第十話・「大体全部予想通りに行きそうだ」
マギアとしてルーレと話した夜、反国王組織のいる建物から出たマギアとゾンビ、そして恵は例の女主人がいる宿へと向かっていた。
「でもどうすんのよ、あの宿には一人分の働き口と部屋しかないんでしょ?わざわざ戻る必要あるのかしら」
「ああ、そうだな。≪働き口と部屋、は≫一人分しかない契約だったな」
「・・・・・・どういうこと?」
「今回の契約は口頭、最も簡単で最も安全性の低いものだった。だからあとあと困らないように勘違いさせるような言葉を含ませてある。だって別に働き口と部屋が一つであることに関しては問題ないだろう?別に部屋に2人で寝ようと思えば寝れるのだし。問題は食事や洋服に関してだが、女主人が言った‘働いてくれるのはどっちか’という質問に対して俺はゾンビが働く、と答えた、が、そのあとの衣食の約束というのに関して俺は、対象になる人を言っていない。だから俺の分も含めて用意してもらう」
完全に手口が詐欺師のそれである。
若干引いたようにゾンビがつぶやいた。
「・・・・・・なによその激烈な屁理屈は」
「屁理屈でも理屈、それが契約ってものだ。本来雇用契約なんて慎重に慎重を重ねるものなのに、適当に済ませるからそうなるのさ。というかそれとな」
ポケットから手のひらサイズの袋を取り出し中身を見せる。
その中身は、金貨だった。
「あ、なんか察したわ。私といないときで金貨を得る手段とか一つしかないものね」
「これに関しては少し罪悪感がないわけじゃないが、人身売買の組織を撃滅させた報酬とでも考えればいいさ。治安維持に協力してやったんだからちょっとくらい貰ってもいいだろ。・・・い、いいよな恵?」
人間として、いくら悪そうな組織からだといえど強奪してきた罪悪感が生まれてきたため恵に話を振ったのだが、なにやら考え込んでいる恵には聞こえていないらしい。
と、立ち止まり真剣な表情で恵がこちらを見てきた。
「私さ、あのルーレって子と会ったことあるんだよね。ちょっと前の話だけど」
「屋敷か何かでって話か?」
「ううん、同じ学校だったから」
学校?異世界人の恵と、ルーレが?訳が分からないがどうやら恵の言いたいことはそこじゃないらしい。
「ルーレちゃんと一緒に戦ったことがある私としては、どうしても助けてあげたいの。だからルーレちゃんのご主人様とかいうのに会いに行くよ。どんな人なのかを見にいって、ルーレちゃんのことどう思ってるのか聞きたいから」
ある意味アポイントメントである。しかしだ・・・。
(反国王組織は、使える。これをここで恵からマキナにばらされてしまうと空中分解かあるいは標的の無い暴動になるかもしれない。‘あれ’が出来なくなると王国の主権を握るのが厳しくなるな・・・。ん、というかちょっと待て、今、一緒に戦った、って言ったか?)
「戦った?ルーレは強いのか?」
「そりゃ強いよ。戦闘技術、学業、ともに学年主席だったんだから。ルーレちゃんの魔法は綺麗で凶悪だって有名だったよ」
・・・どこまでもスペックの高いメイドである。
「まあ恵程度ならたかが知れているな。そう警戒するもんでもないか。だが恵は貴族が嫌いと言ってなかったか?」
「うん嫌い。けど・・・ゾンビちゃんの言う通り一部を見てただけだから。ルーレちゃんが認めた人が気になるのよ。まずはその人が誰なのか探すところからだけど」
「分かった」
(・・・それまでに反国王勢力には屈服していただくとしようか)
恵と別れ、宿に帰る二人。
余談だがこの後女主人との全力折衝の結果マギアの意見が通り、一部屋を二人で使うことになった。
なぜか「私がベットに寝ていいのかしら?」とか「寝た後、襲われるの面倒だし今ヤってくれればいいのに・・・」とかなんとかうるさいゾンビをベットに寝かしつけ、椅子に座ったマギアは今後のことをまとめていく。
(マキナのほうのピ-スは、あと一つ。欲を言えばマギアのほうで手柄を立てるためのイベントが一つ欲しい。それと最も気になるのは・・・あの時の、ルーレの言葉。あれが何を意味しているかだな。誰が何の目的で得の無いことをやっているのか、それを調べるのが一番大変そうだ・・・)
