幕間19・煉魔の兎は駆け回るのか?(アビスラビット・シェビー・キャッスル)
「・・・任せたって・・・何を任されたのよ私は」
少し時間は戻る。
マキナが会議室で未明の魔王マッドアリスに連れ去られた後、アロマは頭を抱えていた。
何かを何故か任されたらしい彼女だが何一つマキナから聞いてはいない。
そんな彼女をしり目にエルフ達は考察し始めた。
『これはまずいことになったな・・・』
「だけど殺す気はないって言ってたわけだからあんまりこっちからは手が出せないゾ。
むしろ想定内、みたいな雰囲気だったから邪魔したらそれこそまずそう。
それよりも・・・マキナが言ってたことの方が重要でしょ、ねぇパール?
何をこそこそしてたのか、教えてもらえる?」
「はん?何の話かわらわには皆目見当もつかんの。流石のマキナも勘違いをする時だってあろうて」
ベーゼの追及に扇で口元を隠しながら笑うパール。
彼女はひょいっと椅子から飛び降り(背丈が足りない為足が付かない)、会議室から出ていく。
「なによ、どこ行く気なの?」
「マキナ、つまりはこの連合の長がいないのでは話になるまい?それにそこのメスエルフがいうにはこの事態ですら想定内なのじゃろ?ならわらわは近くの山で鹿狩りでもして待っておるわ」
アロマの言葉も聞かず部屋を出るパール。
更には魔動音声伝達機を持ったベーゼも何かをこそこそ相談しながら出て行ってしまう。
そして残ったのはアロマとマキナに止められたラン、ユリの3人となってしまった。
「ど、ど、どうしましょう、マキナ様が・・・!!」
・・・目をつぶったままのランとは違い、ユリは慌てまくっていたが。
魔王軍への対抗策を話し合う場なのにもかかわらず意見すら出さない連中に怒りが込み上げ、落ち込んでいたことも忘れて机をぶん殴った。
「あーもう!どいつもこいつも自分勝手ね!」
ずどがぁあああああああん!!という爆音とともに長机が粉々に砕ける。
すると。
「・・・・・・ん?おいおい俺様を置いてマキナはどこ行ったんだ?」
完全に忘れられていたドワーフの皇帝タ―ヴがあくびと共に周囲を見渡していた。
「あー、そういやあんたもいたわね。お前が一番初めに出てけよ」
「はぉあ!?何故罵倒されたんだ!?」
驚愕するタ―ヴを無視して立ち上がると、突然ランから声をかけられた。
信じられないような言葉を。
「・・・うん決めましたっ、ランちゃんはアロマさんに任せますっ!」
「・・・はっ?」
ランの言葉に驚いたのはアロマだけではない。
「何言ってるのよラン?マキナ様が危ないのよ!?」
「じゃあユリはどうするのっ!魔王城の牢獄にでも潜入しに行ってみるっ?ぜーったい捕まっちゃうんだからねっ。ランちゃんたちが今すべきなのはマキナ様の期待に応えることですよッ!」
確かにその通りではある。
あるのだが・・・。
「・・・だからってなんで私なのよ。私ほんとに何も聞いてないのよ!?」
「じゃあ一緒に考えましょうっ!マキナ様が何の考えもなしに任せる、なんて言うとは思えませんっ!」
「随分・・・マキナの事を信頼してるのね。何の根拠もないのに」
「はいっ、当たり前ですっ!ユリだってノーブルだってルーレさんだってそうですっ!じゃなかったらマキナ様のメイドなんてしてませんからーっ!」
(どいつもこいつも訳が分からないわ。どうして人生をかけてまで誰かを信用できるわけ?ほんとバカなんじゃないの?)
実際パールやベーゼ達のようにアロマが何かを狙っていないなんて証拠はあるはずがない。
というか、むしろあまり周りと親しくないアロマを信用する方がおかしいはずだ。
それをマキナの言葉一つで信じるのか。
(・・・なんかもう心を壊すようなヤバイ薬でも使ってんじゃないの?それくらいの妄信でしょこれ)
だがしかし。
何故か分からないが、悪い気はしなかった。
「・・・分かったわよ。それで?何から始める?」
「「さぁ?」」
「ねえ、これやってけるの!?」
いきなり不安になるが、兎も角。
「まず先決はマキナの行動を見直すことかな。マキナの行動を知れば、自ずとドラゴン共の策略も見えてくるんじゃない?」
「なるほど・・・それなら任せて下さい。マキナ様の行動は知ってますから」
「んじゃあまず聞きたいんだけど・・・」
と、そう言いながらこそこそと部屋から出ようとするタ―ヴをひっつかまえる。
「お、おいやめろ、この脳筋ウサ耳!」
「腹に穴あけんぞドワーフ。で、こいつが持ってるこの塊は何なのよ」
「えー・・・っとたしか『拳銃』とかいうものの試作品だと思います。完成すれば音よりも早く遠くの敵を倒せるとかなんとか・・・」
「・・・?それくらい私にもできるけど」
「うんっ、分かってたけどマキナ様が連れてくるだけあってアロマさんも化け物だねっ、いい意味でっ!」
微妙に周りから引かれつつ、アロマはタ―ヴの手元の塊を眺める。
「でも良い武器にはなるのかもしれないけど戦略級の打撃は与えられなそうよね。だとするとこれはマキナ用の武器・・・?
