幕間5・宵闇と継ぎ接ぎ少女1(ダスク・オブ・ディタミネーションガール)
時は、さかのぼる。
ソレイン評議国設立から2日たつ。
どこかの元王子が評議国の内政をし、どこかの偽魔王が依頼をこなしている頃。
【東雲の魔王】リリスは王の間にいた。
そこにはあと二人いて、そのうちの一人、赤い長髪をまとめ和服を着ながら刀を持つ男に話しかける。
「・・・それでどう思う?宵闇。本当にあの、黄昏が復活したと思う?」
「考えられぬな。死者蘇生、そんな魔法など存在せんだろう?即ち不可能だ。だが・・・・・・」
その先に続く言葉は出てはこなかったが、リリスには良く分かった。
『あの【黄昏の魔王】ならその不可能すら飛び越えてしまうかもしれない』と。
「くそっ、なぜだ。なぜ今になって・・・っ!」
そのリリスの毒づきに誰も反応しない。その言葉は実質的に黄昏の魔王の復活を信じたことになるのにもかかわらず。
そのくらい彼女たちにとって【黄昏の魔王】は恐怖の対象だった。
そのくらい彼女たちにとって【黄昏の魔王】は信仰の対象だった。
圧倒的な畏怖と畏敬は、その情報が人間からもたらされたものであっても変わりはしなかったらしい。
実際、リリスは慎重ではあっても臆病ではない。マキナとの交渉の時、リリスは多少の犠牲を払ってでもソレイン評議国を滅ぼすつもりだった。
なぜなら、
「ソレイン評議国は、住みやすい気候と土地の中にあり戦力の分かりにくい獣人たちも存在していて正にブラックボックスだ。だからこそ黄昏が隠れられていたというのか」
「じゅーよーなのはそこじゃないよねえー」
今まで黙っていたもう一人、様々な色で着飾ったピエロのような恰好の少女は青白い髪をいじりつつ不敵な笑顔を崩さず話す。
「黄昏ちゃんがーいるかいないか、いた場合どー対処するか、そこだよねー」
「・・・ああ、少し取り乱してしまったがその通りだ」
「うむ、いたとしても最近増えている『自称魔王様』の可能性もある」
自称魔王様。宵闇と呼ばれた男のその言葉に二人は失笑する。
「そーだねー、最近だと【臨死魔王】だったっけー?黒龍をけしかけた事しかできなかったくせにぃー、さも自分の手駒みたいに言ってたー。あははははっ、さーいこう!一発屋としては合格かなあー」
「ふふふっ、あれは確かに笑えたな。それに宵闇が〝木刀〟を使って殴ったら簡単に分離して。あの顔は傑作だった」
「笑い事ではあるまい。我ら5人に与えられた【魔王】の称号を軽々しく名乗りおってからに・・・」
黄昏、東雲、宵闇、暁、未明。
はるか古に世界の覇権を争った彼ら彼女らは、自らの名に確固たる誇りを持っていた。
それを愚弄した者を許すはずなど、無い。
「それなら、未明にはこの事を伝えない方がいいな。ただでさえ黄昏が消えてから荒れたんだ。生きているのかいないのかそこをはっきりさせるべきだろう」
「・・・やはり直接会いに行くべきであろうな。偽物であろうと本物であろうと戦闘は避けられなさそうだ」
前者は、名を騙る愚か者を断罪するという意味で。
後者は、どんな手段か生き返ったのにもかかわらず何故かコンタクトを取って来ない上、人間の国にいるという行動から会いにくる気が無さそうだという意味で。
「まー東雲ちゃんは今まで通りでー、宵闇ちゃんは会いに行くってことで―。私は私で適当かつ適度に動くよー」
暁の魔王の適当さに、昔散々(敵だった時も味方になった後も)苦しめられた東雲はため息をつきつつも了解する。
そこに言いにくそうにしながら宵闇がつぶやいた。
「・・・もし、黄昏に今の我々の現状を話したら、
ゾワッッッ!と空気が変わった。
そこまで言いかけて、東雲と暁の殺意すらこもった瞳に睨まれ言い直す。
「なんでもない。生存を確認した場合どうする?それに逃げられたら?」
「そこからは恋人同士、黄昏と未明に任せるさ。もしその黄昏を名乗る男が国を出ようとしても、北に我々魔王国、南に暁の眷属・ウスバカゲロウ、東に私の眷属・錐蟻、西に未明の眷属・水の女神がいる。逃げることなどできんさ。最悪、ソレイン評議国を滅ぼすとき敵になるが・・・。その時はその時だな」
「うー、そっだねー。未明ちゃんはーほんっとに気持ち悪いくらい黄昏ちゃんにべったりだったからねー」
ころっと態度を戻す彼女たちに苦笑しながらも宵闇はソレイン評議国へと向かうのだった。
(これは・・・確かに大した革命だな)
と、ソレイン評議国の大通りを歩きながら宵闇は感心する。
実はこの男、昔この国に来たことがあった。その時は個人的興味をそそられた人物と戦いに来ただけだったので今ほど眺めまわしたことはないが。
(身分を無くすという大規模な改革の裏で、明らかに商業に対する改革もしているな。アメとムチか、不満が出にくい理想の動き方だとはいえ、もう少し不満があってもおかしくないがそれも見受けられない。マキナとかいう人間、大規模洗脳魔法でも編み出したのか?)
見る者が見れば異様といえば異様なこの平和に首を傾げつつ、情報にあった『ドラゴンを素手で投げ飛ばした男』がいたという大時計広場にやってくる。
聞いたところによると青髪の少女に襲い掛かる「狂化」ドラゴンの爪を軽々と片手で受け止めたらしい。
そんなことができる者がただ者であるわけがない。その者自体が黄昏でなかったとしても何か知っている可能性が高いと考えた。
どんっ、と誰かにぶつかった。
「おっと、済まない。考え事を・・・
紳士で通っている宵闇がぶつかった相手は。
「ええ、構わないわ。私の方も荷物が多くて前がみえずらかったしね」
体に無数の縫い目が走る、ツギハギで水色のくせ毛をした少女だった。
ついに幕間に「1」とかいうナンバーを付けたそよ風です。
それもう幕間じゃないよね。知ってました。もっというならこうなることは初めから予定通りです。
後々になると徐々に幕間という名の別視点の話が増えて・・・
どうなるかはお楽しみに。
さてここまで読んでくださった方に感謝を。次回は明日明後日に!
時系列的にこの幕間から水の女神(蛙)がワンパンされるのは8日程後のお話。




