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「「異世界から来て魔王と勇者を兼業した唯一無二の人間だよ」」  作者: Hurricane(そよ風)
3章・「前世の悪行で苦しんでるのは俺くらいのもの」-ヴァンパイア統領国内戦
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第四十七話・「この感覚ももう慣れたな・・・」

「・・・こ・・・・・・なの・・・」

「はい・・・・・・・・・・・・で・・・」


微かな声が聞こえる。

全身の痛みに耐えつつ何とかマギアは薄目を開けた。

鉄格子がぼんやりと見える。

それだけしか体の自由が利かない。

腕や足だけならまだ分かるが首すら動かない。


「やぁ。僕のことを覚えてくれてますか魔王マギア。いや・・・マキナ!」


鉄格子の奥。

そこにはヴァンパイアの統領、三つ編みで少し長めの髪を垂らすノリア・ヴラド=ヴァンパイアが嘲るような笑みでこちらを眺めていた。


「・・・なん、だ・・・おまえ・・・どうなってる・・・」


自分の声が自分でも信じられないくらい弱々しくかすれている。

ここに至った記憶がない。

何がどうなったのかマギアには全く分からなかった。

というか、


(マギアの力で壊れない拘束具だと・・・!?それとも悪魔の力を弱らせるような魔法か何かか・・・っ?)


いくら考えたところで打開する術はなく。

どうにもならずノリアを睨む。


「おぉ、怖い怖い。異世界から来た男は皆そうなんですか?なだめてあげてくださいな」

「・・・どう、して、おまえが、それを・・・」

「・・・マギア。私の事、騙してたのね」


マギアの質問にノリアが答える前に、するりとマギアの顔に手が伸びてきた。

水色の髪のツギハギ少女。

つまりはクーだった。


「騙し、てた、訳じゃ」

「・・・ううん。私に嘘ついてたよね」


ふふふっ、とうつむきながら暗く笑うクー。


「だから、こうすることにしたの。こうやってマギアを動けなくしちゃえば全部全部私の物だもんね。大丈夫よ、安心して。マギアはこれから一生何もしなくていいから。はずがしがることもないから。マギアがおなか減ったって言ったらご飯作ってあーんしてあげるし、眠いって言ったら子守歌でも抱き枕にでもなってあげるし、まあちょっとくらいならえっちなことも許してあげる。だから心配しなくていいから。全部私に預けて・・・?」

「くー・・・?おまえ、なにかされて・・・?」

「わたしさぁ、まぎあにいわれたとおりるーれちゃんとなかよくなってじょうほうをもらおうとしてたからすごくいろいろかかわったんだけどわたしばかみたいね。あんたとはじめてあったのもるーれであんたとはじめてだきあったおんなのこもるーれなんでしょ?ありえないありえないありえないわけっこんまでしたおんなのこをここまでほうちしてうわきなんてゆるさないんだから。あんたはわたしのものなんだからわたしのことだけきにしてわたしのいうことだけきいていればいいのよ。いまからわからせてあげるから、ほらみて?」


狂気すら感じる口調だが体が動かないのではのけぞることすらできない。

そのままクーの手に力に従って自らの身体を見ることが出来た。


・・・体のいたるところに五寸釘が打ち付けられ、関節がありえない方向にねじ曲がった体を。


「・・・・・・ッ!?うっ・・・!」


痛みはない。だが自らの身体がぐちゃぐちゃになっている様を見て思わず吐き気がした。

そんな体を愛おしそうに撫でまわすクー。


そして、それだけでは終わらなかった。


ジャキン・・・、と最早見慣れた鋏をマギアの首に突き刺した。


「・・・がっ・・・!?」


激痛とあふれ出る血液。

それを恍惚の笑みでなめとりながらクーはつぶやく。


「だいすきよ、まぎあ。だからいっしょにしのう?」


先ほどの言動と言い最早正気とは思えなかった。

寒気と死の足音に、なぜかふと冷静さを取り戻した。


(・・・・・・いや、この『感覚』は・・・)



眼を開ける。

そこは見たこともない豪華な室内のベットの上だった。


(・・・やっぱり幻覚かよ。これにもそろそろ慣れちまったな。今は・・・マキナの身体、だよな。まぁマギアの方で捕まったのは自分からだし『あいつ』がいないのはあり得ないしな・・・)


