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第12話 愉快な仲間たちとの出会い

 


 「……よし、できたよ。アオイ。」


 マリナが私の顔からメイクブラシを離す。

 おそるおそる目を開けると、鏡には見違えた自分が映っていた。


 え、これ、私? なんか、大人っぽくなったな。


 「どう? 結構うまくできたと思うんだけど。」


 「うん、すごいねマリナ。ありがとう。メイクとか初めてだけど、ちょっとだけでもこんなに変わるもんなんだね。」


 あの後、まだ部屋にいたマリナによって、私は半強制的にメイクをほどこされた。

 メイクなんてしたことないし、断わりたかったんだけどね。大勢の前でノーメイクは失礼だよ、なんて言われたら、素直に従うしかないよ。

 まあでも、少しでも大人っぽく見せられるようになれたから、よかったか。


 「アオイは肌も髪も綺麗だし、顔だっていいんだから、こうやって磨けば簡単に光るんだよ?」


 「それはマリナの方でしょ! お姫様なんだし、もったいないよホント。」


 「あたしメイク好きじゃないからね。人にする分には楽しいんだけど。研究ばっかであんまり人前でないし、しなくても問題ないよー。」


 無邪気に笑うその姿は、女の私から見ても魅力的だと思うのに。うう、もったいない。


 そんな時、部屋のドアがノックされた。

 「はい。」と言うと、執事さんが入ってきた。


 「アオイ様、騎士団の皆様がご到着です。」


 もう着いたんだ。意外と早かったな。

 こっちは準備できたし、いいけどね。


 「この部屋を出て、右手にあるドアを開けて頂ければ外の集会所に出られます。そこに兵士がいますので、指示されたとおりに動いて下さい。」


 わかりました、と返事すると、執事さんは一礼して、部屋から出て行った。


 「もうそんな時間なんだね。アオイ、そろそろ行ってきた方がいいよ。」


 「うん。ありがと。行ってくる!」


 マリナにお礼を言い、部屋から出る。

 廊下の窓からは、すでに集会所に集まっている騎士団の姿が見えた。


 これが騎士団か……迫力すごいな。

 ラノベとかでよく見かける、柔和(にゅうわ)なイケメン騎士はいるのかな?

 ここから見える限りじゃ、筋肉ムキムキでいかにも強そうな人ばっかりだけど。

 って、まずいまずい。早く外行かないと。


 右にあったドアを開け、外へ出る。

 そこには兵士さんが待っていて、呼ばれたらすぐに王様の傍に行くことなどを説明された。

 私の紹介は王様がしてくれるようで、私は軽いあいさつでいいらしい。よかった。


 と、その時、王様が私を呼んだ。

 言われたとおりに王様の傍へと行く。

 たくさんの視線が、一気に私へと注がれるのを感じた。


 「……初めまして。水原葵と申します。」


 大丈夫、大丈夫。こういう人前には慣れてる。

 部活の経験が、こんなところで生きるとはね。


 「アオイ様は、我らが神クニムラと同じ世界からこちらへ来た。そして、我らを……この世界を、天魔(オグル)から救って下さるお方だ。」


 王様の声が辺りに響く。

 その途端、今まで静かだった騎士達が、急にざわめきだした。

 その多くは、目を見開いたまま微動だにしなかったり、驚きを隠せない表情で他の人達と顔を見合わせている。


 王様がその後、私がクニムラさんの手帳を読むために隣国へ行くことや騎士団の中から私の護衛を何人か選ぶことを話し、集会は終わった。


 集会が終わった後は、たくさんの騎士に囲まれ、握手を求められた。

 予想はしてたけどね。慣れないな、この反応。

 ……てか、手、傷だらけだな。そんなに激しい戦いをしてきたんだ、この人達は。


 握手を求めてきた騎士の中には、私と同じくらいの年の人もいた。

 そんな人が、国や人民を守るために戦っている。そう考えると、いたたまれなかった。

 この人達のためにも、頑張らないと。私は改めてそう決意した。



 

 

 騎士団の人達との握手が終わった後、私は自分の部屋に戻って休んでいた。

 その後、部屋に来た執事さんに、私の護衛をする騎士達が決定し、その人達が待っている部屋に行くように言われた。中には、騎士団の中から選抜された精鋭たちがいる、とのことだった。


 精鋭、か。かっこいい響きだよな……どんな人達なんだろ?


 ちょっとワクワクしてきた、なんて胸を(おど)らせながら、部屋のドアをノックする。「どうぞ。」と言われたので、部屋へと入った。

 最初に見えたものは、お茶を飲んでいるゼノン。隣には、お茶菓子を食べているイケメンがいる。


 オレンジ色の髪に、綺麗なエメラルドグリーンの瞳が特徴の彼は、私を見ると、口に入っていたお菓子を慌ててお茶で流し込み、喋りはじめた。 


 「アオイ様、俺、いや、私は、今度あなた様の護衛を任されました騎士の。」


 「あ、敬語は使わなくて大丈夫ですよ。堅苦しいのは慣れてないので。」


 そう言うと、ぱあっと彼の顔が明るくなった。


 「それじゃあ、お互い敬語はなしで。俺はロイクっていうんだ。よろしくなっ!」


 「よろしくね。ロイク。」


 「ロイって呼んでくれよ! 皆そう呼ぶんだ。」


 わかった、とうなずくと、ロイは人懐っこい笑顔を向けてきた。

 ゼノンとはまた違うタイプだな。話しやすいし、仲良くなれそう。

 えーっと、他は……あの人かな?


