本命が
─……何で拾っちゃったかなぁ。
貯金は殆ど無くなった。猫の治療費だ。
家でごろりとしながら考える。
拾った以上、責任は在るだろう。治した以上、責任は在るだろう。
猫は、部屋の隅でじっと彼を見ている。警戒心たっぷりに、だ。
そりゃそうだ。彼のやった行いは、あのままでは猫が死んでいたかも知れない点を除けば自分勝手な行い。
そして、治療したんだからと猫が懐くだなんて微塵も思っちゃいなかった。感謝されたいわけでもなかった。何故やったのか、それはどの時の自分にも答えは出せないだろう
本来よりも金を捨てるように使い、何とか猫の足を治療した。絶賛ニート中な彼にとっては死期を早めるような行いである。
「………」
自分のためには絶対にならないというのに、この時の彼は、腹の底にわだかまる暗い感情が消え失せているように感じられた。
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トーコは勝ち誇ったように、鼻を鳴らす。彼女は今までどこに行っていたのやら。
「トーコ心配し」「心臓が止まるかと思いましたよっ!! ほんっっっとぉぉーーーにっ!! こう言うのは止めて下さいぃっ!!」
トーコがレオンの肩を揺らす。
「大体!! 何でそう! 必要のない無茶をするんですか!!」
「……わかんないよ。体が勝手に動いたんだ」
「動くならあの人が傷つく前にして下さいよ!! いや駄目出て来ないで下さい」
「どっち……」
「……本当に、間に合わないかと思いましたよ……」
「………ごめんなさい」
「分かれば宜しい」
トーコはレオンの肩から手を離す。トーコの言うことは正しい。レオンは正しく無駄な行動をしたのだ。
血霧をあの場に縫い止めて、結果としてはその血霧を倒したわけだが。
「これで襲撃は………」
「いや、どうにもそうは行かないみたいですよ。私から離れないで下さいね」
レオンは箱を持ち直して、怪我人の治療をしながら、その発言に疑問符を浮かべた。
「襲撃って1人じゃないの?」
「私もそう思ってたんですけどね。これ、二人目の赤服です」
「二人目? でもこれで終わりじゃないの?」
「だと良いんですけど」
「あとトーコ踏んづけてるそれ、血霧って言う暗殺者らしいよ?」
「赤いからですかね?」
───この儀式を阻むもの───。
「……トーコ、そう言えばどこ行ってたの?」
「あ、誘拐されてました」
「それ、俺より死に瀕してたんじゃ」
「どうやら、私の溢れ出る神様的力に惑わされて……──研究材料にされるとこでしたよ? 国に帰るまでは死ぬこともなかったでしょうし、気絶させられてたんで、意識戻ってからはシュンコロでしたよシュンコロ」
「それを言うなら瞬殺ね」
「そーともいうー」
げしっと血霧の頭を蹴り、気絶していることを確認するトーコ。服の中から縄を取り出して木に強く縛り付けるように巻きつけた。そうして元来た道を戻るようにレオンは歩き始めた。トーコも、後をついて行く。
血霧は二人いた。片方がトーコは別の人が誘拐。今踏まれている人は、村の男を片っ端から気絶させていた。
「……儀式……舞の事だよね」
「どうしたの?」
「あ、その血霧がね、儀式を阻むものであるーなんて言ったからね。ちょっと考えてたんだけど、まずトーコがついでだとして、そこの人はどうして」
「ちょ、私がおまけってどう言うことですか!!?」
「だって、突然村に来た俺達を狙うなんて無理じゃない? だったらおまけだと俺は思うよ」
「それは分かりますけど」
「……なんの話をしてたっけ……。あ、そうだ。舞を止めるのに、こんな無差別な襲撃なんてするかな……って話をしようとしたんだった。どう思う? トーコは」
「そりゃあ、まあ。真っ直ぐ踊る人を狙えれば良いですけど……あれ? あの女どこにいるんですか?」
「弓教えてもらって、片付け任せて戻ってきたから村の外れから戻ってきてるか、もう戻ってるかだけど、ニャーちゃんに安全なところに逃げるように言っておいたから正直なところ何処にいるか分からないよ?」
「弓?」
「うん。ほら、何というかちょっと怖くてさ」
「………?」
「自衛程度の力がほしくてレシアさんに頼んだの。本当は近距離の武器の扱いでも教えてもらおうと思ったんだけど、レシアさん、弓を奨めてきたから、朝から撃ちまくってた」
「自衛程度の力、ですか? あの神獣が居れば問題ないと思うんですけど。私もいますし?」
「そりゃ神様なら……って信用はしているよ? でもさ、頼りきりになったらいざという時大変でしょ?」
「いざという時なんて来ませんよーっだ!」
「さっき来てたよ………」
「何とかなってるんだからそんな時なんて来てませんよーってね」
いや、それはおかしい。レオンは心の中だけでため息を吐いた。
「……真面目な話、中途半端に力があるのが一番危険なんです。あまり危険なことに首突っ込まないで下さいよ?」
「分かってる」
分かっていたら、飛び出したりしないだろうに。トーコは思ったことを飲み込む。
「だいたい、そんなふらふらなのによくもまあ……」
「……そもそま何でこんな貧弱な体なの」
「無茶言わないで下さいな、年相応ですよ。肉体年齢に適さない身体能力は危険なんですからね……と言うかそれ以前に私の純粋な力不足ですけど」
あと、余り高すぎると調子に乗ってしまうのでは──とか考えたがそもそもトーコの純粋な力不足という壁があり、無理だったのだ。
まあ、そもそも実在する肉体を創造しての転生自体が異常に力を消耗するのだが。
「まあ、私は力の無い方ではありますけどそれは神様の中での話で、人如きにどうこうされるほどの弱さじゃないんで、信頼して下さいね」
「うん、そうする」
ひとまず二人は村一番に大きい家に戻ってきた。
「「────ぇ。」」
家は斜めに斬られて、上部分が滑り落ちていたから。である。




