見た目通りの子供達
朝になり街に繰り出した二人。日が出て間もない時間だというのに街は賑わっている。
朝市でもやっているのだろうか、とレオンはぼんやり考えていた。
「儀式祭りは無事に終わったからその人たちがこの街に流れ込んできてるから、なんて言っていたけれど元々栄えてたんだろうね、この様子を見るに」
「そうですね、沢山の人であふれかえって居ますねぇ」
──にゃー
猫が興味なさげに鳴く。猫にとっても猫以外にとっても馴染んだ定位置のレオンの頭上にいる。
首を痛めたり、猫を重く感じたりすることはなかった事を今更ながらレオンは不思議に思った。
「あのお金使いたくないって言っても、無茶なのかな」
「じゃあ、お金稼げるところ探します? カジノなんてどうでしょう」
「そう言うのは向こうに儲けが出るようになってるから損するって、真面目に稼ぐんだよ、何か無い?」
レオンはこの世界についてほとんど知らないためトーコに投げっぱなしになっていた。
トーコはそれが分かっていて、少し頼られたことを喜んでいた。
「リスクなしに稼ぐ事なんて出来やしませんよ?」
「そりゃそうだよね」
「贅沢言ってないで遊びますよ?」
「それが贅沢なのでは」
「良いじゃないですか、人の金で焼き肉食べたくないですか?」
「それするくらいならニャーちゃんと自宅ご飯だね」
「──私と贅沢するの、嫌ですか?」
トーコが甘ったるい声で上目遣いでレオンに迫る。
──べしっ
「いべぁっ」
「ははっ、ニャーちゃん、駄目だよー? ほらほらー」
頭上の猫を正面に向かい合うように抱えて親指でくすぐり出す。
「おのれ神獣……」
「そうだトーコあれは?」
とある建物の看板を指さすレオン。
「あー、狩猟ギルドですね。ただ森を通ったとき魔物の魔の字も無かったですし、多分お金稼ぐのにあれを利用するのは無駄だと思いますね。無駄に危険ですし」
「狩猟ギルド?」
「名の通り狩猟を主とする連合です。所属していなくても持ち込みOKなとこが良いですね」
「へぇ」
レオンの目が光った気がしてトーコはレオンの服を引っ張った。
「待って、待ってください、危険です遭難します食べられますぅ!!」
「平気平気平気平気地図読めるし、地図読めるし!!」
「レシアへの当てつけですか! 地図読めるからって危険がなくなる訳じゃありませんよ!? やめましょうよ!!」
「……まあ、危険なら仕方ないよね」
「そうしてくれると有り難いですよ」
レオンは改めて自分の状態を考える。稼ぐ気概があっても、稼ぐ方法がないのなら。
仕方ない。
「仕方ない、ボードンさんに貰ったお金使おう! よーしニャーちゃん何が欲しいー!?」
────にゃー?
