幕間6・宵闇と継ぎ接ぎ少女2(ダスク・オブ・ディタミネーションガール)
「・・・唐突で悪いが君、ドラゴンに襲われたことがあるか?」
「何?新手のナンパかしら。襲われたっていうか戦って・・・まあ負けかけただけよ」
気まずそうに眼を逸らす彼女に宵闇は確信した。
噂の少女はこの子だということに。
運が良かった、と本題を切り出す。
「なら君を助けた男のことを知っているか?俺はその男と話がしたいんだが」
「・・・まあ知ってると言えば知ってるわよ。伝言くらいなら頼まれてあげるわ」
「いや直接でないと意味がないのだ」
「取り敢えず自己紹介お願いできるかしら。あ、ちなみに私はゾンビよ」
「・・・・・・ふん、仕方がないな。俺の名は【宵闇の魔王】ダスク。黄昏の魔王と名乗るものを探している」
そういった瞬間ゾンビは驚いたように眼を見開き、スッと右手を後ろに回す。
名乗ったのはミスだったか・・・?と思いながらもゾンビの動きには気が付いているが宵闇は警戒さえしない。
負けるはずがないという圧倒的な傲慢さから。
「・・・へぇそうなんだ。もしかして臨死魔王のお仲間さんかしら?」
「臨死魔王?なぜそこであのゴミクズの名が出てくるのか知らないが、あれは俺が殺しておいた。それだけの関係だな」
「・・・・・・ふぅん」
ああ、まずいわね、とゾンビは冷や汗をかき始める。
臨死魔王相手にゾンビは有利に戦えていたが、最終的にアルティアナと二人がかりでも逃した相手だ。
それをたやすく殺したのなら・・・
(無理。勝てっこないわね)
最悪宿まで飛べばいいかしら、とそこまで考えたところでアルティアナの言葉がよぎる。
『まぎあんに見捨てられたら?それは死ぬよりも怖くない?』
(・・・・・・いやまあいいか別に。むしろ捨ててもらった方が楽かもね)
「それで?マギアになんの用なのかしら?」
「我々魔王軍につくのか、つかないのか。それだけだ。だが仲介などいらないし俺と黄昏はそんな仲ではない」
「知り合いなのね」
「はるか昔は好敵手、今では戦友だ。さて分かったら案内してくれるだろうか?」
「案内はしてあげるけど、たぶんってか絶対マギアはあなたたちにはつかないわよ?戦友なら分かってるでしょ?」
「その時は・・・
東雲や暁の前では言わなかったが、もし黄昏が敵対すると分かった場合、
俺の持つすべての力を使って殺す」
(つまりマギアと同等レベルの強さを持ってるわけね。どーしてこうもこの世界はインフレしてるのかしら)
つい最近マギアから教えてもらったインフレという言葉を使いつつ、ため息をつく。
(コレ一択じゃない。断ったら私も腰の刀でバッサリでしょ?さっさとマギアに押し付けてこの国から出るべきかしらねー。っていうかそもそもからおかしかったのよ)
そう思いながらゾンビは思い出す。
(出会ったその時に結婚式あげさせられて従属させられて。まあ別にマギアは命令してくるような奴じゃないけど。
それでそのまま町まで降りて知らない間に宿屋の店員にされて。まあ私を心配してくれてたのには驚いたけど。
お次は王国に歯向かうような組織に行って世界征服宣言までして。まあマギアなら良い支配者になりそうだけど。
同じ部屋で寝ることになって無理やりベットに寝かされて。まあ色々気を使ってくれてた優しさは感じたけど。
最後にはドラゴンとまで戦うことになって助けられて。かっこよかった・・・・・・・・・ってあれ?)