そう考えながら捕まった際のことを・・・、ピンク色でツインテールの少女と本屋で手が触れてしまった後のことを思い返す。




「ひゃっ」

「あ、すみませ、ん?」


先ほど見た少女との遭遇に受難を感じ取ったマギアは、颯爽と踵を返す


「待ちなさいッ!」


・・・事は出来なかった。

手首を掴まれグイッと引き戻される。


「はぁ・・・なんだよ?つか誰だよ・・・」

「あたしはヴァムピーラ=フレイシスよ。さあ、名乗りなさい貴族!」

「いや、貴族じゃないし」

「どうして今更嘘つくのよ、さっき会ったときあんなに女性を侍らせてたくせに」

「え゛、何?そういうふうに見られてたのか?あいつらは知り合いっつーか仲間っていうか、とにかくそういう関係ではねえよ!」

「ふぅん?どうだか。色欲狂いの男は何しでかすか分からないしね」

「・・・なんで俺初対面の少女にに罵倒されてんの?というか手、放してもらえるか?」

「うひゃあ!い、言われなくても逃げないなら放すわよ!」


自分で掴んでたのにもかかわらず勢いよく手を振りほどくヴァムピーラ。

微妙に赤面しながらマギアをにらみつけてくる。

何だこいつ・・・面白いな、と思い始めたマギア。


「あ、そういえばお前あの兄弟保護してくれたんだよな?」

「え?ええ。あたしの家にいるから大丈夫なはず・・・って!やっぱりあんたがあの惨状を!?」

「惨状っていうか、面白い的当てしてたから俺もやってみただけだが」


事もなげに言うマギアだがこれは本心だった。

確かに幾人か衛兵らしきものもいたし、雇われた傭兵ギルドの連中とか名乗る奴らもいた気がするが、本気でその辺の雑草と同等だった。

記憶にすら残らない見た目と戦力で最早回想すらできない。


「・・・壁とかぶち抜いてたけどそれもなの?だとしたら相当なおばかさんね」

「来るのが遅すぎるヴァムピーラがソレを言うかね」

「うぐっ、わ、分かってるわよ。ありがとう、あの兄弟の代理として感謝するわ」

「ふん、ヴァムピーラは迷子預り所でもやってんのか?」

「違うわよ、あたしはこれでも勇者の仲間なの」


・・・・・・・・・・・・は、い?

正直言って予想はしていた。

やけに乗り気な恵達に、何故かルーレが連れてきた元勇者の仲間の夜とミュー。

しかもヒラノトオヤという第一勇者にはもう一人ヴァンパイアの仲間がいたという情報までそろっている。

揃っている・・・の、だが・・・。


(だからと言ってこのタイミングでピンポイントに出会うか!?わざわざ空気読んで別れて来たってのに)


突然頭を抱えた仇敵まぎあにそれと気づかず困惑するヴァムピーラ。


「なぁによ?」

「い、いやなにもないが?なにも。うん。それじゃそういうことで」

「えっ、だからちょっと待ちなさいって!」


がしっとまたもや手首を掴まれる。


「いいから名前!名前は?あたしにだけ名乗らせてふらっと消えるとか許さないから」

「あー俺はサンタクロース32代目の血を継ぐ妾の子で・・・」

「えっ、は?サンタ・・・、えっ??」


眼を白黒させて混乱するヴァムピーラ。

まあ自分でも意味わからないこと言ってるとは思うが。

あ、これこのまま煙に巻けるわ。こいつ恵と同タイプのアレっぽいし。

超失礼なことを思いつつ、店を出ようとし。


「あっ、ここにいたんですね『マギアさん』!クーさんが・・・」


ルーレがはぁはぁと息を吐きながら外に立っていた。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・ま、ぎあ?」

「クーさんがマギアさんの力が必要だ、と・・・。アルティアナさんはなにやら旧知がいたとかで消えてしまいましたし・・・」


(さっきから何なんだこのタイミングの悪さ!悪魔でも憑りついてるのか?いや俺もあくまで悪魔だけど!)