そう考えつつ、睡眠がとれないマギアは、すやすやと寝息を立てるゾンビに目を向けた。
身体にある無数の縫い目といい、ルーレに語っていたことといい、不思議な言動といい、ゾンビ・・・いやクー・レヴェルと名乗るこの子がどんな人生を送ってきたのか興味を持ち始めている。
そもそもだ。
「クーはどんな理由で俺を呼び出したのかねぇ・・・」
「予想外だったっていったでしょ」
「ぅえ?!・・・起きてたのかよ」
「誰でも名前呼ばれたら起きるわよ」
いや無理。忠犬ハチ公超えてんぞ、と思いながらも丁度いい機会かもしれないとクーに問いかける。
「どういう経緯で何があったんだよ」
するとクーは、一通りのことを教えてくれた。自称勇者に追われてたこと、魔法陣を完成させる前に戦闘になったこと、自称勇者に負けて魔法陣ごと壊されたこと、すると黒い液体が出てきて自分が死にかけたこと、そこを助けてもらったことを。
「・・・ってわけよ。知ってのとおり魔法は生命力を消費するから、そう何度も魔法陣作るわけにもいかないし?」
(魔法ねぇ・・・。生命力と命ってのは等価なもんって訳か。・・・・・・・ん、いやまて、今≪おかしなこと≫言ってなかったか?)
もしかすると、この世界にある‘定説’と‘現象’は違うのかもしれない。
そんなことを考えていると、クーがベットから身を起こしこちらをのぞき込んできた。
「・・・聞かないの?元の魔法陣がどんな効果をもたらすものだったのか」
「そうだな・・・そのあたりはクーが話したくなったらでいいぞ。別にプライベートを暴いて楽しむ趣味があるわけじゃないからな」
「・・・・・・そ。じゃ気が向いたら話してあげるわ。なにかマギアも隠しごとがあるみたいだし?」
「・・・え?」
「分かりやすいのよ。・・・おやすみ、マギア」
「はぁ、おやすみ。クー」
空が白み始めた頃。
「ほら、起きろ。仕事の時間だぞ」
「・・・ん、分かったからドアをたたくのやめてくれるかしら」
女主人のドア連打にたまりかね、ゾンビがベットから起き上がると、マギアは椅子で腕組みをしたまま目を閉じていた。
「・・・まったく。こういうときだけ紳士的なんだからさ。はぁ、起こさないでおいてあげるわ、感謝しなさいよね」
聞こえていないと知りながらも声をかけ宿の仕事を始めるのだった。
さてその頃。
(ふぅ、良かった。今回もちゃんとマキナの体にもどれたな)
そう考え、部屋を見てみると、ルーレが机に突っ伏して寝ていた。
あー・・・どうしよう、起こすのもかわいそうだけど起きてもらわないと俺なにもできないからなぁ・・・と自分のふがいなさを呪ったりもしながら、ルーレの肩をたたく。
「ルーレ?大丈夫か?」
「ん・・・くぅ・・・・・・・・・あ。すっ、すみませんでしたご主人さま!!!」
ぼんやりとした瞳でこちらを見たと思ったらはじかれたように立ち上がり叫ぶルーレ。
「ああ、いやいいよ。おはよう、ルーレ。それよりルーレってここでいつも寝てるの?」
「おはようございます、ご主人様。ちょっと今日は・・・その、疲れて寝てしまいまして」
「ちゃんと寝ないと風邪ひくぞ、いやホントに」
さて、何から始めたもんかなと考えて話かける。と、
「・・・あのっ、ご主人さま・・・っ!・・・・・・え?
「ちょっとやりたいことが3つ・・・・・・・・・・ん?
マキナとルーレの言葉がかぶってしまった。
「な、なんでもありません!やりたいことというのは?」
「ん?うん。とりあえず今からな・・・・・・・・・・・・
その内容はルーレを驚かせるのに十分なものばかりだった。
奇跡をごり押しで起こしたそよ風と申します。
なんとか13日に投稿出来てほくほくしてます。でも次辺りは2日程空いちゃうのかもしれませんねぇ・・・。予約掲載してもいいんですがそんなことするくらいならその瞬間にあげたいという残念な子なので許してくださいな
さてここまで読んでくださった方に感謝を。次は13日か14日入ったあたりで出せる可能性があります。
遂にマキナさんとマギアの無双が始まる・・・!




