第十三話・「成長する彼女たちは一番の脅威なのかもしれない」---(一日目中編)
「で、どうするのかしら?黒龍に対する対策なんて」
「・・・・・・とりあえず、速度的に夕刻に到着するだろう黒龍が来る前に、昔恵と一緒に戦ったルーレって、女の子を、探す」
「ルーレ・・・?ああ、あの子なのね」
「なんだ君の知り合いか?」
知り合いというか・・・なんていえばいいのかしら?と思いつつ、ゾンビたちは反国王組織のある場所に走る。と、その瞬間、後方からズドッバァッァぁアアアアアアアン!!!という轟音が響いてきた。
「・・・まったく、想像以上だな。あのマギア君の強さは。あんな戦いに巻き込まれでもしたら命がいくらあっても足りないぞ」
「・・・・・・私に、あの、10分の1でも強さがあったら、もっと・・・」
「そうかしら?マギアにだって出来ることと出来ないことがあるわよ。2つ体があるわけじゃあるまいし」
・・・実はマギアが2つの体を持つと知ったときどう反応するのだろうか?
しかしそんなことを知る由もない彼女たち3人は、反国王組織のある建物の真上に、直接転移した。
走るのが面倒になったらしいゾンビが勝手に、だが。
屋根を突き破り、部屋の中に落ちながら到着する。
「・・・・・・せめて転移する前に、一言、お願い」
「よっ、と。まあいいじゃない。さてこんにちはリーダーさん。ルーレって子を探しているのだけど?」
「・・・・・・ずいぶん急いでんな。しかもそこのは勇者の仲間か。どういうことか説明してもらおうか」
「・・・・・・じゃ、私から、説明させてもらう」
サーシャはここまであったことを説明する。黒龍のことでルーレの手を貸してもらわないといけないことを。リーダーの男は考えるそぶりすら見せず、こう言い切った。
「そんなもん無理に決まってんだろ」
「なぜだ?黒龍に襲われて困るのは君たちも同じだろう」
「は、知ったことかよ。うちのルーレに怪我でもされたら作戦に響くだろうが!さっさと餓鬼差し出せよ」
「なるほどね」
ゾンビはようやく理解することができた。マギアらしくもないと思ったあの行動が。
「・・・・・・なんだてめえ?来たことも見たこともねえやつが口出しする問題じゃねえぞ」
「いやぁ、ようやく分かったのよ。あんたたちじゃ、革命なんて、絶対に無理よ。世界征服をもくろむマギアが、あんたたちを取り込むことに興味が無さそうな理由がようやく分かったわ」
そのあざけるような言葉に、リーダーだけでなく周りの幹部も毛を逆立たせる。
「き、さま・・・っ!よくもこの俺の前でんなことを言えたもんだなぁ!?」
「あー、何度でも言ってやりましょうか?あんたらじゃ一生かかったって革命なんて無理よ。無理無理、この世にそれ以上不可能なことなんてあったもんじゃないわ」
その姿にサーシャと女主人は言葉を交わすまでもなく思った。
ゾンビちゃんもマギアと別ベクトルで大概やばいやつだな、と。
「・・・殺しちまえ!!!」
そのリーダーの言葉とともに、今まで人型だった幹部たちが各々の特徴をあらわにする。
オオカミのような牙をもつもの、悪魔のような翼をもつもの、鱗のようなものを浮かび上がらせるもの、と様々だった。それが見た目だけでないことは明らかで激しい戦闘になると予感させるものである、
はずだった。
・・・変身している最中にゾンビは鋏を振り、空間を割ってぎょろぎょろと目を蠢かせる触手生物を出していたが。
「・・・・・・それ、タイタンズクラーケンじゃ、」
パキリ、と触手生物の目に見られた手足が凍り付いたように動かなくなる。
「な、ん?」
「上級危険生物、タイタンズクラーケン。耐久度や攻撃性はそうないんだけど、厄介なのは、石化能力ね。目に見られたものはすべて石化する。まー魔法とか時間経過で治るし、あんたたち雑魚集団にはちょうどいいわ」
この能力、本来臆病なタイタンズクラーケンがビビらない程度の強さのやつにしか効かないのが難点よねー、とため息をつきながらまた鋏を振り、元の場所に戻した。
「ありえねえ、だろ・・・、モンスターを自在に出し入れして戦うなんざ・・・!古にいたっていう召喚士じゃねぇんだぞ!」
「ごちゃごちゃうっさい。で、ルーレはどこにいるのよ。言わなかった時間分だけ順番に手足砕いていくから」
「・・・俺たちも知らねえ。ルーレは今王宮でメイドとして働いてるはずだ」
「・・・・・・王宮勤めのメイドさん、だったんだね。謁見する時間、あるかな」
「ねえだろうよ。マキナっていう王族に仕えてるらしいからな」
王族とそう簡単に謁見できるはずもない。女主人は失望を隠しきれず舌打ちする。
