第三十六話・「・・・なんかこの悪魔小物感すごいな」
一体この人間は何を言ってるんだ?
ベーゼに化けた悪魔の女性はかなり困惑していた。
と、言うより、かなりビビっていた。
・・・実は。
(ちょちょちょ待ってよ!何この人、なんで私が悪魔って知ってるの!?
えぇここまでいい感じでやってこれたのにぃ・・・。
どうしよぉ、また東雲様からお叱りを受けるのだけは嫌・・・)
この悪魔の女性。
普段は黒幕的な雰囲気を出せるように見得をはっているだけで、相当小心者のサキュバスだった。
ちなみに名前は「さっきゅん」。あだ名や愛称ではなく名前がさっきゅんである。
地位的に見ても戦闘力的に見ても魔王の眷属になど、はるか及ばない。
東雲の魔王の使用人レベルなのだった。
そんな彼女が何故エルフの国を落とす重役を仰せつかったかというと。
(っていうかそもそもこの任務って暁様がやるはずだったのに・・・。
黄昏様がいるかもしれないって分かってからそっちにかかりきりになっちゃって。
確かに黄昏様を探すのは最重要だけど、だからってこの国を私一人に任せるのは荷が重すぎよ・・・)
・・・つまりはそういうことだった。
人手不足の時に、ほっといてもよさそうなエルフの国へ行けるのは、さっきゅんぐらいのものだったのだ。
暇そうなやつにどうでもいい仕事を渡した、とも言うが。
内心でガタガタ震えているとも知らず、隣のラングアはしらばっくれる。
「いきなり何の話をしておるのじゃ?ギリギリのところを助けてやったというのに悪魔などと。人間というのは恩知らずな生き物じゃのう」
(こっ、このババア素性もわからない相手に喧嘩売りやがった!)
悪態をつきつつ、さっきゅんはベーゼのふりをし続ける。
「まったくだゾ。そもそもお前は誰なんだ?」
「ソレイン評議国のマキナだ。首脳会議をやるっていうから来てやったのに」
・・・ソレインの、マキナ?
(まっ、マキナ・ソレイン・アルティベート=リア!?あの東雲様から警戒しろと言われている人間!)
東雲の魔王は魔王軍の中でも飛びぬけた統率力と知能を持つ。
その東雲が警戒しろと言うのであれば、実際それに匹敵する程度には厄介な敵なのだろう。
心が折れかかった、が。
(・・・でもさ、よく考えたら私一人でこの国を思い通りに翻弄出来てるよね。人間一人くらい私だって・・・)
小心者とは言え悪魔。
ベーゼが苦しむ姿を見てテンションが上がっていた。(調子に乗ったともいう)
・・・マキナ相手に慢心とかどう考えても自殺行為だが。
「・・・人間の国のトップか。一体こんなところで何してるの?」
その言葉に周りにいた4人のエルフだけでなく、ラングアまで驚く。
「そ、そうなんですかマキナさん!?」
「んーまあな。さて、じゃあサクッと俺の推理を聞いてもらえるかな?」
身体を押さえつつ、立ち上がるマキナ。
「・・・推理、じゃと?」
「大したことじゃないけどな。ラングア、お前が悪魔に国を渡そうとしていることくらいかな?」
「・・・・・・・・・・な、は?」
全員が、黙り込んでしまった。
それはそうだろう。エルフの国と敵対するはずの悪魔が元老院とつながっているなど悪夢でしかない。
「自白する気は無しか。じゃあ初めの方から推測をしていこうか。
まず魔王軍が攻めてくる前の話だ。
食料不足に悩まされた魔法国家だと聞いた。
カリンやイブキとこの国を少し見て回ったが、この辺り一帯の木は海の近くに生える物じゃない。
その上、木の中に住むほどに樹木を切り倒すことをしないとなると当然増えるのは針葉樹系統。
ってことは大規模な農作業は不可能だろう。
食料不足になるのも当然だ。
・・・ついでに木を糧にするアロマがこの国を追い出されたのも当然かもな。
まあつまり実は魔王が来る前から崖っぷちだったわけだ。
だがそれでも国民が飢えるようなことは無かった。
が。
魔王軍との戦闘が始まり、徴兵制を採用した結果生産力がガタ落ちしたんだろう。
カリンやイブキのように生活のために政樹会軍に入る者が増え、それにより物価が上がるという悪循環だな。
だからこそ、東雲はエルフが降参していないのにも関わらず人間に来たんだ。
もうエルフは反抗する力がないと見越してな。
でも東雲の予想と裏腹に人間が抵抗してきたからなのか、エルフを先に落とすことにしたらしい。
そこで目を付けたのが食糧事情と元老院だ。
今政樹会のベーゼに化けている悪魔はその使いっぱしりだろう。
カリンと店を見て回った時、最も安い食料は海からとれる海産物だった。
海に面しているとは考えにくいこの国で海産物が安いということは、当然どこからか輸入しているということ。
それだけだと何処から輸入しているのかわからないが、バーサークの首輪で悪魔だとすぐわかったよ。
そしてそんなことができるのがどんな組織かぐらいは・・・言わなくてもいいかな?」
(・・・・・・や、や、やばいいいいいいいいいいいっ!??何こいつ、何この人!まるで見てたかのような説明口調じゃない!
