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「「異世界から来て魔王と勇者を兼業した唯一無二の人間だよ」」  作者: Hurricane(そよ風)
2章・「まさか一度に6種族と戦う羽目になるなんて・・・」-エルフ・マーメイド領域征服戦
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幕間15・幽らぎ幻たる世界線(クロス・ワールド)-----偽・幽世(Ghost)VS宵闇(Izanagi)

失った左腕を蒼い炎で形作り、全身から蒼黒いオーラを発する宵闇。

彼がとった始めの一手は単純かつ明快だった。

剣すら使わず、左腕を消し飛ばしたアロマに向かって走る、それだけである。



それが音速の倍に比する速度でなければの話だが。


ドジュウウウウッッ!!!!

と、およそ生物と生物が激突したとは思えない音を出した時にはすでに、アロマは地面に叩きつけられていた。


「・・・がっ!?・・・っっ!」


歯を食いしばりつつ意地でも悲鳴を上げないアロマだったが、常軌を逸した『冷気』でやけどのような症状を起こしたことに生命の危機を感じ、何とか後ろに飛びのく。


「・・・脆いな」


そんなアロマに追撃することもなくアルティアナを目で追い始める宵闇。

それはつまりアロマを強敵とはみなさなかったということ。

プライドの高い彼女はその姿に逆上し、全力で攻撃を、


「待つんだ兎君ッ!」


ミチに止められた。


「な、なにすんのよ人間!馬鹿じゃないの!?」

「それはこちらのセリフだ!」


実は宵闇が口上を述べている最中、ミチは攻撃が苛烈になると踏んで先に空気を膨張させ壁を作っていた。しかしそれを物ともせず音速を超えた体当たりをしてきたということは・・・。


