治療
事情があって投稿がやや不定期になっています。いっそのこと予約投稿してしまおうか………(凌吾)
レオンは何の自衛の手段を持つことなく血の跡を追っていた。彼は、そんな状況になるなど微塵も考え付かなかったからだ。
刃物を持った不審者が彷徨いていると聞いても、会わないだろうと慢心して自衛手段を持たないで出歩くのと同じような、思考である。
「……何でこんな」
目の前を見ても血。血。血。
今まで関わったことのない、それでいて関わりたくもなく目を逸らしたいような非日常が目の前にある。
レオンが来た方角とは反対方向に逃げていったため、鉢合わせはしなかったのだ。
目の前には、傷だらけの人。生きているかどうかも分からない人。包帯は有限なのだ。
「大丈夫でっ…………駄目だ」
辛うじて息をしている。包帯を巻くか、レオンは考えた。見捨てるのは出来ない。節約とか言ってられはしない。包帯の効果は、この文字列のお蔭で特殊なものがあるのだろうが、容赦のない傷と出血。コレを見ているレオン自身正気である自信はなかった。
思い切り包帯を巻き付ける。
「……早く行かなきゃ」
血が続いている。何より拙いのは、自分の体だ。箱はそう重くはない。が、抱える腕が震える。足も、少し震えているかも知れない。
勿論恐怖ではなく、疲労だ。
「……」
また倒れている人を見つける。3人。折り重なるように倒れていた。
全員傷が浅めだ。出血も少ない。
「──でも、意識がない」
包帯を巻き付けて、取り敢えずの処置をする。
「意識に障るような傷は……」
考えるよりも動く。のろのろとした動きでも、血の跡を追いかける。
何人も、人が倒れていた。そのすべてに包帯を巻き付けた。幸運なことに包帯は尽きることはなかった。
傷が浅い人ばかりだったが、歩き続ける内に意識のある人が現れた。
「大丈夫ですか!?」
出会った中で唯一意識のあったその人は、特段酷い傷だった。
「大丈夫……だ……神子様は……?」
腹、右肩から左わき腹へ抜けるような背中に、左足首。赤かった。
兎に角、震える手で大慌てで巻き付ける。
「そいつぁ……治癒包帯……か」
「知っているんですか、これを」
「あぁ………軽く巻くだけで………軽い傷なら跡形も……無くす…代物だ……こんなもん……大盤振る舞い……大丈夫か……とも、言えないんだ、よな」
顔色が良くなってきた。レオンは安心した。安心ついでに誰がこんなことをしたのか聞くことにした。答える余裕が出来たように思えたからだ。
「誰が……こんな事を」
「赤い服……だ」
「赤い服………?」
「血霧………そう呼ばれる暗殺者だ」
「血霧……物騒ですね。トーコ、見ませんでした?」
「……あの嬢ちゃんか……見てねぇな」
「え………!?」
見ていない。そう言った男は心底すまないと言わんばかりに目を伏せた。
「……トーコなら大丈夫、か」
余りにも弱々しい呟きだった。自分を納得させるためだけの呟き。あれは神なのだから、問題ない。
そもそもレオンはトーコが誘拐されたかどうかは知らない。居なかったから、ただそれだけでここまで歩いてきたのだ。
包帯はあと少し残っている。怪我人はまだ居るだろう。
「すまねぇな、俺、気絶術耐性が高いから、こんなに傷だらけで、包帯使わせて……」
「いや、大丈夫。包帯なら絶賛無駄遣いしてたの分かったし、もっと節約してても良いのかな」
「まあ、そうだな。この先にはまだ人が居た。気絶させられているかも知れねぇから、手当てを頼みたい」
「了解です」
「危なくなったら見捨てて逃げろよ?」
寝ていた体勢から座り込む体勢に変えながら男は忠告した。
「分かりましたよ」
レオンは歩いていった。男には、何となく予感があった。
「あいつ、忠告守らねえな多分」
ふらつく背中を焦点のぼけた視界で見ながら男はつぶやいたのだった。




