幼馴染の失踪
プロローグ
ユサユサと体が揺らされる。 俺は重い瞼をゆっくりと開けるとそこには目の前で仁王立ちをしている人が居た。 次第に意識がハッキリしてくるとそれが先生であるとわかる。
「朝霧、俺の授業で寝るとはいい度胸だな。怒らないからなぜ寝てたのか言ってみろ」
「昨日は観たいアニメがあったので観てました」
パーン! と言う軽快な音が教室中に響く。 ちなみに音の発生源は俺の頭の上の丸められた教科書だ。
「放課後職員室に来い!」
そう言って、先生は黒板まで戻っていき授業を再開する。
「理不尽だろ、怒らないって言ったのに普通に怒ってるし。 誘導しやがって」
俺は誰にも聞こえない声量で愚痴をこぼす。
***
「もう授業中は寝るなよ! わかったか?」
「はい」
放課後、俺は職員室にて先生に説教されていた。 軽く一時間ほど説教する先生に俺は嫌気がさしていた。 最初は授業中に寝ることについて怒っていたのに途中から先生の昔話を例に出してきてイラついた。
先生に解放された時にはもうみんな下校した後だった。
別に一緒に帰る友達もいないのでどうともしないが俺の貴重な時間を削られたことには再度イラついた。
イラつきながら帰路についた俺は校門に人がいるのに気づく。
自分には関係なんて思い横を通り過ぎようとしたときに話しかけられる。
「咲夜お兄ちゃん! おそいよー!」
「なんだ翼かびっくりしたわ」
土御門 翼。 俺の幼馴染でこの学校の中等部に属している。
俺の事をお兄ちゃんと慕ってくれる可愛いやつだ。
「なんでこんなところにいんだよ?」
「久しぶりにお兄ちゃんと帰ろうかなーって思ってさ、ダメ?」
目をうるうるさせて上目遣いでこっちを見てくんな。 ときめくわ!
「………別にダメじゃないけどさ」
「お兄ちゃん照れてる?」
「照れてなーよ」
「ふふーん、そうか~!」
俺の方を見てはニコニコしてくる翼にデコピンをする。 「いた~い!」と唸る翼を促し俺は帰路につく。
「そういえばさ! 修学旅行どうだった?」
翼が俺の後をついてきながらそんな事を聞いてくる。
「どうもしねーよ。あー、海は綺麗だったな。 一人遊泳が最高だったわ」
「もしかしてさ、お兄ちゃんって友達いないの?」
翼が不安そうな表情で聞いてくる。
「仲のいい友達はいないな。 まぁ学校ってのは勉強する為に行ってんだから友達なんて要らねーよ」
「………お兄ちゃんかわいそう」
おいおい、そんな不憫な目でみんな! こっちはこれで満足してんだよ!
「私も来月修学旅行行くけどさ! 楽しみだよ~」
「それは良かったな」
俺は翼の話に適当に相槌を打つ。
「優ちゃんと~早絵ちゃんと~3人でいろんな場所回るんだ!」
「おお~、そうかそうかー」
嬉しそうに話す翼を見ずに塀の上の猫を見ながら適当に相槌を打つ。 ちなみに棒読みだ。
「友達っていいよ! お兄ちゃんも作りなよ~」
「勘違いすんなよ、俺は仲のいい友達がいないんだ。友達はいるさ。 忘れ物したら貸してくれる友達がな。 あとは宿題を見せてくれるいいやつがいるんだぜ」
「そうなんだー」
俺の言葉に翼は少し呆れを含めた感じで言ってくる。
「一緒にトイレに行くとか普通はありえねーよ、トイレは友達と話す為にあるわけじゃねーよ」
「ええ~! もしかしてお兄ちゃん一人でトイレ行ってるの? みんなで行った方がたのしいよー!」
「ふっ、トイレに楽しさを求めんなよ」
俺はその言葉に嘲笑付きで返す。
多分、俺の考えを理解してくれる中・高生はいないだろう。 でもだ、俺は友達なんか要らない。休み時間に話してるくらいならラノベを読んでた方が楽しいしな。
「お兄ちゃんは昔から変わらないよね~」
「人間そんな簡単に変わってたまるかよ」
俺たちがそんな会話をしている間に家の近くの少し大きい森まで来ていた。
昔はこの山で翼とよく遊んだっけ。あ、あの木から降りられなくなった翼を助けた事もあったなー。あの時は翼が泣き喚いて大変だったな。
「お兄ちゃん久しぶりにこの森で遊ばない?」
「嫌だよ、俺は帰ってアニメ見る」
「それじゃ、久しぶりに隠れんぼしようね! 1分数えたら探しに来てね~!」
人の話も聞かずに森の中に一人で入って行く翼。
帰ろうかな? でも一人で帰ったらあいつ後で絶対怒るからなー。
「仕方ねー、パッと見つけて帰るか」
俺がそう思い1分数えてると森の奥の方から。
「きゃあああ!」
突如、翼の悲鳴が聞こえた。
「翼! 大丈夫か⁉︎」
俺はすぐさま数えるのをやめて森の中に入っていく。 しかしいくら探しても翼が見つからない。 だから俺はからかわれたのだと結論付けた。
「あいつもしかして先に帰ったとか? 後で絶対デコピンしてやる」
俺はそう言い森を後にする。
この時、俺はすぐに翼に会えると思っていたがそれは間違いだった。
この後、翼は失踪した。