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「「異世界から来て魔王と勇者を兼業した唯一無二の人間だよ」」  作者: Hurricane(そよ風)
3章・「前世の悪行で苦しんでるのは俺くらいのもの」-ヴァンパイア統領国内戦
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第四十六話・「10分ぐらい待っててくれてもよくね?」

「き、貴族様、助けてください・・・」

「・・・?」


マギアの両腕にくっつくクーとアルティアナをしり目に、ぼろぼろの布を纏う男の子がズボンのすそを掴んでいた。

茶髪に赤い眼をした男の子だったが服も体も髪も汚れている。

倒れた男の子は縋りつくように体を起こしながらうめく。


「妹が・・・妹が殺されそうなんです・・・お願いします、僕にできることなら何でもしますので、貴族様、どうかお慈悲を・・・」

「どうして俺が貴族だと思ってるのか知らないが・・・何でもするってんなら助けてやらなくもな


ニヤリと笑いながらしゃがもうとしたマギアをクーが止めた。


「マギアのそういうお人よしさは嫌いじゃないけど、今回はダメ。首を見て」

「これは・・・紋章、ですか?」


クーとルーレの言葉通り、男の子の首には蒼く光る線が絡まり蝙蝠のような紋章を描いていた。

ふと似たようなものを見たことがあるような気がして自分の薬指を見る。

そこにはいつも通りクーと結ばれている証である赤い光の指輪があるが、それも赤い光が絡まりハート型のような紋章を描いている、と言えなくもない。


「・・・そういうことよ。この男の子は私とマギアにかかってる魔法と同じ種類の契約魔法を結んでる。

具体的には蝙蝠の紋章を持つヴァンパイアの貴族に隷従する契約が。

ここでこの子に関わったらもれなく来て早々に貴族を、この国を敵に回すことになるわよ

それでもいいっていうなら、私が『跳ばす』けどさ」

「う、うぅ・・・、無理は承知です・・・お願いします、お願いします・・・」


クーの言葉に見捨てられる予感を覚えた男の子が必死さを増す。

そんな彼の様子にルーレがマギアの裾をひっぱり、耳元で囁いた。


「マギアさんたちが手を出せないなら、ここは私に任せてもらえませんか?マギアさんたちが行った後で私が助ければ、私しか追われることは無いでしょうから」

「ルーレはそれでいいのか?マキナとかいうのからの指令はどうしたんだよ」

「・・・どうしてマギアさんは私の事、そんなに気にするんですか?ご主人様みたいです・・・」

「・・・・・・・えっと・・・ルーレが追われることになったのを恵辺りに知られたら面倒だからな」


端的に言うとまたやらかしている。

こめかみを押さえながら顔を逸らすマギア。

何故かはわからないがどうしてもルーレのことを放っておくことが出来ないらしい。

日頃ルーレにかかりきりなマキナの弊害だろうか。

・・・逆にクーからは放っておかれないのがマギアなのだが。

グイッと左腕が引かれ、


「・・・さっきっから随分お仲がよろしいことで・・・ッ!」

「う、うん?どうしたんだよ」

「どうしたんだよ、じゃないわよ私が説明したのにどうして私に聞かないのよバカ」

「お、おう、ごめん・・・?」


クーの気迫に押されてよくわからないまま謝りつつ、ルーレの疑念を含めた会話からお茶を濁せたことを感謝していると、すっと横から現れたピンク色でツインテールの少女が倒れている男の子の手を取った。


