幕間2・王妃との会食(ミィス・ザ・クイーン)
「さて、ではいただきましょうか」
そんな王妃の言葉で、夕食が開始される。
というか王妃との会食と聞いていたのに、妹のシャルロットと姉らしき人物もついてくるのは予想外だ。より一層なにを話せばいいのかわからない。
すると幸いなことにセテプション王妃のほうから話を振ってきてくれた。
「ふふっ、マキナ。今日は来てくれてありがとうね」
「いえいえ母上が呼んでくださるなら何度でも来ますよ」
「よく言うなまったく・・・。今まで私や母が呼んでも来なかったじゃないか」
苦笑しながら姉が言う。
あ、やっぱりマキナってそういう感じの人だったの?と、思って微妙に来たことを後悔し始めているが完全に後の祭りである。
もういいや、食べることに集中しようと異世界の料理を眺めた。
どうやら動物の肉系統が多いようで、魚や貝といった海産物は見受けられない。
王妃の好きなものなのか、または王国が海に面していないのか、はたまたこの世界に海自体がないのかはわからないまでも、海産物は貴重なようである。
どれから食べよう、いやまてもしかして何らかの食べる順番とかあるのか・・・?
マキナにわかるのはナイフとフォークの使い方と置き方程度である。
やべぇ、助けてルーレさん!ああめっちゃ遠くのほうでほかのメイドさんと話してるし!と心の中で叫んでいると、横からすっとお皿が渡された。
「はい、お兄ちゃんのぶん取ってあげたよ。ほっとくとお兄ちゃんはお肉しかたべないんだから」
「ありがとう、でもシャルも肉とか食べないと成長できないぞ?」
「私は順調に成長中だもん!・・・・・・・・た、食べた方がいいかなぁ?」
少し不安そうにこちらを見るシャルは、この時点ですでにかわいいと思うのだが。
「シャルもマキナもレンも育ち盛りなんだからいっぱい食べて大丈夫よ。・・・私は太ると困るから控えてるけどね」
「ぐっ、母上私も最近体重が気になり始めていて・・・」
「ふふっ、レンは少しやせすぎなくらいじゃないかしら?」
「お母さんお母さん、私は?」
「シャルはまずお化粧からかしら?」
異世界であっても女性の悩みというのは大して変わらないらしい。
男であるマキナにはあまり縁のない話だ。それと姉はレンっていうのな、と頭に叩き込んだところで。
そういえば、とそのレンが話しかけてくる。
「シャルから聞いたが今日一日で結構働いていたらしいけど、どんな心境の変化だ?想い人の一人でもできたんじゃないかとヘルが言っていたぞ」
にやにやと笑いながら迫るレンと、ちらちらとこちらをうかがうシャルに、少し驚いたようなセテプション王妃。
ここで、「いやーそれどころか結婚までしちゃったよ~」とか言ってみたらどういう反応が返ってくるのかかなり気になったが、冗談が通じるかどうかもわからないからやめとこう。
などと考えていた、そのタイムラグをどう受け取ったのか、
「そういえばお兄ちゃん・・・あのルーレっていうメイドとずっと一緒にいたよね」
シャルが爆弾を投下した。
「メイド・・・?!ほうほうほう!!!身分差のある恋というやつか。いつまでも子供な弟だなと思っていたが、なかなかどうして波乱を巻き起こすじゃないか」
「あらあら、身分差のある恋は大変よ・・・?でもお母さんは応援するからね!」
「確かにルーレは可愛くて色々尽くしてくれるからなぁ。でもルーレの身分ってどのあたりなの?」
身分?ゾンビが言ってた大まかな4階級のことか?でも王族のメイドしてるくらいだから普通に考えて庶民なんじゃ、と思いしゃべろうとする、のだが。
「あら、シャル?駆け落ちしたら身分なんて関係ないのよ?」
「かっ、駆け落ち!?でも、お兄ちゃん大丈夫かな、いくらルーレでもカバーしきれないんじゃ・・・?わ、私もついて行っていい!?」
「いやシャル、それは駆け落ちではないだろう?」
ここでようやくマキナは気が付いた。
こいつら聞いてくる割に聞く気はないということを。
要するにただ妄想と空想に浸って非日常を味わいたいだけなのだろう。
まあ、恋バナなんていうのは往々にしてそういうものだが。
そしてあんまりにもルーレルーレというので少し気にかかり、振り返ってみるとルーレは他のメイドに指示を出しつつ働いているようだった。
(あいついつまで仕事してるんだ・・・?王宮のメイドとか絶対ブラックだろ。今日にいたってはずっと俺と一緒にいて、ん、待てよ。もしかしてルーレ、今日ご飯食べてない・・・?!)
