余談 『暁の魔王ダウン・チェルシアのしりょぶかさを見せつけるー』
数年前のお話。
ヒラノトオヤとマギアが相打つなんて、誰も予想すらしていない頃。
「・・・で、できたー・・・・・・・。できて、しまった・・・」
とある少女の私室。
自分の才能に彼女は歓喜に震える。
発明家肌の彼女にして、この発明はあまりにも悪魔的と言えた。
そう、悪用すれば世界を征服できるのだから。
「ふふふ・・・はははっ・・・はっはっはははは!!!」
華麗に3段笑いを決めた暁の魔王ダウンは完成したソレをよいしょと背負い、一番の親友がいる部屋へと向かう。
「・・・で、出来たのがそのコタツか」
「コタツじゃないよー!魔導電熱式炬燵だよーー」
「言っちまってるじゃねえか・・・」
魔王と悪魔が支配する国、『ティアナ=クロ―ザー』。
そこに堂々とそびえ立つ漆黒の城、魔王城。
それら全てを持つ王の中の王にドヤ顔で作ったコタツを見せびらかすダウン。
彼女に黄昏の魔王マギア=シェイドは呆れたように返す。
「突然研究室に籠り始めて突然『世界を滅ぼす兵器作った!』って言ってきたと思ったら炬燵て」
「おいおいおいおいおーいー。コタツ馬鹿にしちゃだめだぞー黄昏ちゃんー!これを敵国に送り付ければー冬場はここから出られなくなるに違いないんだぞー」
「うわ、すげぇ平和的ー」
ダウンの力説をさらりと流し、ばたりとベットに倒れ込むマギア。
何処までも適当にあしらわれた屈辱にダウンはほっぺたを膨らませながら、
「もーもー!」
「牛かよ」
「そこまでコタツの事ディスるんなら改善点あげてよ改善点!」
「そりゃお前・・・」
ベットに寝転がった体勢から上半身だけ起き上がり、彼はキメ顔でこういった。
「ミカンだろ」
「なん・・・だと・・・?」
「冬という季節に最も旬となる果物で少し暑すぎるせいか汗をかいてしまうコタツと水分が補給できるミカンの奏でる合理的なハーモニーはまさしく超次元的小宇宙。下半身だけを温めながら机の上にミカンを置き家族などで入れば自然に団欒が楽しめることは確定的に明らかな事象だろう」
「・・・黄昏ちゃん・・・まさか天才かー・・・?否ッ!最早その発想は悪魔!魔神!それらにも匹敵するーーッ!!そうと分かれば今すぐにミカンの木を植え付けないと!!」
そうこの二人、とても似た者同士だった。
ダウンのボケともいうべきネタに全力でマギアが悪乗りするという形で今までどれだけ周囲を惑わせてきたか考えると割と頭が痛くなる。
戦争中の話だが、ぬるぬるの触手を作って(リリスを)落としてみたり、(リリスとの)戦闘中に突如ピクニックを始めたり、(リリスの)スカートめくり装置を作ってみたりなどしていたものだった。
ちなみに被害者の9割が東雲の魔王リリス、1割が実験失敗したダウンである。
・・・まあそれを止めるのもリリスなのだが。
「ミカンがどうしたの、ダウン」
「・・・・・・えーと、いやあ農家でも始めようかなぁといたたたたたたたた!!!!」
ひょっこりと現れたリリスはダウンの耳を引っ張り、扉の外へと連行していく。
青筋を立てながら。
「何が農家よ!そんなことよりあなたが引きこもってた間にどれだけ仕事が溜まってたか分かってるのよね!?」
「ひえぇぇぇぇ!!鬼ー!」
「私は悪魔よ。今日一日で3日分やってもらうから覚悟して」
「ぎゃあああああ黄昏ちゃん助けてぇぇぇぇ!」
半泣きでぶんぶんと手を伸ばすが。
「引きこもりには容赦しない主義だ」
先ほどまでの悪戯気な笑顔など無く、即断された。
「うらぎりものおぉぉぉーーー!!」
そう叫びながらダウンは。
心の奥底で冷静にとあることを考えてもいた。
「で、今回は何作ったのよ」
マギアの自室から離れ、職務へと向かう最中にリリスは一応といった風にダウンに尋ねた。
もしかしたら奇跡的に使用価値があるかもしれないと思ったのだろう。
普段なら嬉々として解説を始めるダウンなのだが、今日に限っては違った。
「んーまぁ多機能な椅子みたいなー?そんな事よりさー、ちょっと真面目に聞きたいことがあるんだけど」
「・・・どうしたの?場所変えましょうか?」
少し驚いたように眼を見開きながら立ち止まるリリス。
ダウンが真面目に物を言うのは年に一回あるかないかなので驚くのも当然だが。
