幕間4・若きメイドの悩み(エングイシュ・オブ・ハート)
ソレイン評議国が発足して約一週間が経過した。
やはりといえばやはり大規模な改革に対する混乱は見られる。
のだが、騎士団と獣人たちが協力して治安自治のための見回りをしてくれているおかげか、マキナの策が国民の得になっているからか、今までの偏見はほんの少しずつ無くなっているようだった。
と、それはいいとして、です。
「・・・どうしてこうなったんですかぁ!」
洋服の着せ替え人形にされつつ、ルーレは叫ぶのだった。
「ルーレちゃんは何着てもにあうからなぁ。タルトちゃんはどう思う?」
「Re:困惑/洋服の知識はあまりありません、しかし、ルーレが可愛いのは認めます」
王宮で書籍を読み漁っていたルーレを恵が(無理やり)街まで連れ出してアスタルトと一緒にショッピングを始めたのだった。
・・・マキナに言いもせずに。
メイド服とは違い、少し露出度の高い洋服を着せられ赤面しながらもルーレは懇願する。
「め、恵さん!後生です、せめてご主人様に報告だけさせてもらえませんかっ」
「・・・うーん、ダメ!」
「ぇええええ?!」
一瞬で棄却されたが。
「まあそのマキナ王子に怒られそうだったら私が代わりに謝るからさ。昔みたいにたまには羽伸ばさないとね」
そう笑う恵。確かに昔はよくこうして遊んだものだった。しかし・・・
(うーん、恵さんらしくないというか・・・恵さんならご主人様に会ってみたいとか言いそうな気がするのですが。やっぱり貴族への嫌悪感はぬぐい切れていないのでしょうか?)
不思議に思いながらも、今まで気になっていたことを聞いてみる。
「恵さん。異世界ってどんなところなんですか?」
「Re:同意/それは私も気になります。ここではない世界・・・。想像もできません」
「どんな、って言われるとむずかしいなー。魔法も無いし、モンスターとかもいないけど進化を続けてる世界、かな。ちょうどマキナ王子の改革は私たちの世界に似てるよ。・・・まあわたし頭よくないから7割方分からなかったけど」
わざとらしく目をそらしながら恵は言う。
やっぱり異世界においてもご主人様は頭がいいんですね・・・と、嬉しくもあり、同時に少しの恐怖がルーレを襲う。
「・・・・・・戻りたい、ですか?」
「・・・んー、帰りたくない訳じゃないよ。妹とか両親とか、たぶん心配させちゃってるし。でもそれ以上に私はこの世界が好きかな。学んだことも多いしね」
「Re:追憶/いろいろありましたからね」
「だね~。遺跡でタルトちゃんと出会ったりもしたしさ」
「遺跡ですか?そういえばアスタルトさんって不思議な体ですよね」
「Re:肯定/そうですね。私は壊された遺跡の番人として創られたオーパーツですので」
「オーパーツ、本当にいるんですね・・・」
「タルトちゃんほど感情を持つ子はであったことないけどね~。あ、ルーレちゃん!こんなs
「はいはいはいもう行きましょう!」
ほとんど紐しかないような下着を着せられかけ、強引に店を出たルーレ。
(一体どんな用事があって恵さんは私を呼んだんでしょう?流石に何の目的もなく連れ出すとは思えませんし)
きっと大事な用事なのだろうし、もしかしたらご主人様の役に立てるかもしれないと考えついて行くことにした。
服を数点買った後は、お昼ご飯を食べた。
なぜか宿屋でご飯を食べることになり、前会ったゾンビという女の子と再会できてその子の料理を食べてみようと思ったら鍋が爆発する。一見訳が分からないが本当に起こったことなのだから仕方がない。
お礼も兼ねて料理を教えてあげることに。恵さんに「男性に喜ばれる料理教えてあげてよ!」と言われたので簡単で好き嫌いの少ないシチューを作ってみた。すると宿屋の女主人のミチさんにものすごい勢いで勧誘された。
そのあと3人で話題になっているという黒豆アイスなる物を食べに行く。とってもおいしかったので何とかマネできないかと試行錯誤したところ、氷結魔法で何とかなってしまうことが判明。
製作者のおじさんを半泣きにさせてしまう。
路地に入ってみると怪しい覆面の人たちがいたため注意しようとしたら、先手で土下座される。何やら私と恵さんがドラゴンを叩き落した話は有名になったらしく、怪物並みに恐れられていた。
