第十四話・「トカゲ許すまじ」---(一日目後編)
「・・・マギアは、どうしたのかしら?」
「んー知らないよ?まぎあんはなんか用事があるって言ってさぁー水車の碾き臼に私を挟み込んだままいなくなっちゃったもんねぇ~」
「・・・・・碾き臼?」
「そだよぉ!手足が磨り潰された一時間の激痛もフィアンセのまぎあんにやられたと思ったら、ああああああああかいかんんんんんんんん!!!!!」
意味不明なことを言う五体満足のアルティアナに、とりあえずマギアが勝ったらしいと判断しシャットアウトした。
そこに騎士団の一人と獣人のリーダー、そして恵たちがやってくる。
「・・・・・・アルティアナ・・・っ?!」
「ああ、なんかマギアにぼこぼこにされたせいでトリップしてるから放っておいて大丈夫よ。たぶん」
「Re:不思議/良く分かりませんが、敵でないなら今はいいです。問題は黒龍ですから」
「うん、皆ありがとう。ここからは私の番だよ・・・っ!」
恵の言葉にかぶせるように、
「私たち、です。恵さん。遅れてしまってすみませんって、リーダーにエンブレさん・・・?!」
メイド服姿のルーレが階段を駆け上がって来た。
「ルーレか。まあいろいろあってよぉ」
「メイド長の・・・!ルーレさんが来てくれたのなら100人力です」
獣人のリーダーと騎士団・・・騎士長のエンブレは声を返す。
「えっと・・・いえ話は後にしましょう。恵さん、やれますか?」
「ごめん、正直決定打にかけると思う。でも何とかしてみるよ」
「今回は私たちもちょっとは協力できるし楽にはなるんじゃないかしら?そこのアルティアナも・・・いやあいつは当てにならないかしら」
「はぁぁぁあああああああ??!!まぎあんに次いで最強最大無敵にして凶悪無慈悲なアルティアナちゃんを計算に入れないとかぁあ!あるの?そんなことあっていいわけないぉっ!」
はいはい分かった分かった。扱いに早くも慣れてきたのか適当に流し始めるゾンビ。ちなみにルーレはかなり顔を引きつらせていたが。主に生理的嫌悪感で。
そして、その時は来た。
すぐ近くで、バサッバサッという羽音を響き渡らせ、風圧をまき散らしながら現れる、黒龍。
「・・・2度目ですけど、ドラゴンを前にすると、鳥肌がたちますね」
「うん、本当にこれだけは慣れないよね。武者震いだけどさっ!」
先手を取ったのは、ルーレだった。
強烈な寒気と熱気を感じ、全員がルーレのほうを思わず見てしまう。
不思議な紅と蒼の波動を纏うルーレが、柏手を打った瞬間。
「まずは落とします。『潜熱雀煉』」
ドラゴンが飛ぶ地帯が地獄と化した。
左から来るのはフブキを変えた‘寒波’そのものの体現。
右から襲うのは灼熱の炎熱風を超えたマグマに等しき、熱量そのものの体現。
そして、その温度差と全方向から襲うため疑似的に密封された状態で起こる現象を、マキナのいた世界ではこう呼ぶ。
‘水蒸気爆発’と。
「「「・・・・・・・・・は?」」」
恵を含む、ルーレ以外の全員が呆然とするほどの破壊だった。
ドラゴンどころか広場そのものが壊滅したかのように見えるほどには。
「・・・いや、もうルーレ一人でいいんじゃないかしら。っていうか死んだでしょ、黒龍」
ゾンビの言葉に心の中で全員が同意した。が。
「・・・いえ。来ます!」
黒龍は生きていた。外見上はぼろぼろになっているが活動を行っている。
それに今の一撃で本気にさせたようだった。
「・・・いやぁルーレちゃん昔より格段に成長してるね・・・。これは腕がなっちゃうな!」
そう恵は叫ぶと、5階分の高さがある時計台から、剣一本だけを持って飛び降りた。
「ちょ、ええ?!」
落ちてくる恵を黒龍は敵と認識したようだ。口の中が鈍く光ったかと思うと強烈な光線が放たれ・・・・
「私がいるのに攻撃が当たるはずないだろう」
ミチのタクトにより攻撃をずらされ、恵の横をかすめた光線は遠くの山にあったかと思うと、
山のあった場所を、丸ごと焦土にするほどの爆発が起きた。
それを見ながら、落下する恵は思い出す。愛剣≪エクスカリバー≫のことを。絶対に失なわない力と太鼓判を押されているはずの剣が折れた訳を、考えながら。
(たぶん。違うんだよね。あの剣が特殊な力を持ってたわけじゃないんだ。だったら、この普通の剣も、エクスカリバーになりうる。だからこそ、私が持った剣が、エクスカリバーとしての力を持つからこそ絶対に失なわない力なんだ・・・っ!!)