「いや、そこまでいいよ。ただちょっと、黄昏ちゃんに関して聞きたいことあるんだよね。
東雲ちゃんってさぁ、黄昏ちゃんの事どう思ってる?」
「・・・どうしてそんなことを聞くかはわからないけど。マギアは威厳と風格を持つ悪魔の王よ。マギアなくして魔王は語れないわ」
「そうだよねー。黄昏ちゃん、普段からとっても威厳あるもんねー」
やっぱりか。
そう考える。
マギアはリリスや悪魔たちの前だと、魔王らしく振舞い始めるのだ。
先ほどダウンと会話していた悪戯気な本性を覆い隠して。
リリスが近づいてきたことを察知して、声が届かない様にした結果毎回ダウンだけが怒られるのだが。
「・・・何?まさか私の・・・」
「いや違う。それはマジで。東雲ちゃんの忠誠を疑ったことは今まで一回もないよ」
疑われたと思ったのか不機嫌になるリリスをなだめつつ。
これからの事を考え。
ダウンは笑顔の裏で暗躍する。
「・・・次はお前かい」
「あっはっはー、東雲ちゃんのしごきコースから逃げてきたのだ―」
「また耳引っ張られんぞ・・・」
その日の夜。
ダウンはまたもや懲りずにマギアの部屋まで来ていた。
マギアが初めに言った、次は、という言葉はそのままの意味で先ほどまで未明の魔王マッドアリスがここにいたからだ。
「次はその前に逃げて見せるしー。未明ちゃんとはお楽しみだったね」
「ひったすら俺がアリスにツッコんで終わったけどな」
「突っ込んでとか・・・お盛んな」
「言葉にだよ!どうしてアリスはそこまで俺の事が好きなのかね」
「さぁねぇー」
ため息をつくマギアをボンとベットに押してみた。
「うぇっ!?何すんだよ!」
「いや、お疲れかなってー」
「そんなことはねえよ。今日は簡単な事務仕事しかしてないしな」
ダウンの言葉を即座に否定し、ベットから起き上がろうとするマギアへ。
彼女は上から勢いよく飛びこんだ。
「うのぁ!?」
「だうんちゃんだーいぶ!相手は死ぬ」
「ちょっおまっ!抱き着いてくんな!!」
「あっはっははははー!」
バタバタとじゃれ合うダウンは、すっと。
自然にマギアの間近で目を合わせる。
「ねぇ、〝マギア〟。強がらなくていいんだよ。私の前でだけは、素の貴方を見せて?」
「いや別に俺は、
「大丈夫。適当で気分屋なダウン・チェルシアはここであった事なんてすぐ忘れるから」
「・・・・・・」
「私ね、とっても楽しいの。ここ最近の事、全部。それは、マギアのおかげだと思ってるから。
威厳なんてなくても。頭が良くなくても。例え強くなくても。
私は最後までマギアと一緒にいるって約束するよ。
他の人がなんて言おうと、最後まで。私と貴方が道を進む、その最果てまで歩む。
私の家系は皆うそつきばっかりで、騙し合って殺し合って私以外居なくなっちゃったけど、私だけは違う。
だからおねーさんに教えてよ。頑張り屋でそれをおくびにも出さない貴方は今何が欲しいの?」
「・・・俺が欲しいもの、ねぇ」
「うん。私の全てでもいいし、世界全部でもいい。私はそれを助けるから」
「自分だ」
マギアの言葉にダウンは一瞬困惑する。
「・・・自分?」
「ああ。それと、こうして皆と過ごす日常があれば、それでいいさ」
「むーなーんかよく分からないような分かるような感じなんだけど」
「後できっと分かる。ありがとな、ダウン。正直、お前がふざけながら部屋に来てくれるのを楽しみにしてる」
「ん、よかった。邪険に思われてたらどうしようと思った」
「俺も、威厳のかけらも無い態度取って失望されないかひやひやだったぜ」
共に苦笑し合う。
なんだかんだと、二人とも互いに気を使いながらだったことに。
そしてこれからは、気の置けない関係に成れると分かって。
「覚えてる?初めてあった時のことー」
「思い出したくねえよ、殺し合いしてたじゃねえか」
「あははー、そうだったねぇ。仲間になってからも小競り合いして、東雲ちゃんを困らせたねー」
そう、今でこそ二人はこうしてふざけ合っているが仲間となった直後は本当に仲が悪かった。
その当時やりたくもない王様を押し付けられたと感じていたマギアと忠誠を誓うことでマギアを信用しなくてはならない状況に立たされたダウンはどうしたってかみ合わなかった。
