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「「異世界から来て魔王と勇者を兼業した唯一無二の人間だよ」」  作者: Hurricane(そよ風)
4章・「「異世界から来て魔王と勇者を兼業した唯一無二の人間だよ」」-悪魔連合国侵略戦
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幕間31・歩むべき道筋(ホワイトアウト・ロード)

「は~、いろいろあったんだねぇ」

「・・・どうしてかわからないけど、恵が言うとすっごく軽く感じるわね・・・」


クーの話を一通り聞き終わり、浅っい感想を漏らした恵だったがこれは本当に感心していた。

語彙力が無かっただけらしい。

よって頬を膨らませながら恵は否定する。


「そんなことないって!じゃあ結局クーちゃんは女王様にはならなかったの?」

「ええ。少なくとも今は、やる事があるからね」

「あはは、なんかだんだんクーちゃんもマギア君みたいになって来たね。そういうブレない所」

「・・・何言ってんのよ」


恵にそう言われ、クーは顔を逸らすも笑顔が隠せていない。

もう今更テレなくてもいいのになぁ、とほほえましく思いながら次は何故かいるメイド服の少女の方を見た。

恵の視線を受け、ルーレはこくりと頷く。

ヴァンパイアの国ではワンピースに日差しから肌を守るスカーフといった格好だったが、今はいつも通り白と黒のメイド服で着飾っている。

先ほどぼんやりと起きて寝巻きのままロビーに降りようとして慌てて止められた時はミチの宿にルーレが寝ている事を不思議には思わなかったが、よくよく考えてみればおかしい話である。

まだ会ったことは無いがマキナとかいうご主人様の指示なのだろうか。よく分からないけど。

そんな事を思っているとルーレが口を開く。


「では、そこからの話は私から。アルティアナさんらしき影ですが目撃証言などは他になく本当に洞窟に戻ったのかは分かりません。確かなのは今までアルティアナさんの姿を見た人はいないということだけです」

「連絡もないの?それはちょっと心配だね・・・」

「まぁアルティアナは大丈夫だと思うけどな。アルティアナだし」


心配する恵に対してシレーヌは軽い調子でそう言う。

冷たいように聞こえるが、不死の身体を持ち殺し屋を天職とする彼女が洞窟の崩落程度でどうこうなるとは確かに思えなかった。

クーも同じ意見だったらしく頷く。


「それは同意するわ。それにアルティアナがここにいた目的はマギアだった訳だし、帰ってこない理由も分からなくないし・・・正直ちょっと寂しいけどね。あぁ、丁度そんな話が王宮の方でもあったわね」

「・・・はい。その話をしましょう」




時間は13日程前に遡る。

ヴァンパイアの国から帰ってきてすぐの事。

昏睡している恵をサーシャ等に任せ、ルーレとクー、夜、ミュー、そしてもう一人は王宮の無駄に長い廊下を早歩きで歩いていた。

バタバタと焦りを隠さず歩く彼女たちとそして連れ歩いているもう一人の姿に使用人たちは驚いているようだったが、ルーレにそれを気にする余裕は無かった。

ボロボロになっている壁や内装にも眼もくれず、バンっと会議室の両開きのドアを開く。

そこには既に各国の主要人物がそろっていた。

エルフの副長ベーゼ。

ドワーフの皇帝タ―ヴ。

ドラゴンの族長パール。

そしてアロマとラン、ユリ。

ただパールに関しては包帯ぐるぐる巻き状態だったが。


「ただいま戻りましたっ。それでアロマさんご主人様の事なのですが、

「まー落ち着いて。今焦っても変わらないでしょ?私たちも聞きたいしね・・・主にその後ろで捕まってるピエロの事とか」


アロマに諭されたルーレは確かに焦りすぎていたかもしれないと深呼吸をしマキナの席の後ろに立つ。

それに倣って夜とミューも席に着いた。

その様子を見て軽くクーは首を傾げる。


「私とこいつはどうしたらいいのかしら?」

「クーさんは空いている席にどうぞ。で、暁の魔王は牢屋ですかね」


その言葉に縛られたまま連れてこられた暁は肩を竦める。

正確には火傷跡に包帯を巻きつけてあるため体が少し動いた程度にしか分からなかったが。


「わーお、手荒い歓迎だなぁ。せめて適当に話し相手つけてよー」

「後で尋問という名のおしゃべりをたっぷりしてやるみゅー」


ちぇっ、と軽く唇を尖らせる暁にクーは鋏を向け牢屋へと跳ばした。

はた目から見れば消えた様にしか見えない状態だったがアロマは即座にその魔法を看破する。


「転移魔法か。珍しいものを使うのね」

「ええ、まあね。自己紹介をしておくわ。私はクー・レヴェル。一応ヴァンパイアの代表の代理として来た・・・ことになってる」

「ヴァンパイアの?前来た奴と違うゾ?」

「あ~・・・それは多分私の母親ね。色々あって今は私とヴァムピーラって人が一時的に指揮を執ることになったの。どっちか一人は再興の為に国にいないとまずいから私が来た訳。ま、詳しい話はルーレから聞いてもらえる?」