ちょくちょく何言ってるのかわからない単語が出てきてるけど、大筋はあってる・・・!いやまってそもそもなんで私が悪魔の変装だって・・・?)
「・・・ぐっ・・・それは政樹会の陰謀じゃろう・・・」
「それは無い」
ラングアの言葉を即座に切り捨てる。
「何故なら政樹会は首脳会議を企画した奴らだからだ。ま、それが分かったのは今の変装したベーゼが『ソレイン王国から来たの?』なんて口を滑らせてくれたおかげでもあるけど」
「・・・あ」
後悔先に立たず。
やる気を出した時点でさっきゅんはすでに負けていたわけだ。
「俺が初めにベーゼと会ったとき、あいつは俺の名前を聞き覚えがあるようだった。そんな奴が間違えるとは考えにくい。それに手紙にもソレイン評議国のマキナ宛になってたしな。
だから裏切っているのは元老院の誰か。それによりこの国はもう詰んでいるんだよ」
「・・・それは、聞き捨てならないな」
「ふん・・・まったく、だゾ」
奥から現れた二人にさっきゅんは硬直する。
緑色をベースとする祭儀服を着た若い耳のとがった男と、だぼだぼの服を着たというより服に埋まっている背の低い女の子。
政樹会長トラム=セントラルと副長ベーゼ=サレイクゥンである。
「・・・なんで、催眠をかけたはず・・・」
驚きと困惑でベーゼに問うが、彼女はマイペースに話す。
「どうでもいいけどうちはそんなしゃべり方はしないゾ」
「いやそれは今どうだっていい。ちなみに催眠は僕が解いておいたよ」
こともなげに言うトラム。というかそもそも、だ。
「・・・なんであなたがここにいるんですぅ?トラムさんは呼んで無いんですが。そもそも有権者への挨拶でいないと聞いていたんですが??」
「ああ。君たちには、呼ばれていないよ。僕は少し前ベーゼに呼ばれたんだ。・・・人間の国のトップらしき人がこっそり来てるってね」
そう言いながらトラムはマキナを軽くにらみつける。
その視線を受け、笑いながら肩をすくめるマキナ。
「まあそう気にするなよ。ちょっと早く着いたから国を見て回ってただけだしね」
「またそんなウソを・・・。どう考えてもうちの国を偵察してたんだろう?」
「いやーちょっとなにいってるのか」
さっちゃんの眼から見てもかなり白々しかった。
隠す気が微塵も感じられない。
「・・・ふふっ、あっはっはっはっは!!負け犬共の会話というのもたまには面白いのう。今更ばれたところで構わぬのじゃよ。
人間など所詮は踏みつぶされるだけの存在、我々エルフは悪魔と共にこの世界をいただくさ」
(・・・そうだ。よく考えてみれば所詮は人間。私のような木っ端悪魔でも勝てる程度の種族なんだ。今すぐにこいつらを黙らせることも私にはできる)
サキュバスの得意とする魔法は、
炎時、2属性魔法『陽炎こそ揺らめく華』
炎水暗時、4属性魔法『虚実乱れる乱数』
炎木輝暗空時、6属性魔法『禍乱すら招く紛擾劣等』
主に催眠の魔法である。
マキナ風に言うと『精神に直接影響を及ぼす魔法』だ。
実際ベーゼや警護兵にはこの魔法は効いていたのだから、制圧することも容易いはず。
さっちゃんは変身を解き、元の翼が生えた体に戻る。
その姿にラングアととある一名を除いたほとんど全員が警戒態勢を取る。
さっちゃんは知らないが、カリンやイブキ、ファシネイト兄妹に至ってはマキナを庇うようにして前に出ていた。
その中で厳しい表情のトラムが口を開く。
「・・・本気か?貴様ら。内紛すら辞さないと、そう言うんだな・・・ッ!」
「トウゼンじゃよ。寄せ集めただけの政樹会軍と魔王軍では勝負にならんだろうがのぅ」
そんな口上と共に。
さっちゃんは、殺意と高揚感を持ちつつ
「・・・さて☆始めましょうか、
「何を?」
ニッコリとした笑顔に。
哀れみすらこもった眼でマキナに遮られた。
「え、いや、何って・・・」
「・・・人間というのは話を聞かぬ生き物なのか?」
「話聞いてねえのはどっちだよ。
もう、この国は詰んでるんだよ。
何度言わせれば気が済むんだ?現実逃避するなっての」
(・・・?意味不明。だけどなんだろうこの自信・・・?)