果たして、恵が掲げた剣は、昔と同じく強烈な閃光を纏い、すべてを消しさる極光を生み出しながら、
黒龍の頭を、両断した。
ルーレの魔法でも表面を削る程度だった黒龍を、だ。
恵が黒龍を倒した広場では、野次馬たちが集まり始め、大騒ぎとなっている。
そこに降りてきたゾンビは・・・正直ビビっていた。
(・・・・・・・・・・何だこいつらは・・・。ルーレといい恵といいミチといい、勝ちようなくないかしら?ふぅ・・・私も精進が足りないのかしらねぇ・・・)
そこにアルティアナが、またも、意味不明なことを言い始める、
「どうしてまだ実力の半分も出してない黒龍に勝ったと思って喜んでるのぉ?」
「・・・なにそれどういうことかしら?」
「えぇ?だってぇ、黒龍がしてる首輪ってさぁ、復活と強化をする悪魔の常套手段のやつでしょぉ?」
絶望を、呼ぶような言葉を。
ずどぉん!!と、地響きがした。ゾンビがその方を見た瞬間、30メートルの黒い影が直立していた。
赤きオーラを纏いながら。
「・・・・・・・・う、そ、ですよね・・・?」
「ルーレ、おちつきなさいよ!」
と、彼女たちが体勢を立て直す前に、暴風が、吹き荒れた。
(なっ・・・!によこれ・・・!!!飛ばされないようにするのが精いっぱいじゃない・・・!)
しかも、黒龍にとってそれは翼をはためかせただけ、いわばただの身じろぎ程度であるということも恐怖と絶望を開花させ始めていた。
桁が違う。あらゆる意味で。
だからゾンビは頭上から降ってくる‘死’に気づけなかった。
音速で迫るドラゴンの爪を。
(・・・・・・・?死んで、ない?)
「相当ぎりぎりだったな。大丈夫かよ、ゾンビ」
片手で、黒龍の前足を持ち上げている黒髪の男。
「・・・・・・・・マギア・・・・っ!!いままで何してたのかしら・・・っ!?」
ちがう。私はこんな事を言いたいのではない。
素直ではない自分を呪う。
「ちょーっとな!」
そう叫ぶと、マギアは持っている前足を、投げる。
すると冗談のように黒龍はバランスを崩し、もんどりうって吹き飛んだ。
王 国 の 首 都 か ら 遠 く 離 れ た 山 間 ま で 。
「・・・・・・・あり、がとう。頑張って」
「・・・!ふん、仇は取ってやるよ。恵とかルーレと下がってろ。しぬぞ」
黒龍は種族的に最強のドラゴン種。当然いくらマギアであったとしても理論的には負ける可能性は高いはずだ。
しかし、マギアを見送るゾンビの心には莫大な安心感しかなかった。
吹き飛ばされたに憤っているのか、はたまた驚いているのか、黒龍は咆哮している。
その姿を見ながら、マギアは、割と本気で怒っていた。
(負けをなっかなかみとめないアルティアナを石臼に挟んで、マキナのほうで騎士長に命令出して、ルーレにも許可出して、さらにマキナの体を馬車で運んでもらってここにようやく来れたから、確かに時間はかかった。かかったが・・・)
「これはねえぞクソトカゲ風情が。生き残るために獣人と人間の協力してるやつらに対して復活やら強化で水差しやがって。俺の邪魔をしてんじゃねえよッ!!」
マギアは気づいていない。ルーレやクーを大事に思っているからこそ、傷付けられて怒りが収まらないのだと。それほどまでにマギアは、マキナは彼女たちに異世界での不安から、依存していることを。
黒龍の前足が音速で迫りくる、と思った瞬間、
音速の5倍のスピードで蹴り飛ばし、黒龍の前足を血花に変え。
その強烈な速度を維持したまま、翼を素手で む し り 取 り 。
頭にある角を叩き折った。
時間にしてわずかコンマ2秒。
黒龍は、まさしく一瞬にして死の淵に立たされた。
それでも、闘争本能なのだろうか?