ベーゼの疑問に軽く答えたクーはややこしい説明をルーレへとぶん投げる。

全員の視線がルーレへ向いたところで、


「それではまず簡単にですが報告と行きましょう。アロマさん、評議国側の説明はお願いします」

「おっけー」


サクラの事からマギアの事、またドラゴンを倒した話などを一通り報告し合った後、ようやく本題へと話が移る。


「・・・で、そこのパールにお仕置きした後の話なんだけど、突然伝達魔法が伸びて来てね。タ―ヴ、録音してあったのよね?」

「おう、俺様の機転に感謝し尽くせよ」

「まぁそれくらいしか活躍する所ないもんね」

「失礼だなオイ!」


アロマに図星を付かれ文句を言いつつもタ―ヴはどんっと机の上に四角い鉄の塊を置き、ボタンを押した。

するとざざっというノイズと共に声が聞こえてくる。


『・・・まっ・・・ざざっ・・・分からない。ざざっ・・・誰だって?』

『俺は宵闇さ・・・ざざっ・・・の眷属ベルフェゴールって者だ。まあ分かんなくていいぜ、すぐに王子様に変わるからよ』

『・・・アロマ?聞こえるか?』


「・・・音悪いわね・・・」

「始めはしゃーねーんだよ。もう少しで安定してくるから待ってろ」

そんなアロマとタ―ヴの小声を聞き流しつつ。

ルーレは眼を軽く見開く。

間違いなくマキナの声だ。

しかし会話をしている女・・・アロマはそれを信用しなかったらしい。


『そう。けど声だけじゃ判断付かないかな』

『だろうな。それなら・・・そうだな。今でも寝てるとき半径10メートル以内に侵入したら感電して死ぬのか?』


言っている意味が分からなかった。

しかしアロマには何かが通じたらしい。


『・・・まあね。それであんたどういう状況なの?なんで伝達魔法を?』


こんなときにもかかわらず彼について自分が知らない事があったと嫉妬する自分にルーレは苦笑いしつつその続きを聞いて。

絶句した。


『仲間になった、ってところかな。魔王軍の仲間にね』


しかしそれは当時のアロマも同じだったらしい。


『・・・ん、は??ごめん何言ってんの?』

『はぁ、そのままの意味だけど?』

『なんで・・・』

『何度考えても勝ち目ねーんだもん』


震えるアロマの声に返された言葉は、ほんの少し笑っていて。

それはまさしくマキナが敵と相対したときの態度そのままで。


『・・・というか、さ?』


それだけで終わらなかった。

マキナの声は、現実を突きつける。


『君たちちょっと酷すぎない?

まぁ今頃パールをアロマが叩きのめした後だと思うけど、あんだけイキってたパールもプラチナも予想通り使い物にならないし。

アロマもそう。

俺がメイド達とか兄弟姉妹たちの動きを完璧に予測してたからこそ犠牲払わなくて済んだけど、もうちょっとで王宮吹き飛ばされそうになってたみたいだし。本来アロマが逃げずに戦ってたら終わってた話だよ?

それも君の心の葛藤とかいう微妙な理由で。

俺がいたらぱっと動いてぱっと終わらせてたわ。実質的に今出てる被害ってアロマのせいでもあるからね?』

『・・・な、ぁ・・・っ!』


マキナの言うことは正論という訳ではない。

何故ならそれは所詮、今振り返ってみれば、という話であって結果論でしかないからだ。

だが。

マキナは確かに今までその最善の道筋を踏み越え、成し遂げてきた実績がある。

それがアロマを黙らせた。

静まり返る部屋。

その場にはアロマからタ―ヴ、ベーゼ、ランにユリ、そしてオーラやマキナの兄弟姉妹もいたが誰一人言葉を発せなかった。

だから許してしまった。

マキナをそれ以上喋らせることを。


『あぁ、それだけじゃなくてさ?エルフ達も酷いよな。せっかく助けてやったのに裏でこそこそして。知ってるか?この世で最も味方にしてはいけない連中。それはさ、大して頭良い訳でも機転が利く訳でもないのにそれを自覚せず勝手に動く連中だよ。まるっきり君らの事だね、トラムにベーゼ。いちゃつきたいだけなら他でしてもらえるかな?助けたの無駄だったな』