「大丈夫、あたしが助けてあげるわ」


しゃがみこみ、男の子に肩を貸す少女はマギアをチラッと睨み。

近くの路地へと消えていった。


「・・・ま、面倒ごとは地元の連中に任せるに限るってことかしらね」

「冷たいようですが、ご主人様・・・マキナ様が統治されれば隷属魔法は制限されるでしょうし、ここは一刻も早くこの国を・・・」

「あんなのにぃかまってたらあ東どころかぁあぁソレイン評議国にも住めないッてぇえ」

「・・・そうだな」


マギアと言えどありとあらゆるものを助けることはできないし、自分を犠牲にして他人を救おうとも思っていない。

だが・・・。


「・・・って言ったところで、マギアは行くんだろうけどね」


呆れたように予備のローブをマギアへと投げるクー。


「5分で戻る。俺の分の昼飯頼むぞ」

「ん。適当に選んどく」


ほんわかとそう話しながらマギアは路地へと消えていく。




「おかしいわね・・・」


何やら女を3人も侍らせていた黒服の貴族から男の子を救ったピンク色でツインテールの少女は、路地の奥で事情を聴き、とある館へとやってきていた。

助けた男の子の話だと、蝙蝠の紋章を掲げる貴族・・・シュレッダーダスト家が妹を無理やり攫い、なんとダーツの的にするなどと言いながら消えていったそうだ。

男の子の家族は権力にひれ伏し、男の子と妹は必死に抵抗したが貴族の護衛に勝てるはずもなく・・・というわけらしい。

そういう訳で男の子を家に待機させ、ツインテールの少女一人でシュレッダーダスト家の館まで来た・・・のだが。


「・・・どうしてこんなに静かなのかしら?」


そう。

その館は異様なまでに静かだった。

普通ならいるはずの外回りしている護衛もおらず、門の前にすら影も見えない。

潜入して妹を助けたらしばらく匿ってやろうと思い武器まで持参したのに・・・、と背中に背負った身長ほどもある大剣と少し短めの剣の柄を撫でる。

ラッキー・・・ではあるのだが、正直警戒が先に立った。


(何故?何故門番すらいない?どこかに出かけているとか・・・いやそれでも留守番くらいはいるはずよね。それすらできない程、何か緊急事態が・・・?)


数分悩むも答えなど出ない。

考えるより早く体が動きがちな彼女は、今回もすぐさま決断した。


(まぁ取り敢えず入ってみるかな。邪魔されたら斬ればいいわけだし?)


物騒なことを考えつつ、正面玄関へとこそこそ近づき・・・そこで人の気配を感じた。


(・・・ドアの前・・・来るッ!)


背中の大剣に手をかけドアをにらみつける。

ゆっくりと開くドアから出てきたのは・・・。


「・・・おんな、のこ?」

「・・・!!??こっ、殺さないでください!!!」


ぼろぼろの服を着た女の子は、殺気が迸るツインテールの少女に腰を抜かしてしまっていた。

どう見積もっても衛兵やら貴族の子とは思えない。

というか、だ。


「えっと、もしかして攫われたっていう妹って・・・」

「・・・!た、たぶんそれは私の事です!黒服の男性のお仲間さんですよね。助けていただいてありがとうございました・・・!!」

「黒服の男性・・・?いや、違うと思うけど。あたしは貴方のお兄ちゃんに言われて今来たところだから」

「へっ?でもあの男性の方、言ってましたよ。『この後たぶんツインテールの少女が来るからそいつについて行けばいい』って・・・」


・・・・・・?

どういうことだろう?

男性の仲間に思い当たりはないし、この事を知ってる者もいるとは思えな・・・いや一応あの貴族がいたか。

というかそもそもだ。

助けたんなら助けたなりに、せめてあたしに会うまでこの女の子といるべきじゃないの?

