第三十話・「兎さんとのお約束が歴史に残るのかと思うと複雑だな」
人狼による襲撃から逃れるため、夜の先導に従い洞窟で一夜を過ごした・・・と言えればいいのだがアロマが起きた時すでに昼だった。
襲撃を受けたのが深夜で、そこから寝たため時間が狂ったらしい。
(マキナも夜もすやすや眠って・・・こいつらやる気あるのかしら。いや私も人の事は言えないけど)
ひとまずマキナを蹴って、夜を揺さぶる。
「・・・んみゅ・・・。あ、あろまさん・・・?」
「おはよう。間違えた、もう昼よ。おそよう」
アロマの視線を受け委縮する夜。
初対面の時のイメージというのはそう簡単に抜けないようだった。
(・・・別に怒ってないんだけど。こうも怯えられると話すら出来ないわね)
少し寂しく思うアロマ。
普段通りに話しているだけで避けられてしまうというのはいつものことではあるが、あまり好きではなかった。
特に夜のように同世代くらいの女の子に怯えられるのは。
そんな弱音は口が裂けても言わないと誓ってはいても感情を抑えるのは難しいらしい。
(仕方ないからマキナも優しく起こして・・・いや、やめた。そういやこいつ私がまどろんでるのをいいことに耳と頭撫でまわしてやがったな。あんな事されたらどんな人でも恥ずかしいでしょうが・・・っ!蹴り起こそうそうしよう)
昨日のことを思い出し微妙にまた恥ずかしくなりながらマキナの方を見る。
一度蹴ったのにもかかわらず彼は気絶でもしたようにねているようだった。
「うぉい、流石にそろそろ・・・っ!起きろ!!」
馬乗りになり胸倉をつかんで、がっくがくとロデオのごとく揺さぶると完全に力が抜けたマキナの体に意識が戻って来たらしい。
「・・・うっ、ぐ・・・もう、もうちょっと・・・あと3歩くらいでベットだから・・・」
「・・・?あんた夢の中でまで寝てるの?」
「・・・・・・・」
「いやだから寝るなってッ!!!」
1属性魔法
『礎たる浄水』
バッシャーン!という音とともにマキナの顔に水をぶっかけた。
「・・・ここまでのサバイバルは人生で初だわ」
「昼まで寝かせてたんだからいいでしょ」
「文句は歌鳥に言ってくれ。あいつが微妙な知恵働かせて長引かせるから悪いんだよ」
「・・・・・・夢に文句言ってどうすんのよ。起きたんだったら契約の話と錐蟻の話、始めるわよ」
馬乗りから立ち上がろうとして、気が付いた。
このままここで立ち上がったらスカートの中を完全に見せることになると。
「「・・・・・・・・・・・・」」
「?????」
マキナも気が付いたらしい。
夜は訳が分かっていなかったが。
にやにやと笑いながら、
「どうしたんだよ?さっさとどかないと話できないぞ?」
「・・・そうね、でもこのまま話できるわよね?今できてるし」
「・・・うん、俺のおなかに全体重載せてるわけだけど血が止まるよね。今ですら腹筋鍛えられてるんだけど」
「・・・・・・・へえ良かったわね、ひ弱なんだから少しくらい鍛えても罰当たらないんじゃない?」
「「・・・・・・・・・・」」
「はっはっはっは、いいからどけよアロマ・・・っ!」
「ふふふふふ、いいから目をつぶりなさいよマキナ・・・っ!」
顔は笑っていても二人はわりとガチだった。
まあ冗談の範疇ではあったが。
夜が不思議な顔で、
「どうしてこんなところでこづくりしようとしてるんですか?べつにあとでもできるのに」
などと言うまでは。
2属性魔法
『洗漣水無月(ビサイドスフィアVerレンクス)』
どばっっぅつっつつどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんん!!!
と、濁流によりマキナと夜が洞窟の壁にたたきつけられることになるのは、まあ必然と言えば必然だろう。
「はぁ・・・。さっきのことは忘れましょう」
「うんそうしよう。誰の得にもならないわこれ」
「・・・う、ううなんでわたしたたきつけられたんですかぁ」
「分からないならそれが答えよ。狼の貞操観念どうなってんの?」
そうぶつくさと言いながら3人はようやく話し合いを始める。
「それで、契約ってのは何かしら?」
「アロマはエルフのことが嫌いなんだよな」
「そうね。生まれ故郷って言っても情は微塵も残らなかったわ」
おい待て、とマキナは耳を疑った。
「生まれ故郷?兎のアロマがエルフから生まれたって言ってるのか?」
「まあね。でもうちの両親も周りの人も政治を司るジジイ共もそろって私のことを追いかけまわしてきやがったもんだから腹立ってボコボコにしたしもう無関係よ」
(エルフの突然変異、それがアロマだってことか?)