そう言えばそうである。一応時間としてはマキナが中庭で気絶した際あったはずだが、あの時はあの時で騎士長を呼んできてみたらヘルとシューに出会ってしゃべってたと言っていたし、休憩時間はなかっただろう。え、それであの仕事っぷり?化け物かルーレは。
そう思い、ルーレを見つめているとこちらに気が付いたようで、自然な笑顔で首を傾げ「何かございましたか?」と目線で聞いてくる。
・・・ちなみにだが姉と妹と母親がマキナのほうをジッと見てドキドキしていることに気が付くのはも少し後の話である。
ちょいちょい、とルーレに向かって手招きすると器用に足音も立てず小走りで近づいてきて、
手前で全員のほうにお辞儀すると、マキナの座る椅子の隣にしゃがむ。
「どうなされましたか?」
小声で不思議そうに見上げてくるルーレの口元に、肉をフォークで突き刺し無言で寄せる。
「・・・え、えと・・・?」
「いや、おなか減ってるかなと思って」
「おなかが減ってないと言えば嘘になりますけど、私が王族の食卓から食べ物を食べたなんてことになったらむぐぅうう?!!」
不安そうにまくしたてるルーレの口にお肉をねじ込む。
眼を白黒させるルーレはやはり教養があるようで、むきゅもきゅと口に中から食べ物を無くしてから小声で叫んだ。
「ちょっ、だから言ってるじゃないですか!というかしゃべってるあいだに口にもの入れられたらのど詰まりますよぉ・・・」
「おいしいだろ?それ俺がさっき味見したから間違いないよ」
「聞いてます?!・・・いやとってもおいしいですけど」
もちろん聞いちゃいない。
ほら、と今度はトマト?のような赤い果実をまたフォークで刺し、ルーレに寄せる。
「ちょっ、だからこれ以上無礼なことするとホントに私国内引き回しの上磔にされて焼き殺されちゃいますって!!」
涙目でイヤイヤするように首を振るルーレに、飲み会の常套句を投げつてみることにした。
にやにやしながら。
「おいおいなんだ?俺が渡すご飯が食べれないっていうのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・た、たべますぅ」
「じゃあ、あーん」
「・・・っ!!」
顔を赤くして逡巡するルーレ。
よく見るとじーっとレンたちが見ているだけでなく、周りのメイドたちもちらちらとこちらをうかがっているようだった。
「・・・うーん、ほんとに嫌ならやめとくけど?」
マキナとしても別にルーレをいじめたいわけではないし、見られていることに気づいた結果微妙に恥ずかしくなってきていた。
「そんなことは・・・ない、です」
しかし、ルーレはそう言うと口を開け目をつぶる。
う、うんこれ思いのほか恥ずかしいな・・・。と思うものの、今更どうしようももない。
フォークをルーレの口に入れる。
眼を伏しながらもきゅもきゅと食べるルーレに、癒されたマキナだった。
レンやシャロ、王妃から謎のエールを送られながらも自室に部屋に戻る中で、マキナはルーレに怒られていた。
「あ、あ、ありえませんよあれは・・・!いくら異世界からいらしたって言っても限度があると思います・・・っ!」
「ごめんごめん。おなか減ってるのに仕事してて大変だなーって思っただけなんだって」
「そ、れはうれしいですけど・・・。もうちょっと方法を考えてください・・・」
「分かったよ。ルーレもしんどかったら言えよ?」
「はい。・・・・・・・・・・・・・・・・っていい話風に終わらせてもだめですよ」
チッばれたか。
そう笑いつつ、自室に戻り、寝る準備をする。
寝るといっても睡眠はとれそうにもないが。
「うぅ、ご主人様。やっぱりあれはいくら何でもあんまりですよぉ・・・今思い出しても恥ずかしいです・・・」
「まだ怒ってるのか?あーあせっかく親切心でやったのになー」
「ほ、ほんと殺されるかと思ったんですよ?!王族の食事に水を差すようなことですし・・・」
「まあ、なんか言われたら俺がなんとかしてやるよ」
このときルーレのほうを見ていなかったマキナは知らない。
「じゃ、おやすみルーレ」
「あ、はい。おやすみなさいませ、ご主人様!」
・・・とても複雑そうに、そしてさみしそうにルーレがマキナの背中を見つめていたことを。
いろいろ血迷ってる変人として有名かもしれないそよ風と申します。
報告することが二つありまして、
一つは番外編としてどこかの自称勇者が主人公の小説を出してしまったことと、
二つ目は家を空けるため2日ほど投稿ができないということですくそがッ!
あ、それともう一つ、1話は2000から3000字に収めるとか言ってやがった風がいたそうですね。
やつはしんだ!もういない!
ということで、3000超えても怒らないで><
・・・あれ、3つ報告しちゃったかな。気のせいだな。
番外編の「日陰少女」のほうの投稿は気分によって時期がまちまちになってしまう予感がします。
その代わりこちらは、このままほぼ日刊で行きます(無謀)
ここまで読んでくださった方に感謝を。次回は13日に出せれば奇跡です。
ここまでの12話すべてたった1日のできごとなんだぜ・・・?




