第二十五話・「アメフラシの方がまだマシ」
「うん、もうすぐ着くんじゃないかな。湿地の中にある町、リザルトゲーテ!」
時刻はすでに昼下がり。あの後もアロマとともに洞窟でどうでもいいことを話していたのだが、一向に雨が降りやまず寝る(マギアのほうに戻る)ことにしたのだった。
ちなみに「私が寝てるときに半径10メートル以内に侵入したら感電して死ぬから。むしろ死んでくれたら荷物が減って助かるけど」と仰せつかっている。あの兎やはり色々やばいやつである。
小石でも投げ込んでみたい衝動に駆られたが、大樹を握りつぶした力で殴られるのは流石に恐ろしかったのでやめておいた。
そんなことよりも、だ。
「こりゃすげえな。もはや海の上を馬車が歩いてるみたいだぞ」
まさにそうとしか言えない光景だった。
馬車の窓から見えるのは雨が降りしきる広大な水面だけだったのだから。
「えへへ、そうですね。リザルトゲーテの周りに広がるしっちは、しおが満ちるとになるとほとんどが沈んでしまいますし、ましてや今は雨ですから」
「『その一部に岩を積み上げ道を作り上げていて、その上を歩いているから水面しか見えない訳だ』」
対面式になっている馬車でマギアの隣に座るシレーヌと、自ら騎手を申し出たガザニアがそう返す。
目の前に座る恵はにやにやとしながら、
「おやおや、黄昏の魔王様でも感動することはあるんだねえ」
「当然だろう。未知を既知に変えることほど楽しいことはないよ」
平然と返すマギアに感心したような恵。
「さて、もうすぐ着くんだよな。どんな町なんだ?」
「うん、えっとね。人間よりも海に近いこの街にはモンスターを討伐するために雇われた傭兵たちが多いかな。私も何度か来たけど、陽気な人たちが多いよ」
「『まあ・・・お世辞にもガラがいいとは言えないがな』」
「・・・で、ですね。わたしもこの町を通ったときこわかったですよ・・・」
傭兵なんて腕っぷしで金を稼いでるんだから血の気の多いやつは多いだろと思いつつ、その方がやりやすいと笑う。
「その点は問題ないだろ。俺たちより強いやつがわんさかいたら世界なんてとっくの昔に終わってる」
「まあねー」
かるーく返す恵の口調の中にも自負が見て取れた。
やはり恵並みのやつはいなかったらしい。
少し経つと石造りの建物がいくつも見えてきた。
生活方法はヴェネチアみたいに船で水路を移動したりしていているのだろうかと思っていたが、普通にその場所だけは陸地だった。
サンゴの死骸のようなたまり場なのだろうか?
「『よし、降りるぞ。今日はこの辺りの宿で止まって明日もう少し先にあるというセイレーンたちのすむ岩場まで船を使う』」
「おっけーい、と!よし!ご飯だぁ!!!」
そう叫びつつスキップで酒場に入っていく恵。
と、言うよりも
「・・・ガザニア、お前ほんとにこまめだな。予定もしっかり立ってるし、人は、いや竜も見かけによらねえもんだ」
「え、えっとガザ二アさま、主夫?ってやつみたいです・・・」
「『・・・それは褒めているのか?まあいいが。恵にも几帳面だと言われているしな』」
この際だから聞いておこうと問いかける。
「ガザニアって男だよな?」
「『他何に見えるんだ・・・』」
いやドラゴンだろ、とは口にしなかったがそれならと、
「俺がいた昔より、異常な程女性が多いんだが。何か理由でも?」
そう。それは体感的にとかいうレベルではない。明らかに男女比がおかしい世界なのだ。
「『ふむ・・・。確かに比率で言えば女性の方が多いがそれほどではないだろう』」
「で、ですよ、マギア様。お、同じ数にしようって殺すのはやめてくださいね・・・?」
「どこの暴君だそりゃ・・・」
呆れつつも、この世界には女性が多くなる何らかの要因はあるみたいだなと考える。
それで何かが起きるわけではないにしろ地球との差がどこにあるのかを知ることはできるかもしれない。
そう話しながら恵が入っていった酒場に行くと、恵と顔の赤い傭兵らしき男がなぜか腕相撲をしていた。
「・・・なにしてんのお前?」
「ん?ちょーっとした・・・コミュニケーションだよッ!」
そう叫びながら腕に力を入れたらしき恵は男の体ごと空中に浮くほどの威力で勝利を掴んだ。
はた目から見ると華奢な少女が剛腕な男に勝ったように見えるため、酒場にいた連中は静まり返る。
「よし、これでそのここの自治をしてるっていうやつの事教えてくれるよね!」
「自治?」
「うん、なんかここから出るためにはそのボスにお金を払わないといけないらしくて。それで酒場に出れない人が集まっちゃってるらしいよ。でも大丈夫!腕相撲したら皆友達だから教えてくれるよ!」
「それ屈服させてるだけって気づいてる?」