そうして夕焼けになってきたころ。恵はあっけらかんと言った。
「よし、暗くなってきたし帰る?」
「いや、用事なしですかっっっ!!!!?」
「え?なんか用事あったの?」
「いやいや!ほ、本当に遊びに来ただけですかッ?!あああうぅぅぅご主人様に怒られる・・・っ」
頭を抱えるルーレに恵はケラケラと笑う。
「ごめんごめん、私も謝りに行くからさ。でも元気になってくれてよかったよ」
「え・・・?元気にって?」
「Re:羨望/恵に相談されたんです。ルーレがここ一週間ぐらい何かに焦るように勉強していると」
・・・心当たりは、あった。実際ユリたちからも言われていたのだ、流石に働き過ぎではないかと。
「・・・でも、私はもっと、もっともっとご主人様のために尽くさないといけないんです」
「それは・・・マキナ王子に言われてるから?」
「違います!むしろご主人様は休ませようと4人いる使用人に均等に仕事を振り分けてくれていますし、ご自身も常軌を逸した量をこなしておられます。
しかしどんな理由があろうと私がご主人様を裏切ったことにかわりはありません。
それでもご主人様が私をそばにおいてくれているのは、優秀だから、です」
これはルーレの自慢などではなく、客観的な事実である。頭脳明晰容姿端麗にして戦闘においても随一のルーレは途轍もなく優秀で、だからこそ国の転覆まで企めたのだ。自負があったからこそ。
「・・・でもご主人様相手では私の知識なんて一切通用しない。ご主人様相手では私のもともとの野望なんて数ある国の1つでしかない。ご主人様相手では私の頭の回転なんて及ぶべくもない。
もっと・・・もっと使えるメイドにならないとこのままじゃ遠くない未来見捨てられるでしょう。それだけは、本当に嫌なんです。死ぬよりも怖いんです」
事実だけを言うなら、マキナはそんなつもりでルーレを許したわけではないし、異世界の知識をそのまま使っているだけのマキナに比べてルーレのほうが頭もいいだろう。
しかし事実と本人の思っていることが違うことはよくあることだ。
今回がそれだった。
懐刀などと言われ期待されている中で、改革に対してあまり関われない自分に焦り、せめて知識だけでも足元に追いつこうとした結果無茶をして周りから心配されていたのだった。
ちなみにはずがしがりやのルーレがマキナと寝たり、抱き着かれたりしても拒否しなかったのは「これでご主人様が喜んでくれるなら」との想いがあったからである。
マキナが避けようとしていたはずの依存関係に嵌りつつあった。
関係はないがそういったルーレの変化をマキナが無意識に受け取り、ヤンデレルーレの幻覚を見たのかもしれない。このままいけばこうなるだろうと予想して。
「・・・そっか。要するにルーレちゃんはマキナ王子に失望されるのが怖いんだね。うーん、私は好きな人とかできたことないからなぁ」
「すっ?!違いますって、そんなんじゃ・・・」
「でも離れたくないんでしょ?好きとまでは行かなくても、ルーレちゃんの大事な人になってるんだよ」
「・・・・・・そう、ですね。そうなのかもしれません。でも・・・」
その先をルーレは口に出さなかったが、全員が理解した。
「Re:思惟/・・・身分がなくなってもマキナ王子は王子と呼ばれ続けていることからも国民から支持を受けていることがうかがえます。気おくれしてしまうのも分かりますね」
「ま、実質的にマキナ王子は今この国のトップだからねー・・・。でももっと自信を持ってよルーレちゃん!たぶんだけどマキナ王子もルーレちゃんのことを考えてくれてるはずだし見捨てられることなんてないって。ていうか、ルーレちゃんを泣かしたら私が許さないし!」
「恵さん・・・。はい、ありがとうございます!」
「ゆっくり成長していけばいいんだよ、上には上がいるんだからさ。焦ったら逆効果だよ。よし!一緒に謝りに行こう?」
そうか、私はいつかみたいにまた分不相応な想いを抱いてしまったんですね・・・と、昔国を落とそうと決意した時のことを思い出す。あの時もルーレは何をしたらいいのかわからなかった。でもこつこつ準備をして決行できるところまで漕ぎつけたのだ。
だったら、今回だって。いつか叶うと信じて進むだけだと、決心した。
