幕間7・紅き闇とメイド少女1(クリムゾン・ダウン)
「・・・・・・これは、どうしたもんかな」
普通にしゃべれるんだったら初めからそうしろよ!と、ここにマキナがいたら言うだろう。
ライブラ・ミュー・メーア。布団にくるまる彼女の苦々しい表情の中にはいつものようなふざけている様子がなくなっていた。
その円卓が置かれた部屋の中には元革命軍リーダー、ルールと騎士長エンブレ、そしてとても落ち込んでいる様子のメイド、ユリ。普段マキナの席である空席の後ろに立ち考え込むルーレ。
更には小さなウサ耳を持つ、ヒューリーまでいた。
「私が・・・私が馬車で気絶などという不覚を取らなかったら・・・っ!」
「いや・・・それは仕方がないだろう。どのみちやられていただろうからな。我々とルールの連合騎士団を一人で殺さずに倒れ伏させるなど、そこのヒューリーの言う通りアロマという者が化け物であることを示している」
「まったくだぜ。そんな化け物に勘違いで襲われたとはついてねえ」
ユリの自虐にエンブレとルールが慰める。
ヒューリーも申し訳なさそうにしながら、
「勘違いで襲ったのは本当にごめんなさい・・・。でもそのアロマさんがマキナさんを助けに行ったので助かっている、はず、なんですが・・・」
「そいつすらもなぜか帰ってこない、ってことみゅーな。濁流の川に流されたのかもみゅー・・・」
それが意味するのは生存しているかどうかすら分からないということ。
それが意味するのは・・・マキナが帰るまでソレイン評議国の動向はミューたちに丸投げされたということだ。
今まではマキナが仕事を回して来て、マキナが判断して、それを確認して書類にまとめるといったことしかしていない。
それ故にこの評議会が本当に評議するのは初めてとさえ言えた。
そんな状況下で一言も言葉を発さない彼女に、ルールはそっと話しかける。
「・・・ルーレ。大丈夫か?」
「・・・・・・はい。大丈夫です。ご主人様が生きている確率は、亡くなった確率よりはるかに高いですから」
その言葉は自らに言い聞かせている部分はあったが、ほんの少しだけ自信もあった。
(ご主人様は異世界人です。だったら恵さんと同じくそう簡単には亡くなったりしないはず・・・。それにそのアロマという人もご主人様なら説き伏せることができる。だったら今私がご主人様のためにできることは・・・)
アロマのことを呼び捨てにしているあたりから嫌悪感がにじみ出てしまっているが。
ルーレ自身そんなことに気が付く余裕なく言葉を紡ぐ。
「・・・ご主人様が帰るまでに起きるだろう問題点は2つです。
1つ目は、この国が頭に戴くご主人様の一時不在によって人からの不信感が高まってしまうことです」
実は、ルーレは色々なことをマキナから聞いていた。基本的な戦略から、農工商の知識、更にはソレイン評議国といいながら実質独裁に少しレールをつけているだけと変わりないことなどを。
その膨大な量を覚え、使えるルーレも十分化け物なのだが。
「この不信感に関しては仕方がありません。ここから実績で信用を得ていくしかありませんから。ただ今からの動きによっては更に不信感をあおる結果にもなる可能性がありますからそこに気を付けましょう。
たぶん・・・大丈夫です。ある程度は、ですが」
「大丈夫って・・・それ根拠あるのかみゅー?」
「はい。ご主人様がエルフを相手にすると決めたのは『首脳会議』の手紙が来る前の話。つまりそれは他国に手を出しても大丈夫なほどソレイン評議国の安定が図れるからこそだったんだと思います。だから無理して私たちが動く必要はないんです。もう安定してるんですから」
その言葉になるほどみゅーなーと納得するミュー。
他に異論が無さそうなことを見てルーレは次の話題に入る。
