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渡らせの店  作者: 月凪
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傲慢な絵

今日は何故か店主の機嫌が良く感じた。

聞いてみると、自分もまだまだ捨てた物では無いという事らしい。

なんの事だと更に聞くと、待ってましたと言わんばかりに、壁に掛けられた額に眼を移した。

額に収まって居るのは黒く塗り潰された絵だった。


「店主、これは何の絵ですか」


店主は一つ咳払いをし、絵の過去を語り始めた…………



ある博物館に一枚の絵画が飾られた。

それは美しい女性が描かれた絵画だった。

老若男女を問わず、皆が足を止め、絵に魅入られ、褒め称えた。

絵の作者では無く、描かれた女を。


モデルは誰だ。

完璧な造詣だ。

美の結晶だ。

誰も彼もが絵の虜になった。


絵の女は当然だと思った。

自分以上に美しい物は存在しないと自負していた。

称賛の声は心地良かったが、自分を讃える言葉が陳腐で不満だった。

もっと絶対的な、自分以外では使われない言葉が欲しかった。

その言葉を紡いでくれる者を待ち続けた。


ある者が言った。

この絵を見てしまうと、美人という概念が崩れてしまう。

美女も醜女も大差が無い。

絵の女と、絵の女以外の二種類になってしまうと。


女は気に入ったが、充たされはしなかった。

まだ在る筈だと。

何時までも待ち続けるつもりだった。


待ち続ける間に変化が起こった。

少しずつ絵を視る者が減っていく。

自分の前を素通りしていく者を理解が出来なかった。

日々、確実に減っていくのが怖くなったが、原因は解らなかった。

誰かが女に原因を伝えても、恐らく理解等しない。

飽きたのだと。


怖くて堪らない。

誰も自分を視てくれない恐怖が日増しに膨らんだ。

そして、当然の如く絵の配置換えが行われた。

目立たない端に。


女は考えた。

自分の美しさが解らない者が憐れに思えた。

だから、女はもっと良く視える様にする事にした。


一歩前に進んだ。

博物館の職員が首を傾げただけだった。


もう一歩進んだ。

職員と客がざわめいた。


さらにもう一歩。

また人が集まる様になった。

快感だった。

だが、まだ足りない。


一気に三歩進んだ。

可笑しな格好の者がやって来る様になった。

坊主や神父に霊能力者、それぞれが勝手な事を宣った。


誰でも良かった。

自分を視てくれるのなら。

自分の最も魅力的だと確信している左眼を魅せ付ける為に進み続けた。


今度は逆に進めば進む程、人は遠ざかって行った。

だがもう止まれなかった。


もっと……

私の左眼を視て…………


近付き過ぎて真っ黒になった絵が外されるのに、時間は掛からなかった。



「それが、この絵です。こんな美人さんの絵がある職場なんて私は幸運ですね」


黒く塗り潰された絵に一瞬、肌色の幕が掛かった様に見えた。

気のせいかと眼を擦った。


「おや、私だけにと思っていたのですが」


残念そうに店主は肩を竦めた。

自分もまだ捨てた物では無いと言っていた意味が解かった。

苦笑いを浮かべ、悪くない気分で店を出た。












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