幕間28・逃走劇(エスケープマーダー・クー)
一方。
逃走し、転移を繰り返して東街の墜落地点へと向かうクー達は屋根を伝い走っていた。
「へぇ、もう悪魔もいないしヴァンパイアも逃げてるわね。この国が空っぽになるのは時間の問題かしら」
「流石の悪魔たちもあの9属性魔法連打には恐れをなしたと見えるみゅー。だが魔王連中はどこに・・・」
クーとミューは考えを巡らせるが魔王の考える事はいまいちわからない。
そこにルーレの指示が飛んだ。
「ではミューさんとガザニアさんはミチさんたちの所へ!街からの逃走が完了し次第、恵さんたちを助けに行って、状況によっては逃げて下さい!それはミューさんの幻覚魔法でしかできません!」
「りょーかいみゅーなー!」
「『うむ、任された』」
「ヴァムピーラさん、現地の近道が分かるのは貴女しかいません!市民の避難誘導を!もしかしたら最悪この洞窟を破壊してサクラを閉じ込めることになるかもしれませんから。サーシャさん、貴女は恵さんと共に南街でかなり目立っていたらしいですね。話を聞いてくれる可能性が高いです、誘導をヴァムピーラさんと一緒にお願いします!」
「おっけ、そうならないことを祈るけどね」
「・・・・・・任せて」
「それでどうでしょう、クーさん。私とクーさんの二人なら東のあの場所まで一気に跳べますか?」
「いける、と思う。最大距離で跳ぶからしっかり掴まっててよ!」
「はい!」
テキパキした指示に感嘆しつつ、クーはルーレと共に空間を跳躍し、巨大な黒い剣がある場所まで一瞬で到着する。
と、同時に。
ルーレが抱き着いているクーの胸から、腕ほどもある杭が飛び出た。
「ッ??!!」
「・・・!」
二人ともに驚きが言葉にならないまま、そのまま地面へと転がる。
何が起こったのか、その答えはすぐに出た。
「やあ、僕の可愛いクーちゃん。親に手を上げるような子に育てた覚えはないんだけどねぇ」
「・・・こっちもあんたに育てられた覚えはないわよ」
ノリア・ヴラド=ヴァンパイア。この国の統領でありクーの母親がそこにいた。
痛みもなく血も出ないクーは杭を力任せに引き抜く。
それを横目で見ながらルーレは問いかけた。
「くーさん。まさかとは思いますが・・・」
「悪いけどそのまさかよ。・・・あいつは〝転移〟の魔法を使える。私と同じくね」
「血筋によるところが大きい特殊な魔法ですから、ありえない話ではないと思ってましたが、わざとシレーヌさんたちに捕まったわけですか」
「そーいうこすい奴なの。ルーレは下がってて。身内のけじめは・・・」
「嫌です」
あんまりにもすんなりと断られ、え?と思ったときにはクーの隣にルーレがいた。
「あの夜の恩を返す、せっかくのチャンスですから。それに私、ちょっとうれしいんです。多分ですけど私とクーさんならすごく連携の幅が広がりそうですし」
「・・・分かった。ま、あんたらしいわね。行くわよ!」
「はい!」
クーが右手に銀色の鋏を煌めかせ、ルーレが指を鳴らし焔を出現させる。
その姿を見てノリアは。
「はー、勝てっこないって。僕の〝転移〟はクーちゃんのそれとはレベルが違う。ね?」
ノリアがルーレを指さした瞬間。
彼女の身体に巨大な杭が4本乱雑に刺さった。
クーはそれを見て慌ててルーレへと駆け寄る。
「僕にたてつく奴は全員串刺しにしてきた。それは娘だろうが例外じゃあない!邪魔なやつは先に消しとかないとねぇ!」
「・・・・・・先に言えっての。本気で驚いたんだけど」
「うん?」
ルーレが、倒れない。
というか血も出ていない。
そして決定的なことが起きた。
クーの手がルーレを す り 抜 け 。
杭へと触れる。
「・・・・・・・・・へっ?」
「おかえし、よ」
音も無く、ノリアの身体に杭が刺さった。
「・・・ッ!ギィ!!!いたいいたいいたいいいいいいいいい!!!」
「ヴァンパイアはその程度じゃ死なない。自分で実証してるから間違いないわ」
のたうち回るノリアに冷えた瞳で言葉を紡ぐクー。
「でも、確かにルーレの機転に助けられたわね」
「わざわざこの場所で襲ってきた意味を考えてみたら、そうなんじゃないかなって。ノリアは見えていない場所からでも転移が可能でクーさんは見えている物しか転移できない。ここは破壊されつくされているせいで何も周辺に武器はないですしクーさんに不利な場所だからこそ襲って来たんでしょう。だから焔で姿を捻じ曲げてみました。しっかり幻影に攻撃してくれましたね」
偏差魔法『熱冷鏡面』
熱量による揺らぎと光を当てる魔法で矯正した幻影を生み出す魔法である。
