第二十一話・「よし、エルフの都市とやらを拝みに行ってやるか」
その日は雨がザーザーと音を立てながら降っていた。
少し肌寒く感じる王宮では、予定を確認しているマキナの姿がある。
「そろそろ首脳会議が始まる時期だ。すこしエルフの国を見てみたいし俺は1週間ほどこの国を留守にするから、その間は任せたぞ」
「はい、ご主人様・・・」
微妙に元気のないルーレを見てマキナは苦笑する。
まあこれでも進歩した方だよな、と思いながら。
はじめルーレではなくユリ辺りを連れて行こうかな、と言ったときは、
半泣きどころか普通に泣きながら「そ、しょれが、グスッ、ごしゅじんしゃまのご判断なりゃ、グスッ、わたしはしたがう、だけ、で・・・ふぅえええええええんんん」と、どう見積もっても従う気が無さそうな感じで言われ、更に悪いことにそれをシャルに知られて怒られるわでなかなかにカオスだった。
エルフのハーフであるルーレを向こうがどう思うのか分からないという点と、国を任せられる人材としてルーレは外せないという点で、いくら泣かれても譲れなかったマキナはことあるごとに説得し、なだめ、ようやく今日ここまで漕ぎつけたのだ。
(これは割と頑張っただろ・・・。まあ帰って来たらご褒美としてなんかしてあげないといけなくなったけど。なにされるんだろ、また抱きしめるくらいならいいんだが宝石とかだったらなかなか大変だなあ)
などと斜め下の理由でおびえているマキナだった。人から好意を持たれることが少なかったマキナはそういう感情に疎いようである。
「でもご主人様大丈夫なんですか?騎士たちもあまり連れずに・・・」
「中途半端に威圧してもよろしくないしな。そもそも全軍率いても威圧できるかどうかも分からないわけだし。問題と言えばその・・・何だっけ?なんとかの森?」
「・・・『霧闇の森』みゅーなー!」
その意味の分からない口調に、めんどくさいなと思いながらもマキナは顔を向ける。
そこには布団にくるまりながらクマの人形を抱きかかえる青い髪の幼い女の子と、赤い瞳のメイドが立っていた。
後者は、元ヴィレッジのメイドをしていたフィリア。こちらはいいのだが・・・
前者のあからさまな奇人感を出している少女はライブラ・ミュー・メーア。使用人の統括をしている上、現在では農工商のまとめまでやってのける天才、ではある。
見た目も口調もやばい子だが。
ちなみに余談になるが、王宮で働く人材はマキナがせっせと頭がよさそうなのを選んで登用したものの、農工商それぞれのリーダーが決まらず悩んでいるところにミューがやってきて代理として3つすべての管轄をしている。
それゆえ現在では、マキナ、ミュー、騎士長エンブレ、獣人の反国王組織にいたリーダー(名前がないのが不便ということでルートという名を名乗り始めた)の4人で評議会を行っていた。
まぁ元王族の両親や兄弟姉妹が思いのほか優秀であるのも幸いしそこまで大事に至るようなことはおこっていないのだが。
閑話休題。
「・・・ああ、フィリアか。おはよう」
「おはようです、マキナ皇太子・・・いえマキナ様」
「ぅぅぅん?!マキナはミューの事無視するみゅーか!」
「あーはいはいおはよう」
「折角『霧闇の森』のこと教えてあげようと思ったみゅーのになー、あー残念みゅーなー」
いつもの通り面倒くさいミューを放置し(ちなみにミューではなくライブラと呼ぶと怒る)ルーレに問いかける。
「それでルーレ、『霧闇の森』っていうのは?」
「あっれ、ミューのこと放置っ!?」
「『霧闇の森』と言えばソレイン評議国から東へ、エルフの国に行く道中で通ることになる危険な森ですね。一説では強大なモンスターだとか古代の遺跡があるとか言われています。そもそもこの森を通る人はごく少数ですから真偽のほどは不明ですが」
「ミューちゃんの博学タイムが・・・。でもあってるみゅー、本当に恐ろしい森だって話みゅーが・・・。具体的な話はきかないみゅーな」
ま、いつの時代でもどこの世界でも噂なんてそんなもんだろと思うが、火の無いところには煙は立たないとも言うし注意はした方がいいかな、と考えつつも答える。