周りは兎も角、親にまで追いかけまわされた幼いアロマのことを考え話せないマキナに、
「あー別に気を使わなくていいわよ。今じゃ仲間もいるんだからね。で?私のエルフ嫌いとどう関係するの?」
「ああ。俺はそもそもさ、エルフを人類の傘下にしようと向かってたんだわ。だから俺に協力してくれたらエルフの処遇はお前に任せるよ」
「・・・・・・・・ふぅん?勝算は?」
「ある。っていうかここまでそろってて負けねえよ絶対にな」
言葉ではこういってはいるがマキナにして人生初世界初の異種族統合の試みである。
正直不安は大きかった。
考え込むアロマに『異種族統合は夢物語』だと思われればこの契約は成り立たない。
いっそエルフを潰してから協力を頼んだ方がいいか・・・?
と考えていると。
「・・・分かったわ。私は何すればいいのかしら?」
「え?」
「え、じゃないわよ。っていうか、私自体は一人でドラゴンに勝てるくらいには強いけど私の仲間は正直エルフとそう変わらないわよ?自慢じゃないけど戦力の9割9分9厘は私の力だし」
「アロマがいるのといないのとでは大きく違うさ。で、やってほしいことはただ一つ。魔王軍を倒すことだ。そのために他種族の力を借りてるんでね」
「なるほどね。首脳会議するって言ってたし本当にかなりピンチみたいね」
「それで、ちなみになんだけど。エルフに何を要求するつもりなんだ?できれば魔王軍を倒した後にしてほしいけど」
「・・・言う必要はないでしょ」
「まあな」
「・・・・・・あっさり引かれると調子狂うわね。私の仲間たちもエルフの国出身なの。だからあの子たちには家族の元に戻ってほしい。うちの両親と違って心配しているみたいだしね」
「ふーん・・・。まあ契約成立だな、責任重大だぜ」
「ほんとにね。ここまで大見得切って失敗しましたーとかやめてよ?」
にやりと笑う二人。
なんだかんだといってマキナとアロマは気が合うのかもしれない。悪知恵的な意味で。
・・・それに不服な子もいたが。
「むむむむ・・・。つまりどういうことですか?『じんるい』と『うさぎ』がきょうりょくして『えるふ』と『まおうぐん』をたおすってことです?」
「ええ、まあそういうことね。あれ?じゃあ世界初の異種族同盟は私達ってことかしら」
「そうだなー。歴史に残ったりするかもよ?」
「それはちょっと勘弁願いたいわね。後は錐蟻の方かしら」
そう、アロマが言った瞬間だった。
『今年の生贄は早く来たものだ。しかも3人ときたか』
地面がビシリと音を立てて割れ、巨大な蟻が姿を現した。
その登場の方法に流石の3人も驚きを隠せない。
「おいおい・・・さも当たり前かのように出てくるんじぇねえよ。お前みたいにでかい蟻が地中にうじゃうじゃいるかもしれないと思うと安心できねえっての」
「まったくね。また灰にされたいのかしらん」
「きりありさまがほんとうに・・・!いっぱいにたようなかたがいるんでしょうか?」
『・・・騒がしい連中であることだ。贄は黙って食われればよろしい』
「食われれば?要するにあれか。食料として生贄を出せ、さもなきゃ村を襲ってやる。そういうことか?山賊でもないってのによ」
『誰かは知らぬが人間、お前には分からぬことだろうよ。天敵のおらぬ場所でのうのうと生きるお前にはな。この森においては力が全て。勝者が敗者のものをすべて奪えるのだから』
「だったらこっちもそれでいいんだな?どう思うよアロマ」
「構わんでしょうよ。つか私もこの森に棲んでるわけだしね。あーでもマキナの事助ける前に私の耳を撫でまわしてくれやがったことを先に謝ってもらわないとね」
「ちょっ、いやそれはつい出来心で・・・え?」
そうテンプレ通りの言い訳をしかけたところで、
(耳を撫でたって、あれは俺の幻覚じゃなかったのか?じゃあどこからどこまでが現実で・・・)
そう考え込んだ矢先、錐蟻が、ガクッと崩れ落ちた。
「・・・は?」
またも後ろから。
あの時の声が。
「だったら私も暴力で物事を解決するバイオレンス依ちゃんになるけど、いいってことだよねぇ?まあ3年前私が殺戮の限りを尽くしたせいで数的にやばいのは仕方ないとしても・・・夜の友達に手を出すのはいただけませんねぇ!」
呪い殺されずに済みました、そよ風と申します。
では予告通り可愛い幽霊を探しに行った末路をお話ししましょう。
集合したのは夜の7時、1000円弱ほどの片道電車料金を使い行ったのですが、
駅から心霊スポットに行こうとしたとき唐突に雨が降り始めました。
しかも歩く距離もそれなりにあり、風もあったため普通に濡れまくり、テンションが下がるのを必死に抑えながらバカ騒ぎして心霊スポットに行ってみると、
街灯キラッキラ!車がびゅんびゅん横を通り過ぎ!あげくの果てには平然と犬の散歩をする近所の人々ッ!