長々と考えて。
ようやく気が付いた。
マギアに対する悪口が一切出てこないことに。
ゾンビから見てマギアは完璧な人ではない。実際そうだ。
しかしそれでも、彼女はマギアの傍にいたいのだ。
いつもの掛け合いが、いつもの光景が、いつもの彼が。
その「いつも」になった日常から、離れたくないのだ。
それが例え、今までゾンビがあって来た冷酷で悲惨な人生とのギャップであったとしても。
ゾンビは、クー・レヴェルというヴァンパイアの正統なる血族である彼女は、自信を持って言える。
今が、彼女の人生の中で最も輝いている時間だと。
「・・・?何を、しているのだ?」
宵闇には全く理解できなかった。
5人の魔王が持つ各特色、そのうち宵闇は戦闘だった。
真正面からの1対1の戦闘において宵闇は一度として負けたことが無い。
それは黄昏相手でも変わりない事実である。
それを知ってか、宵闇に挑むものはもはやいなかった。
だからこそ目の前のこの光景は見たことないものだった。
ちっぽけな力しか感じない少女が、刃物と言っていいのか分からないレベルの鋏を向けてきていた。
「見てわかるでしょ?それとも目、見えないのかしら」
「勝てるはずがないだろう。ドラゴン1匹に負けるような君が。死にたいのか?」
「ふふっ、死にたくはないわね。でもそれよりも重要なことってあるじゃない。受け売りだけどね」
「・・・ふぅ。なるほど、そういう人間か」
その瞬間だった。いや最早それは瞬間という言葉すら超えて刹那とでも言おうか。
光すらおいていくような速度で、ゾンビの右腕が落ちた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「これで、分かったか?これから例え千年億年たとうと貴様は俺には勝てん。触れることすらかなわん。もう問答はいらぬな。次は、首だ」
死に恐怖しない生物など存在しない。
それは鉄則であり、人間だろうが悪魔だろうがドラゴンだろうがそうだ。
死の恐怖を塗り替えるような感情を持つなどありえないと考えたところで。
目の前に巨大な壁が生まれた。
「エクスキューター、私が飛ばせる中で最大最強の遺跡の主よ・・・っ!」
ソレは体格約30メートル超の人間のような上半身を頭に生やす大蛇だった。
広場の真ん中に顕現した死者の魂すら食らうとされる大蛇に、人々はチリジリになりながら逃げていく。
「アルティアナ、臨死魔王、そういう強敵に会いすぎてたから切り札をキープしてて正解だったわ」
片腕になりながらも笑うゾンビに、宵闇は呆然と返す。
「・・・血が出ていない・・・?どういう仕組みかは知らないがなぜ死を恐れない・・・?」
「ははははっ!」
宵闇の言葉に対して自然と浮かんだことに自分で笑ってしまった。
「___愛は何物にも勝る。そういうことかしらね」
黙りこくる宵闇を餌と認識したのか、エクスキューターの名を冠する大蛇は地盤ごとかみ砕き、
バシュッ、と輪切りになった。
「・・・やれやれそんな言葉を未明以外から聞くことになるとはな。だがどうする?現実に、君は俺に勝てない。裁かれるのを待つ罪人だ」
「・・・はっ、ストックならまだあるのよ?絶対マギアには触れさせないから」
「分かった。もういい」
ゾンビの視界が、突然無数に煌めいた、
と、思うと地に倒れ伏す体に驚く。
「え?」
「・・・・・・10日だ。10日待つ。この広い王国から黄昏を見つけ出すのは俺一人では無理だし、まさか片っ端から聞いていくわけにもいくまい。だから10日後また会いに来るとしよう。それまでに覚悟を決めておくのだな」
「ガッ・・・う・・・わたしが、まぎあに、すがりつく、とでも・・・おも、ってるの?」
「それもある。しかし黄昏との約束だからな」
理解できないことだけ呟き、宵闇は去っていく。
そこに残ったのは、バラバラにされたゾンビの体と、
「・・・・・・・・っ」
恐怖に支配されるか弱い少女の心だけだった。
毎回深夜(早朝)投稿なそよ風と申します。
いやいつも書き始めるのは18時くらいから書き始めるのですが展開を考えてフラグ建てて回収してこまごまと描写しているといつの間にかこの時間です。悲しいね。
さてここまで読んでくださった方に感謝を。次回は明日出しますたぶん!
今回のゾンビと宵闇の会話を読んで「あれ、おかしくね?」と思ったあなたは、とても鋭いですね




