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猫と一緒の転生生活  作者: リョウゴ
第一章 旅の始まり
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儀式祭り



 あれから約一月が経過した。


 ───結果から言えばトーコの恐怖癖は治らなかった。


 否、現れなかったと言うべきか。茫然自失に我を失い──などという状態に一度もならなかったのである。


 トーコはその事に対し『なーんか、怖くないんですよね』と首を傾げていた。


 当然だが彼女の肉体は外見こそ少女だが、人とは大きく違う。耐久にしても、力にしても、性能は大きく上回る。そのことを本能的に理解をしているトーコにとって殺気の伴わない拳程度、そこまで怖くもないのは当たり前であろう。


 彼女は痛いのが怖い、と言うわけではないのだから。




「全く、レシアちゃんは。儀式当日位朝自主練さぼらせてくれても良いじゃないか」


「レオンー? 真面目にやってますかー? 言われて見張りに来たトーコちゃんですよー?」


 だからサボれないんだ、とレオンはぼやいた。トーコがとてとてと小走りで近付いてくる。


 変に曲がった気の棒を弓の弦に掛けると弓に刻まれた刻印を起動する。


 ────見える。


 引き絞った力を放ち、木の枝が飛んでいく。的の真ん中を砕き、思わずレオンは小さくガッツポーズをした。


「うわすっご……上達早いですねー」


「毎日の積み重ねだよ、トーコだって同じように積み重ねていけばある程度出来るようになる……と思う」


 断言できなかったのは、自分でも少しおかしいなと感じているからだ。成長が早すぎやしないか、と。


 普通の木の枝を弓で撃って、まともに飛ぶか? 


 弓の刻印は、ただの《目》としての役割しか持っていない。遠くがよく見える。それ以外にも色々見えるようになるだけ、弓を撃つことにあまり影響はない。最近でこそ射線が分かるくらいになったがそれは只の慣れ、そうだろうとレオンは思っていた。


「積み重ね……レオンが言うとあまりにしっくりきますね」


「なんでさ、わりとサボりたいよこれ」


「口で言ってるだけじゃないですからー。逃げようって考えはどこにも見られませんよ?」


「誰かをを守る手段は欲しいからね、どうしてもそういう行動が取れなくはなるでしょ」


「そう言うものですかね?」


「そう言うものだよトーコちゃん」


「気がついたらまたちゃん付け……」


「そんなに嫌?」


「嫌じゃないですけど……」


「取り敢えず五十回の射撃は終わらせたから、戻るよ」


「速いですね」


「起きるのが早かっただけだよ」


 そう言ってレオンは矢を回収し、片づけを始めた。


 トーコは少し頬をゆるめて、レオンを見つめていた。


「……見てないで手伝ってよ」


「あ、はーい」






 一月前の静けさはどこへやら、村は随分な人数が動き回り、人混みで通りはごった返していた。


 何故人が増えたか。それはやはり、儀式とやらである。


 正確な事を言うと既に儀式的要素は無いらしく、最早、祭りと言うべきか。畏まった雰囲気もなく、執り行ったところでこの国が豊かになるなんて、殆どの人が信じていないと言う。レシアが言うには、と言うところであるが。


「こうしてみると、凄いよね」


「あー、そうですね。日本ではまず見られない光景ですよね」


 レオンが感動のまま呟き、トーコは同意しながら表に出さない程度に心を輝かせていた。因みに猫はレオンの頭の上に乗ってだるーんとしている。誰も何も言わないのは、一月で慣れたからだ。


 この世界はどうやら多人種で、見える人達の身長はまちまちだ。多人種といっても白人とか黒人とかそう言った肌色の話ではない。


 特徴を言わなくても分かる《(ヒト)種》。体の一部に獣の特徴を持った《獣人種》。(ヒト)の子供ほどの身体の大きさの《小人種》。後はそれらに当てはまらない《異人種》か。


「ま、エルフが居ないのはちょっと物足りない感じありますけど、気にしない方向で」


「エルフってあの耳長い感じの?」


「……その程度の認識なんですか」


「ごめん、ちょっとファンタジー的なのに疎くて……」


「ま、そう言うもんですよね。この間なんて天使の尖兵として造られてましたし」


「何それ」


 二人は雑談しながら村の人混みを歩く。はぐれないように手を繋いで。


 端から見れば好き同士の子供に見えるが実際の所そういう話は無い。


「そう言えば異人種だっけ? やっぱりよく分からないんだけど」


「えー、あんまりそういうのこういう所で話さない方がよろしいです」


 レオンはそう言えばそうだった、と口を噤んだ。


 異人種は、原因あって異形と化した人種(じんしゅ)なのだから。トーコは呟いて、何を連想したのか空を見る。


「何となく、この世界はあの柱によって狂わされている──そんな気がするんです」


 万人の認識上の頭上に存在する一本柱が、また大きく崩れた。大きな柱から落ちていく瓦礫は光の粒になって空気に溶けた。


「そんなだからどっかの誰かが破壊しようとしてるみたいですけどね」


 トーコは目を細めて呟いた。今崩れた柱の瓦礫が空気に溶けたとき、しずかに世界が変容した気がしたのだ。それに、崩壊の早さが誰かの手が入っている気もした。


「まあ、とにかく、このお祭り騒ぎ! 楽しまなくちゃ損だよレオン!」


「そうだね! 何か色々店あるし! 回らなくちゃ損だよねトーコちゃん!」


 二人は、顔を見合わせて歩く速度を速めていく。楽しそうに、祭りを回るために。

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