第四十一話・「真面目な空気をぶった切るのも才能だと思う」
やべえな。
物凄く端的にマギアは焦っていた。
ルーレもクーも知らないとは思うがマギアの知る限り夜の、依の魔王への恨みは常軌を逸している。
しかもよりにもよって一人目の勇者を殺したマギアを特に。
あの洞窟で激昂していた依にその程度であきらめるのか?とか煽ってしまったマキナのせいもあるが・・・。
しかもそれだけではない。
ミューの故郷を剣げきで壊したことがばれればミューとも・・・
(これはこの場で戦闘まで有り得るぞ・・・ッ!ミューと夜を選んだのはルーレで、俺も特に口出ししなかったのが裏目に出るとは)
だが当然、こちらが先に手出しする訳にもいかない。
これが全部依の策略だとしたら大したものだ。
と、黙ったままのマギアにルーレがおどおどと、
「・・・え、えっと・・・その、何かお気に触りましたか・・・?」
「えっ?」
警戒が沈黙と態度に現れてしまっていたらしい。
「ちょっとマギア。初対面の人にらむ癖直しなさいよね」
「いや、そんなつもりはないが」
「仕事の依頼主から怖いって評判よ?」
「まさかそんな・・・え、いやマジ?」
「ま、ありもしない風格が出ていいのかもしれないけどね」
恐怖を煽る風格とか暴君じゃねえか、と苦笑する。
いやそれを言うなら魔王か。
そんなクーとマギアのやり取りに少し肩の力が抜けたらしいルーレ。
「お久しぶりです、マギアさん。改めてルーレと申します。名実ともにソレイン評議国の議長マキナ様に仕えるメイドです」
「名実ともに、ねぇ」
「あの時とは違いますから。クーさんとマギアさん、それにこっそり来ていたらしい恵さんのおかげです」
「俺と恵ってなんかしてたっけ・・・」
クーがしゃべっていたという記憶しかない。
そうか、あの時と黒龍退治の時、そこでルーレとクーは会っている。だとするなら俺の知らないところで会っていたとしても不思議ではないのか。
そう納得すると同時に、
「んで、そのおつきのライブラ・ミュー・メーアみゅーなー。よろしくー」
「あのライブラか」
「『あの』?それとミューを呼ぶときはミューって呼べみゅー」
「お前一文でどんだけみゅーみゅー言うんだよ。ってかみゅーってなんだよ・・・。マーメイドの奴だろ。姫海老から聞いてるよ」
「・・・あぁ。やっぱり?マーメイドとセイレーンを傘下だか眷属だかにしたって聞いてる」
「ふん、だったらどうする?」
「どーもこーも無いみゅー」
マギアからすればかなり覚悟を持って発した言葉なのだが、意外にもミューは気にも留めていないようだった。
「今のミューはマーメイドじゃなくソレイン評議国に所属しているみゅーからなー。そもそも、ミューはマーメイドのしきたりが嫌いで国を出た身だからね」
「ほーう、なるほどね」
「・・・意外みゅーな」
「奇遇だな、俺もそう思ってたところだが」
「同じマーメイドだからお前も眷属な!くらい言われるかと」
「見境なさすぎねぇ?お前みたいな変人はもう手一杯だ」
「アルティアナとかのことかしら?」
「うん、君もな」
「はい?ルーレちゃんに頼んでまでしっかり旅路の準備が出来るクー・レヴェルって子は出来る子でしょうが。どこが変なのよどこが」
「自分の身体見てどうぞ」
「アイドル志望の私に下ネタはちょっと」
「その解釈からして正統派アイドルは向いてねえ。ってかなんでアイドル・・・?」
そんなアホな冗談の応酬に、会話に入りにくそうにしながらも一番危惧していた人物が話しかけてくる。
「それと、わたしがじんろうのよる、っていいます。るーれさんの、つきそいです」
「夜、だな。了解」
「では、早速行きますか?」
・・・なんだ?なんで何も言わない?
彼女たちの事情を知っているからこその違和感。
だが当然、それをいう訳にもいかず。
「ああ。結構遠いらしいしさっさといったほうがいいだろ」
結局は何の手も打てず出発するのだった。
「というか・・・今思ったんだが別にクーと一緒に乗るの、俺じゃなくてもいいんじゃねえのか?それこそルーレと知り合いとか言ってた恵とかでも・・・」
「あー、それはね」
「スミマセン。実は私たちがクーさんにマギアさんと話す機会が欲しいって頼んだんです」
いや、俺はマキナとマギアが同一人物って見破られそうだから話したくないんですけど。
そう思いつつも、疑問が先に立った。
「話す機会?何を?」
「確かめたかったんです。マギアさんの、目的を」
「・・・目的?」
「はい。黄昏の魔王マギアさんと言えば、悪魔たちの帝王。そんな方がどうして魔王軍に戻らないのか、と。むしろ敵対すらしているように感じます」
「なるほどね。マキナとかいうあの人間の意向で接触しに来たと」
「それは・・・当たらずとも遠からず、ですね」
隠すところを隠し、相手の目的を探る。
まあ上出来である、が。
「・・・随分大胆でガサツな行動と言わざるを得ないな」
「・・・え?」
「俺が他の魔王と同じくらい傲慢なら、次の瞬間には首から上が消えてるぞ」
静かに言い放った言葉に、緊張が走る。
狭い馬車の車内だ、先に手を出した方が有利に決まっている。
「・・・それが理由ですか?他の魔王とはこころざしが合わなかったと?」
「ふん。『当たらずとも遠からず、ですね』。まあ少なくとも今は降りかかった火の粉を払ってるだけだ。ヴァンパイアに関してもうちのクーにいろいろしてくれやがったツケを払わせに行くだけだしな」
つまり、手を出してこない連中には何をする訳でもないということだ。
・・・少なくとも今は。
「・・・・・・・・・・」
若干首を傾げながらじーっと見てくるルーレ。
「・・・なんだ?」
「いえ・・・すみません」
ほ、ほんとに何だよこええな!?と心の中で叫びつつ、
「はい終わった?どうでもいいけど私ミューがくるまってる布団が気になって仕方ないんだけど?」
「おーお目が高いみゅーな!これは・・・」
そんなどうでもいい会話を聞きながらマキナの方へ意識を戻す。
(・・・待てよ。ルーレを見送って、中庭にいた時にマギアに無理やり戻されたよな。じゃあ今マキナの身体って・・・)
とても嫌な予感がした。
そろそろテストが近いそよ風と申します。
もう・・・なんでテストなんてものがこの世にあるんでしょうね。
全部ゲーム形式にしませんか文部科学省さんよ。
あ、だめですか。はい。
そういいつつ一週間前とかに詰め込む気満々ですけどね。
さてここまで読んでくださった方に感謝を。
依が出てきたら戦争不可避という隠れ緊迫状態




