第二十二話・「エルフの元に・・・行けませんでしたああ!」
「・・・・・・・・・・で、なんだこれは?」
「見たらわかるでしょ?」
馬車に乗り込みすぐに寝たマキナ、いやマギアは狭い宿の一室の椅子から起き上がる。
・・・と、目の前には皿の上に載った黒いデコボコした物体が机に鎮座していた。
その横にはベッドに座るゾンビの姿もある。
え、いや分かるわけねえだろ何この黒い物体。そう思うも、この世界では普通の物なのかもしれないと聞き返す。
「・・・分からないな。この国で流行っている物か何かか?」
「流行ってるっていうか、ホワイトシチューよ?マギアも前食べてたじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
シチューって固形だったか?そもそもホワイトでも何でもないよな?そんな疑問が生まれ出ては消えていく。
「・・・なによその顔は。今日は雨で外に出るの億劫だから作ってあげたっていうのに」
「それはありがたい、が・・・」
「まー確かに見てくれは悪いけどさ、私も食べるから食べなさいよ」
いや確かに見た目で判断するのは良くないな、と考え。
一口食べてみようと木製の箸でつまみあげ、
ジュウッ!
られなかった。
・・・・・・箸が黒い物体に触れたとたん溶けたために。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
さすがのゾンビもこの現象には黙り込んだ。
「・・・さて。私は仕事があるからここで
「ほら、ゾンビ。あーん・・・っ!」
逃げ出そうとするゾンビに皿ごと押し付けるマギア。
両者共にここまで必死な「あーん」はそうそう存在しないだろう。
この押し付け合いに負けた時、待っている運命は溶け落ちた箸が如実に語ってくれているのだから。
「あらマギア遠慮しなくてもいいのよ?最近ぼーっとしてることが多かったから疲れてるんじゃないかなって貴方のために作ったんだから」
「ぼーっとしてるのが多かったのは認めるけど別に疲れてるわけじゃねえよ。それにコレ食べたら疲れよりもひどいもの背負うだろ」
「もう、私みたいなそれなりに可愛い子が貴方のために作ったとまで言ってるんだから一口くらい食べてくれないと傷つくわ(物理的な意味で)」
「うんそれなりに可愛いっていうのもまあ認めてやるけど食べて傷つくのは体だからな?下手したら死後の魂まで苦しむまであるから」
「はいはい分かったわよ食べなくていいわよ。食べなくていいから皿を押し付けてくるのやめてもらえるかしら・・・っ!」
「いやいやこんなもんその辺に放置したら死人が出るだろうが。それとこんなもんを食べさせようとした私怨も含まれているがな・・・っ!」
とりとめのない、いつものやり取りをしているとドアが開き、あきれ顔のミチが入ってくる。
「本当に仲がいいな君たちは・・・」
「「ああ(ええ)今日も実に仲良くやらせてもらっている(わ)」」
「何でもいいが、マギアに客が来ているぞ。いつもとは少し違う依頼人がな」
黄昏の魔王の名を売るために、そして金稼ぎのために、マギアは「依頼」という形で街の人々から頼まれごとを解決していた。
依頼内容は様々で凶悪モンスターの討伐から子供の家庭教師まであったが、それをサクサクと解決していくうちに約一週間ほどでそれなりに知られる存在になっていた。
・・・アルティアナやゾンビの協力があってこそだったが。特に力技でどうにもならない案件あたり。
そういった事情でこの宿屋に依頼人が来ることはままあることなのだが
(いつもとは少し違う?よく分からんがこんな雨の中わざわざ来るなんてな、よほど切羽詰まってるのかそれとも雨じゃないといけない事情が?)