王宮に3人で戻り、マキナの自室の前に着くと自然と緊張してくる。
しかし恐る恐るドアをノックしても返事がなかった。
「あ、あれ?マキナ王子いないのかな・・・?」
「ここ最近は自室で面接資料を選別していらしたのでいらっしゃると思うのですが・・・」
失礼いたします、とそっとドアを開け、た瞬間
「・・・ルーレか?!」
とマキナがルーレの肩をガシっと掴んできていた。
「ご、ごめんなさ
「なんだよ、ほんとに無事でよかった!いきなりどっかに消えちゃったからさらわれでもしたのかと思って死ぬほど焦ったぞっ?」
「・・・えと、怒らないんですか?」
「いや怒るっていうか誰でも心配するだろ。ったく、どこ行ってたんだ?」
その本当に安心したようにルーレを迎え入れてくれるマキナを見て、今までのマキナの言葉に嘘がないとようやく完全に確信したルーレは、
「ごめんなさい、ご主人様。無断で離れることはこれから絶対にしません。だから今回だけは見逃してもらえませんか?」
「ま、別にルーレを怒る気はないよ。たまには気分転換だって必要だしな。働きづめで疲れてただろ?」
「そんなことありません、私はご主人様のために働けるならとても幸せですよ。本当です。でもその、頑張ったときは・・・ご褒美、下さいね?」
「ははっ、いいよ。じゃあ今までの頑張りに対してなんかしてあげようか?」
「本当ですかっ!じゃあ・・・抱きしめてください」
「・・・・・・・はい?」
「・・・だめ、ですか?」
おずおずとルーレを抱きしめるマキナと実に幸せそうに、はにかむルーレ。
そんな光景に胸やけしてきた恵とアスタルトは、顔を見合わせ部屋を後に、
「・・・おい、そこの勇者御一行。どう考えてもお前らが連れまわしてたんだよな?」
出来なかった。
「・・・・・・・・・・・・え、あ、いやこれには訳が、
「は?」
まったく笑っていない目で言われ、恵は冷汗をかきつつ
「・・・すっ、すみませんでしたああああああ!」
「じゃ、ちょっと謝罪を貰う代わりに聞きたいことがあるんだが」
「Re:諦念/はい、恵の好みのタイプから恵の下着の色までなんでも聞いてください」
「マキナ王子が聞ける範囲せっまくない!?っていうか私を生贄にしようとしないでっ」
「いや興味ねえから」
「・・・・・・・・・・・」
この時点で恵は半泣きだったが、構わず続ける。
「黄昏の魔王とかいうのがいるらしいな。そいつはどんな奴なんだ?」
「ああマギアのことね。どんな、っていわれると良く分からないかな。でも少なくとも悪の権化、みたいな人じゃないよ」
「・・・ふーん。まあ気を付けろ。相手は魔王なんだからな」
「・・・・・・実はさ、それ、マギアにも同じこと言われたんだよね」
「どういうことですか?」
「『マキナには気を付けた方がいい』って、そういわれたの。ルーレちゃんを連れだしたのはそういう目的もあったんだ」
「・・・面白いな。おそらく考えてることも同じなんだろう。ま、言いたいことはそれだけだよ」
そういうとマキナとルーレは部屋の中に戻っていった。
・・・圧倒的自作自演にマキナが恥ずかしさのあまり逃げたことは誰も知らないし知る必要もないことだ。
「マギアさん、ですか・・・。一度会ったことがありますが野望と自信に満ち溢れる方でした。もしかしたらご主人様が異世界から来たと感づいたんでしょうか?」
「・・・その可能性はあるな。だが仕掛けてこないのなら好都合。遠慮なくエルフの首脳会議に出てこよう。あ、でも・・・」
そこまでは順調だったが、マキナの言葉に結構な修羅場が発生することを、まだ知らなかった。
「エルフの首都行くときはルーレと一緒にいけないからなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
日刊ギリギリすぎぃ!そんな感じのそよ風と申します。
少し前に言ったように1週間ほど家を空けますので投稿が開いてしまいます
ごめんね・・・
その分きっと面白い話考えるから!!(ハードルをさらに上げていくスタイル)
ではここまで読んでくださった方に感謝を。次回は9月かも。2章に入ります!
次回からエルフ編だと思うじゃん?しばらくウサ耳編になるかも




