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渡らせの店  作者: 月凪
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必負の賽

この店の性質上、品を整然と並べる事は出来ない。

だが不思議な事に、店主の腕なのか品の並びに違和感は感じられない。

むしろ収まるべき場所に収まっていると感じる。

そんな中、ある品に眼が止まった。

それは小さな丼の中に在る三つの賽子だった。

昔の事を思い出し、唇の端が歪んだ。

込み上げてくる記憶を押し殺し聞いてみた。


「店主、この賽子にはどんな過去があるんですか」


店主は眼鏡を掛け直し、賽子の過去を語り始めた………………



賽子の持ち主は二十九才の女。

女には最愛の恋人が居た。

一つを除き、全てを愛していた。

一緒に居られるだけで幸せだった。

唯一、嫌いな所は博打をする事。

勝ち負けなんかどうでも良かった。

博打をする時は女は来るなと言い、連れて行ってはくれず、一緒に居る時間が減り、とても嫌だった。


勝った時は美味しい物を食べに行き、欲しい物を買って貰った。

嬉しかったが、少しは貯めておけばと言うと、宵越しの銭は持たない主義だと笑うだけだった。

負けた時は、愚痴混じりに酒を飲んだ。

たらと、ればを大量に含んだ愚痴を聞くのも楽しかった。

これがいつまでも続くと信じていた。


少しづつ、男は変わって行った。

負け続けるようになった。

酒の量が増え、女に金をせびった。

女は金を用意する為に、夜の仕事をする事になった。

それでも女は幸せだった。


ある時、男は上機嫌に財布の膨らみを自慢話してきた。

既に出来上がっている男に詳しく聞くと、非合法の賭場でチンチロという博打だと言った。

博打を知らない女にも危なさが解った。

辞めてくれと言っても全く聞いてくれなかった。


当然の如く男は負け続ける様になった。

最初だけ勝たせ、後から大きく負けさせる。

よくある手だと、女は必死に止めたが男は辞めなかった。


酒を片手に、博打打ち特有の意味の解らない愚痴を喚く。


どん底からの少し負けまで捲った。

実質これは勝ちみたいなもんだ。

次は絶対に勝てる。


一つも理解が出来なかった。

捲ってはいないし、実質は負けている、絶対に勝つという根拠は何処からやってきたのか。

女は苛立ちを覚える様になった。

男は借金の限界まで同じ事を繰り返した。


もう終わりだねと男に言った。

大変な状況ではあったが、博打を辞めてくれると思った女は少し嬉しかった。

だが、男は辞めなかった。

女に体を売って金を作れと言った。

女は泣きながら嫌だと断った。

男は引かなかった。


お願いだ。

負けたままでは終われないんだ。

勝って終わりたいんだ。

あと一度だけ勝ったら辞める。

辞めたら結婚しよう。

だから頼む。


土下座をする男に対し、女は迷った。

迷ったが結婚という、自分との先を考えてくれている男の頼みを断れなかった。


日々、神経が削られて行く。

辛くて仕方がなかった。

必死に稼いだ金を平気で捨てに行く男が憎く感じた。

限界は直ぐ其所まで、足音の聞こえる所まで迫っていた。



そして、見えない程に短くなった導火線に男が火を付けた。


もっと良い女だったら、もっと稼げ…………


最後まで言わせなかった。

視界が赤く染まり、自分が何をしているか解らなかった。

感情の命ずるままに従った。



暗い部屋で女が一人。

からからと何かを転がした。

良かったね…………

大好き賽子になれて…………

ずっと博打が出来るね…………

絶対に勝てないから終わらないね…………


女はいつまでも賽子を転がし続けた……………………



「それがこの賽子です。絶対に終われなくするなんて、皮肉ですね」


どうして終われないか疑問が顔に出たのか、店主は賽子を転がした。

賽子は一つ一つが同じ目しか無かった。

これでは最弱の目しか出ないと納得した。


「どうですか一勝負。必ず負けますがね」


痛い目を見た昔の事を思い出し、きっぱりと断り店を出た。





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