そう思ってから、違和感を覚えた。

・・・正面玄関から堂々と出てきたのにやはり物音もしない。

ふと、ドアの隙間から館の中を見て・・・絶句した。



そこは・・・『死』だった。


砕かれた床。

吹き抜けにされた天井。

シャンデリアは燃え落ち、高級なツボは破片しか残していない。

扉も壁も関係ないほどあらゆるところに穴が開いており、そして一番奥には。


「・・・ぁ・・・はっ・・・ぃぁうぃひ・・・・・・」


恐怖を刻み込まれたような表情の男が無数のダーツの針で壁に縫い付けられていた。

辛うじて体に刺さってはいないようだが、服を破らない限り抜け出すこともできないだろう。

控えめに言って地獄絵図だった。

最早この館が何故全壊しなかったのかが不思議だ。


「・・・えっと、これはどういうこと?」

「だから、黒服の男の人が助けてくれたんです!かっこよかったなぁ・・・頭なでてもらっちゃいました!」


ふんわりと笑顔な誘拐されていた女の子と裏腹に、ツインテールの少女は険しい表情のままだった。


(黒服の男?この女の子が誘拐されていたことを知っているのは、あたしとこの子の家族くらいのはず・・・。いや、あたしが男の子から話を聞いたのは路地だから・・・)


そう、知ることは出来たはずだ。

初めに男の子が助けを求めた、風貌が一致する黒服の貴族(?)にだって。

だがそれはそれで不思議な点がある。

男の子を家に匿い館までたどり着いたのは、たった、10分ほどの出来事だからだ。

つまりあの貴族(?)がやったとするなら、この大規模な破壊を10分、いやそれよりも短い時間でやり遂げたことになる。


「・・・・・・どちらにしろ、調べることが増えたみたいね」


そう呟きながら女の子と共に家へと戻るのだった。




「・・・あっれー?」


クーたちと別れた場所に戻って来たのだが、何故か姿が見当たらない。

流石に5分とはいかなかったが、それに近しいほどの速さで終わらせたのだから近くにいるんじゃないかと思ったのだが・・・すれ違ってしまったのだろうか?

運動したからか微妙に減った腹具合を憂い、屋台でホットドックのような何かを買い食いしながら街を見て回る。


(洞窟の中にあるってことは相当暗いんじゃ、と思ってたけどそうでもねえな。何なんだろ、この青く光る水晶みたいなの)