「なんにせよ面白そうだな。これで期待外れの依頼だったらゾンビ特製シチュー食わせてお帰り願うか」
「それ土に還らせてるから」
劇物ってわかってるなら食べさせようとするなよ・・・と思いつつ、下のホールへ向かうとそこには勇者様御一行4人とアルティアナがいるだけだった。
「おっはよぉまぎあんん!今日もオシゴトがんばろー!」
「雨だっていうのにいつでも元気だなお前は。で、その依頼人っていうのはどこにいるんだよ?」
「・・・・・・・・・あ、あの、マギア様ですよね?えっと、わたしがしょにょいらいにんにょ・・・うぅっ」
か細くも綺麗なソプラノの声で噛みまくる女の子が恵の後ろからのぞき込んでいた。
長めに切りそろえられた黒いショートヘア―で眼を隠す彼女の背には、二つ折りにされた灰色の羽根があった。
その上にどうやってか知らないが真っ白なカッターシャツ一枚のみを纏っていて、腰には蒼いロープがベルトのように巻き付いている。
露出度が高くて見たことのない種族だなと考えていると、丁度良くゾンビが驚きの声を上げた。
「鳥の翼を持つ人間・・・混血じゃないわね。純血のセイレーンがこんなところに何の用なのかしら?」
「・・・あっ・・・えぇと、つぎはぎのおねえちゃんはいったい・・・??わたし、マギア様に用があって、だからその・・・」
おびえた様子のセイレーンが掴んで離さない恵たちの方を見ると、やれやれと言った風に説明を始めた。
「えーっとね、このソレイン評議国から西に行って湿地帯を抜けたあたりに海があるのは知ってるでしょ?
そこにこのセイレーンの女の子、シレーヌとその仲間たちが住んでいたらしいんだけど、最近になって突然深海に住むマーメイドから降伏勧告が来たらしくて、従わないと戦争になるし従っても殺されるしで切羽詰まってるんだって。
ちなみに戦争しても到底勝てる規模じゃないからもうどうしようもなくって、それでいろんな国を回って助けてくれそうな人を探して・・・」
「で、ここに行き着いた、と」
「はっはいです、マギア様・・・!恵様から、貴方様ほどお強い方はおられないってきいています、えっとどうか、どうかお力を貸していただけないでしょうか・・・?」
ちらちらとカンペのような物を見ながらも必死に訴えかけてくるシレーヌ。
どもってしまうことをマギアが不快に思うかもしれないと考え先んじて書いてきたのだろう。
そんなシレーヌにマギアは、
「無理だな」
さらっと拒否の言葉を発した。
「・・・・・・・・・っ!!?あ、あのっ、わたしの、いえわたしたちの出来ることならなんだってします、マギア様おねがいです!」
「無理なものは無理なんだよ」
そう少し不満そうに椅子に座るマギアにゾンビがお構いなしに話しかける。
「私としてはセイレーンが生きていようが死んでいようがどうでもいいんだけど、世界征服を目標とするマギアならマーメイドぶっ潰して来るわ、ぐらいいいそうだと思ったけど?」
「相手は国だぞ?しかも深海にすむマーメイド。昔ならいざ知らず、不安定な召喚を食らった今の俺の力じゃ一人で殲滅するのは不可能だな。何らかの光明か、俺に匹敵するやつがあと3人くらいいないと無謀だろう」
その言葉に恵が落ち込んだようにつぶやく。
「・・・流石のマギアでも国一つを力技で壊すのはむり、か。まあそうだよね、ここで快諾されてたら逆に怖かったよ」
「『マギアレベルが3人となると、アルティアナを入れても二人足りない。我々が束になってもマギアに勝てるとは思えないし確かに無謀かもしれんな』」
「あー、一応言っとくとアルティアナは異常な再生能力を除けば恵やルーレと同程度。殲滅という特性上俺並みの攻撃力が必要だが・・・」
無理難題の大きさに全員が黙るなか、シレーヌは決心したように膝をついた。
「・・・・・・えっと、分かりました。つまり、
マギア様のお力を4倍にすれば、いいんですか?」