『いい加減にしなさい、トオヤ君』


ぺらぺらとしゃべるマキナに、オーラが珍しく怒った様子で割って入る。


『君がどう考えどう感じるか、それをどうこういう訳では無いけれど私の息子の声でそんなこと言わないで。トオヤ君がそんなことを言う人だなんて思わなかったわ』


マキナはすぐに返事をしなかった。

その間、口を開かなかったマキナは何を考えているのか。

長い沈黙を越えて彼は口を開く。


『・・・なら人を見る眼が無いだけだね。俺はマキナの兄弟姉妹を騙してたのだが?それにしても本当に楽しかったわ、王様気分でわがまま言えて!別に見た目は俺じゃないし気楽に人を振り回せるからな』

『・・・っ、きさま・・・ッ!!』

『お、おにいちゃん・・・嘘だよね・・・?』


絶句するオーラと怒りに駆り立てられるレン。

そして半泣きで呟くシャルロットに。

とどめを刺した。


『ははっ、いや俺は君のお兄ちゃんじゃないが。そんないつ死んだのかもわからないような奴の事をいつまでもグチグチいうなよ』


最早、誰も、口を開けなかった。

これまで団結し、信頼してきた人間からの完全な裏切りに。


『それじゃ、ま、そういうことだからよろしく。さーて、確か東雲から好きな物貰えるらしいしどうしようかなー』


ブツリ、とそこで録音は切れた。

黙って四角い機械を床に置きなおすタ―ヴだけが動いている。

他の面々は動作どころか言葉一つ発さなかった。

予想以上の展開に、ルーレの頭は全く追いつけない。

なぜ?どうして?

それが頭をぐるぐると回り続ける。

私を復讐の執念から解き放ってくれた彼は。

私に多彩な事を教えてくれた彼は。

私が尊敬し、大好きだった彼は。

全部嘘だったというのか?

全部、気まぐれだったというのか?

私は・・・彼にとってはこんな簡単に捨てられるほどに。


軽い存在だったのか。


「ちょっと?ルーレ!?」


背もたれに手を置き辛うじて身体を支えていたが、その手からも力が抜け。

揺れる視界とやけに反響して聞こえる心配する声に「大丈夫です」と返事をしようとしながら。

ルーレの意識は途絶えた。



「・・・ん?ここは・・・?」

「おはよう、ルーレ」


眼に入るのは真新しいベットと本を手に隣に座りながらこちらを覗き込む水色の髪の女性。

そして薬草の匂い。

どうやら王宮の医務室らしい。

まだ明瞭としない意識の中呟く。


「くーさん。わたし、いったい・・・」

「ぶっ倒れたのよ。今はゆっくり休みなさい」

「・・・そうか。わたし、たおれちゃったんですね・・・」

「ええ。でもしょうがないわよ、誰だってこんな仕打ち受けたらそうなるわ」

「ごめんなさい、めいわくかけてしまって」

「迷惑っつか、私は転移させただけだから歩いてすらいないんだけど」


本に目を落としながらクーは肩を竦め笑う。

リラックス出来るようにと気を使ってくれている様子のクーに安心し、ルーレは布団を抱きしめ顔をうずめる。

互いに無言で過ぎていくゆったりとした時間。

その雰囲気に思わずぽつりとルーレは呟く。


「・・・これからどうしたらいいんだろ」

「それ、皆言ってたわ」

「皆?」

「ええ。あの会議に出てたやつ全員よ。困ったもんね。あいつらみーんなマキナに連れてこられた連中でしょ?そのマキナがいない今、誰が指揮を執るのか、そもそもこの国に残る価値があるのか、それを悩んでるみたいね」

「成程・・・。そうでしょうね。戦闘では誰にも敵わない人類を筆頭にして彼ら彼女らが集ったのは全てご主人様のカリスマ故ですから・・・。もしかしたら皆いなくなるかもしれませんね・・・」


