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猫と一緒の転生生活  作者: リョウゴ
第一章 旅の始まり
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トーコの間違った考え



「私は神様なのですよ」


「知ってるよ」


 レオンは即答した。時間を歪めた場面を何度か目撃している。曰く自在に魔法の使えないこの世界ではなんの準備もなく、そんなことを出来ると言うことは、確かに神の所業なのかもしれない。


 それが無くとも疑ったりはしないが。


「管轄は時間に関する概念。みんな、みんな私が司っていたんですよ。ちょっと前までは神々の中でも最強を自負していたのですけど、問題が起きまして、対処するために力の大部分を失ったんですよ」


 今もまだその力を取り戻せては居ないんですけどね、とトーコは笑って言う。


「失った力の取り戻し方……信仰心とかそう言ったものの回収なんですけど、はっきり言って自然回復を待っていたら、また第2第3の神化狙いの奴が──」


「神化狙い?」


「……あ、これ蛇足でしたね。やっぱり色々すっ飛ばして核心だけ話しますよ、ええ」


 話題を逸らされたように感じたレオン。トーコは危うく口を滑らすところだったと冷や汗をかいていた。


 危うく、はぐらかしたトーコの旅の目的を口に出すところだったのだ。自らの愚かさに冷や汗が止まらない。


「ま、そんなわけで一番手っ取り早く下界に降りて力……前言ってた神様エネルギー的なものを回収するつもりで一人の女児の体に入ったんですよ、当時0歳の赤子に」


「……!?」


「あ、心配しないでくださいよ? 殆ど私は彼女の身体に住んでいただけで、彼女の存在をつぶして成り代わろうとか、そんなことは考えてませんでしたし、それに元より長居する気は無かったんですよ、目的上、力を蓄えたらさっさと出て行くつもりだったんです」


「つもりだった?」


「────人って弱いですよね」


「突然、どうしたの?」


 暗い目で少し遠くを見たトーコの様子の変化にちょっと不穏な物を感じ、レオンは聞いた。


「一歳の時、階段を転げ落ちた。三歳の時、頭に軟式野球の球が当たった。六歳、車に跳ねられた。七歳、また階段。左腕を複雑骨折」


「え」


「……どれも死んだかと思いましたよ。寄生してる身で、主が死んだら私も消えますからね。いつどこで死ぬか、分かったもんじゃありませんでした」


「………怪我多いね」


 レオンは、少し困惑していた。いくら何でも怪我し過ぎじゃないか、と。


「全くその通り怪我し過ぎですけど、止めると反発して余計に危険な目を見てたんですよ……」


「……」


「この体も、死んだら後がないのは同じで、どうも怖いんです……痛いのが、死ぬのが……っ」


「……」


 何も言えなかった。彼女の方が死ぬ確率は低いのだから、守るとか、そう言った言葉は無意味にレオンは感じたのだ。


「レオンに殴られたときも、頭が真っ白になって……何も出来なくなって……そう言うのは良くないと思うんです。少し不意打ちで痛い思いをしただけで、ああなっちゃうのは本当に、私の目的を果たせなくなってしまいそうで、だめだと思うんです!!」


 力強く、トーコは言い切った。


「レオン? 何で土下座してるんです?」


「何でも」


「頭上げて、真面目に話してるんですよ?」


「………」


「だからこの、痛みに対する過剰反応をどうにかしたいんです、手伝ってください!」


「………いいよ。全力で協力するよ」


「本当ですかっ!?」


「う、そりゃあ……」


 ぱぁっと明るい笑顔でレオンに詰め寄ったトーコから顔を逸らす。殴った負い目、それが無くても当然協力した。


「まさか即答するとは思ってませんでしたから、殴った代償として協力させるつもりでしたが、これは後まで取っておける奥の手にしましょうか」


「うぅ……というか何させようって腹積もりなのさ?」


「何、してもらうことは簡単な話です」


 えへん、とトーコは無い胸を張る。自信たっぷりに一言を言うのだ。


「私を殴ってください!!」


 トーコちゃんそれは間違えてるとお兄さん思うなぁ。


「あっれ? 俺にはよく分かんなかったんだけど、何と?」


 確認だ。レオンはとぼけた振りをしてもう一度聞こうとする。間違いだろ、間違いだと言ってくれ、と。


「ええ? 結構大声で言ったんですけど?」


「ごめん聞き取れなかったんだよ」


「もう一回言いますからよくお聞きくださいな」


 耳を澄ませる。ついでに聞き取ったが、何やら廊下からバタバタと─────


「私を! 思い切り!! 殴ってください!」


「───私はそう言うプレイは良くないと思うの!!」


 扉は開け放たれた。レシアの手によって。


 慌てた様子の彼女は、ひとしきり二人を見ると、キョトンとした様子で呟いた。


「あれ?」


「何してると思ったんですかレシアさんは」


「てっきり、そういう趣味があるのかと………思いまして」


「「あるわけないから!!」」


 二人揃って叫んだ。


 その反論の勢いに戸惑うレシアに事情をぼかしながら説明するのにかなりの時間を消費した。






「…………そうですか、痛いのが怖いと」


 レシアは、すっかり語調が神子としての畏まった言い方に戻っている。二人としてはこの語調のレシアが一番落ち着くのだ。


 トーコが神であることやレオンが転生者であるなどの殆どの事情は伏せたままである。そもそもレシアが落ち着くまでに時間がだいぶ掛かったわけであり、結局今レシアが言った言葉以外のことは一切説明出来ていない。


「うん、そういう訳なんです。どうしたらいいのかなぁってずっと悩んでたんです」


「簡単ですよ。痛みに慣れればいいんです」


「二人揃ってその発想なのはどうかと思うよ」


 レオンが呆れたようにそう言う。


「ではレオン様は何か案があると?」


「ないです………」


「じゃあ決まりです私本人が言ってるんですから問題ないんですよ!」


 トーコが大声でそう言う。


 レオンはどこか問題と解決法がズレているように感じたのだった。


「さて、私はもう寝ますから部屋に戻ります。明日からは二人揃って鍛えますから覚悟していてくださいね?」


 その言葉に戦慄し、結局何がズレているのかという具体的な考えを、レオンは忘れてしまった。

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