなんてその私に聞いても


『平和、だよね』


 なんて答えるだけだった。まるで具体性のない言葉だ。その私にとって幸せというのは恐怖に脅かされない事だったというのならやはり私はその私の幸せと反する事をし続けてきたのだろうと反省もした。


 気付けば大人になっていて、それで初めて入った会社は、この間抜けてきた所だけれど。まだブラックであることを知りもしない私はその会社への道に迷って、偶々、その会社の人に優しく道案内してもらって。


 気付けば、もう一人の私はその人にぞっこんだった。ぞっこん、て最近聞かないような気もするけど。


 とにかく私には分かる。あの私があの男に惚れてたことは。それまで二十年も物理的概念通り越して一緒にいた相手の内心如き分からないような私じゃない。


 というか、わかりやすかった。もうその人の話しかしないんだから。抑え込むのはずいぶん大変だったけれど。


 もしかして、もう一人の私の幸せって………この男とくっつくって事じゃないのか。そう考えた矢先に、もう一人の私は行動していた。


『もう、十分ですね。神獣も見つかりました』


 そう言って。私はもう一人の私にその一晩だけ行動を乗っ取られた。私に出来たのは皮肉気に呟くことだけだった。


 そして、その、もう一人の私の意中の男は階段から落ちて死に、もう一人の私は二度と口を開くことはない。




「っぁぁぁぁぁあ!!!!」


 がばりと起き上がって髪をかきむしる。あはは、分かってる。状況を整理していたら寝落ちしたって事。


 胸の奥がよどんで、何もしたくない。


「いや、もう何もしなくて良いんだ、無理に仕事に行かなくても……」


 無理矢理にでも止めるべきだったんだと、後悔している。


 きっと、それが正しい。私はもう一人の私がやるべき事を淡々とこなしたのを見て、何となく分かってた。


 やりたくないこと、してるって。


「くそっ!!」


 部屋に違和感を齎す妙に古い柱時計を力任せに叩く。どうしてか、中古屋で一目惚れして買ってしまった物だ。


 他の物は真新しいのに、これだけヤケに古ぼけていれば、違和感もあるだろう。


 もう一度たたく。


「あ──痛っ!!」


 やってしまった。真っ正面から拳が突っ込まれて時計のガラスが砕け散った。ザクザクと右手を傷つけ、私はよろよろと後退する。


「何これ」


 血が、光る。時計を光らせる。


 針がぐるぐると左回りを始め、前面が光り輝く板になる。


「何………これ………呼んでる……?」


 どうしてそう思ったのだろう。現実が嫌になった私が起こした現実逃避、なのだろうか。


 でも確信を持って言えた。


「私が、泣いてる………!!」


 私は、そのまま手を光の中へと突っ込んだ。


「あ、ちょっ、吸い込───」


 触れただけで私の体は光へと吸い込まれてゆく。


 当然死ぬかと思った。






 目が覚めたら真っ昼間の森で、そこにいたのは幼い少女。可愛らしさを感じる面影はあれど何があったのか酷い面構えで私を見た。


「よっ、私。久し振り? 初めまして?」


 極めて明るく、右手を背後に隠して左手を敬礼するかのように軽く掲げて笑顔を見せてやった。


「あー…………っ? ………は!?」


 少女は二度見した。懐かしい動きで確信した。うん。間違いない。外見こそ幼い私だけど。傷一つない肌きれいだなとか、変な方向に思考が逸れかけたけど。


「何か悩んでるなら───」


 隣に座り込んで、私は話し掛けた。


 私以外のせいで落ち込んで居るだなんて、なんだか許せないし。

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