マキナが前線で戦うのは無理あると思うんだけど、マキナの筋書きにはこれが必要になる時が来るってことかしら」
ということは、とアロマは思考を続ける。
「戦争用じゃなく、魔王連中とかに対する対策か?」
その言葉にギクッと体を動かしたタ―ヴをアロマは見逃さなかった。
「オイ、洗いざらい吐きなさい」
「無理無理、無理だっての!俺様はマキナに内密に頼まれてることがあんだよ。つーか早く放せよ!?」
「へー、何があっても言わないかしら?」
「当たり前だろ!」
ニッコリと。
アロマは笑いながら観賞植物に手をかける。
「8属性魔法『回帰の白道』」
ぱきぱきっ、という音と共に植物は石化し。
タ―ヴの目の焦点が外れた。
「あ、あろま・・・さん?」
ユリが怯える中、アロマは再度尋ねる。
「タ―ヴ。あんたがマキナから内密に頼まれてることは、何?」
「イロカネ・・・だ・・・」
「イロカネ?希少金属じゃない」
そう言いながら手を放すと、ハッと気が付いたかのように目をぱちくりさせながらタ―ヴは座り込んだ。
「・・・?お、俺様は今何を・・・」
「何でもないわー。じゃ次よ次」
軽く手を振りながら部屋を出たアロマにランが耳元で囁く。
「何したんですか今っ!?」
「一時的に理性を吹き飛ばした。残念なことに同じ奴に連続で使える魔法じゃないし、効果時間もかなり短いからイロカネって話が聞けただけでもまあ得だったわね」
「聞いたこともない魔法です・・・。それに8属性魔法をたやすく扱う人も見たことないです・・・」
「ふん、まぁいいわ。拳銃がどういう武器にしろイロカネを使うっていうのは武器の威力を挙げるのに有用ってだけだし。
むしろなんでそれを隠してたのかが謎ね」
その理由は『異世界人だとばれているルーレにイロカネの事を知っているのがばれると面倒だから』なのだが・・・当然アロマにそんなことがわかるわけもなく。
「それでそれでっ?順番にマキナ様の軌跡をたどろーっ!」
「会議の前で・・・ルーレさんを見送る前ですから・・・そうですねオーラ元王妃様と会っていたはずです」
「ふぅん、じゃあ会いに行ってみるしかないわね」
「・・・それで私に会いに来た、と。なるほど、大変なことになっているみたいね」
ユリが入れた紅茶を囲みつつ、オーラの部屋の中で事情を話す。
「それで、オーラが知っていることを教えてもらいたいんだけど」
「ちょ、アロマさん!敬語って文化を知らないんですか?」
「尊敬できる奴なら使ってあげるわ。そんな相手いないけど」
ユリの悲鳴めいた声を聴きつつも。
ふんっ、とそっぽを向くアロマ。
その姿にふふふっ、と笑うオーラ。
「いいのよ別に。そもそも身分はないわけだから。ユリもランも自然にしてくれたらいいのよ?」
「えっ!ホントですかっ!オーラさん大好きっ!」
「ぇえええランんん!?」
一瞬にして変わり身を果たしたランに眼をむくユリ。
そんな姿を楽しそうに眺め、オーラはアロマに向き直る。
「でも良かったわ、アロマも立ち直れたみたいで」
「・・・立ち直れた?」
「ええ。マキナから聞いていたの。アロマって女の子が初めて負けたせいか、落ち込んでるみたいだって。
でも今の調子を見る限り大丈夫そうね?」
「余計なお世話よ、ばか・・・」
そこまで気を使われるほど私の様子は変だったのだろうか?
何故かふわふわと気分が良くなるのを感じつつ、オーラに話を続けようとしたところで。
「・・・・マ・・・・さぎを・・・・・・・・・・・・い!」
「・・・・・・」
突如としてぴくんっと跳ねたウサ耳と黙り込むアロマ。
不思議そうにオーラが尋ねる。
「・・・どうしたの?忘れものか何か?」
「・・・いや」
人間の4倍ともされるアロマの聴覚は、確かに捉えていた。
『アロマという兎を捕まえろ、生死は問わない』
その言葉を。
「・・・面白くなってきたじゃない?」
何処のどいつだか知らないが。
「私に歯向かうなら殺すまでよ」
アシタ、ワタシ、ゴジオキ・・・。
カラノ、ヨルマデ、コウソクサレル・・・。
ソヨカゼ、ネル・・・。
オヤスミ・・・。
ココマデヨンデクダサッタカタニカンシャヲ・・・
ソクホウ・ツンデレアロマサン、シュヤクニナル




