第94話
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その日の午後も刑事課に詰めて、五時を回ると、フロアを出た。そして署外へと歩き出す。疲れていた。目抜き通りは人が多い。まっすぐに駅へと向かう。夕方から夜間に掛けて、この街は一際ヒートアップし、眠らぬ場所となる。いくら現役の刑事でも厄介事には関わりたくなかった。
駅から地下鉄に乗り込み、自宅マンションへと向かう。目の前には変わらない光景があった。ずっと揺られながらも、時折眠気が差す。スマホをネットに繋ぎ、ニュースなどを見ていた。
自宅に帰り着き、スーツを脱いで着替えてから、キッチンで自炊する。食事を済ませて、シャワーを浴び、午前零時には眠りに就いた。夜間は眠る時間だ。そう決めている。不用意に起きておかずに、時が来れば休む。
翌朝、午前六時には起き出し、コーヒーを一杯淹れて飲んだ。上下ともスーツを着、出勤準備を整えてから、カバンを持つ。自宅を出て、最寄りの駅へと向かった。都心である新宿に出る。
時間通りに署に着き、月岡や吉倉に朝の挨拶をした後、デスクでパソコンを立ち上げた。ネットに繋ぎ、いつも通り警察の捜査関連のサイトを見る。あくまで警視庁職員しか閲覧できない、一定のガードが掛かったサイトだ。個別の情報を入力しないと見れない。もちろん、ハッカーなどから荒らされないよう、本庁のサイバー犯罪対策課の人間たちが日夜管理し続けている。新設部署の関係者も大変だ。俺たちが察する以上に。
真新しい報告等はない。だが、頻りと噂されていた。殺人犯たちが日本に戻ってきていると。確かに、何かしら際どい類の情報だ。本気にしていていいのだろうか?常に問い返していた。
ただ、国内外の警察は手を抜かず捜査する。万国共通だ。日本の警察も相当な信頼がある。常時世界中の、ありとあらゆる国家とのネットワークを生かし、凶悪犯罪を解決してきたのだから……。今回の殺人・逃亡事件も例外じゃない。とにかく八方手を尽くす。その結果が犯人の帰巣というものだった。
今、村上や福野富雄が日本にいるとして、一体どこに隠れているのだろう?ずっとそんなことを考えていた。明確な答えが出ないのは事実なのだが……。
昼になり、出前のうどんを啜りながら思った。事件も難しいところに来ているなと。いくら手を引いたとは言っても、決して対岸の火事などじゃない。このヤマは。重大事なのである。心中でいろいろと思いを巡らせ、葛藤しながらも……。(以下次号)