・・・・・・心霊スポットじゃねえじゃん。
そういった問題に直面しまして、靴下も濡れてきて不快度係数が増し、帰ることになりました。
途中でラーメン屋によって晩御飯を食べて。
ここまでは、
ここまでは正直予想の範疇でした。
心霊スポットだからと言って幽霊が出るとは思っていなく、出たらラッキー、それが可愛い娘だったら尚更ラッキー、くらいの気持ちだったので。
久々に会った友達と遊びに行ったというのが正しいのです。
しかしながらここで終わらないのがそよ風のハプニングクオリティ。
夜12時頃になり、終電がいつなのかもキッチリ調べていた我々は「あーあー結局こうなるのか―(笑)」などと笑いつつ電車に乗り込みました。
まあその時点でも駅に行くまでに「台風を擬人化したらどんなキャラになるか」を議論しすぎて道を間違えたりしていたのですがそれは兎も角。
電車に乗り込み3駅目に差し掛かったところで、そよ風は気が付きました。
「・・・あれ?ここに来たときこんな駅あったっけ?」
はい。逆方面の電車に乗っていました。馬鹿です。
やべーやべーと最寄り駅で降りて反対側のホームに行って、ものすごく嫌な予感を感じました。
人一人いません。駅員さんすら。
激しい悪寒と恐怖が私を襲いました。
幽霊?そんなもの怖くありませんよ。本当に怖いのは・・・終電を逃したことでした。
そよ風もその友達2人もあまりのコンボに時刻表と時計を何度も見返します。
そんなことをしても冷徹な時間さんは戻ってはくれませんが。
しかし。
絶望の袋小路はこの時点で始まったばかりだと、まだそよ風は知らなかったのです。
タクシーで帰ろう・・・と落ち込みつつ、改札に向かうとそこにはこんな文字が。
「切符は駅員に手渡ししてください」
・・・・・・・えっ
改札などそこにはありませんでした。
手渡しって・・・。
そもそも駅員さんいないし!!
叫んでも誰も来ません。何もない出口から何もせずに出てもセコムすら来ません。
近くにあった箱に切符を入れて駅前に出るとそこには、
タクシーなどいませんでした。
それどころではないです。
人無し
道無し
街灯無し
あるのは木々と砂利道だけ。
何だこれは。ここは日本か?
あげくの果てには駅の看板がぼろぼろに取れている始末。
ちなみに携帯は圏外でした。
ガチ詰みです。
その中でも光明を見出すため、線路沿いに歩いてコンビニを探しお金をおろして
ホテルか何かに泊まろうとしました。
歩き始めると、本当にそこには街灯もまばらで点滅していて・・・。
すでに時刻は深夜1時。
完全にこっちの方が心霊スポットじゃねえか・・・と笑いながら(そよ風の友達二人は雰囲気にのまれていたのかかなり無言でしたが。)歩いて行けども行けども何もありません。
もう・・・ここで・・・終わりなのかな。
そう思った時でした。
たまったま通りがかったタクシーに乗せてもらえたのです。
正直これは本当に幸運でした。
あの人が通りがからなかったら我々は野宿コースだったことでしょう。
そのまま友達の家まで行き、泊まって、次の日に何とか自宅にたどり着きましたとさ。
率直に言って、楽しかったです。友達二人はあまりの事態に笑えてきたとか言って別の意味で笑ってましたが。
好きなんです、ハプニング。
こういうのも旅の醍醐味だと思います。
ここで終わっていたら、いつものそよ風ハプニングクオリティでした。
今回は終わらないんですねえ。後日談があります。
後日・・・というか帰って来た日。
洋服が雨でぬれていたのもあり、洗濯しようと洗濯機のふたに手をかけました。
そこのふたの裏にピンポイントで毛虫が張り付いているとも知らず右手で握ってしまったんですね。はい。
結論から言うと、超↑痛かったです。
刺されたような痛みでした。いや刺されたんですけど。
その後2日間そよ風の右手は腫れが引かなかったといいます。
まあ刺されたあと、「いったいなあ」とか言いながら風呂に入り、晩御飯を作って食べて、食後のデザートのアロエヨーグルトを食べて、ココアを飲んだ、そのあとでようやく対処法を考え始めた私も私ですが。
ちなみに今では治りました。刺された数十か所が小さな水ぶくれのようになっている程度です。
一時期は右手が左手の1,3倍くらいの大きさだったのでマウスすら握れませんでした。
幽霊の祟りだったのでしょうか?だとしたら地味な嫌がらせをされたものです。
皆さんも幽霊と終電と毛虫には気を付けてくださいね。
さてどうでもいい話を長々とスミマセン。
っていうかあとがきシリーズ本編より長くなるとか今後あるのでしょうか?
そうなったらいよいよ末期ですね。
ではここまで読んでくださった方に感謝を。
次回!錐蟻さん死す!デュエルスタンバイ!!
※予定は変更になる可能性があります