「2つ目は、ご主人様がエルフをどうやって倒そうとしているのかが分からないことです。『首脳会議』にご主人様が間に合わなかった場合、その分エルフを止めるのが遅れ、その分ほかの国への対策が遅れ、その分のタイムラグに魔王軍は付け込んできます。だから何とか期日通りに事を運びたいのですが・・・」
「・・・そもそもエルフを叩き潰すなんて話になるあたりから間違ってる気がしますが・・・」
そう苦々しい顔をするヒューリー。いつもいつも殺し合いをしている彼女からすると人間がエルフを潰すなんて夢物語に聞こえるのだろう。
「いえ、ご主人様が言ったことなので、潰す方法があることは確定事項です。もし最悪、ご主人様が間に合わなかったら・・・私が考えた方法で併合しようと思います」
「「「え?」」」
ルーレの言ったことに驚愕を示す。
マキナのやろうとしていることは分からないが、それに代用する策があると言い切ったのだから。
それはどう考えてもマキナの域にルーレが足を踏み入れているということなのだから。
しかしルーレは不安を隠しきれずに策について話し始めた。
「エルフは今かなり食料に関してカツカツです。食べていくのがやっとというくらいに。だからそこを利用しましょう。食料を渡す代わりに武力を貸せ、というわけです。更に、魔王軍のトップ、東雲の魔王リリスは我が国にいる黄昏の魔王というひとを恐れているようでした。エルフとソレイン評議国が組めば不用意に手は出してこない・・・はずです」
「・・・なるほどな。流石ルーレ、それなら今やっちまえばいいんじゃねえか?」
「ただ問題があって・・・平等な条約だと相手の都合で無くされてしまう可能性があるんです。いざというとき、魔王軍と戦うときになって逃げられでもしたらシャレにもなりません。そこを埋める手段が・・・、圧倒的優位に立つ手段が、私には分からない・・・」
そして、ここでは言わないが。いや言うなとマキナから言われているため言えないが。
(この機に乗じてご主人様兄弟姉妹が動く可能性がある・・・。特にレン様とシュレフィスト様。彼女たちの怪しさは4対6でシュレフィスト様のほうが怪しいから、レン様の方に話を持って行って、釘を刺すのと監視役を付けるのを一挙に解決したと聞いたときは感動しましたが)
それだけでもない。マキナがいない今ならと不審な動きをするものも出てくるだろう。
あまりの問題量に頭を抱えるルーレに、ミューがさらに驚くことを言った。
「・・・ルーレもこの円卓会議の中に入って意見してほしいみゅーなー。今までマキナの事を一番見てきたのはルーレだから、彼の代わりを務めるならルーレしかいないみゅー」
「・・・っ!?わた、しが、ご、ご主人様の代わりを・・・!?む、無理ですよ!」
「いやマジにルーレはすげえからな。おれは賛成するぜ」
「右に同じだ。それに、マキナ王子のことだ。ルーレさんにいろいろ考えてほしくて考えを教えていたのではないかな?」
そう言われて自分がご主人様に期待されているのかもしれないと思ったルーレは腹をくくった。
「・・・わかりました。ご主人様が不在の間は臨時で私も会議に参加します」
習慣的に誰もいないマキナの自室に訪れたルーレは、月明かりだけが窓から入る部屋に身震いする。
こんな光景がいつまで続くのだろうかという恐怖に。
バルコニーに出て少し欠けた月を眺めながら、
(ご主人様が作り上げたこの国をおびやかすものは、絶対に許さない)
そう決意したのだった。
同じ王宮に、狂気に満ち満ちた真なる怪物がいることを知るのは、まだ先の話である
最近新聞を取り始めたのにあんまり読んでない残念系ハリケーン、そよ風と申します。
寝たら元気が出ました。やっぱ睡眠って重要だ・・・。
そんな当然すぎることを今更学んだそよ風さんでした。
さてここまで読んでくださった方に感謝を。次回は気合で明日出します。
ルーレとゾンビとマギアとマキナ。4人(3人)の戦いが始まる・・・!