「チッ、どうするサーシャ君?ほかの戦力を探すか?」
「・・・・・・とりあえず、恵たちと合流する」
そう言って、立ち去ろうとする3人にリーダーがたまりかねたように声をかけた。
「おい、青髪の娘!」
「なにかしら?」
「俺たちが革命を成功させられないってのは、どういうことなんだ・・・っ!おれは、いや俺たちはこれに命を懸けてるんだ!!!」
石化した手足を無理やりにうごかそうとするほど、血反吐をはくように必死な言葉の重みは先ほどまでとはケタが違った。しかし、ゾンビは臆しもせず、
「だからでしょ」
言い切った。
「なんだと・・・?」
「あんたたちは革命において最も重要なことが見えてない。
だから失敗する。必ずね。
・・・何のことかわからないって顔してるわね。
革命において重要なのは、政権を取った『後』なのよ。
ルーレの作戦を聞いたけど、あれもそう。
このままいけばまあ王族や貴族を倒すことはできるんじゃない?
で、それが、なんなのかしら?
目的はあくまで『平和な王国』なんでしょ?
手段と目的をはじめっから履き違えてんのよあんたたちは。
だから無理だって言ってんの。
少なくとも、子供の命を見捨てるような奴らには、平和な王国を作ることなんて夢のまた夢なんだから」
そう言い捨てると颯爽とその場を後にするゾンビ。
そこに残ったのは、半分ほど石化した、元・反国王軍だけだった。
「・・・・・・ってことがあった」
「うん、分かったよ。こっちでルーレちゃんは見つけたから大丈夫!」
それから少し経ち、恵、ガザニア(翼のない3メートルほどのドラゴン)、アスタルト(機械音のする幼女)と合流したゾンビたち3人は、報告を済ませていた。
「あのリーダーの話だとルーレ君は王宮にいたんじゃないのか?」
「それがね、マキナ王子の演説があるとかでたまたま外に告知しに来たらしいの。それで黒龍のこと言ったら『ご主人様に報告してすぐ戻ってきます』ってさ。それで子供たちは大丈夫?」
「ああ、それは問題ないぞ。うちの店には独自の地下道があるからな」
「・・・あの店どんだけ魔改造されてるのよ。泊まるの怖くなってきたわ」
そのうち空でも飛ぶのではないんじゃないかしら?そんな妄想をしているゾンビをほって、恵が真剣に話し始める。
「じゃあ、問題はマギアが戦ってるアルティアナと、すでに幾人かの子供をさらってるらしい生贄をささげようとしてる集団、それと黒龍だね」
「あのキチガイはマギアに任せるとして、私たちは生贄をささげようとしてる集団と黒龍を倒せばいいのかしら」
「Re:肯定/そうなります。しかし‘生贄をささげようとしている集団’は言いにくいですし仮称を付けました。‘黒龍教団’そう呼びましょう。彼らは今街で最も高い場所、大通りの真ん中にある広場の時計塔を占拠している模様です」
「『さらにその数は約100。その後黒龍と戦うならルーレと恵には体力と生命力を温存していてもらわなければならない』」
それが示すところは最大でもここにいる、5人、ゾンビ、女主人、ガザニア、アスタルト、サーシャで黒龍教団100人斬りを敢行しなくてはいけないということだ。
「・・・正直、命の保証は出来ないよ。だから降りてもらっても構わないと思ってる」
「Re:諦念/恵が危ないことに首を突っ込んで振り回されるのはいつものことです」
「『俺の弟子はいつもこうだからな。手助けするのは当然だ』」
「・・・・・・降りても構わないとか、今更過ぎる」
そう勇者の仲間たちはあきれたように言う。
そして女主人も、
「ま、私も一応異世界人だからやるしかないだろうな」
「え?あんた異世界人だったの!?」
「ああ。恵ほど強くはないが。そういえば名乗ってもいなかったな、私は甲斐崎ミチ、という。共に戦うなら信頼がなくてはならんからな」
「ふーん。というか私も戦うの前提なのね。まあマギアに聞くまでもなく戦うことになるだろうけどさ」
そう、全員が戦う意思を見せると恵は笑いながら、
「流石だね、皆。じゃあ、ルーレちゃんが来たら突入するよ!」
世の中は厳しいもので、予定通りにいかないことのほうが多い。
今回がそれだった。
バサッバサッと、上空から響く力強い羽音は、巨大な生命体の存在を如実に表している。
少し遠くではあるが、その神々しさと禍々しさが同居する黒きドラゴンは見間違えようがない。
30メートルに迫ろうかというバカげた大きさであったのだから。
それこそ、10年に一度の天災といわれる人の力で対処できないほどの領域に住まう生物。
【はぐれ黒龍】などと呼ばれながらも王国の首都を襲う、まさしく怪物である・・・!