「・・・あの頃は俺、魔王軍の指揮とか嫌で嫌で仕方なかったからな。逃げる事ばっかり考えてた。その点、俺にやる気を出させた女神の先兵共には感謝だな。あいつらのおかげで半壊した街を見て守りたいと思えたわけだし」
女神の先兵。
その名をヴァルキリー。
7人の姉妹で結成されていた彼女たちは、嘘か真か、「女神様の指示です」と言ってティアナ=クロ―ザーをいきなり襲い始めたのだ。
そのことがきっかけとなり魔王軍が一枚岩となったのだから皮肉な話だが。
ちなみに魔王全員が持つ神器は元々ヴァルキリーたちの所有物である。
過去を思い返すマギアに眼を逸らしながらダウンはつぶやく。
「昔の話だけど、マギアの事信じられなくてごめんね。私の種族はさ、昔からの伝統で家族であったとしても騙し合いする敵みたいなものでさ。
最後には身内で殺し合って生き残ったのは私だけ。
そのまま戦争になっちゃって、誰も信じられなくて、表面では笑いながら生き残るのに、いやもう騙されたくなくて傷つきたくなくて必死だった。
そんな時だよ。マギアが私の事を自分の身も顧みないで助けてくれたのはさ。
有り得ないって思った。その代償として何を要求してくるのかって怖かった。
その理由が、仲間だから、ってことだけなんてその時の私には信じられなかったよ。
でも今は・・・信じてる。マギアのこと。
あ、当然他のみんなも信用してるけど、でも、私がピンチの時には、絶対マギアが助けてくれるって。
だから、マギアにも私の事信じてもらいたいって思うんだ。
マギアに嫌われたくないって、とっても強く思うんだよ」
はにかみながらも。
慣れない本音を、語る。
「マギアの一番の恋人は未明ちゃんに任せてー、私はマギアの一番の親友だから。ずっとね」
*キャラクター紹介*
「ダウン・チェルシア」
年齢 6000歳オーバー
身長 158cm
体重 48kg
種族 悪魔・アンドラス
特記 暁の魔王
戦闘 Sランク(SからDまでの5段階評価)
悪魔に類される種族、アンドラスの突然変異者。あらゆる色で着飾った道化師のような服の少女。
真っ向から殴り合うのではなく翻弄することを得意とし、悪魔が統一される戦争時には最後の最後までリリスに抵抗したものの敗北し傘下に下った。
その結果、ダウンの突飛な行動に味方となってからもリリスは悩まされることになるのだが。
余談となるが悪魔統一戦争ではリリス(東雲)、ダウン(暁)、ダスク(宵闇)の3人とマギアが戦い、マギアが勝利して幕を引いた。
一応マッドアリス(未明)はマギア側だったが軍隊も持たず戦闘もほぼしていない。お姫様ポジ(笑)だった。
統一戦争終了後はマギアを王としてティアナ=クロ―ザーが成立し、東雲暁宵闇未明黄昏の5つの二つ名がそこで決定された。
それからヴァルキリーを名乗る連中と戦ったりドラゴンと戦ったり色々あり、今回の余談はそれらの戦いが終わった後の話である。
出会った当初は相当仲が悪かったマギアとダウンだったが、死線を乗り越え親友にまでなったようだ。
性格は奔放で悪戯好き。しかしその裏で物事を深く読む力を持つ。
戦闘スタイルは神器<如意棒>で相手を近づけないようにしつつ、突然変異していることで使用できる『悪辣妨害』で魔法を使えなくしながら10属性魔法『暁』で周辺を超熱で消し飛ばすスタイルをよく使用する。
個人戦闘力という点では他の魔王に劣るが、混戦になると無類の強さを発揮する。
「過去のマギア」
年齢 ??歳
身長 181cm
体重 57kg
種族 ??
特記 黄昏の魔王
戦闘 Sランク(SからDまでの5段階評価)
好奇心強くて威厳とかもとくにあるわけじゃないから必死にキャラ作ってたりと、過去のマギアさんは相当一般人的な思考する人でした。言い換えると結構ポンコツでした。
魔王軍の王になった理由は腕っぷしがそれなりに強かった事と運が良かったみたいなところある。
それだけじゃなく彼、実は魔法が使えません。
10属性魔法黄昏とか無いです。
でも宵闇が言っていた「10属性魔法をマギアから教わった」と言うのは嘘じゃないです。
そのあたりは本編で出てくる・・・かな?
皆一癖も二癖もある連中ですが、過去のマギア、マキナ、平幅遠野の行動は余談でまた出てくるはずなのでお楽しみに。
・・・となると今のマギアさんって・・・?




