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1話「色の星のカーニバル」

以前私が見た夢を練り直して小説にしてみました。

のんびり更新です。

 外は相変わらずの景色だ。真っ暗な闇の中に多彩な色を放つ星々。光は大きかったり小さかったり。強かったり弱かったり。

 カーキ色のぼろ布を纏いボサボサ頭をした人物は、そんな見慣れた景色を眺めながら大きく溜息を付いた。

 ブラウン色の髪をかき上げる。その瞬間に首元のネックレスが大きな音を鳴らした。それにはクロスとプレートが付いている。クロスはシルバーで細かな装飾が施されており、プレートはシンプルなデザインの文字が刻み込まれ『ジャズ』と彫られている。それがこの人物の名だった。

 ぼろ布から出た腕は筋肉質でしっかりとしている。胸板も分厚い。背丈も高く、ジーンズ生地のパンツに黒の紐靴という恰好が似合っていた。腰にはレザーのバックが何個も付いていて、その一つには黒光りする拳銃が見える。護身用にしては大きなサイズだ。

 ジャズは外の景色を見ながら硝子に寄りかかり、もう一度大きな溜息を付く。黒い瞳には外の大宇宙が映る。

 そんな彼の腕の中がゴソゴソと動く。その腕には猫がいた。真っ黒で小柄。猫なのに虹色のセーターを着ている。

 猫は何度か動くと気持ちよさそうに寝息を立てた。ジャズは猫の頭を撫でる。

『次はミスカンリーヴァ。色の星ミスカンリーヴァです。到着の際は大きく揺れる恐れがございます。お席にお戻りいただき……』天井近くにあるスピーカーが音を出して次の目的地を伝える。

 船の展望台で物思いに耽ていたジャズは、その言葉で寄りかかっていた窓から離れた。

「ヨミ……そろそろ次の星に着くぞ」

 そう呼ばれた猫はゴロゴロと喉を鳴らし目を開ける。その目はルビーのような真っ赤な色をしていた。

「良く眠れただろう? 自分で歩けるか?」と、足元へ降ろす。

 ヨミは腕からピョンと飛び降りると、見上げるようにジャズを見つめて来た。

「ああ、もうすぐ到着だそうだ」と、ジャズが微笑む。

 ヨミは細いしっぽを揺らしながら前を向き、歩き出す。そんな黒猫の後ろを追いかけるように歩き、船内の座席へと移動した。







 ジャズはヨミと旅をしていた。長い旅だ。ヨミは何か伝えたい事があると、見上げるように首を動かしこちらの顔を見つめる。ジャズはそんな彼女とアイコンタクトを取りながら旅先を決めていた。そうすると不思議と全てが上手くいく。それはただの思い込みなのかもしれないが、そうではないのかもしれない。だからジャズは何かを決める時、必ずヨミに相談する。そうやってここまで宇宙の海を旅してきたのだった。

 立ち寄った星は賑やかな所だ。港街のターミナルだったのだが、まず海が虹色だった。波が動けば色が変わる。揺れる水面は光を放ちながら色を変えるが、手ですくうと透明に戻る不思議な海だった。

 街並みも賑やかだ。バケツに入れた絵具をばら撒いた様な色とりどりの壁に、不可思議な形で同じ物が存在しない屋根の数々。二度と戻って来られなくなるような入り組んだ路地に、渡る先が見えないほど歪んだ渡橋。

 そして空は昼間だというのに太陽と競うように星々が瞬いていて明るい。

 昔、何処かで見た事のある絵画に似ている。なんと言う題名だったか……ジャズはそれを思い出せずにいた。

「年に一度のカーニバルがあるこの時期は、特に忙しい」と、駅長は言っていた。

 カーニバルと言うだけあって、賑やかな色の街はより一層活気立っている。カラフルな旗やテントが街を彩り、出店が所狭しと軒を連ね、それに合わせて人通りも多い。カラフルな紙吹雪が舞い、路上の生演奏があちらこちらから聞こえる。

 ジャズは相棒の黒猫と一緒に賑やかな街を歩く。

「なんとまぁ……賑やかだ」

 ボサボサになった髪の毛を掻き上げながら、ジャズは辺りを見回す。ジャズの服装は埃だらけのぼろ布で、街に繰り出せば浮いて見える。

 ヨミはそんなジャズを見つめ鼻をヒクヒクとさせた。自分は虹色のセーターを着ているから黒色の毛並みでも浮かないだろう? とでも言いたげに。

 そして先導するようにカーニバルの街を歩き出す。

「どこへ行くんだ?」と声を掛けるが、ヨミは振り返る事なく歩き続ける。

 足がテンポ良く進む。ジャズは彼女の歩く姿が好きだ。虹色のセーターから伸びる尻尾がふわふわと揺れる。

 ヨミは少しの間歩き続け、ある出店の前に立ち止まった。こちらを振り返る。そして何かを訴えるように耳を動かした。

 ジャズはその出店を見て彼女の訴えに気が付き「あぁ……なるほど」と、こぼした。その声に尻尾をゆっくりと振る。

 出店は色とりどりのリボンや髪飾りを取り扱うお店だった。ジャズはヨミを抱き、店の商品を覗く。

 彼女は嬉しそうにリボンを眺めた。

「どれが好みなんだい?」

 彼女は金色の鈴が付いた虹色のリボンを見つめる。

「……これか」

 それを手に取るとヨミはこちらを見つめ、鼻をヒクヒクとさせた。

「これを貰えるか?」

 出店の亭主に声を掛けると、男は笑顔で値段を伝えてくる。ジャズは腰に着けたバックから銀貨を取り出し差し出した。

 亭主はそれを受け取ると「よいカーニバルを」と微笑む。ジャズは片手を上げ、それに返事をした。

 店を離れ、歩きながらヨミの首元にリボンを付けようと手をかける。彼女は付けやすいように首を伸ばした。綺麗にくくったリボンと鈴に、彼女は嬉しそうに喉を鳴らす。相当気に入ったようだ。

 ジャズはそのまま元来た道を歩き、大きなターミナルに辿り着く。

 ターミナルの先頭に見える銀色の宇宙船がジャズの乗る船だ。あと数分で船が出る。

 船に近づくき切符の半券を車掌に見せた。

 多彩な色の制服を着た車掌が「乗り継ぎの時間だけでしたが如何でしたか? 賑やかだったでしょう?」と話し掛けてきたので「そうだな。今度ゆっくり観光したいものだ」と返事をした。

 車掌は「是非」と笑い掛け「よいカーニバルを」と、付け加える。

 ジャズはそれに片手で答え、腕の中で満足そうに喉を鳴らしている黒猫の頭を撫でた。

「さて、次の星はどんな所かな?」

 宇宙船に乗り込みながら声を掛けると、ヨミは鼻をヒクヒクとさせる。

「そうだな。楽しみだ」

 ジャズの声に彼女は『リンッ』のリボンの鈴を鳴らした。






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