その証拠に吹き飛ばされた男の眼は恐怖に染まっていた。
当然である。
「『恵に目をつけられたのが運の尽きだな。さあ、洗いざらい話せ』」
「ま、待ってくれねーちゃん!俺はボスの名前を知ってるだけで居場所までは知らないんだよっ!」
翼の無いドラゴンに話しかけられパニックを起こしながらも、男は話し出す。
「〝水の女神〟ここじゃそう呼ばれてる。人前には姿を出さず、女の声だけを響かせ、街から出たやつを水没させるんだ!信じられねえかもしれねえがホントのことで、そんな時俺に『通行料の金貨を水に沈めろ、そうすれば通してやる』って声がよ!」
「・・・水の女神っていうかそれ沼の
「おいおいおいおいおい!!!!やめろよ、にーちゃん!愚弄したら津波でも起こされるかもしれねーんだぞ!」
随分な恐れようだな、と逆に感心しつつマギアはシレーヌに声をかける。
「シレーヌがここを通ったときは何もなかったのか?」
「・・・・あ、あえっとわからないです。私は飛んでたので・・・」
「まあそうか。でも水の女神とやらは俺たちには関係ねえな」
そう立ち去ろうとするマギアに酒場のマスターが声を発した。
「まちなされ、黒い若者よ。腕に自信があるのだろう?わしも挑んでやろうと向かったが、相手は実体のない水じゃ。どうしようもなかろうて。しかしな、確かにそこな娘は強い。そこでじゃ、一つ知っていることを教えようじゃないか」
「おお、ほんと?ありがとおじいちゃん!」
なにこのRPG、と思ったが口には出さず促す。
「この町リザルトゲーテは昔、しっかりした大地じゃったという。そこに盗賊団がやってきて町の祭壇にあった宝珠が盗まれたそうじゃ。すると翌日から雨が降り続き、周りは水没してしまったという。その宝珠が水難を抑えてくれとおったのかもしれんな。よく考えてみてくれ今日の豪雨を。もしかしたらそれと何らかの関係があると思わんか?」
「あ、えっとつまり、雨をふらせるまほうを使うのが〝水の女神〟でそれを封印するのにほうじゅがいる、ってこと・・・ですか?」
「おそらくはのう」
初めからそう言えよじじい
・・・とは言わないがあまりの話の長さにマギアがげんなりしていると。
『・・・ふふふふふっ、マサカそんな昔のことにすがり始めルとはね』
声がどこからともなく聞こえてくる。
「ひゅいいいいいいっつ?!!」
文字通り飛び上がり天井に頭をぶつけるシレーヌを放置し、恵は真剣な表情になり叫ぶ。
「私は一之瀬恵っ!世界に3人の勇者よ、姿を見せなさい!」
『・・・フン、ゆうしゃ?何をシに来たのか知らないけど、まあいいわ。ワラワの姿を括目しなさいな・・・っ!』
その声が響くと酒場にごうごうと風が吹き始める。その暴風に傭兵達すらも吹き飛ばされている。
(おっと、なめてたけどこれはもしかして結構強いやつなのか・・・?)
ガザニアも同じことを思ったらしい。
「『・・・来るぞっ』」
収縮していく風は一つとなり、とある形を取ったかと思うと、水滴とともに爆散した。
「フフフ、わらわの姿を見て恐怖で動けんか。マアそれも仕方ないわよねえ、浅薄なキミタチからすれば。コノ領域からエルフの森までのソレイン〝王国〟はすでにワラワの管轄下。サア、畏怖しわらわを奉るのじゃ!マンゾクが行き次第、雨から解放してやろうではないか。ヨシ、手始めにそこのゆうしゃとやら、足をなめて、ってなんじゃ黒い貴様は?」
「・・・・・・・・・いや・・・蛙がしゃべっているのを見るのははじめてでな」
蛙だった。まごうことなく。70cmくらいの。水神とか白蛇とかを警戒していたマギアからすると拍子抜けもいいところである。
その言葉をどう受け取ったのか、水の女神(蛙)はふふんと笑い、
「ミヨっ!!」
前足を上げると、突然雨の音がやみ、酒場の壁を突き破って水で出来た槍のようなものが無数に登場した。
「コレでわらわがただの蛙でないと分かったろう?死にたくなければ、
そのあたりが限界だった。
マギアは音速で左足を踏み込み、右手の裏拳を蛙の前で寸止めした。
・・・・・・・それでもその衝撃波で酒場と水の槍、更にはその奥にある湿地帯をはじけさせたが。
「・・・一瞬でも警戒した俺が馬鹿だった」
蛙がひっくりかえる中すたすたと晴れた道を歩いていくマギアだった。
最近窮地が多いそよ風と申します。
お金がなくてピンチな今日この頃。
節約ってだいじですね。そんなことをしみじみと感じてたら12時超えてました。あほす。
さてここまで読んでくださった方に感謝を。次回も明日明後日かなー
国一つに豪雨を降らせる蛙さんが弱いわけないはずなのに・・・
相手が悪すぎて活躍の場がゼロだぜ・・・