「今の宵闇は、物理法則を、世界の理を明らかに破っているっ!先ほどまでとは違うっ、一度引け!」

「はぁっ!?引けるわけないでしょうがッ!私が引いたら皆死ぬのよ!?今の体当たりだって私じゃなかったら木っ端みじんだぞ!」

「なら、ここで君に死なれたらどうやって宵闇を倒すッ!?今のところ有効打を与えられていたのは君と狼君だけ!さっさと引いてゾンビ君と合流しろっ、足止めは私がやる!」

「・・・・・ッ!で、でも・・・っ!」

「・・・アロマ!私と逃げてそのゾンビって奴と一緒に戦うべきだろ・・・っ!あんただって分かってんでしょ!?このままだと全員やられるぞ!」


死ぬほど悔しそうな依の歯ぎしりを聞きながら。


「・・・・・・・・分かった、わよ・・・ッ」


常に守る側だった彼女は、完全なる敗北を受け入れ。

依とともにミチが指さす、半壊した遺跡へと逃げる。



「・・・よくこの場に残る気になったものだな」


宵の恐怖に打ち勝ったのはたった4人、いや4人もいたというべきか。

そう彼は考える。


「そっだねええ、しょーじきミチとかが残るのは意外かなぁあ?」

「若い世代に希望を託すのが私の役目だからな。踏み台にくらいなってやるさ」

「Re:憧憬/流石ですね。恵から聞いていた通りの人です」

「・・・・・・うん。王宮から、追い出された、恵を匿ってくれてただけのことは、ある」


そんな3人の言葉にミチは目線を逸らす。


「・・・別に、ただの気まぐれだよ。私は魔王に負けた価値のない勇者だ。今回もこいつを倒すのはゾンビ君たちに任せるさ」


倒すのは任せる、と言うミチの言葉に宵闇は失笑しつつ


「魔王に負けた?少なくとも俺はお前のような勇者の話は聞いていないが?」

「・・・・・・そうか。ならそれが全てなのだろう」

「ふん、まあいい。話はこの辺りにして・・・死ぬ用意は、出来たか?」


「・・・来いッ」


その瞬間、蒼黒の左手の平に炎が収縮し、アルティアナにかざす。

先ほどと同じように受けようとした彼女に後ろから叫びがこだまする。


「Re:危機/アルティアナさん避けてください!」

「・・・っ!」


しかし間に合わない。

手の平から放たれた凶悪な光線は左に飛びのいたアルティアナの右足の付け根を掠り、後方で巨大な蒼黒い放射状の爆発をもたらした。

爆発の後に残るのは完璧なまでに形の残った蒼き彫像。

大地も草木も動物すら結晶へと変える。

それだけではない。

掠った右足の傷口から発火し、じりじりと灼け始めたのだ。


「うっぐうう!んなぁあにこれ、叩いても消えない・・・!?」


冷たい。尋常ではなく冷たい。そして灼けるような痛みを感じるのだが、やけどとは明らかに違う。

それを感じたアルティアナは、右足を、斬り落とした。


「なにこの変な火ぃ!」

「Re:推測/恐らくですが、ソレは『蒼黒の咎火』。いくらアルティアナさんが死なないと言っても当たった場所を蝕み続ける焔を全身に浴びれば動けなくなりますよ!」

「否定する必要もない。その通りだ。あの狼の娘は毒を盛っていたがその焔はそれ以上。負ける要素が、ない」


だからこそだ。

そうミチは考える。

圧倒的な力の差、それを覆すのならたった1度しかないチャンスに懸けるほかない。

3人共その考えは同じであるらしい。

ミチはこの3人がどうして命を懸けるのか、それを知らない。

逆に何故ミチが命を懸けているのかも誰も知らないだろう。

しかし。

今この瞬間において彼女たちほど信頼できる仲間はいないと直感した。


宵闇の刀が音速を超えた速さで迫り、ミチの首を斬り落とそうとし、

ここしかないとサーシャは服で隠れている包帯だらけの体をさすりながら決意する。


「・・・!なにっ!?」


その合間に飛び込んできたサーシャに、白刃取りをされた。


「・・・・・・っ!!今までで、一番の、命がけの賭けだった・・・!」


あの時。

さも当然のようにマギアは恵の聖剣を片手で掴んだが、あれは失敗すれば指と首をそのまま斬られることになる背水の技である。

しかも今回は音速を超える刀。

まともな技ではない。

だからこそ、見た目のインパクトは絶大なのだが。


「チッ!こんなことが!?」


焦り、宵闇は必要以上に刀を力強く戻す。


「・・・・・・っぐ・・・ぅ」


サーシャの手は蒼黒の焔で灼けてしまいドシュウウウウ!と音を立てる。

その命がけで生み出したスキを逃さないとばかりに、


「Re:冷徹/計測完了、対魔王弾射出します」


アスタルトから飛来する無数の鉄の矢。

それを、宵闇は刀で一閃する。

空間に蒼黒い軌跡を残し、すべての矢を叩き落した。


「この程度か?対魔王弾とやらは」

「Re:肯定/はい。予想どおりの結果です。どうあがいても撃ち落とされるのなら・・・落とされることを前提で作戦を組めばいいだけです」

「・・・何を言って


地に落ちたはずの無数の矢から火花が勢いよく噴射され、地面をかすりつつ全方位から宵闇へと殺到する。

いくら宵闇であっても囲まれてしまえば被弾は免れない。

いつもであれば。

宵闇は、空中を走るように強烈なジャンプでその場所から脱し、地面に手をついて静止する。

のだが。


「・・・?なんだ、透明な・・・壁?」

「今だ、アルティアナ君ッ!」

「わあぁぁぁぁかってるってのおおおおおお!!!」


空中から両手を血管の浮き出たチェーンソーにかえたアルティアナが迫り、

宵闇は避けようとするものの、空気の壁に阻まれる。


「先ほどの10倍の厚みだ・・・!サーシャ君の賭けを無駄にはしない!」


アルティアナの刃が力強く振り下ろされ、


「・・・こんなところで使うのは惜しいが・・・


10属性魔法 『 宵 闇 』 発 動 」


そうつぶやきが聞こえた瞬間。


世界の時間が、止まった。


いや違う、ほんの少しずつ動いてはいる。


しかし。


(体が・・・動かない・・・だと!?なんだこれは!)


そんな空間で宵闇だけが普通に動き。

 

「・・・では、さらばだ」


4人共を巻き込む形で、ズバンッ!と、刀を振り切り、真っ二つにバラした。


まぎれもなく死という形で。



アルティアナは本能で悟っていた。


(・・・ああ、これは再生できなさそうだなぁ。胴体真っ二つだし・・・本当にここで死んじゃうのかぁ・・・)


じりじりと灼ける痛みがなくなっていく。

これは傷が治っているわけではない。

意識が徐々に消えかかり、痛覚が鈍くなっていっているのだ。

確かに一時期はこの本物の死を望んでいた。


(これでまぎあんともお別れかぁ。

もっと、まぎあんと、お話ししたかったなぁ。

私はここで死んじゃうけど、忘れないでいてくれる、かなぁ?

はーぁ、こんなことなら、まぎあんが出発するときキスでもしとくんだった。

でもこれでようやくこんな世界から逃げれるんだし、これはこれでよかったんだよね。

そうだよ・・・うん。

・・・・・・・・・・・・私の人生って、何だったんだろう。苦しんで苦しんでようやくまぎあんと会えて。

ここから私の人生が始まるに違いないって、そう・・・思ってたのに。

もう、終わっちゃった。

こんなにあっけなく)


そう思うと、意外な程に。彼女が意識していないだけで。


(死にたくない・・・っ!嫌だ、いやだいやだいやだ・・・っ

怖いよ・・・!さみしいよまぎあんっ、助けて・・・っ!)