「・・・は?そんなこと出来たら苦労しねえだろ」
「あ、れ?マギア様って、えっと・・・悪魔です、よね?生物が貴方様にふくじゅうすればするほど、きょうだいな力をえるという」
え?なにそれ知らないんだけど。その驚愕を押し殺しつつさも当然のように取り繕う。
「あ、ああ。その通りだが?」
「背に腹は、かえられない。です。デストラクション、同意。【・・・全セイレーン1522名の忠誠、魂、純潔と引き換えに二つ名の通り、マーメイドに黄昏より忍び寄る深き夜の終焉を・・・っ!】」
歌うかのようにささやかれた文言は、
悪魔取引。
そう古に呼ばれるソレは、まさしく禁忌中の禁忌である。
両者の合意の元、悪魔は契約したすべての生物を合計した力を得ることができるものの忠誠を誓った生物はすべての権利を支配者に預けることとなり一切の裏切りを禁じられる。
それも、一生。いや場合によっては死後まで。
そしてその代わりとして、悪魔は望みを一つ叶えるのだ。
普通なら、両者の合意が必要である。
普通なら。
シレーヌはセイレーンという種族であり、その歌声には強制服従という力がある。
マギアの知らない法則まみれだが、そんなことはお構いなしに悪魔取引は進んでしまった。
「・・・・・・ぅがえいあぎぎいぎぎぎいいいいいいいいぃぃぃぃっっっ!!???」
シレーヌの悲鳴とともに黄昏色の光があふれ出す。
じりじりと焼きつくような音とともに翼がオレンジに染まっていく。
堕天、と呼ばれるこの現象は悪魔の手先となった証である。
はぁはぁと荒い息をするシレーヌに、状況に全くついて行けないマギアは話しかける。
「・・・よく分からないが今の一瞬で俺一人にセイレーン1522人の命が握られたってことか?」
「私とマギアの結婚契約は一応平等なものだけど、悪魔契約に関しては完全な服従なのよ?正気の沙汰じゃないわ・・・。冗談でもマギアがシレーヌに『死ね』って言ったら本当に自殺するしかなくなるわよこの子・・・」
かなりクレイジーなゾンビにドン引かれるくらいには、えげつない契約なんだなとマギアはようやく察した。
「・・・・・・タルトちゃん、悪魔契約の解除って、できるの?」
予想外の行動だったのかサーシャがアスタルトに尋ねる。
しかしアスタルトが答える前に、シレーヌが口をはさんだ。
「あの・・・それは、不可能です。ぜったいにこのけいやくは、はき出来ないからこそ・・・禁忌なんです。それにこれは、皆で決めたことなんですよ。殺されるくらいならすべてをささげてでも生き残れるほうほうを探すって」
「じゃぁあれだねぇ!今からアルティアナちゃんの妹だからねぇシレーヌちゃんん!」
「えっ・・・?えっと・・・??よろしくです、アルティアナお姉様?」
「うんうんうんうんんんん!困ったことがあったら相談してくれていいんだからねっ!」
「・・・なーんでこいつらこんなに暢気なのかしら?アホだから?」
あきれたゾンビの声に心から同意しつつ、恵たちに話を振る。
「で?どうするんだよ」
「うーん・・・いろいろ予定とは違うけど私たち4人はいつでも行けるの。でも流石に数が多いし、私とマギアとシレーヌとあと2人くらいで行こうかと思ってるよ」
「なるほどな。じゃあ勇者組から一人、俺たちから一人が妥当・・・・・・・・っ?」
その時、マギアの視界が突然揺れた。
身体に何かが当たっているわけではない。それは分かっているのだが、なぜか床にグイッとひきつけられたのだ。
話の途中で体を揺らめかせたマギアにゾンビが不思議そうに、
「なによどうしたの?やっぱり疲れが、
次の瞬間。
「・・・・っ!!?」
気づけばそこは横転した馬車の中だった。
(い、意味が分からねえぞ・・・!?何が起きたんだよ!いやまさか)
そう、マギアではなくマキナにいつのまにか変わっていたのだ。
(馬車が横転した衝撃で無理やり意識が引き戻されたってことか・・・?)