本来自身の幻影を生み出そうと思うと、炎系統魔法に精通するか輝・暗系統魔法に特化していなければ出来ないが、ルーレは持ち前の精密さで極限までブレを消すことに成功していた。
さらに加えて1属性魔法『薄氷』によって幻影の中に薄い氷の板を仕込み、張りぼてを作ったわけだ。
「それによって避けるだけじゃなく武器まで手に入れるなんて、まさに一挙両得ってね。随分早く終わったわね、ノリア・・・って気絶しちゃってるし」
拷問が趣味などと言っていたが、やられる側には慣れていないらしい。
ほとんどノリアに良い思い出が無いクーは一瞥し去ろうとして、
ゴポォ・・・
という異質な音に気が付いた。
ごぷっ、ごちゅっ、と何か水のようなものが沸き上がるような音。
それは。
ノリアの口から現れた。
「・・・は?」
濁った泥水のようなソレは、スライムのようにぶよぶよとしながらノリアの口から少しずつ這いずり出てくる。
めきっ、とノリアの顎や歯を破壊しながらも生まれ出でようとしているのかグロテスクな音と共にどろどろ出てきたそれは大きさをどんどん増していく。
ノリアを超える大きさになってなお増殖を続けるそれに、はっと正気を取り戻したクーは慌てて杭に手をやりスライムの中に転移させた。
ぺきゅり。
そんな小さな音がしただけで、他には何の違いもなく。
大きさを増すばかり。
二人は知らない。
この寄生生物こそ人類魂魄学を専攻する音波サクラの〝試作生体人工魂魄〟
魂を人の手で作り出すという禁忌を犯した科学技術である。
その実態は体を無理やり動かす程度で意志を持つには至らなかったが。
「ちょっ・・・ちょっとこれは予想外がすぎるわ・・・!」
「・・・く、クーさん。私が今からいくつか魔法を打ちますから、それを一気にあの中に叩き込んでください!私が今できる、最強の偏差魔法を使いますッ!」
「ひ・・・つ、ような、い」
ボソッと聞えた声に下を見ると、全て出し切ったのかノリアが口を押えながらこちらを見ていた。
「あれひゃ、・・・あれは、ぼくの身体とリンクしてる。・・・僕を殺せばあれも、消える。そのはず、だ」
「なんだと・・・?」
「・・・殺して、くれ。わるいが・・・激痛で、魔法を、使える気がしない・・・」
「てっきり、この化け物を殺すと僕も死ぬからやめてくれ、そんな命乞いかと思ってたわ。どういうつもり?」
「・・・・・・ふん。こんな、きみの、悪い姿になってまで、生きたいわけじゃない。それとも・・・クーちゃんは僕の事が、好きで殺せないのか?」
「・・・んなわけねぇだろ」
「じゃあ、はやく。僕も、クーちゃんを、疎ましいとしか・・・思っていないから、ね」
「お前って奴は・・・」
そう呟くとクーは頭を抱える。
実の母に疎ましいとまで言われ、よほどショックだったのだろうと、優しい両親を持ったルーレは思った、が。
「・・・なんでそこまで嘘が下手かね?」
「・・・・・・なんの、はなし?」
「何時からだよ。いつからあんたコレに憑りつかれてた!?」
「覚えていな
「嘘ね。私はあんたの娘よ?」
「・・・クーちゃんが生まれてから3年後。貴女の誕生日。その日にあの人はやってきて、交換条件を出してきた。簡潔に言うとクーちゃんを差し出すか、僕を差し出すか、といった風な二択でね。選択の余地はなかったよ」
「・・・馬鹿が。私を贄にしときゃ国までのっとられることなかったでしょうッ」
「はは、そうだね。僕は本当に、バカだ。国よりも自分よりも、クーちゃんの事しか見えていなかった」
「ああ。親バカっていうらしいわよ、それ」
ますます膨張を続けるスライムに、ノリアは焦ったように話を戻す。
「はやく・・・!これが破裂したら被害が増える・・・。クーちゃんもクーちゃんの友達もただじゃすまない」
「・・・分かってる」
「もう時間が・・・」
そんなノリアに。
うつむきながらもクーは向き合う。
「・・・愛してるわ、母様」
「・・・僕もだよ、クーちゃん。仇なんていいから、仲間と健やかに暮らしなさい」
倒れるノリアに頭を撫でられながら。
クーが杭を持った、その瞬間に。
ルーレが横から注射器をノリアに刺した。
「・・・・・・睡眠系の毒物です。夜さんから借り受けた物ですから、痛みはないかと」
「・・・そ、うか・・・たしかに・・・ねむ、く・・・くー・・・ちゃんを。たの・・・」
ぱたりと、腕が落ちると同時に。
スライムも音を立てながら蒸発し。
ものの数分で、辺りには何も残らなかった。
ノリアの死体以外は。
「「・・・・・・」」
後味の悪い沈黙に、先に口を開いたのはルーレだった。