ぎゅっと目をつぶり、子供のように、現実から目を背けて。


ふと、気が付く。

痛みが完全に消えたことに。


「・・・・・・??まぎあん・・・?」


そっと、目を開ける、とそこには、


「残念ながらマギアではないわよ。ま、あいつに代わって戦う覚悟はできたけれどね」


水色の髪。もはや聞きなれた不思議と上品な感じのする生意気な声。

それだけではない。

継ぎ接ぎなどは全く見受けられない綺麗な手足に、背が低めなよく見知った彼女とは違い、すらりとして背の高い美少女。


「・・・だ、だれだ、お前は?」


困惑するような宵闇の言葉に、彼女は答える。


「一回会ってるでしょうが・・・。ま、いいわ。この姿なら、本名を名乗ってもいいでしょうし。

私の名前はクー・レヴェル。

マギアの代わりにお前を殺す者の名前よ」



(・・・始めに会ったゾンビという女で間違いないはずだが・・・。あの時とはあまりに違いすぎる)


宵闇はかなり混乱していた。

それも当然である。

3回しか使えない10属性魔法という切り札を切り、確実に4人共を真っ二つにし、さらにその上から焼き殺した。

そこまでは間違いないはずなのだ。


しかしふと気が付けば原型すら残っていなかったはずの4人がひとまとめにされ生き返っていて、

その前にはいつの間にか継ぎ接ぎの無い大人版ゾンビともいうべき者が2メートルほどもあるバカでかい鋏を持って立ちふさがっていたのだから。


正直に言おう。


(俺は気でも狂ったのか・・・!?)


しかし現実逃避しても仕方がない。今はひとまず・・・。


「・・・クー・レヴェルとかいう貴様が敵。それが分かればいい」

「来なさい。かつて私が絶望した力の差っていうのを見せてあげるから」


左手に蒼黒の力を集中させる。

しかしクーはそれを眺めながら微動だにしない。

言いしれない恐怖、それをかき消すかのように一撃を、放つ。

巨大な蒼黒い放射状の爆発をもたらし、クーは真正面からそれを食らった。


(・・・・・・?防ぐ動作すら、見えな


どぐしゅぁ、と肉を引き裂くような音が聞こえ。

宵闇は、自分の体から金属の刃が出ていることに気が付き。


「・・・が・・・っは・・・!??」


後ろから刺されたと遅まきながら理解した宵闇は、ひるみもせずに後方へ斬撃を放ち、鋏を刺したクーの上半身と下半身を分離させた。


「はぁーっ・・・はぁーっ・・・、ごほっごほっ」


クーの死体の前で貫通した腹を押さえながら宵闇は考える。


(なんだ?何が起きた?確かにこの女は前回も転移のような魔法は使っていた。しかし、確かに蒼黒の焔は当たったはず・・・。なのになぜ無傷で攻撃を・・・?)


しかし相討ちのような形とは言え、勝った。

そう思い、4人がいる方へ向き直ると。


「あら、随分おなかが痛そうね?」


驚愕する後ろの4人とは裏腹にクーがどこから持ってきたのか椅子に座りながら紅茶らしきものを飲んでいた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうしたのよ?威勢が良かったのは始めだけかしらん」

「・・・今まで、俺は信じられないものをいくつも見たが、ここまでなんでもありな奴は初めてでな」


「ふん、何言ってんの?この程度でなんでもありとか言ってんじゃないわよ」



その瞬間。



世界が、丸ごと反転した。


比喩では無い。


ただそのまま、世界がぐるりと反転し。


あらゆるものが空に落ち始めたのだから。


「・・・なん・・・!!??」


幻覚とか、そんな容易いものではない。

いつの間にか紅茶を飲み終え、カップを投げ捨てたクーは、座っていた椅子に立ち、そのまま鋏を持って宵闇へと跳ぶ。

異常な状況下であっても宵闇の反射神経はきっちりと反応し、2メートルはあろうかという鋏と蒼黒を纏った刀が激突する。

しかし宵闇本人も、「空へと落ちている」身であり、踏ん張ることなどできない為、吹き飛ばされる。


(だが、これでいい。空中で追撃は出来な・・・


次の瞬間、

そんな常識など。

そんな考えなど。

意味など無いと思い知らされる。


クーは空中に突如できた魔法陣を蹴り、自在に空を駆ける。

その上、魔法陣から登場した揺らめくローブを纏う巨大な骸骨の腕が宵闇を握りつぶした。


「・・・ガッ・・・・・!!???じゅ、う属性魔法・・・!!!!『宵闇』!!」


それは周囲の時間だけを遅くする極限の魔法。

古の時、黄昏の魔王マギアから与えられた物理法則を超える力を発動する。

その力は今も如何なく力を発揮し、時を緩やかにさせる。


(これなら行ける。どんな力だか知らないが時の流れに逆らえるわけがない!)


