第96話
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一日が終わり、街にも夜の帳が降りてくる。午後五時には刑事課を出て、新宿の街を歩いていく。思う。街はずっと騒がしいと。繁華街はどこでもそうだ。雑音と人いきれが絶えずそこを通る人間を威圧する。
新宿駅から地下鉄を乗り継ぎ、自宅へ戻った。都心から離れるにつれ、気持ちは落ち着く。大都会はオフィスやホテルばかりで、人が住み続けるところじゃない。そう思いながら、日々通い詰めている。
刑事である以上、武道や射撃、逮捕術などの訓練は定期的にする。事件がない時はずっと刑事課フロアに詰めているのだが、春夏や秋の半ば頃など、厳しい寒さがない時は常に動いている。冬場は冬眠しているようなものだ。デカの仕事は、最盛期に比べ減ってしまう。
自宅マンションに帰り着き、着替えを済ませてから、食事を作る。その間だけでも息抜きできた。ゆっくりする。わずかな時間だが……。シャワーを浴び、全身を洗ってから、その後、缶ビールを一缶飲む。どうしても酒の力を借りてしまう。一日の全てが終わる前に。
一夜明け、ベッドを出てから、キッチンへと歩いていく。コーヒーを一杯淹れて飲みながら、覚醒するのを感じた。朝は慣れているからいい。毎日規則正しく生活する。時間はズレない。
スーツに着替え、カバンを持ってから、部屋を出る。普通に仕事があり、署へと向かった。新宿中央署は新宿区のど真ん中にあり、今日も街を守っている。常に思うのだ。何かと物騒で、油断ならない側面もあると。
署刑事課に行き、パソコンの電源ボタンを押して、フロア内でコーヒーを一杯淹れた。そしてデスクに座る。いつものように、警察の捜査情報のサイトにアクセスしてから見た。更新情報は特にない。ただ、二件の殺人事件はどうやらホシが日本に戻ってきていて、捜査は再スタートのようだ。本庁のデカたちも執念を燃やすだろう。何せ、おぞましい殺しなのだから……。
デスクに着き、じっとパソコンの画面を見る。刑事課は通常通り窓口業務が行われていて、婦警が電話応対などに追われていた。皆、この署に詰める警察官は暇がないのだ。たくさんのことを日々こなす必要があって……。野暮用から大事な捜査会議、そして捜査までやることはいくらでもある。
吉倉がタバコを吸いながら、パソコンで歌舞伎町のことについて調べていた。あの街もだいぶ荒れているだろう。また浄化する必要性があった。何度綺麗にしても、また与太者たちが集まってきて、汚してしまう。特に九竜興業の連中がその中心メンバーだった。何かと厄介だ。そう思い、出来る限りの対応はしていた。いろいろと事情が交錯していても……。
昼になり、課内で七草粥が振る舞われた。啜りながら思う。今年一年も無病息災でありたいと。(以下次号)




