第二十八話・「いやぁ、なんというか。君が素直で助かったよ」-----VS歌姫(Lorelei)
湿地の中にある町、リザルトゲーテに一泊したマギアたちはガザニアが予定した通り、シレーヌ達が住んでいるという岩場へと向かうため船に乗り込んでいた。そうはいってもマギアたち4人しか乗らない小型船だが。
ちなみに。
うろちょろしていた自称水の女神である蛙のへケトだが、思いつきでソレイン評議国の田園地方行って適度に雨を降らせて豊作にして来たら崇められるんじゃね?と言ったところ、ワクワクした感じでどこかに消えていった。
レインコートを着た緑髪の幼女の姿のままで。
どこの誰があんな尊大な幼女信じるんだよ・・・と哀れに思いつつも何も言わずに見送ったマギアもマギアだが。
そんなことが昨日あり、なおかつ深夜に人狼の里で襲われるなどしたため、休む時間もなかったマギアは一人でゆっくり流れる船からの景色を眺めながらぼんやりしていた。
そこに、
「なーにしてるのマギア?あ、もしかしてゾンビちゃんのこと考えてた?」
ニヤニヤとした感じの恵と、いつも通りのシレーヌが船の中から出てくる。
「・・・お前の考えてるような方向性じゃないと思うが、まあ気にはなるな。だがゾンビならうまくやるだろ、あいつがそう簡単にくじけるとは思えないしな」
「うーん、そうかもね。でもできる限り早くシレーヌちゃんを助けてゾンビちゃんを安心させてあげてよ」
「むしろ俺がいない方が力抜けるんじゃねえか?」
そう笑っていると不思議そうにシレーヌが聞いてくる。
「え、えっと、マギア様とゾンビ様は、ど、どんなご関係で・・・?恋人さんなら一緒にいた方が・・・」
「あー・・・まあなんていうか・・・」
「マギアとゾンビちゃんは結婚契約を結んだ仲らしいよ。アルティアナちゃんが言ってたし」
うんまってなんでアルティアナがそのこと知ってんの?と、恐怖に怯えているとガザニアが突然走り込んできた。
「『まずい、前を見てくれっ!!あれは・・・!』」
その冗談ではなさそうな気迫によって外の景色を見ると、急激な速さで船自体が加速しているのを感じ。
船の先頭を見ると、
とんでもない大きさの渦潮が目の前に発生していた。
「ちょっ!何あの渦潮まずくない?!!」
「『だから言っているだろうが!突然目の前に発生したんだ!』」
その言葉を聞いてシレーヌが叫ぶ。
「も、もしかしたらマーメイドたちの先制攻撃かもしれない、です・・・!」
「・・・で、どうするんだ?」
「なんでマギアはそんな平然としてるのっ!?」
混乱するシレーヌと恵とガザニア。
だから上空からいくつかの影が差してきたのに気付いたのはマギアだけだった。
「・・・あれは、セイレーンか?」
「はいっ!説明は後です、みなさんつかまってください!」
二人のセイレーンが両腕に抱き着きマギアを空中へと浮かせる。
同じように恵やガザニアも浮かせると、その下で船が渦潮に巻き込まれ真っ二つになっていく。
「ひやぁー・・・!危ないところだった・・・、ありがとう皆!」
「いえいえ、マギア様のお仲間さんなら当然ですよ~」
「ああーいいなあマギア様にくっつけるなんてぇ」
「えへへぇ早い者勝ちでしょー?」
姦ましい彼女たちの声を聴きつつマギアは今後のことを考えるのだった。
(・・・これはおそらく・・・)
(ふふふ、ほんっと馬鹿ばっかりね。これだから地上の能無しは)
そう考えながらシレーヌは拠点の最奥、そこの椅子に座る。
「機嫌よさそうだね~」
「あたりまえじゃん。サル共を騙すことほど楽しいことないって。ちょーっと優しくして助けてやればこんなもんしょ?楽で実益があるとか今時そう無いわー」
ケラケラと笑うシレーヌと話すのは半人半魚のマーメイドだった。
「いや~シレーヌは本当にえげつないことするねぇ~。強い人に言い寄って縋りついてここまで来させて海中牢獄に監禁の上服従させるとか~。外道もいいとこだよ~」
「はっ、それに思いっきり加担してるやつに言われたくねえよ」
