幕間12・宵のはじまり(ダスク・マッチ)-----VS宵闇(Izanagi)
「・・・なんだ、これは」
約束通りの日時で広場に赴いた宵闇は、困惑していた。
十日前の活気などは微塵もなく、そもそも誰もいない。
小規模とはいえここで戦闘をしたのだから当然と言えば当然かもしれないが、
空に伸びる青い線。明らかに道を塞ぐ目的でおかれた荷物。
そして目には見えていないが隠れている者10人以上。
あげくの果てには、
「・・・・・・赤い長髪。豪華な和服。腰の長い刀。あなたが宵闇の魔王、だね」
「Re:確信/間違いありません。この独特な雰囲気もそれを裏付けています」
真っ白な忍者服を着た少女と体の切れ目から微かに機械音をさせる幼女。
「いかにも俺が宵闇だが。お前らは何者だ?」
「・・・・・・私はサーシャ。こっちは、アスタルト。あなたを倒すために来たの。この街の人全員を、ゾンビちゃんを、マギアを、敵に回してただで済むと思わない方が、いい」
宣戦布告となるこの言葉に、宵闇は彼女たちが意図することとは別のところで驚愕していた。
(この街の人間全て?それが黄昏のために?つまりあいつは既にこの国の首都を支配しているということか!?だとするなら俺たちは何か大きな勘違いを・・・?)
勇者と相討って、両者の死亡を確認が取れているのにもかかわらず、黄昏の魔王を名乗る者が魔王軍ではなく人間などというゴミを支配する。
その理由を宵闇はまったく思いつかない。
・・・実際は理由など無いのだが。
(・・・本人に問うが易し、か。分からないことを考え込んでも仕方あるまい)
「つまり俺を黄昏に会わせる気はない。そういうことか?」
「Re;決断/そういうことです。マギアにも恵にも手は出させません」
「・・・残念だ」
力の差が、分からないらしい。
強敵と戦い勝ち抜いてきた宵闇には、能力というほどのものではないが直感で相手の強さが分かるようになっていた。
それによればサーシャとゾンビは同程度、アスタルトは少し下だと分かる。
つまりこいつらは、一様に宵闇の抜刀を見切る力を持っていないということである。
(最近はこんな相手ばかりだな。腕がなまりそうで恐ろしいぞ)
久々の挑戦者たちの弱さに、呆れと同情さえしながら。
宵闇はゾンビにした事と同じく。
無数の煌めきを生みながらサーシャに光すらしのぐ速さの剣閃を、
避けられた。
否違う。剣閃の方が曲がったというべきか。
「・・・何・・・?」
『やはりな』
空に伸びる青い線・・・伝達魔法と呼ばれるそれから、冷静な女の声が聞こえてくる。
『目にも止まらない勢いの抜刀でコンマ数秒の間に何十回も斬る、などということをすれば当然強烈な摩擦が生まれる。しかし赤熱すらしないのは何故か。要するに煌めきというのはただのデコイで実際に斬っているのは一、二回なのだろう?』
図星である。
いくら宵闇の魔王であっても、とある手段を除いては物理法則を無視することはできない。
というより、その元ある世界のルールを壊したからこそ、黄昏は畏敬を集めていたのだから。
しかし看破されてもなお、全く動じない宵闇は前に立つ二人を無視し天から聞こえる声に問いかける。
「その通りだ。だがそれを差し引いても俺の抜刀はよけられないだろう。ならば、これはお前の力か?」
少し離れた個室でその声を聴くミチは舌打ちしつつ、伝達魔法を切るように指示する。
「あれぇ?いいのおそんなことしてぇ~。それじゃぁ認めたようなもんじゃんん?」
「仕方がないだろう。サーシャが個人の力で避けたわけではないと確信している以上隠す意味もない。それにしても私の神器<エンハンスタクト>を使って最大まで強化と弱体と絶対回避をしてもあれか。まさしく魔王だな」
神器<エンハンスタクト>。
勇者として召喚されたミチが女神から受け取った武器の名である。
効果としては単純で、能力を底上げするか、弱体化させるという物。
これの特殊な点は、対象が必ずしも生物でなくてもいいという点だ。
武器の威力を底上げすることもできるし、防具の硬さを変えることもできる。
これを利用し、相手との間にある「空気」を強烈に肥大化させ攻撃をずらす、それが絶対回避である。
「絶対回避が通用した以上物理法則を超えてくるような敵ではないことは分かった。命を懸けてくれた彼女たちには感謝してもし足りないな」
「だぁっぁからああ、それもアルティアナちゃんにまかせてっていったのにいい」
「馬鹿を言うな。宵闇がどこに出るか分からない以上『誘い役』のアルティアナにうろうろされては困る。それに・・・ここからが問題だろう」
「ゾンビちゃぁんの霊脈操作完了は一時間後だっていったよねぇえ?それまで時間稼いであの場所に行けばいいっていう作戦通りでおっけー?」
「ああ。・・・・・・気を付けろよ、いくら君でも死ぬ可能性はあるのだから」
「あっはっは!!面白いぃ冗談だねぇえええ?!