口の中に先ほどの光線とは比べ物にならない大きさの鈍色の光を
それを。
「悠長にため攻撃なんて待ってやるわけねぇだろ」
空中で回転かかと落としを黒龍の頭に叩き込み。
地面にたたきつけた。
その結果溜まった光線は、黒龍の頭ごとマギアを巻き込みつつ上空に炸裂する。
山を消し去るほどの攻撃の2倍に比する攻撃を食らい。
「・・・・・・ふん。7割方すっきりした。残りは黒幕に取っといてやるか」
あたかも当然のように、少し灼けた程度で済んだマギアは毒づきながら
余裕の凱旋を果たすのだった。
遠く離れた場所で、漆黒の翼を持つ黒髪で人型の悪魔は、驚きを隠せないでいた。
「あらあら・・・?【はぐれ】が死んじゃったみたいネ・・・?しかも、場所がソレイン王国?人間の王国じゃないノ。・・・・ふふふふふふ、おもしろそぉな話じゃなイ♪」
恍惚とした目を煌めかせる、【臨死魔王】と呼ばれた存在は調査を開始することにした・・・。
その少し後の事。
野次馬たちは、はるか彼方に吹き飛んだ黒龍がどうなったのか分からないためもっぱら会話は馬車のほうに行っていた。王国の紋章が入った馬車へと。
暫くすると、中から人が出てくる。金髪の男だ。
「マキナ王子・・・か?」「おう、俺みたことあっぞ?」「おいおい王族がスラム街と広場に何の用だ?ドラゴンの見物に来たのか?」
ざわめく群衆の前にしながら、堂々とした立ち姿で。
「私はマキナ・S・アルティベート=リア、ソレイン王国の第一王子だ!
私は、今まで階級制ということになんの疑問も持っていなかった。
しかしどうだ?黒龍から街を、子供を、大切なものたちを守りたいという気概に、何らかの違いがあっただろうか?!
獣人だから?人間だから?奴隷だから?王族だから?女だから?男だから?
・・・・・・これらの違いなど些細なものでしかないっ!!
我々は、同じ王国の、仲間ではないか!
ならばなぜ仲間同士で優劣をつける必要がある?
仲間というのはともに切磋琢磨し合う物であって蹴落とすものではないはずだろう?!
目を覚ませ、民衆たちよ!このような呪われた因習を我が子に継がせたいのか?
否!断じて否だ!平和な国を作るうえでこのような因習は必要ない!
よって!私は、4日以内に!この国から身分制を撤廃するッ!
そしてよく目を見開き、これから起こる変化を括目せよッ!
どうすればより良い国を、いや世界を作れるかは、国民一人一人に懸かっているのだ!
以上。何か質問はあるか?どんなものでもいいぞ?」
ざわざわと、各々の驚きと考えを口々にいいあう中で、一人のケモ耳の男の子がこちらを見て話しかけてくる。
「まきなさま!そうすればこの国は、幸せになりますか?」
「こ、こら!すみません、王子この子が・・・」
「いやいや、一切構わない。むしろ見上げた心がけだ!この子はまだ子供でありながら、自分の幸せではなく、この国の、と言ったのだからな。
答えよう。幸せに‘なる’ではない。幸せに‘する’のだ。私を含める我々自身の手でな!幸せは自らで掴むものなのだから・・・!」
後々歴史に残ることになるこの日は、こう記されている。
ソレイン『評議国』の始めの一歩であった、と。
連続投稿、またの名を暴投、デッドボールに定評があるそよ風と申します。
さて、2話連続読破おつかれさまです!景品は読み終わった後の虚無感です☆
・・・疲れてなにやら変なことを書いていますね、私。ちょっと休憩してまた深夜次出すことを目標にしましょう。実際今日は調子がいいのでできる限り進めたいけど肩がああああああああ!!
あとがき成分は前2回連続で書いたので今回は無しで。なんか書くことあったと思うんですが、忘れました・・・。
さてここまで読んでくださった方に感謝を。
ま、マギア?流石にオーバーリミットしすぎでは・・・?
もう作者にも止められないぞこの人・・・