トーコはそんなレオンの様子を見て何かを決心した。
「………レオン、先行ってて貰っても?」
「何? ……別に良いけど」
「気にならないんですか? 何でとか」
自分で言っておいて、詮索しないの? とトーコは言ったのだ。
何だかんだ放置されるのは寂しいのだ。
「……危ないことしないでよ? って言いたいけど、神様ならそんなに危険な事態に巻き込まれたりしない……よね?」
「ええ、私が危険な状況、見てみたいくらいですよ」
危険なことをしないということに対して明確に否定しなかったことにレオンは気付いていない。
「……まっ、その通りだよね。俺より強いしね」
「だから心配せずに。行って下さい、多分美味しいものとかこの先結構ありそうだし──ってレオン何買ってるんですか? しかも二本」
流れるような動きですぐそばにあった屋台から食べ物を購入したレオン。それは一本六十センチ程度の鉄串に集めのお肉が連なって刺さっている物であった。
「なんかの焼き肉串」
「見たら分かりますよ」
「ほら、一本あげ───」
レオンが串を手渡そうとしたところで猫がその串の肉にかぶりついた。
凄みのある顔で猫は肉をかじり取った。このとき猫はしっかりと獣だった。
「あー、トーコ。こっちあげる」
「どーもです……しっしっ、来ないで下さいよ神獣」
手渡された串を片手に猫に向かってあっち行けと手を振った。
猫はそれに対して首を傾げて肉を食べていた──眼光が獣性を感じさせていたが、串の肉を食らいつくのに夢中になっていたため、トーコを無視しただけである。
「ま、何するか分からないけれど、これ食べてよ。あれ、おなか減ってない?」
「……朝御飯食べたんで、あんまり。どうしたんですか? レオンだって食べたのに」
「あー……俺はニャーちゃんがご飯食べるの見てたら食べ損なってて……」
「え!? じゃあ半分こしましょうよ!!」
「いいの?」
「……実は食べたかったんじゃないんですか?」
「うん。そりゃあ、結構美味しそうだし」
「じゃあ、はい」
串を斜めに出す。かぶりつけと言うことだろうか、レオンは思った通りに先端近くの肉に歯を立てる。
「────あふっ、固っ!?」
歯形がついたものの、熱い、固いで食べられなかった。
「……固いですか?」
「うん、食べてみれば分かるんじゃないかな」
「それじゃは───ぐっ!?」
固いというのでトーコは全力で歯を立てた。結果肉は切れたが、その味は───。
「はんへふきゃこにゃごにゅににゃいみゃもは!!」
「汚い汚い汚い汚い!!! 噛みながら喋らないの!!」
トーコは三分ほど無言で咀嚼し、飲み下すと一言叫ぶ。
「……何ですかこのゴムみたいなものは!!!!!」
「いい匂いしたんだけど」
「それはタレの力ですよ!! 確かに変な臭みはないけど肉は固い上にほとんど味は無いです、何というかもうちょっと柔らかくなってから出直して来いって感じですよ!!!」
「───おいガキ共、そう言う文句を俺の前で言うとは良い度胸じゃねぇか?」
「「あ」」
一応言うと、この二人買った屋台の前からほとんど動いていない。そんな状態で悪評を叫ぶ。
屋台主に怒られました。
「おう、煮込む、か。試す価値はあるな」
屋台主は無駄に強面な顔をしかめさせて呟いた。
「そうです、火の通り具合が足りてないからこんな切るのも大変そうな……いやでも火は通ってるんですよね」
それに対してトーコが若干ドヤりながら言う。
「肉質が柔らかくなる香辛料的な物って無いかな」
レオンは全く分からないなりに知識を引っ張り出して言った。
「専門知識も何もないですし私達はどうしょうもないんですけども」
トーコはレオンの知識を肯定できずに少しムスッとしていた。
「でも良いんですか? 一日だけでもここで働かせて貰っちゃって」
「ああ、あんな悪評余所で流されちゃ困るからな」
「……言いませんけど」
屋台主がトーコを睨むとトーコは目をそらしてばつの悪そうに呟く。
「まあ、困ってはいたさ。味はともかく肉があんまり良いのを仕入れられなくてな。そのせいで質が異常に悪かったんだよ」
「あー、肉自体が悪かったんですか」
「あぁ、まあこれも祭りの影響でなぁ。賑わうのは構わんが買い占めが起こるんで俺みたいな末端店主は腐っちまう」
「肉みたいに?」
「バカ言え。肉は腐らせねぇよ、そこは意地だ」
「腐った性根で商売しても残るのは金以外無いですよね」
「あくどいことはしてねぇよ」
「え、その顔で?」
「てめぇ煽るのもいい加減にしろや」
「きゃーごめんなさーい」
常時ふざけた様子のトーコに声を荒らげずに怒る屋台主。屋台主は段々こいつら本当にガキなのか……? となっていることには二人は気付いていない。
気付いたからなんだという話だが。