「ま、これは最新の情報だから知らなくても仕方ないかもな。魔王軍が面する海はリザルトゲーテより北の海域だろ?
そこならもう、新しい勢力によって併合されたマーメイドとセイレーンに封鎖されてるんだから」
「・・・・・・・・・・は?」
「それが意味することはつまり、魔王軍もエルフに流せる程海産物が取れなくなるということ。その結果おそらく東雲はエルフの国から手を引くだろう。
魔王軍より武力がなく、文化も吸収するほどでもない上裏切りを考えてる連中が多い国なんて植民地にする必要すらない。少なくとも俺なら滅ぼして残りを併合する。
もうこの国が終わるのは時間の問題だよ。
詰んだ、っていうのはもう死ぬしか道など無いってこと。残念だけどね」
絶句した。
この場にいた全員が。
だって、もう、そんな、どうしようもないじゃないか。
「・・・まっ待て、それは本当か!?」
必死の声を上げるトラムと口を開けたままのラングア。
そんな彼らにいともたやすくマキナは言い放った。
「うん、本当。二千年だっけ?三千年だっけ?
お 疲 れ 様 。 お 休 み の 時 間 だ 」
うめぇ!アロエヨーグルトうめぇ!!生まれ変わったらアロエだけを食べる生物になりますやっぱり嫌です。そんなそよ風と申します。
いやーひどい目に合いました!
雨の夜。
傘を差しながら歩いていると、車が右折待ちをしていました。
他の車も多かったので、そよ風はその車の前を通り過ぎることにしました。
すると、車の目の前を通っていた時その車が少しだけ動いたのです。
あー行きたいのねー、と思い小走りで駆け抜けようとして、
ずっこけました。
・・・・・・・うん。
ずっこけました。
何もないところで、滑って転びました。
さほど痛くは無かったのですがコンビニで買ったグラタンはスクランブルになりました。
クソがッ!
あまりの恥ずかしさからそそくさとその場を立ち去ろうとしたのですが、
車の人がぶつかってそよ風がこけたと思ったのか、慌てて飛び出して来て
「きゅ、救急車と警察呼びましょうか!??」
と言ってきました。
・・・いやこれで救急車に乗って警察に事情聴取なんかされた日には恥ずかしさで悶え死にします。
だってなんて言えばいいんですか?
「えっとーまーぶつかってはいないんですけどーちょっと足が滑ってー。あ、けがはしてないです」
「「何しに来たんだよ・・・」」
そうなることが目に見えています。
そんなこんなで擦り傷程度の傷を猛烈に心配されつつ、そよ風は家に帰ったのでした。
ちなみにですがその場所、家から徒歩1分程度のところでした。近っか。
そう言えば前回言っていたあとがきに書きたいこと、思い出しましたよええ。
けれどそれは次回のあとがきに書こうかな?
では今回はこの辺りで。ここまで読んでくださった方に感謝を。
哀れにも車に引かれる野生動物を見てしまった感。
これさっきゅんに勝ち筋ないだろ・・・
ちなみにさっきゅん、近いうちにまた登場します(多分)