かがみこみ地面から生えるようにある、その水晶を眺める。

マギアの知る限り、水晶が自ら光を放つなんてことは無いのだが、この青き水晶はどうやら自発的に光っているらしい。


「ふむふむ・・・貴族様でも第二の太陽の魅力にとりつかれちまうものなんですねぇ」


突然聞こえた声に振り向くと、モノクルをかけた細身の男がニコニコとしながら立っていた。

マギアとて気を使うこともあるため本音をすぐ言うことはほとんど無いが今回に限っては思わず口に出してしまった。


「・・・なんだ?随分うさんくさい笑顔だな・・・」

「ククッ、ひどいなぁ。ま、よく言われますがねぇ」


そんな悪口にも笑顔から微動だにしない。


「何者だよ、お前」


そんな問いに男はカメラをカバンから取り出し、


「見ての通りのしがない記者ですよ。この笑顔も、まあ、ある意味で商売道具なんですって」

「ふぅん?っていうかどうして話しかけてくる奴くる奴、俺の事貴族だと思ってるんだ?違うから」

「おやぁ?そうだったんですか。これはこれは失礼を!先ほど美しい女性方3人を侍らせておいでだったので」


は、侍らせてって。なに?そう見えるの?と思うマギアだが、

よく考えれば左右から腕を組まれているのに話しているのは少し離れたところにいるルーレだというのだからそう見えてもおかしくないか、と思い直す。


「・・・まぁ、何でもいいが。その美しい女性方を見かけなかったか?どうも見当たらなくてな」

「いえ?見かけておりませんねぇ。約束されているのならここでまた会えるのでは?あっ!もしかして振られたとか?!」

「そう思いたくはねえな」


そう思いたくはないが、自由奔放なクーとアルティアナなら十分にフラッとどこかに消えることはあり得ると頭を抱える。

実際のところマギアに、待て、と言われた彼女たちが勝手な行動をするのはそうあることではないだろうが。


「クククッ、まあまあそう気を落とさないで。あぁ話は戻りますが、どうです?その第二の太陽と言われる水晶。綺麗ですよねぇ」

「・・・ああ。いつも見ている物とはいえな」


ちゃっかり嘘をつきつつ、会話を続ける。


「あの上にある巨大な水晶もその一つだろ?」


上にある一際巨大な水晶を指さす。もはや城と同じくらいの大きさを誇る物だが、あんなものが頭上にあると考えるとおちおち眠ることも出来無さそうだ。

天が落ちてくると怯える杞憂どころの話ではない。


「そうですよぉ、でももったいないですよねぇ。こんないい素材があるのに加工もできないなんて」


(加工もできない?そうだ・・・確かに床や壁にある水晶以外は蝋燭やランタンで照らしてるみたいだな。この国に入ったときやけに街全体がオレンジ色だったのはこれだな)


そう思い返していると記者の男はそれを見透かすように笑いながら続ける。


「あまりに硬すぎるのも困りものですね。歴史上砕くことすら出来たためしがないですから・・・おや?」


ふと振り向いた記者の男に反応しそちらを見ると、なにやら騎士のような衛兵のような集団がこの辺りを見て回っていた。


「おぉっと!私はここで退散させていただきましょうかねぇ」

「なんだ、逮捕されるようなことでもしたのか?」

「ま、記者ですから、微妙に非合法なことも、ね」

「呆れたプロ意識だな・・・」


ため息をつくマギアに。

スッと近づいた記者の男は。


「それでは。【黄昏の魔王】サマ。くれぐれもアルティアナのことは頼みますよ?」


そうつぶやき。


「・・・お前まさか」


マギアの視線を躱すように暗い路地へと消えた。

・・・とんでもない速さで。


(アルティアナの知り合い・・・暗殺ギルドがあるとかなんとか言ってたな。じゃあ初めから俺が貴族じゃないことも知ってやがったのか。食えない野郎だな)


そこでふと気が付いた。

記者の男が消えたその横にある本屋。そこの本が、見たこともない言語でつづられていることに。

手に取り中をのぞいてみてもそうだった。

間違いなく日本語ではない。というか地球の言語ではない。


(・・・なん、でだ?なんでヴァンパイアだけ言語が違う。口語は通じてたよな?)


思い返してみれば。

この国に入ってから男女の比率も一対一くらいではないか?

少し見て回った感想でしかないし、女性は外に出たがらない、というような文化があるかもしれない為なんとも言えないが、

周りを見て常に女性の方が多いソレイン評議国などとは比べるべくもない。


(・・・・・・なんだ?この違いは)


言語が違うとか男女比が違うとか、そんなものは別々のコミュニティなら往々にして変わるもののはずだが『ヴァンパイアだけ』が違うとなると・・・。

それがマギアの求める答えの大きなヒントになるような気がしてならなかった。


ひとまずは言語だけでも知っておくべきか、と別の本に手を伸ばし。

ぴとっと、細い手とぶつかった。


「ひゃっ」

「あ、すみませ、ん?」


同じ本を取ろうとして触れてしまったその相手を見て、マギアはこの後の面倒な展開を容易に予測できてしまった。

何故なら・・・

その彼女は、先ほど睨みつけてきたツインテールの少女だったのだから。

インスタント焼きそばで青のりを入れ忘れる系ハリケーン、そよ風と申します。

ついうっかり忘れるの、私だけなんでしょうか?

前食べた時は隣に置いておいたのに食べ終わってから気が付きました。

なんでやねん。

まあそんな事は青のりと共に置いておいて(うまいこと言ったつもり)

今回はちょっと色々キャラが多いですね・・・。

そろそろ本格的に戦争に向かっていく(つもり)なので多くなるのは致し方なし・・・でしょうか?

こういう時うまい具合にまとめられる才能が切実に欲しい・・・。

ではこの辺りで。

ここまで読んでくださった方に感謝を。



ツインテールの少女・・・一体何者なんだ・・・

マギアと彼女のすれ違いコント開幕のお知らせ

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