そう心の中で叫び、刀を抜刀しようとして。


ガンっ!!


と、気が付けば地面に激突していた。


「へーすごーい、時間操作とかちょっと憧れるかも?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


気が付くと先ほどの状態・・・クーが椅子に座りながら紅茶を飲んでいる状態に戻っていた。

違うことは宵闇の体に握りつぶされたような痛みが残っている事だけだった。


「・・・さて。まだ続ける?」

「・・・・・・・・・・当然だ・・・ッ!」

「何しても無駄なのに?」

「こんなところで負けてなどいられるかッ!」


気迫をにじませながらカラクリを必死に考える。


(・・・そうだ、そもそもなぜこれほどまでの力を持ちながら初めから使わなかった?出会ったときに使っていれば面倒など起らなかったはず。気まぐれ?いや違う、特定の状況下ではないとだめなのか・・・?そういえば、先ほど逃げた兎と狼。あいつらは今どこに・・・)


しかし間に合わない。

クーの鋏の切っ先が、音速の5倍の速度で迫り、



「【魔の皇たる者足掛けならず】そうは言ってもいじめはダメだよぉ?」


深淵の闇に鋏の切っ先が飲まれた。

ソレはまさしく光すら飲む闇の門。

姿は見えないが、そこからの声にクーは反応を返す。


「・・・仲間を救いに来たわけかしら?」

「【元始の終焉孕みし空亡】未明の魔王、マッドアリスだよ。さぁ、帰ろダスク。こんな奴に時間かけてる暇ない。マギアを見つけたよ」

「・・・・・・ああ、分かった」

「はぁ?逃がすわけないでしょうが。纏めてかかってきなさいよ」


そういった瞬間。ミチが叫んだ。


「待て、ゾンビ君!そいつは、それは次元が違いすぎる!」

「・・・?何、知り合い?」

「【呈するは反魂】あなたたちと会ったことなんてないよねぇ?」


その声に、ギリギリと歯ぎしりをしながら、


「・・・そいつは遊び半分でフェアリーの国を滅ぼした魔王だ・・・!」

「国を・・・滅ぼした?」


クーの記憶ではフェアリーというのは、ドラゴン、悪魔に次いでの強さを持つ精霊種族。そう簡単に滅びるような国ではないはずなのだ。


「【憶なる残滓】んぁ、ああ。妖精さん可愛かったから全員翅毟ったことはあるけど、その時の生き残り?」


ふふふふっ、と上品で狂気に染まった笑い声をあげるマッドアリスなる魔王。

ずずずずずずずずっと闇の門から白く透き通った肌の左手が伸びる。

薬指の指輪が鈍く光る中、宵闇の手を取り、門の中へと引きずり込む。


「【未来を識る者居らず】じゃあまた会いましょうクー。共に同じ人を愛するものとして、今度会うときは、すべてが終わる時だと願っているわ」


実は先ほどからクーはマッドアリスに対して宵闇に対して使った力、『幽世』を使っている。

のだが、全く何も起きない。

そうしている間に、闇の門はゆっくりと掻き消え、

宵の時間ももう終わり、星々が輝く夜へと向かっていた。


ちょっと前に寝れないとか言っときながら最近10時間睡眠がデフォルトになっているそよ風と申します。

いやぁ、寒くなってくると布団に入りたくなり、出られなくなり、寝てしまうというコタツのようなループをしていました。

そのせいで若干首が痛いですが。

しかし私はなぜか自堕落な生活をしても太らないというパッシブスキルを持ち合わせているので健康的には多分問題ないでしょう。たぶん。


そういえば最近また合宿があったのですがそよ風さんはお金不足で参加できませんでした。

すると何も起こらず帰ってこれたそうです。

ははーん、さしずめ、このわたくしがYA・KU・BYO・U・GA・MI☆ということなんでしょうか?

これで次行ったとき何か起こったら・・・

いよいよそよ風とかいうのが部活から放逐され一人ぼっちになりそんな時に誰にも気が付かれなかった座敷童の女の子・庵ちゃんと出会い感動のストーリーが、始まりません。

普通に話のネタになるだけですねはい。

というわけで今回はこの辺りで。ここまで読んでくださった方に感謝を。



ゾンビ、いやクーが思っている程、『幽世』は万能でもないです。

そして当然、この力の元の持ち主とは戦うことになるのでそれまでにどう倒すか考えてると楽しい・・・かも?

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