っていうかぁああ、
・・・・・・よくもゾンビちゃんに手を出してくれやがったなあの野郎。まぎあんにかわって私が殺す」
ふざけた調子とはケタ違いの殺意をまき散らしながらアルティアナは宵闇の元へと向かう。
一方、伝達魔法が切れたことを知った宵闇は、サーシャたちに問いただそうと視線を戻す、と。
二人は全速力で宵闇から離れていっていた。
「・・・・・・・は?」
摩訶不思議な回避、それを主体に戦いを挑んでくるものとばかり思っていた宵闇にとって完全に予想外だった。
「逃げた・・・のか?伝達魔法の声の女に力を貰えないからか?まあなんにせよ敵対した以上殺すのは仕方ない道理だ」
格下相手との戦闘に少しうんざりしつつ、
慌てもせず路地に入った二人を歩いて追いかける、とその時。
バシュバシュっ!!と上から矢が降ってくる。
が。
見向きもせず素手で当たる矢だけをつかみ取った宵闇は、
「やれやれ・・・弓の撃ち方くらい指南されていないものか・・・」
そう呟きながら撃ってきた屋根の上に向かって矢を投げかえした。
その矢は轟音を響かせ家を貫通したが。
(潜んでいた10人ほどの攻撃か。この程度なら追い立てる必要すらないな、巻き添えで殺せる)
だから、気が付かなかった。
家の中からドロッとした黒い液体が漏れだしていることを。
「・・・・・・傲慢も、ほどほどにすべき」
倒壊した煙の奥からクナイが飛んできて、
それを右手で振り払ったその奥から、鎖が飛来し宵闇の右手に絡まる。
そこでも不思議に感じる。
やけに鎖が古いもので、すぐに壊れそうなものであることに。
振り払い、鎖を地面にたたきつけ。
「いったい何がした
ズッッッドオオオオオン!!!
と、油に火花が引火したことによって大爆発を起こし周りの家ごとはじけ飛んだ。
「Re;歓喜/計算通りですね。本当に傲慢極まる人です、マギアのように」
「・・・・・・うん。あの時も、マギアは結局、ほとんど移動しなかった。絶対的な余裕は、似たような態度を生む。対マギア対策をしてる意味、あったね」
実のところ、恵たち4人は現在進行形でマギアに対する対策をこっそりと進めていた。
いくらマギアが今のところ悪いことはしていないと言っても魔王、いざというときに彼を止められる手段が必要だと考えたのだ。
黒龍をたおす時にも、今回にもそれが役に立っていた。
それに、だ。
「・・・・・・この宵闇ってひと、どう見積もっても、マギアより弱い。恵とガザニアがいたら4人でも勝てそうな気がする」
「Re;確信/そうですね、マギアなら腕の一振りで広場ごと砕くぐらいはしてきますから」
「そうか。ならばやはり黄昏は本物であるようだな。なおさら話を聞く必要が出てきた。
俺も、すこしばかり、本気を出すとしようではないか」
ぎょっとしたように轟々と唸る火柱から聞こえる声の方を見る。
赤い炎が、透き通る青い炎に変色し。
その中心で、燃えながらも表情一つ動かさない宵闇は、刀をゆっくりと抜き。
信じられないことを、呟く。
「開放、神器<天叢雲剣>。神と戦争すらした我らを、あまり甘く見るなよ?」
蒼炎。その強烈な柱は、天へと昇る。
それはまさに恵のエクスカリバーと同様の力の奔流だった。
驚愕に理解が遅れたサーシャは、ごくゆっくりと刀を横に振りかぶる宵闇の攻撃の回避が、出来なかった。
街の剣線上にあった建物、そのすべてが距離など関係なくすべて斬り落ちた。
そこに立っていたのは、宵闇と、サーシャをかばう銀髪の人影のみ。
「うぅわぁあお!すっごいやるじゃあん。さてさてお次はぁ、このアルティアナちゃんがぁ務めちゃうぞぉー!・・・途中で死んでも知らねーけどな」
「・・・面白い。面白いなお前は。いつか黄昏が言っていた突然変異といったやつか。丁度対等な殺し合いに飢えていたところだ、俺を失望させぬようにな・・・ッ!!」
光速の剣閃魔王と全身凶器の不死者。
狂気の戦いが幕を開けた。
文化祭準備で駆り出されていたそよ風と申します。
や、やばい・・・体力無い私には鉱山労働と同レベルに感じます。
文化祭が終わったらまた面白いエピソードでも生まれればいいのですがね~
さて今日はこの辺りで。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
恵たちがマギアさんに勝てる日は来るのだろうか?