「・・・恨むなら、私を恨んでください。クーさんの母親を殺したのは私ですから」
「・・・・・・遠慮するわ」
ごしごしと腕で顔を拭き、クーは顔を上げる。
「貴方だって仲間だもの。言われた通り仲間と健やかに過ごすのに、恨んでなんかいられないわよ。マギアを探しに行くわよ」
「はい。そうしましょう」
ノリアと別れ、巨大な黒い剣の下に来たが。
やはりそこには何も見当たらない。
それどころか服の切れ端すらなかった。
「・・・これは、どうとらえればいいのかしらね」
「分かりませんが、死体すらないとなるとなんとも」
「行きましょう」
「・・・いいんですか?もしかしたらもっと探せば・・・」
「生きてるんなら動くくらいは出来るんでしょ。逆に死んでるなら・・・原型も残らなかったんでしょ。そんなもの見たくないわ。ごめん。みんなの前では強がったけれど・・・死んだ事が確定するのが怖いのよ。私は」
「・・・そうですね。何事も希望がなくては」
「ええ。だから私たちは脱出しましょう。この破壊されつくした街から」
「ノリアさんの遺体は私が背負っていきます。お墓ぐらい作ってあげてもいいと思いますから・・・」
「・・・・・・そうね。私はサクラの所に行って4人を回収してくるわ」
そう言うクーに、言いずらそうながらきっぱりとルーレは、
「ダメですよ・・・。大切な人を二人ももてあそばれた無念は分かりますが、サクラと戦うなら万全の準備が無ければ」
「・・・分かってる。仇を討とうとして死ぬなんてばからしいもの。そう・・・馬鹿らしい、わ」
歯を食いしばりながら、クーは一人サクラの下へと跳ぶ。
・・・そこは異様に静かだった。
破壊の跡は多少街並みにも残っているが、激しいというほどでもない。
(場所を変えた・・・のかしら。いや・・・まさか)
全滅、という言葉が頭をよぎる。
あの四人が簡単に負けるところは想像が出来ないのだが・・・、相手はサクラだ。
そろそろと、細心の注意を払い街道をのぞき込む。
そこには絶望的な光景があった。
血まみれで倒れるシレーヌ。
手足が異様な方向に曲がっている夜。
光の茨に拘束されながらも呻くアルティアナ。
そして、いったい何があったのか。
腰を越えて長くなった白髪に服装まで真っ白に染まった恵。
「・・・っ!!」
急いで4人に駆け寄る。
危惧していた事が起きてしまったというのか、と。
一体アイツは何人、大事な人を殺せば気が済むのだと。
強烈な怒りの炎が燃え上がり。
クーは、思わずサクラを追う。
ところで。
「・・・かってに、殺すな、」
シレーヌの声に制止された。
どうやら怒りの声が漏れ出してしまっていたらしい。
「シレーヌ・・・!大丈夫なの!?」
「・・・あ、ああ。たぶん全員、息はあんだろ・・・。悪いが、うごけはしねぇから・・・とばしてくれるか?」
「ええ。何があったの?特に恵は・・・」
「・・・分からねぇ。分からねえことばっかり起きやがった・・・ぐっ」
「ごめん、取り敢えずとばすわ。話は後で!」
鋏を構え、振りかぶる。
サクラが何をしているか知らないが追いかけてくるかもしれないと、ふと後ろを振り返り。
転移する直前。
クーは、確かに見た。
黒い、人影を。
早いときは早いと噂になったりならなかったりしていないそよ風と申します。
有言実行ッ!
・・・と、なんかドヤ顔してますがここまで書き溜め分です。
ぶっちゃけ今日のお昼にこのあとがき書いてる。具体的には幕間27のあとがきを書いた1分後ぐらいに。
ぜんぜん偉くないね(冷静)
さて、半年も空いてあとがきに書けるそよ風エピソードもいくつかあるんですが、もうちょっとまって下さい。私も書くの我慢するんで。
というのも、多分次で第3章終わるんですよね。たぶんね。たぶんね!!
先にそれ書かないと。(使命感)
つまり次回は3章終了のあとがきをしないといけない。
つまりつまりそよ風エピソードは次々回に持ち越しと。
なんだこれは!
このシリーズのいいところ9割が消し飛んだ瞬間です。
こ、こんなはずでは・・・。
やけになりながら今から書く話でストレスを発散し・・・たいけど多分次回は急展開に。
そよ風の心休まる時はどこだッ!そよ風先生の次回作にご期待下さい!!
と、そよ風の安っぽい打ち切りエンドで今回のあとがきは終了いたしましょう。
次の投稿は・・・いつだろう。明日には出したいっ!
ここまで読んでくださった方に感謝を。
恵がホントにぜんぜん負けてくれない
なんだこいつ、マギアにもいつか勝つかもしれないなぁ・・・