「どちらにせよ通らないといけないことにかわりはないんだし、あんまり気にしすぎてもな。いずれにせよ大丈夫だよルーレ。それより一週間ほどとはいえ国のことは任せるぞ。もちろんミューもな」
「・・・はい!ご主人様もどうかご無事で」
「りょーかいみゅーなー」
「そういえばマキナ様、レンお姉さまが出かける前に会いに来てほしいとおっしゃってました。それとユリさんはもう馬車の準備のほうに向かうと」
ああ、あの事かな?と考えつつ、一人でレンの部屋に向かう。
ようやく王宮の間取りを把握してきて、マキナはルーレを伴わずに移動することができ始めていた。
・・・それもルーレからするとさみしさを覚えるものだったが。
「おはよう、入るよ」
レンから言われたとおりにノックもせず、マキナは部屋に入る。
兄弟姉妹で礼儀など必要ないさ、だそうだ。
「おはよう、マキナ。出発前に呼び出して悪かったな」
「別にいいよ、一分一秒を争ってるわけじゃないしな。で、用件は、妹の裏切りの件ってことでいいんだよな?」
気落ちするようにレンは下を向く。
「・・・本当に、シューが貴族を操り獣人を弾圧していたのか?」
第二王女、シュレフィスト。金髪縦ロールの彼女が獣人弾圧の首謀者にして、更にはルーレのような革命家を利用していたのではないかと考えていた。
マキナの考える、筋書きはこうだ。
まずシュレフィストはヴィレッジなどの有力貴族に獣人たちのあることないことを吹き込んだ。
その結果として貴族たちは少しずつ獣人に対する偏見を強めていく。
そんな中で、裏で手をまわし獣人に友好的な者を適当な理由で左遷させていく。
風当たりが強くなる獣人たちは当然徐々に反感を持つだろう。しかし武力では勝てないため何らかの策が必要だが、失敗した時のデメリットを恐れて動きずらい。
そこでシュレフィストはヴィレッジに命じて、売買をさせなくする。
そうなると生命線を絶たれた獣人たちは、いよいよ革命に命を懸け始める。
革命に乗じて、マキナ・ヘルザノア両王子を打倒し、女王になろうとした。
そんなところではないかと。
なぜそう言えるのかというと・・・
「獣人にものを売らない、なんて損にしかならない。本当に利益だけを求めるなら、獣人に対してだけ値段を倍にするとかのほうがいいに決まっている。なのにヴィレッジとその傘下の連中はそれをしなかった。その理由は上から言われていたからだろう」
「だから王族が主犯、というのか?」
「ああ。俺やヘルは加担しても意味がないし、シャルは叩き起こしに来た時からすでに魔王軍のことで頭がいっぱい過ぎているようだしね」
そうしてレンかシューの2択となり、この世界に来た日、中庭でフィリアが来た方向つまりヴィレッジの部屋がある方向に『会議がある』と言って去っていったシューのほうが怪しいと踏んだのだった。
確証はないためレンも容疑者としていることは言っていないが。
「・・・・・・それなら当然、マキナがいないときに次の策を打つだろうな」
「だろうね。結局動機は確定してないけど動くのなら俺がいないときだと思う。だからレンに動向を見守ってくれるように頼んだんだからな」
「・・・ふぅ、分かったよ。注意しておくさ。だが私は幼いころから武芸ばかりやってきた姉だ、マキナのような智謀は期待してくれるなよ」
「黒だと確定さえすれば・・・そこからは俺がやるよ。それじゃ、気を付けてね」
「ああ。マキナこそ、あの森を通るんだ。気を付けろよ」
・・・・・・なんでそんなに恐れられてるのかねえ、と微妙にあきれながらマキナは馬車に向かうのだった。
結果的に言えば、これは慢心だったのだが。
帰ってきてしまった台風とは私の事、そよ風と申します。
マジで台風来てて合宿の帰りに土砂降りだったのには応えましたが、なんやかんやと楽しい合宿でした。
次回投稿はあとがきを書いて即投稿なので、そこでエピソードを入れてみようかなと思ったり。
メモ帳に書いてたら8000字超えました。なんでやねん
おかげで21話は内容があんまり無いという・・・
次回からメインなんで!なんで!!
ではここまで読んでくださった方に感謝を。
ミューとかいう変な子は本来序盤で出てくるはずだったけど割愛されました。
まあ王国編に関係薄かったからね。仕方ないね。