そんなことを心の中で愚痴っていると。

ブオンッ!とマギアの顔の横を大きな剣が掠めた。


「・・・オイ、ここからは冗談では済まさないわ。答えろ。あんたの名前は何かしら?」


マギアですら感じる殺気。

その姿にルーレもそして周囲も驚いたようにざわつく。


「・・・・・・」


この状況でも身構えもせず考え込むマギア。

その姿にヴァムピーラは更に語彙を強める。


「何とか言ったらどうなの?それとも、勇者の仲間たるヴァムピーラ=フレイシスには言えないようなことなのかしら!?」


その言葉にルーレが驚く。

様子を見ながら、マギアは決断した。

予定を早めることを。


「俺の名前は、マギア。黄昏の魔王マギア=シェイドだ。勇者ってのはあれか?ヒラノトオヤの仲間か?」

「・・・ほんとに、あんたが・・・ッ?どうして生きてるの・・・!?私は確かに見たのよッ、黒髪の魔王とトオヤが相討つ場面を!

それだけじゃない、私が持ってるこの細い方の剣はその場所で拾ったトオヤの遺品で、そこでマギアの方の黒剣を抱いて泣く紫髪の魔王だって見た!

あんたが・・・あんたが生きてるなんてありえない!」


そう叫びながらヴァムピーラはマギアの首を狩り取るように大剣を振りぬく。

それを紙一重でしゃがみながら避けたマギアがルーレへと近づく。


「ま、マギアさん、私が仲裁を・・・」

「いやいい。そんな事より恵達と合流してくれ。それでクーが俺の力を必要とっとっと」


またしても殺す気で振り抜かれた大剣だったが、マギアは話しながら大剣の腹を撫でて逸らす。


「・・・くっ、嘘でしょ・・・?」

「・・・強い・・・」


驚愕に歯を食いしばるヴァムピーラと冷静に呟くルーレ。

その横から。


「暴れている奴らがいるというのはここか!?」


衛兵たちがマギアとヴァムピーラへと視線を向けていた。


「ちっ、マギア、ここは預ける。必ず後でころ


そこまで言ってマギアの方を見た、その瞬間。

かすむような踏み込みで、ヴァムピーラの意識が鈍痛と共に刈り取られた。

強烈な勢いで地面へ叩きつけられたヴァムピーラがピクリとも動かなくなり。

マギアは衛兵に向かって言う。


「ああ、やってしまったなぁ。痴話げんかで熱くなるもんじゃない。捕まえるというのなら素直に付いて行くから・・・」

「詳しくは牢の中で聞くからな!おい、そのピンクの少女も連れてこい!」


ルーレの困惑しきった表情を見つつ。

上手くことが進んだという安堵と共に衛兵用の馬車へ乗せられ、マキナの方の様子を見ることにした・・・。




(まぁうまく行ったってことで。というか此処は何処だよ)


マキナの身体をベットから動かしつつ見渡すもやはり見覚えがない。

未明の魔王マッドアリスに連れられてどこかに飛ばされたのだろう。

だとすると・・・。


「まさか、魔王城か?」

「ハッ!その通りでありますッ!」

「ひゅぃい!?び、びっくりしたぁ。大きな声出さないでよアスモデウス」


小さく呟いたはずだったが、それに律義に反応する声が聞こえた。

一人はやけに大きな声を出す黒いミニスカートの上から白く足元まで伸びる薄いコートを羽織るオレンジ色の髪の少女。

もう一人は・・・。


「・・・さっちゃん?」

「ひぃいいいいいっやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


そう。それは紛れもなくエルフの国で出会ったさっちゃんという名の女性だった。

しかしあの時の傲慢さはすっかり鳴りを潜め、今では。


「ぁぁぁああああああまたあの化け物に会うことになるなんてっェえええええええええええぇえええ!