全部嘘である。
なにが、とか言うまでもないだろう。
しゃべり方も、マギアとの契約も、マーメイドとの戦争の話も嘘嘘嘘。
シレーヌは自分のために他人を貶めることを厭わないし、悪魔契約のことはアロマが言っていた内容のほうが正しいし、セイレーンとマーメイドの仲はとてもいい。悪い意味で。
渦潮のことも自作自演である。
「それで~?あの人達たちはどこいったの~」
「睡眠導入剤を混ぜたご飯を食べさせて牢獄にぶち込んだ。もう出られないし後は楽しい楽しい服従させるお時間かな。魔王とか勇者とかまじで馬鹿じゃねえの?ごみくずじゃん、魔王軍とかいうのが来てもこりゃ余裕そうだなあ」
口が悪いのは元からである。が変わり身のひどさにセイレーンの仲間からも笑いのタネにされていた。
それは、
「ふん、いい外道っぷりだ。でもまあなんというか。君が素直に俺の言葉を信じてくれて助かったよ」
扉の裏で聞いていたマギアも同じだったようだが。
「・・・・・・・・は?なんでお前、え?」
「・・・・・・・・えぇっとぉ~?」
「うん?悪役ごっこはもう終わりか?神様にお祈りと懺悔は?この俺を騙したツケは高くつくが今スグに土下座したら辛うじて許してやるよ」
不敵なマギアの言葉に、シレーヌは笑い声を漏らした。
しかし不思議そうに首をひねる。
「おやぁ?驚いてはいないみたいだね。なんでだ?」
「・・・初めにおかしいと思ったのは悪魔契約の話だ。少なくとも俺はそんな話聞いたことが無い。
あと、お前、リザルトゲーテに着いた時矛盾したこと言ってただろ。
来た時は『・・・で、ですね。わたしもこの町を通ったときこわかったですよ・・・』
って言ってたのに、入った後には『・・・・あ、あえっとわからないです。私は飛んでたので・・・』ってな。嘘つくときはちゃんと言い分を貫けよ」
「チッ、いちいちそんな言葉覚えてやがるとは女々しいやつだな、マジでうぜぇ」
「・・・ほんとに性格激変してるオイ。さて、話は終わりにしてお仕置きだな」
「ふふっ、あはは!!!はあ?まーぎあ様ぁ、あんたがどんだけ強くて自信家なのか知らないけどたった一人で私たちに勝てると思ってんのぉ??睡眠薬の効きが悪かったみたいだけど今すぐ眠らせてやっから安心してよ」
「流石に自信過剰だよぉ~。起きたんだったら仲間を助けるなり、一人で逃げて仲間をもっと連れてくるなりしないと~。セイレーン2208とマーメイド3万をどうやって切り抜ける気~?」
「セイレーンの数すら嘘だったのかよ、徹底してるな。で、なんだって?どう切り抜けるか?そんなもん、
一 つ し か ね ぇ だ ろ 」
右側の岩壁にこぶしをたたきつけたその瞬間。
セイレーンの拠点が消し飛んだ。
比喩ではない。最奥、つまりは海上の岩場の奥にあった場所が。
セイレーン2000強が住まう場所が。
丸ごと消し飛んだのだ。踏み込みすらしていない一撃で。
ばらばらと悲鳴を上げながら空中のセイレーンたちが落ちてくる。
そこでようやくシレーヌ達は気が付いた。
外の惨状に。
周りにあったはずの岩場浅瀬は総じて消え失せ、快晴で波もあまりなかったはずの海は新たに生まれたいくつかの「海峡」に荒れ狂い、謎の渦潮や海流が無数に発生していた。
その中で海に精通しているはずのマーメイドたちが流されないよう必死に泳いでいた。
天変地異どころの騒ぎではない。
世界の終わりレベルである。
「は?これ、どう・・・」
「3万だかなんだか知らないが、魚と鳥程度が何ができるのかしらん。とりあえず適当にそのあたりをたたきつけておくだけでこの様だろ?大したことねえのはどっちだろうな?」
「・・・・・・・・ふぅ、ははっあはははははははははははっははははは!!!!!いいじゃん流石魔王様!でぇ?これだけで勝った気なわけえ?私覚えてるよ、私の『歌声』で強制的に動かされたのをさあ!【今直ぐに跪けッ!!】」
はぁ、とため息をつき。
恵から借りた剣をおもむろに構える。
「・・・・・・あ、れ?あの、えっと・・・?」