「・・・・・・早い・・・っ!予定では、夕刻になるって」
「あんな化け物だし、計算もくそもないでしょ。獲物のにおいを感じて気持ちが急いちゃったとか?行くしかないわ、ルーレがいなくてもひとまず子供を助けることが先決よ。あの天災が来る前に!」
「うん、行こう!!」
時計塔の扉を恵が殴ると、ソニックブームを発しつつ木っ端微塵になった。
黒龍教団の下っ端たちが驚く中、100対5の戦闘が始まった。
時計塔の内部は吹き抜け構造になっており、5階層ぶんほどの床が見えていた。
1階層の敵を吹き飛ばし、2階層へと足を進めたあたりで、
それにしても、とゾンビは思う。自称勇者の仲間はなんだかんだ強いみたいねと。
黒龍教団の連中も弱くはないし、タイタンズクラーケンはあまりの大人数相手だと委縮してしまうため使えない。そんな相手に対して、
ガザニアは、動きはさほど早くないものの鱗が異様に硬いらしく金属すらはじき、一見無謀にすら思える突貫を敢行しているし、
アスタルトは、体から鎖や鉄の矢を飛ばし敵が近づけない要塞と化しているし、
女主人、甲斐崎ミチも、異常な身体能力で敵を殴りつけながらタクトのようなものをふるっている。どうやらそれは、
(補助と妨害の魔法・・・?明らかにこっちの身体能力が上がって、ミチの近くにいる敵の身体能力が下がってるわね。化け物ばっかりじゃない)
と、思いつつゾンビは転移させた白い翼の生えた巨大すぎる亀を乗り回しているのだから、手に負えないのだが。祭壇でマギアと戦ったときは弱く見えたが、流石に勇者。相手が悪かっただけらしい。
「・・・でもこれ間に合うのかしら?数が多すぎて先に進めないわよ」
「ゾンビちゃん、転移させることできないの?」
「無理よ。目視できないところだとどんな物があるか分からないから。下手したら壁に埋まるわよ?」
「・・・・・・さっき、目視できない反国王組織の、建物の上空に、とばしてなかった?」
「あれは上空だからよ。目の見えないところに飛ばす時は、結構上の方に飛ばせば物がないから。今回の場合、時計塔の中だからそれは無理」
「『手詰まりということなのか・・・?!』」
いくらこのまま続ければ勝てるはずの戦いだとは言え、今は時間制限がある。
やはり人数差は覆せないのだ。
だから。それを身に染みて知っている彼らは来た。
時計塔の門から現れたのは、30人以上の獣人たち。その先頭に立つのは、
「いくぞっ!!!勇者と青髪の娘を援護しろおおおおお!!」
「反国王勢力エミューリア・・・?!どうしてここに?」
驚きを隠せない恵の声。
ふふっ、とゾンビは笑い、叫び返す。
「なかなかどうしてやるじゃない!リーダーさん!」
「ふん、小娘にあれだけ言われて黙ってられっか!」
戦況は劇的に変化する。たかだか100人に対して30人、しかしその士気は覆りつつあった。
それに対して恐れをなしたのは、黒龍教団のトップである。
5階層の吹き抜けから下をのぞき込みながら叫ぶ。
「動くな、愚か者ども!この餓鬼をこっから落としてやってもいいんだぞ!」
そこにいたのは、宿屋で見た子供のうちの一人だった。
「・・・?!スズラン?なぜ・・・!」
誰も知るはずがないが、これはマギアのせいである。アルティアナとマギアの戦いが激化した結果、地下道を掘り返してしまったのだった。そこでこのスズランという子がおとりになり、つかまってしまって今に至る。
「・・・ねえガザニア。私の事投げ飛ばせるかしら?」
たったその一言でゾンビが何をする気なのか理解したガザニアは目を剥く。
「『・・・正気か・・・?!』」
「超正気。むしろ本気かしら」
「Re:調査/角度と速度の計測は完了しています・・・。やりますか?」
「ええ。任せときなさい」
その緊張感があまりないゾンビの姿に恐れをなした黒龍教団の人間は。
スズランを蹴り落とした。
「・・・・・・っ、ゾンビちゃん、教団の人は、頼んだ・・・っ!」
「サーシャ君、あれを!私が受け止める!」
その瞬間、様々なことが起こった。
アスタルトの助言に従ったガザニアは、ゾンビをつかみ上げ、吹き抜けの上の方へ投げ上げる。
5階層目がゾンビの視界に入るように。
叫ぶのも忘れて落ちてくるスズランが落ちてくるコースへ、2階層から吹き抜けに向かって空中へ跳躍したサーシャはあの時の事を思い出していた。
超速で突進したサーシャを、ふんわりと受け止めた魔王、マギアのことを。
(・・・・・・あれと同じ速度で試してみるのは、まだ、無謀。けど、落下のスピードなら・・・っ!)