少し状況を理解したおかげで周りが見えたのか、すぐ隣にユリが気を失っていることに気が付いた。
取り敢えず外に出て確認するしかねえな、と考え。
雨が降る中なんとか上にあるドアから出てみると、そこはすさまじいことになっていた。
木々は倒れ、そこかしこの地面にクレーターのような穴が出来ていて、獣人もいたはずの騎士団はほぼ全員倒れている。
左には崖があり、水量が増えた川が轟々とうなっていた。
「うっわ、マジで人間しかいなかったんだ。てっきりエルフたちの討伐隊だとばかり。ま、いっか。そこの金髪のお兄さん、不運だったと思って国に帰ることをお勧めするわー」
雨に打たれながらも平然とした様子で倒れた大樹に座る少女。
白く長い髪とウサギの耳を持ち合わせる彼女は、まるで哀れな虫を見るような感じで続けた。
「あ、私は竜殺しのアロマ=ピラノース。
『霧闇の森』に隠れ住む最強の、
怪 物 よ 」
ニッコリ嗤うウサギ耳の怪物を前に、退路すらない状態で。
(さて、どうしたもんかね)
と、マキナは考え始めるのだった。
連続投稿に定評がないそよ風と申します。
これ前にも言ったっけ?まあいいか。
さてここからまたどうでもいい合宿の小話です。
そよ風の入っている部活は一応体育会系でして、それなりに体力も使います。
なので疲れてくるのは当然なのですが、今回の合宿で最も疲れたのは・・・BBQでした。
そのことについてお話ししましょう。
とある場所まで車で来て練習をしていると、監督などがやってきて、今日の夜監督の別荘の山でBBQをしようという話になりました。
しかも食料代はすべて出していただいた上で。
それは最高だな!ということでその代わりとしてテントの設営や火おこしから焼くまで全部やってほしいとのことだったので、ただ飯食うんだからそれくらいはしますよと快諾。
その場所は本当に街頭すらない山奥なのでそれなりに大変でしたが、問題には感じませんでした。
ここまでは。
私たちは「2台の車」に乗り向かいました。
そこへOBの人たちも「車で」やってきてわいわいと焼き肉大会が始まりました。
お肉も高級なものが多く、また量も多かったのでお腹いっぱいになり、帰る段になります。
この時点で夜の10時ごろです。明日は模擬試合もあるので急いでかたづけて帰ろうとしました。
・・・OBの人たちがお酒を飲んでいなければ普通に帰れたのですが。
当然飲酒運転をする気などないOBの人たちは私たち中から運転できる人に運転させるという方法を取りました。
運転できる人でお酒を飲んでいなかったのは3人+1人(OBからお酒を勧められても何とか断った3人と言い出さなかった1人)。そのうちOBの人たちの車は3台。
夜11時30分。私たちはOBの人たちの車を見送り、明かり一つない山奥に残されました。
誰からともなく気づきます。
「車は二台。運転できるのは1人・・・・・・・・・・あれ?俺たち帰れなくね?」
絶望でした。
もうそうとしか言えないくらい絶望感しかありませんでした。
しかもそこは携帯が圏外で連絡を取ることもできません。
しかもしかもそこは超山奥で、歩いて帰るなど不可能です。
ああ、これが遭難かぁとしみじみ感じました。
最終的には事態に気が付いていたOBを送っていった人が戻ってきてくれて、何とか帰還することが出来ました。
ま、帰って風呂に入ったらもう午前2時で起床は6時でしたので、模擬試合は全員が燦々たる結果でしたが。
OBの人たちが帰り際言っていた言葉が浮かんできます。
「練習・・・がんばれよ!」
できるわけねーだろ。
そんなことがあった合宿でしたが、なんだかんだと言ってとても楽しかったです。
マゾではないですが、好きなんです、予想外のハプニングっていうのが。
でも来年もしBBQをするならそのあたりまで考えて予定を組みますが。
さて、またまたどうでもいい話まで読んでくださった方に感謝を。
次回は明日明後日かな?
アロマさんにシレーヌ。いよいよ他種族との戦いが始まる