「あんなもん、ただのフリに決まってんだろ?その辺が素直だって言ってやったのに」
「あ~あの、ごめんなさい~マーメイド、は、ゆるして~」
「おまッ!?」
そんな仲間割れらしきなれ合いを、振り下ろした剣が黙らせた。
なぜなら、シレーヌ達は見てしまったからだ。
突如薄暗くなったこの場所を。
わざと外したのであろう剣線に沿って左右に生み出された200メートル級の津波を。
莫大な剣風と津波によりばらばらに吹き飛ばされるセイレーンとマーメイドたちを。
モーゼの十戒よろしく左右に分かれた海とはるか彼方まで切れ目が入った海底の新たな海溝。
環境破壊をし尽くしたマギアにシレーヌはついに黙り込み、崩れ落ちた。
「・・・・・・これが、黄昏の魔王・・・。世界を平定した怪物・・・ッ!」
「さて。このまま滅ぼしてしまってもいいんだが、最後の最後に優しさで聞いとくわ。土下座して、謝ったら、多少は許してやるよ」
その言葉に反発する声は上がらなかった。
シレーヌとマーメイドの子を連れ、リザルトゲーテに戻り、避難させていた恵とガザニアに会う。
「いやー・・・流石にマギア強すぎない?」
「ふん。俺以外のやつが貧弱なんだよ。で?セイレーンのトップがシレーヌとして、マーメイドのトップらしきお前は?」
「あ~違いますよぉ、マーメイドのトップはぁ~・・・」
ふーん違うのか、と軽く考えて、その次の言葉に驚愕することになる。
「マーメイドのトップはミューさんっていいます~。ライブラ・ミュー・メーアさんです~」
ハプニングに愛されてやまないそよ風と申します。
さて久々の投稿ですが、私が5日間何していたかをお話ししましょう。
実は前、合宿に行った皆と試合に出場しに行っておりました。泊まりで。
その時にまたもや起きたハプニングについて今から語りましょう。
まあ結論から言うと、
試合直前にレンタカーのエンジンがかからなくなりました。
いやーひどいものですね。一応2台あったためなんとか間に合いはしましたがまっったく動きません。
どうやらバッテリーあがりらしいのですが、ブースターケーブルをつけても煙が出るだけで恐怖しか起こりませんでした。
しかたなくレンタカー屋に電話し、車修理の人に山奥まで来てもらい、エンジンをかけてもらいました。
よしよしこれで何とかなったな、とこの時は皆が思ったものです。
誰が予想したでしょう、
試合会場の駐車場でまたもや止まるなどと。
しかもその時は帰る時だったため至急駐車場からでなければいけなくなるなどと。
修理の人をよんでも間に合わない。
ケーブルつないでもやっぱり煙しか出ない。
試合を動かしている方々も集まってきて色々な案を出してもらうも、何一つとして改善しない。
その時誰かが言い出しました。
「もうこれ・・・車押すしかないんじゃね?」
車は自家用車ではなく9人乗れて荷物も置けるトラックのような大きい車です。
始めは皆冗談だろうと笑っていましたが、いよいよ時間が迫り。
はい。押しました。試合の運営の人たちと共に。
なんというか、あまりの事態にテンションがおかしくなり皆馬鹿みたいに笑いながら超ハイテンションで押しました。
運営の人たちとものすごく仲が良くなった気がします。連帯感はんぱじゃなかったので。
なんとか車を敷地から出して、夕日を浴びながら歩く姿はもはやアルマゲドンでした。
笑いすぎて叫びすぎて喉かれましたけど。
結局その後車修理の人にまた来てもらい、エンジンをかけ、その足でディーラーのところに向かったところ、どうやらバッテリー自体が弱くなっていたらしいです。交換してもらったあとは普通に動きましたとさ。
いやはや本当に私たちがどこかに行くとハプニングしか起こりませんね。
滅茶苦茶楽しかったですが。好きなんです、ハプニング。
またきっと楽しい予想外があると期待しておくことにします。
さて、ここまで読んでくださった方に感謝を。次回は明日明後日かな?
そういえばミューって布団にくるまっているよね。これも伏線でした。