成功する。イヤ、成功させる。でなければ仲間が悲しむのだから。
ガザニアに投げられたゾンビは4階層目の吹き抜けの手すりを空中で蹴り、5階層目の天井を目視し鋏を振る。瞬間黒龍教団の人間の真上、天井に立った、ゾンビは落下の勢いとともにがら空きの背中へ鋏を突き立てた。
「・・・ふん、人を殺していいのは死ぬ覚悟がある奴だけよ?」
空中でスズランとサーシャが交錯する。その瞬間、サーシャは手を閃かせ、上へと、重力に抗いまったく同じ力で押し上げる。空中で静止した彼女たちは、そのまま2階層から1階層へと落ちてくる。
下にはミチがいる、そうそのはずだった。1階層に黒龍教団の生き残りがいなければ。
まずい、とミチは焦る。彼女の力なら殴りつけるは容易だ。しかしその1つの無駄な動作で間に合わなくなってしまうかもしれない。かといっていくらミチでも突っ込んで武器で刺されれば死ぬ可能性がある。どうする・・・っ!?と思ったその時、視界の端に銀色のあるものが見えた。かけてみるかと、武器を構える教団員に突っ込む。
「・・・ふう。なんとかなったねえ、ありがとうサーシャ」
「・・・・・・それは、いい。でも、この人たちは、だれ?」
そこにいたのはミチが教団員に刺されるより前に、教団員を倒した騎士団だった。
先頭の男がヘルムを外し、名乗りを上げる。
「我々はマキナ王子の独断と偏見によって、ただの‘街の見学’にやってきた王国騎士団とは一切関係のないものである!しかし‘見学’中とは言え、暴力行為は見過ごせない!黒龍教団を逮捕するっ!」
びっくりするぐらいの言い訳がましい言葉だったが、ここにいる全員に真意は伝わった。マキナ王子という人が適当なでっち上げを使ってでも助けをよこしてくれたのだと。
その声を5階層上で聞いたゾンビはにやにや笑いながら残った教団員を眺める。
「あらら、大変ね。ついに王国の王子まで敵に回しちゃってまあ」
「な、なせだ!我々は街を救おうと・・・!」
「ゆがみ切ってるのよあんたたちは。自分が生き残るために戦うんじゃなく、他人を犠牲にするとか性根が腐ってるとしか思えないわ、おとなしく降参・・・・・・・・・っ
教団員の胸から、槍が、剣が、なたが、刀が、レイピアが、ナイフが、斧が、突き出ていた。
「はいはいみなさんおまちかねぇぇぇえええええ!!アルティアナちゃんの、お出ましですよお!!!」
アルティアナの背中から千手観音のごとく無数に生えている武器は、まさしく一種の【翅】のようだった。天井に立ちながら教団員を【翅】で突き刺し殺した、アルティアナは相も変わらずにこにこと笑っている。
「・・・マギアは、どうしたのかしら?」
後編にしようとしたら1万字超えちゃって絶望しているそよ風と申します。
1万て!肩痛いよ!!
とりあえず2話連続投稿いたします。それしか手段がない・・・
ここまで読んでくださった方に感謝を。
いつの間にかクー(ゾンビちゃん)が主人公してる・・・




