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事件  作者: 竹仲法順
98/230

第98話

     98

 歌舞伎町火災事件から一夜が明け、放火容疑で警視庁の刑事に逮捕された篠崎洋一と樋口喜佐夫は互いに図ったかのようにだんまりを決め込んでいた。警察も捜査し辛い。何せ放火は殺人と同じく重罪だからだ。容疑を認めると、起訴後の裁判では死刑相当の判決が出る。取調べする側も慎重になっていた。

 篠崎は本庁内の取調室で、朝から一切口を開かず、刑事も追及の交わしようがない。樋口も同様だった。帳尻を合わせるのか?さすがに本庁職員もこうなってくると、やりようがなかった。

 だが、放火した場所とみられる街の一角から、二十メートルほど東に行った路地裏で、事件時使用したと目されるガソリンとライターが見つかっていた。何よりの物証である。仮にこれから容疑者二名の指紋や掌紋、DNAなどが検出されれば、決定打となる。鑑識も熱を上げて調べ始めていた。

 その日、吉倉と共に新宿中央署刑事課に詰めていたのだが、歌舞伎町放火でいろんな人間の尊い命が犠牲になったことが察せられた。何ら一つとして罪のない人間を殺した篠崎や樋口を地獄の底に叩き落としてやりたいぐらい憎む。正義感じゃなかった。倫理観だ。人としてやっていいことと、そうじゃないことの区別ぐらい誰でも付くだろう。

 昼食を挟み、午後になって意外な人間が署に来た。歌舞伎町交番の篠田だ。

「井島巡査部長、吉倉巡査部長、お疲れ様です」

「ああ、篠田巡査部長。お疲れ。……昨日は災難だったね」

「ええ。歌舞伎町が丸焼けですからね。……秋冬の火災の時季を狙った九竜興業関係者の犯罪ですよ」

 篠田が苦虫を噛み潰したような顔をする。さすがに犯罪の街の住人さながらの表情を浮かべた。普段、篠田は交番内で寝泊まりしていて、ベッドやシャワールームなどの設備も利用している。まだ若いから、いろいろ思うのだろう。こういった凶悪事件発生時に警察内で湧き起こる議論も含め……。

「犯行に使われたガソリンとライターが回収され、本庁の鑑識班が調べてくれてるからいいんですが」

 篠田がそう言うと、吉倉が、

「まあ、大船に乗ったつもりでいいと思うよ。さすがに鑑識も見落とさないからな」

 と返す。そして吸いさしのタバコを灰皿に押し付けて揉み消し、一度正面を見据えた。視線を俺の方に転じ、

「井島、篠田巡査部長をもうちょっとお相手した後、刑事課外まで送ってやってくれ」

 と言う。

「ああ」

 頷き、それからしばらく若手制服警官と話をした。そして午後二時過ぎには篠田を課出入り口まで見送り、また課内に舞い戻る。引き続き、職務を遂行した。暇もなく。それにまるで、昨日起こった放火事件がウソででもあるかのように思えて……。(以下次号)



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