食われる!間違いなく次は五臓六腑まで食われるぅううう!」


・・・余程マキナのことがトラウマになったらしい。

部屋の隅まで行ってカタカタ震えていた。


「ダメだ、こいつら両方とも会話通じねぇ」

「うん、まあこうなると予期したんだろーよ。東雲さんが俺も迎えに行くようにって命じたのはな」


そしてそのあとから一人の2本の角を持つ眼鏡の男が入ってくる。


「おはよう、王子様。こっちのうるせえのが黄昏さんの眷属アスモデウス、俺が宵闇さんの眷属ベルフェゴールって者だ。東雲さんから目覚めたら呼ぶようにって言われてるぜ」

「・・・なるほどね。以前東雲がソレイン評議国にやってきた時と同じ事をしていいって考えていいのかな?」

「ハッ!そう聞いておりますッ!王座の間にて、東雲様がお待ちしているとのこと!御足労お掛けしますが、お願いいたしますッ!」


そんな叫びを聞き流しつつ、ベルフェゴールに続きマキナとアスモデウス、そしてその後方からさっちゃんが出ていく。

さっちゃんの物陰から物陰へ移動する謎の歩行術に驚きつつ、窓から街を眺める。

一体どんな魔境なのかと思いきや、見た感じでは普通の民家が並んでいた。


「どうかいたしましたでしょうかっ!?歩くのに疲れたのであれば不肖ながら私が抱っこを!」

「いや歩き始めてから5分も経ってねえだろ!魔王軍の街って言っても普通なんだなと思ってな」

「・・・ま、ま、魔王軍の街、じゃなくて、『ティアナ=クロ―ザー』、ですから・・・」

「ティアナ=クロ―ザー・・・。それが国名なんだな」


そう考えると評議国には魔王軍の情報のほとんど全てが無いことになる。


(やっぱり今回のチャンスが情報を得る最初で最後か。ミスは許されねぇな・・・)


気合を入れ直し、進もうとしたところで横の戸が開いた。


「なんじゃなんじゃこの人間臭さは!水の女神たるわらわの通り道にいるとは無礼千万ッ!そもさん、何故魔王城に人間が?あ、あれか!そうかそうか遂にわらわに供物を与えることを決定したかははははははははハベルィチッッ!?」


ばたんっ!ドゴッ!がちゃっ。

レインコートを着た緑髪の幼女がなんか言ってたような気がしたが目線も合わさず戸を閉めた。

なんか勢いよく閉まった戸に幼女の頭がぶつかったかのような重みを感じたような気がしなくも無いが。


「よし、行くぞ」

「・・・・・・おまえ、すごいな・・・」


そのあまりにもこなれた行動にベルフェゴールですら驚いていた。

さっきゅんに至っては最早姿が見えない。

そのまま直進し一際大きな扉の前に立ち、両手で開く。


(これはまた・・・えげつねぇな)



無数の眼がマキナを見ていた。


比喩では無い。


相当な広さを持つ空間の中に。

8本の足持つ蝙蝠の羽根が生えた生物。巨大すぎる亀のこおらに岩が付いた小山のような化け物。

キリンのような長い首を3本生やす鼻の長い象。無数の触手を持ちぐちゃぐちゃと蠢かせる球状の何か。

ぎょろぎょろと目を蠢かせる触手生物。頭から触覚を生やし背中から蜘蛛の足を飛び出させる女性型のモンスター。

その他、数えるのも鬱陶しくなるほどの悪魔たちが玉座に続くカーペットの両脇に集っていた。


空席の玉座の向かって右には東雲の魔王リリスと未明の魔王マッドアリスが。


向かって左には宵闇の魔王ダスクと暁の魔王ダウンが。


それぞれ気の向くままに立っていた。


「失礼いたしますッ!この通りソレイン評議国マキナ様、ご到着致しましたッ!」

「起きたようね、マキナ君。いらっしゃい」

「・・・・・・」


無言のマキナにダウンが笑う。


「はーじめましてー。暁のダウンちゃんだよー。ほらほら怯えなくてもいいよー」

「・・・なるほど。いや済まないな」

「「・・・・・・」」


マキナの力では到底敵わない化け物の群れ。

死、そのものを前にして。

マキナは、それでもなおニヤリと笑い、軽い足取りで近づいていく。


「【不可解なる心情】貴方、どうして笑ってるの?死にたがりなのかなぁ?」

「こんなところで死ぬ気は一切ないよ。ただ単に憂いはないからな」

「・・・殺気を感じられない程弱いのか。それとも感じてなお屈しない男なのか、判断に悩むな」


ダスクの呟きをスルーし、リリスに目を向ける。


「さて、それで東雲。マギアの事が聞きたくて、ここまで俺を呼んだんだろ?話せることは話してやるよ」


全員の目つきが変わった。


(よし・・・交渉はここからだな)


周囲はすべて自分を一撃で殺すことが出来るだろう連中の内で。

異様な高揚感に包まれたマキナは会話を始める。


朝帰りってホントしんどいと最近知りました、そよ風と申します。

二次会は親しい人たちとじゃないと精神削れますね。

二次元に入れる会なら喜んで入るのに・・・。

今夜はもう寝ます、おなかへったずらー。

ここまで読んでくださった方に感謝を。



魔王城の王座にいた魔物たち。

実は登場済みの連中がいたって気が付いた?

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