過酷スタート
────そして時は戻る。
「寒い寒い寒い寒いっ!!」
「というかトーコやっぱり身長縮んでるよね!?」
「なにをいっておるるるるそんなわわわけあわわわまじだ」
「取り敢えずコレ人に会う前に凍死するよ!? 何とか出来ないの神様!!」
どちらも少年少女にしか見えない二人そろって雪景色の中あたふたしている。空は曇り、今どうなるかは分からないが、対処が出来ない事態に思えてしまい、二人そろってあたふたしている。あたふた、している。
───にゃぁあ
いい加減にしろ、と猫がレオンの頭から降りる。もすり、と雪に沈んだ。思っていたより深かったみたいで、猫は身動きが取れない。
───んにゃぁあぁあぁあ……
「んな悲しそうに鳴かれても困りますよ……」
「ニャーちゃーん!!」
ダイビング。飛び込むように雪をかき分けて猫を確保。頭の上に置いた。
猫の方も雪に怯えてしまったようにレオンの頭上で震えている。
「確かに、こうしてよぉーく、見てみると可愛いですね」
「そりゃそうだ、ニャーちゃんだからな」
「お蔭で落ち着きました……向こうです」
レオンから猫が飛び降りた方角、その方向をトーコは指差した。
「私にも恐らくあの方角に人が沢山居るのが分かります。本当なら神獣さんが歩いて教えようとしたのかもしれないですけど」
「そうなのか、ニャーちゃん」
頭上を見たレオンに、猫は顔を背ける。まだ自分の行動を恥ずかしがっているのだ。
「まぁ、行きましょうかレオンさん」
トーコが先を歩いていく。
後ろからレオンが……──
「ちょっと、トーコちゃん申し訳ないんですけど、足が抜けない」
「………仕方ないですねっ」
ちょっとだけ嬉しそうにトーコは引き返してレオンの腕を引っ張る。レオンは年相応の力しかないが、トーコは多少見た目の年齢からは外れた力を持っていたので、あっさりと足は抜けた。
トーコはそのまま自然な動きでレオンの腕を自分の腕と絡めて引っ張るように歩き出す。
「また深みに嵌まったら、た、大変ですから」
とのこと。
「人里ですね」
「すごいね、どうやって探したの?」
「こう……神気的な、神様エネルギーがどこ漂ってるか感知してって感じです。まあ、宗教みたいなのが流行っている町村なら大体分かりますね」
「というか、そろそろ腕」
「あ、ごめんなさい……」
ばっ、とレオンから身をはなすトーコ。
「いや、良いけどさ……」
レオンはちょっとだけ勿体ないことしたかな、と思った。彼はブサイクとか言うわけではなかったが、特段女にモテることは無かったから。
今の外見は、140前半位で、黒髪。琥珀色の瞳。服装に関してはなぜか紺色のジャージだったりする。
道中でトーコが『私がしっかり分かる服装なんて本当にそれだけなんで勘弁して下さい』とのこと。レオンは別にジャージに不満はなかった。
周りからすれば変な格好って言われるんだろうな、と言うことはレオンはちゃんと分かっていたが。
「何というか、まあ、人いないね」
「まあ、村っぽい所ってだけで人が居るって決めつけるのは如何なものかなんて思ってみたり」
「取り敢えずまだ昼っぽいけどちょっと泊めてくれるところないか探してみる?」
「お、お願いします…」
「トーコちゃん手伝ってよ?」
「……私初対面の人とはちょっと……」
「神様が何を言ってるんですかって───」
「───お願い止めて!! それだけは!!」
女性の声。遠くからでも聞こえる破壊音。
「っ!!?」
「ちょっ、ちょっとレオンさん!?」
レオンは走り出した。声のした方へと。
「待って下さい! 盗賊です……っ!」
レオンが走っていった後、残されたトーコを囲むように男の集団が家の中からぞろぞろと現れた。
トーコは、男たちの服装が所々黒ずんでいたり、持っている得物から滴る赤黒い液体を見て、小さな悲鳴を上げる。
遅まきながらに、血の臭いが村を漂い始めた。
「……このくらい1人で何とかしないと……っ」
「おやおやまだこんなところに可愛らしいお嬢さんが」
「………可愛らしい? ありがとね。そっちは何人くらい相手してくれるの?」
「五十人位かね、楽しんでくれると良いがね」
「……楽しませてくれるなら、早くしなさいなっ!!」
怯えて竦み上がった心を奮い立たせ、トーコは力を解放した。