第99話
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歌舞伎町の火災事件は、警察にとって難儀だった。だが、とにかく焦らないことである。放火犯と目される篠崎洋一と樋口喜佐夫は逮捕済みで、これから本庁の捜査一課の人間たちが聴取等を行う。いくら黙秘しても、いずれ落ちるのだった。日本の警察官は優秀なのだ。どんな凶悪犯も最後は必ず落とす。お宮入りになりそうだった事件も解決してきた。たとえ、難しいものであったにしても……。
篠崎は毛が一本もないツルツルの禿げ頭を撫でながら、警官相手にのらりくらり交わす。担当刑事もなるだけ急かないように努めた。
「何で歌舞伎町に火なんか点けた?」
「……」
「何か言え!」
「……」
「樋口も黙らせてるようだが、一体どういう意図があるのか?」
「……」
「警察舐めるなよ!」
刑事が掴みかかろうとしたので、脇にいた別の刑事が引きとめに掛かる。ヤツは黙秘していた。逮捕されてからずっと、である。
だが、ある意味、これで例の二件の殺人事件も俄然捜査が進む。九竜興業が悪事に加担した中心的な犯罪集団であると断定出来たも同然だからだ。取調べは難航していても、いずれ決定打は出る。そう思えた。
篠崎も犯罪の相方になぜ樋口を選んだのか、核心部分までは分からないのだが、大体の思惑は透けて見える。共謀するのに少々荒っぽい人間がよかったのだろう。後始末は大変なのだが……。
篠崎と樋口は、福野富雄と面識があった。いつもツーカーで通る仲だったようだ。それに仮に警察が組からマークを外しでもすれば、ヤツらは存分につけ上がる。とんでもない連中だった。警視庁職員は常に警戒する必要性がある。仮に接触した場合でも、身を守るために……。
月曜は祭日で街は賑わっている。警察の捜査は危険を伴うから、ずっと気を付けていた。今度は犯罪者たちが何を仕出かすのか、冷や冷やするのだ。担当案件があるから、出勤してきてはいるのだが、危険なことにはなるだけ首を突っ込まないでおこう。そう思っていた。考えることはたくさんある。常に思考回路を大きく広げたままなので……。(以下次号)