そう現実を見つめ直し、そしてご主人様とは呼んだものの最早彼は自分の主人ではないと気づき涙が浮かぶ。

そんなルーレの様子に、クーは頭を撫でる。


「・・・全く。なんの因果なんでしょうね。あの日出会った私達がほぼ同時に別の形で大事な人を無くすなんてさ」

「クーさん・・・」

「マギアの奴、何が『この世界丸ごと、住みやすい世界に変えてやろうじゃないか』だよ。死んでちゃどうしようもないでしょ、ばか・・・」


言うまでも無くルーレにも『あの日』というのがいつか分かっていた。

ルーレにとっても、絶対に忘れることのできない日だったから。

そして、あの時はまだゾンビと名乗っていた少女の言葉もまた、思い出した。

ぐいっ、と涙を拭い、その言葉を反復する。


「『重要なのはこれから、そのいい人なご主人様とやらが道を外さないように、教えてあげることじゃないかしら?』、ですか」

「え?・・・ああ、そんなことも言ったわね」

「クーさんは・・・これからどうするんですか?」

「そうね・・・、私は真相を知りたいかな」

「真相?」

「ええ。マギア亡き今、もしかしたら誰にも分からない事かもしれないけど、何故記憶が無かったのかそしてなにより相討ちで死んだはずのマギアが何故現れたのか。それを知るためには、魔王かマキナに尋ねる他無いように思うの。だから私は悪魔と戦うわ。他の連中がどうするかは分からないけどね、恵も昏睡してるし。それで?ルーレは?」

「私は・・・」


眼を閉じ。

自らのしたいことを考える。

今までのようにマキナのためにではなく。

自分の心に素直に。


「私は彼を。マキナを、取り戻したい。一体何を考えてあんなこと言っているのか、本音なのか嘘なのかは分からないですけれど・・・、それでも!私は彼が好きだから、例え殴ってでも止めます!そして連れ帰ります!!」


今までの覇気の無さと裏腹に。

言葉を口に出し、決意を固めるたびに身体に力がみなぎる。

そのまま飛び起きるようにルーレは上半身を起こし、クーの手を握った。


「協力してください、クーさん!」

「ふふっ、当たり前じゃない。例え私たち以外が降りようとも、一緒に戦いましょう」

「はい!必ず!」




「は~、いろいろあったんだねぇ」

「・・・恵君、感想の語彙それしかないのか?」


長く話しすぎたルーレは水を上品に飲み干す。

ルーレに変わって、クーが話を続けた。


「で、今から2週間ぶりの定例会議なんだけど、恵も来てくれない?」

「えっ、私?私行っても難しい話一個も分からないよ」

「うん、それは分かり切ってる」

「・・・出来れば分かり切らないで欲しかったなぁ」


自覚はあるもののきっぱり言われて若干落ち込む恵をクーは軽く流し、


「日頃の行いって奴ね。今回は顔見せの意味で全員で行こうと思ってたところなの。まぁ恵の体調次第だけどさ」

「だいじょーぶ!」

『無理はするなよ?』

「もう、ガザニア君は心配性だなぁ。大丈夫だよ、任せて」

「それでしたらもう向かいましょうか」


ルーレの声で、全員(シレーヌ以外)が出かける準備を始める。

少し肌寒いから着こんだ方がいいぞ、とミチに言われ慌てて冬物を引っ張り出しながら恵はかねがね気になっていることを尋ねる。


「っていうかサーシャちゃんとタルトちゃんは?」

「あの二人にはちょっと雑用頼んじゃっててね。先に王宮に行ってるはずよ」

「雑用?」

「ああ。とあるものを運んでもらってる」


首を傾げる恵だったがクーはそれ以上説明する気もないらしい。


「それでは行きますか。忘れ物はないですか?」

「うん!だいじょうぶ!」

「ホントかよ、ぜってえ何か忘れてるに私は賭けるぜ」

「あ、うん、何かは忘れてると思う。でも忘れてるって気が付いた時ショックを受ける準備は大丈夫!」

「諦めんのはぇえな!」


めんどくさがりながらも何やかんやついてくる様子のシレーヌと恵の会話を聞きつつ。

クーは、


「さーて・・・何人ぐらい来てるかな?」

毎回がお久しぶり、そよ風と申します。

今回もまた期間空いちゃいましたがなんとか完成しました、遅いっつーの。

というか内容が書いてて心がしんどくなってくる感じなのでそのせいもあったり・・・。

でもでも次回はすぐに出ると思います、やったぜ!


珍しく?短いあとがきですけど今日はこの辺で。

ここまで読んでくださった方に感謝を。



実質主人公交代。

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