 窓際のイスに、女の人が一人。

 淡い紫色のロングドレスに身を包み、カールした白金色の長い髪が特徴の、かなりの美人。


 うわ……こ、この女性(ひと)も騎士なの? すごい、こんな女神様みたいな騎士がいるなんて。


 「初めまして。この国唯一の女騎士、エミリーと申します。よろしくお願いします、アオイ様。」


 「は、はい! よろしくお願いします!」


 うわ、話しちゃった。き、緊張する。てか、女騎士ってこの人だけなんだ。こんな綺麗な、優しそうな人が戦ってるなんて……かっこいい!


 そんなことを考えていると、後ろにいたゼノンに声をかけられた。

 どうしたんだろ? とりあえず、ゼノンの方へ体を向けた。


 「そいつは女じゃない。立派な男だぞ。」


 「え、ええええっ!」


 驚いて振り返ると、女の人は堪えきれなかった、と言わんばかりに笑い始めた。


 「いいわねーあなた。からかいがいがあるわね。可愛いわ、気に入った。あたしはエミリアン。でもエミリーって呼んでちょうだいね!」


 そう言って、ウインクを一つ。

 私のクラスの男子なら、これで全員落ちるな。これで男なんて……詐欺だよ、こんなの。

 

 と、その時、部屋のドアが勢いよく開いた。

 驚いてドアの方を見ると、そこにはこれまた美形の男性が立っていた。

 銀髪の髪にメガネの、紳士的な男性。

 って、この人……さっきの集会で見たよ。たしか結構偉い人じゃ。


 「エミリアン、お前、今何を言ったんだ!」


 彼が怒気(どき)を含んだ声でエミリーに問いかける。

 そしてすぐに私に視線を向けると、深々とお辞儀した。


 「俺はこの国の騎士団の副騎士団長、キースと申します。先ほどはこいつが大変ご無礼を……どうかお許し下さい、アオイ様。」


 「い、いえいえ! そんな、無礼じゃありませんよ。」


 だからそんな目で睨まないであげて下さい! ロイが青ざめてるし、ゼノンも目を合わせるまいと必死で遠くを見てます。正直、私も怖いです。蛇に睨まれたカエルの気分です。


 「そーよ、キース。いいじゃない、可愛いのは事実なんだから。」


 キースさんの射殺すような視線をモロに受けた張本人は、なんの悪びれもない様子だ。すごい、顔色一つ変えないなんて。

 キースさんは眉を吊り上げる。


 「お前……失礼だと思わないのか? 相手はこの世界を救って下さるお方だぞ!」


 「何よ。じゃああんたは、アオイが可愛くないっていうの? うーわ、最低。あんたってそういう男だったんだ。」


 「そ、それとこれとは話が違うだろ! アオイ様は……その、何と言うか、その。」


 「全く、この程度で慌ててんじゃないわよ。これだから副騎士団長様は。顔はいいのに、マジメすぎて、女の子に褒め言葉一つかけられない。だからモテないのよ。」


 「な、なんだと! お前には言われたくない!」


 二人の言い争いは、どんどんヒートアップしていく。

 どうしよう。いいのかな、止めなくて。

 私のそんな思いを察したのか、ロイが声をかけてくる。


 「気にしなくていいぜ。あの二人、いっつもああなんだよ。喧嘩ばっか。」


 ロイは呆れた様子で笑っている。

 ゼノンも慣れているようで、二人には目もくれずに窓の外を見つめている。

 

 ……なんだか、色んな意味ですごい人達に護衛してもらうことになったな。

 

 この人達との旅が、楽しみなような、心配なような。

 そんな思いを抱えながら、私はなおも続く二人の言い争いを眺めていた。




 「お疲れ様! どう? お仲間達は。」


 自分の部屋へと戻ると、面白い人達でしょ? と言わんばかりにニヤニヤと笑うマリナが、そこにはいた。


 「何というか……個性的な人達だね。」


 特にエミリーとキースさん、と付け足すと、マリナは声をあげて笑った。

 

 「確かにね。面白いよねーあの二人。あの言い争い、騎士団の名物なんだよ。あんまり見すぎると、キースさんに後で怒られるけどね。」


 でも目立つし、そう言われてもついつい見ちゃうんだよねー、とマリナが続ける。

 確かに、あんな言い争いしてたら相当目立つだろうな。

 

 「まあでも、よかったよ。アオイの護衛があの四人で。戦闘面ではかなり頼りになるからね。」


 マリナが安心した様子で言う。


 「みんな、そんなに強いの?」   


 「あの四人の実力は、相当なものだよ。兄さんはもちろん、他三人も騎士団の精鋭だからね。楽しみにしてなよ、あの四人が戦うとこ。きっとびっくりするよ。」


 マリナは意味ありげな笑みを私に向けると、じゃあね、と言ってその場を離れていった。



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